インフィニット・ストラトス―失われた未来―   作:レイブラスト

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第17話 2人の転校生

ある日のこと。一夏達は朝のSHR開始までの時間を特にやることもなく過ごしていた。だが1つだけ考えていることがある。今日やってくる転入生のことだ。

 

「やっぱ変だよねぇ。この時期になんて」

 

「そうですわね。1人はラウラさんだとわかりますけど、もう1人の方は……」

 

「私達か織斑春也を探る為に何者かが送り込んだスパイ、とも考えられるな」

 

「奴に関してはいくら情報を盗られようと構わんが、一夏姉さんに危害を加えるようであれば―――潰すしかないか」

 

「気が合いますわね。私も同意見ですわ」

 

「物騒なこと言わないでよ」

 

怖い顔になって言うセシリアとマドカに、苦笑しながら言う一夏。しかし同時に、自分のことを大切に思ってくれてると感じて嬉しい気持ちになる。そうこうしていると、SHRが始まって千冬と真耶が教室に入って来た。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めること。それと各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので、決して忘れないように。忘れたものは……そうだな、代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらうぞ」

 

おそらく冗談のつもりで言ったと思われるが、全員真面目に取ってしまったので笑いも何もなく、千冬は何とも言えない表情になって話を続けた。

 

(そういえば…さっきから何で春也はニヤニヤしてるんだろ)

 

後ろの席をチラリと見やってまた前を向くと、「何か良いことでもあったんだろう」と思い忘れることにした。

話をするのは千冬から真耶へと変わったが、ここでクラスメイト達の沈黙を破ることになる一言が発せられた。

 

「えっと……皆さん。今日は転校生を紹介します。しかも2人です」

 

『『『ええええええええええええええええええっ!?』』』

 

一夏、セシリア、箒、マドカ、春也以外の面々が驚き出す。だが春也を除く4人も、驚いてないだけで転校生の1人が怪しいと思っている。

 

「では、入ってきて下さい」

 

「はい、失礼します」

 

「失礼する」

 

山田先生に言われて2人の生徒が入って来た。1人は想定通りラウラ・ボーデヴィッヒ。だがクラスメイト達の視線はもう1人に釘付けになっていた。

 

「ではまずデュノア君、自己紹介をお願いします」

 

「フランスから来ました、シャルル・デュノアです。この国では色々不慣れなこともあると思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

「お、男……?」

 

誰かが呆けて言ったように、もう1人―――シャルル・デュノアは男子だった。だが一夏やセシリアや箒やマドカは嫌疑の目線を向けていた。

 

(男にしては、線が細いような……)

 

(どうにも男性にしては、声が高すぎる気がしますわ)

 

(顔立ちがどう見ても女のソレに近いな)

 

(変装してはいるが奴は女だ……ということは、どこかのスパイなのは間違いない。悪い奴には見えないが)

 

4人の中で確信を持っていたのはマドカのみだったが、他3人もデュノアが只者ではないことを感付いていた。だが―――

 

『『『きゃあああああああああーーーーっ!!』』』

 

「男子! 2人目の男子よ!!」

 

「織斑君とは違ったタイプのイケメン! 嫌いじゃないわ!!」

 

「しかも美形! 守ってあげたくなる系の!!」

 

周りの凄まじい叫びに耳を塞ぎ、それどころでは無くなってしまう。この五月蠅さだけはどうにかならないのか、と彼女達は思った。

 

「静かにしろ! 全く、騒ぎすぎにも程があるぞ」

 

千冬が一喝することでようやく収まり、皆の視線がラウラへと移る。騒音とも言える程の騒ぎの中でも、彼女は表情を少しも変えることなく立っていた。

 

「それではボーデヴィッヒさん、自己紹介をお願いします」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。出身はドイツで、年齢は16。こういった場所には訪れたことが無いので不慣れな部分があるとは思うが、できる限り早く打ち解けられるよう努力するので、何分宜しく頼む」

 

やや堅めの挨拶ではあったが、それでもクラスメイト達は笑顔でパチパチと拍手で迎えた。ラウラも一夏達もまずはホッと一息ついた。

 

「それではHRを終わる。今日はこの後、二組との合同で実習を行うので速やかに着替えてアリーナへ向かうように。それと織斑。同じ男として、デュノアの面倒を見てやってくれ」

 

「わかりました」

 

HRが終わり、春也はシャルルに向き直る。シャルルは笑みを浮かべながら彼へと近づいた。

 

「君が織斑君かな?」

 

「ああ。よろしく、シャルル。僕のことは春也でいい……っと、それより早くアリーナに行かなきゃ。急がないと女子が着替えるし」

 

「そうだね」

 

そう言って、春也とシャルルは教室から出て行く。それを見届けた一夏達は、着替えを始めながらラウラと話をした。

 

「久しぶりだね、ラウラ」

 

「ああ、久しぶりだ。こうして皆と再会することができて嬉しいぞ」

 

