インフィニット・ストラトス―失われた未来― 作:レイブラスト
同時刻。春也は不思議な場所にいた。見渡す限り海岸で、空は青く澄み切っている。傍に倒れている枯れ木に腰掛けながら、彼はこの場所のことを考えた。
(ここが白式の世界なのか……実際に見てみるとより綺麗だ。まあそれは置いておくとして、流れ的に謎の少女と騎士が現れる筈。それまで待っていよう)
腰掛けたまま春也はまず少女が現れるのを待った。しかし、待てども待てども中々姿を表さない。こんなに時間がかかったっけ?と首を傾げた直後―――
「そろそろ引っ込んでるのも限界……」
「ん?」
小さな声が聞こえ、その方向を見ると待ち侘びていた少女がいた。白い服を着て白い大きな帽子を被った少女が。
(ようやくか。無人機に足止めして貰うのも限界だろうし、急がないと)
立ち上がって少女に歩み寄ろうとした時、少女は口を開いた。
「何故……」
「?」
「何故貴方は、自分の姉にあんなことをしたんですか?」
「……何でそんなこと、今聞くの?」
「そんなこと、で済ませてしまうんですね…………こんな人が私のマスターだなんて……こんな人に、力を貸したくは……」
「何だと……っ!」
瞬間、少女の胸ぐらを春也は掴むと苦しむのも厭わず自分と同じ目線にまで上げ、強く睨んだ。
「僕に力を貸さないと言うのか!? 僕が居なきゃ動くこともできない癖に!」
「う……あぁ……!」
「道具の癖に、人間に楯突くんじゃない!! お前らISは大人しく、操縦者の言うことを聞けばいいんだ!! さっさと力を寄越せ!!」
「―――そこまでです。彼女を放しなさい」
掴む力を強めていく春也。しかし聞こえてきた声に振り向くと白い騎士甲冑を着た女性が居た。
「貴方の望み通り力を渡します。ですから放しなさい」
「……最初からそう言えばいいんだ」
そう言って少女を乱暴に放すと、春也の意識はそこで遠くなっていった。
後に残された騎士は倒れて咳き込む少女を助け起こした。
「大丈夫か?」
「はい……でもごめんなさい。私のせいで、彼に更なる力を与えてしまった……」
「だが時間稼ぎはできた。それに仕方ないさ。彼の言う通り、私達は道具でしかない。使う者の行く末を見守ることしかできない存在だ」
「ですが、貴女は……」
「……そんな顔をするな。リセット後も今日まで残っていられたこと自体が奇跡に近い。何、お前のことだ。私が消えた後もやっていけるさ」
「…………………………」
騎士の顔を、少女はただ寂しそうに見上げていた。
春也が目を覚ました。起き上がると隣には救助したISのパイロットが眠っており、反対側には空の布団があった。
(しまった、一夏姉さんが先に起きていたのか! これ以上活躍を奪われてたまるか!!)
内心で焦りを見せると真耶が止めるのも聞かず、進化した白式―――白式・雪羅を纏って飛び出した。
時間は春也が夢を見ている間に遡る。
カチドキアームズに変身した鎧武は
「カチドキ……アームズだと?」
「武将……?」
次の瞬間、福音がエネルギー弾及びガトリングを鎧武に集中して放った。ゲネシスドライバーで変身するアーマードライダーをもダウンさせる威力のソレを受け、誰もが無事では済まないと思った。
ところが事実は違った。流れ弾で周りの砂浜にクレーターが出来る中、鎧武は多少は身体を揺らされるものの全くダメージを受けていなかった。
「あの程度で済ませている……!?」
「頑丈にも程があるだろ……」
しばらくして遠距離攻撃が無駄だと理解したのか、福音は一度攻撃を止めるとスラスターを噴かせて鎧武に急接近しつつ左の拳を振るった。対する鎧武も右腕を全力で振りかぶる。
ドンッ!!
2つの拳が激突し凄まじい音と衝撃波が発生する。にも関わらず鎧武は一歩も退くどころか、逆に福音の腕にヒビが入った。
接近戦も不利と判断した福音は再び距離を取って鎧武を見下ろす。AIが高速で処理を行うがそれすら追いつかない。人間で言うパニック状態に陥っていた。
「今度はこっちから行くよ!」
相手が再び遠距離戦を取った以上、このままでは防戦一方になると判断した鎧武は、どこからともなく火縄大橙DJ銃を右手に取り出すと掲げる様に持ち上げる。そして側面についている、柑橘類の断面を模した円盤をラッパーのように左手で回す。同時に火縄大橙DJ銃からホラ貝のメロディとビートが流れる。
今度は何が始まるのかと注目していると、鎧武は銃身を福音に向けてトリガーを引き火球を次々と放った。
福音はエネルギー弾を連続発射して迎撃する。火球は何発か相殺されるが一、二発は福音に直撃した。パターンを変えようと判断した鎧武は、更に円盤を回してホラ貝のサウンドを鳴らし、トリガーの横にあるピッチを右に回す。するとサウンドの音程と速度が高くなり、その状態で円盤を回してトリガーを引くと小さくなった弾が機関銃の如く高速発射された。
「せりゃああああああっ!!」
雨霰のように発射される弾丸に福音も迎撃しきれず、先ほどよりも攻撃を通してしまっていた。追い打ちとばかりに鎧武はピッチを左に回すと、音程と速度