「私もだ。ところで、この時期になったのはドイツで任務を行っていたと聞くが、何をしていたんだ?」

 

「とある過激派武装集団の鎮圧作業だ。早く片が付くと思っていたんだが、これが思ったより深くてな。調べるとバックの組織やらそれに関わる政治家等の情報が、もう出るわ出るわで」

 

「確かニュースでも言ってたな。大々的に報道されてたから知ってるぞ」

 

「ラウラさん達の部隊が関わっていましたのね。まあ考えてみれば、そうでなければそこまでのことができる筈はありませんもの」

 

「言えてるな」

 

「それより、だ。あのシャルル・デュノアという奴のことだが……」

 

着替え終わったところでラウラが声のトーンを変えて切り出すと、一夏達も表情を引き締め声を落とす。

 

「正直怪しい……かな。顔が女の子に近すぎる感じがするし」

 

「加えて声も男にしては高すぎる上に、体格が女のソレだ。間違いなく黒だな」

 

「で、どうしますの? 証拠が無い以上下手に追求するのは無謀ですし」

 

「刀奈さんか凌馬さん達に頼んで調べて貰うのはどうかな? 案外すぐにわかるかも」

 

「放課後辺りに頼んでみるか。……と、早くしなければ遅刻してしまうな」

 

時計を見て、一夏達は他のクラスメイト達と共に足早に教室を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドにて二組のクラスメイト達と共に整列していると、授業開始ギリギリになって春也とシャルルが息を切らしながら到着した。

 

「何かあったんでしょうか?」

 

「転校生目当ての女子達の波に飲まれたらしいよ」

 

「遅くなる訳だ。シャルルには同情するが、奴はむしろいい気味だ」

 

「奇遇だなマドカ。私も同じことを考えていた」

 

ニヒルな笑みを浮かべるマドカと箒を見て一夏が苦笑していると、千冬が全員を見渡して声を張った。

 

「それでは今日から、格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する……が、まず手始めに専用機持ちによる戦闘演出をして貰う。凰、オルコット! 前に出ろ」

 

「え、私!?」

 

「私ですの?」

 

やや面食らいながらも歩み出た時、上空から発せられた異音が彼女達の耳に入った。目を向ければ、ISを纏った真耶が急降下してきていた。

 

「わぁぁぁああああーっ! ど、どいて下さいぃ~!!」

 

「や、山田先生!? 一体何が!?」

 

「今行きます!!(山田先生への好感度を上げる絶好のチャンスだ!)」

 

突然のことに驚いていると、春也が白式を展開。真耶を正面から抱き締める形で受け止め、ゆっくりと降下しながら真耶の顔を見る。

 

「大丈夫ですか、山田先生」

 

「は、はい。平気ですけど……こ、この体勢は……」

 

「咄嗟でしたので。少しの間我慢していて下さい」

 

周りの女子達の黄色い声援を浴びながら、地上に降り立った春也は内心名残惜しく思いつつ真耶を放す。だがその様子を鈴達は冷たい目で見ていた。

 

「フン。綺麗事言っちゃってさ。下心満載なのが見え見えだっての」

 

「そうですわね。私も直感ですけれど、裏があるように思えますし」

 

「一見すると爽やかに見えるが……あれだ。どうやって女を堕とそうか考えてる奴の顔をしてる」

 

「箒や鈴達への対応を聞いて女好きとは思っていたが、教師にまで手を出す気かあの男は」

 

「あのような男が織斑先生や一夏の弟だなどと……腹立たしい」

 

「(実の弟にこう思うのはどうかと思うけど、でも……)気持ち悪い……」

 

春也の本性を知っている彼女達は彼の思惑に感付き、嫌悪感を露わにした。

 

「静かに! 時間が押してるから、手早く始めるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬の言葉でセシリア&鈴vs真耶の演習が行われた。日頃の戦闘訓練で2人の操縦技術は飛躍的に向上しているが、真耶はそれをものともせず逆にかく乱していき、そしてフレンドリーファイアを誘発した上で追い打ちを仕掛け、撃墜した。

 

「っつ~! やっぱISでの戦闘じゃこうなるか……」

 

「もっと経験値を積んで、強くならないといけませんわね……」

 

「諸君、これがIS学園教員の実力だ。理解したか?」

 

締めの言葉で全員が頷いたのを見ると、千冬は更に続けた。

 

「次はISの装着と歩行の訓練を行う。専用機持ちは織斑、織斑姉、織斑妹、オルコット、篠ノ之、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな……なら、10人一組のグループに分かれて各専用機持ちに教えて貰うように」

 

直後、全員が一気に春也とシャルルに群がる。一夏達のところにはチラホラとしか来ていない。

 

「やっぱこうなるよね……」

 

「だがさすがにこれはまずいだろ」

 

「千冬姉さん、一喝頼みます」

 

「織斑先生、だぞ」

 

苦笑しつつ千冬は全体を見渡すと表情を引き締め―――

 

「そこまでだ! 出席番号順に1人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通りだ。次に同じことをするなら、ISを背負ってグラウンドを百周してもらうぞ!!」

 

さすがにそんなことをされてはたまらないと、女子達はすぐさまグループを作ってそれぞれの担当してもらう専用機持ちのところへ移動した。

 

「あ、ちょっとよろしいでしょうか」

 

訓練を開始する前に、セシリアが一夏に近寄り話しかけてきた。何だろう?と一夏は首を傾げる。

 

「今日のお昼休み、一夏さんは何か予定がありまして?」

 

「特に無いけど、何で?」

 

「屋上で、昼食を一夏さんや箒さん達とご一緒にと思いましたの。折角こうして集まったんですし」

 

「へえ、いいじゃない! 大賛成だよ!」

 

「そう言うと思ってましたわ。ではまた、後ほどに」

 

「また昼休みにね」

 

約束を交わした後、再び離れて自分の担当するグループへ集中する。その後は春也が女子をお姫様抱っこして運んだり、シャルルがそれを頼み込まれたりと色々あったが、問題なく実習を終えることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休みの屋上。一夏とセシリアは授業終了後に声を掛けた箒、マドカ、鈴、簪、ラウラ、シャルル(と、どこで聞いたのか刀奈も)達と集まった。ちなみに何故シャルルが居るかと言うと、女子に迫られつつあったのを助けた為である。

 

「えと、ありがとう。お陰で助かったよ」

 

「礼はいい。それより折角一緒になったんだから、自己紹介をしよう。私は篠ノ之箒だ、よろしく」

 

「私は織斑一夏。遠慮無く一夏って呼んでくれると嬉しいな」

 

「セシリア・オルコットですわ。以後、よろしくお願いします」

 

「織斑マドカ。一夏姉さんの妹だ、よろしく」

 

「私は二組の凰鈴音。気軽に鈴って呼んで頂戴」

 

「更識簪って言うの。四組に居るんだけど、これからよろしく」

 

「更識楯無。簪ちゃんの姉で、生徒会長をやってるわ」

 

「先ほど挨拶したが、私はラウラ・ボーデヴィッヒ。特殊部隊の隊長をやっている」

 

「そうなんだ……みんな、よろしくね」

 

 

自己紹介を終えると、それぞれ弁当を取り出して広げ、一夏はセシリアの手作りサンドイッチを一切れ手にした。

 

「……前みたいに変な臭いはしないね。じゃ、頂きます」

 

パクッとサンドイッチを頬張る。その様子をシャルル除く一同は固唾を飲んで見守り……

 

「……うん、おいしいよ」

 

微笑みながら告げた一言に心から安堵するのであった。

 

「本当に成功してたのね。疑って悪かったわ」

 

「謝らないで下さい鈴さん。当事者である私が言うのもなんですが、そう思われるのは仕方の無いことですもの」

 

「? えっと……どういうこと? 彼女の料理に何かあったの?」

 

唯一事情を知らないシャルルが聞いてくる。彼の問いに、ラウラは一息つきながら答えた。

 

「実はセシリアは、料理の出来栄えが宜しくなかったんだ」

 

「そうなんだ…でもいくら何でもそこまで真剣になることはないんじゃ? 料理が上手くない人って、世の中には結構いそうだし」

 

「そうじゃない。セシリアのは、あまりのまずさに気絶してしまう程のレベルだ」

 

「嘘!?」

 

「お恥ずかしながら、本当のことですわ……」

 

「あの時は大変だったのよねぇ。私の力を持ってしても、あそこまで苦戦したのは正直初めてだったわ」

 

「は、はぁ……」

 

正直なところ具体的にどんななのかシャルルにはわからなかったが、兎に角凄いのだろうということは感じていた。

 

「そ、それよりさ、良かったのかな? 春也を置いて来ちゃって。今頃大変な目に遭ってるんじゃ……」

 

「ああ、別にいいぞ。何ならもっと酷い目に遭って欲しいぐらいだが」

 

あっけからんと放ったマドカの言葉に、その場に居る全員がうんうんと頷く。彼の本性を知らないシャルルは困惑するばかりだ。

 

(何!? 春也に一体どんな恨みがあるの!?)

 

「そんなことより、早く食べようよ。恒例のおかず交換もまだなんだし」

 

「でしたら私は、一夏さんのを……」

 

「簪ちゃんの貰っちゃおっかな~♪」

 

「お姉ちゃんのも頂戴」

 

「酢豚、貰うぞ」

 

「んじゃ私は……箒の唐揚を頂こうかしら」

 

「マドカ、1ついいか?」

 

「勿論だ、ラウラ。……と、シャルルも一緒にどうだ?」

 

「え、いいの?」

 

「遠慮しないで好きなのを選んでくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

彼女達の輪にシャルルも加わり、昼休みを楽しく過ごした。だが誰も、後にシャルルに絡んだとんでもないことが起きようとは予想していなかった。

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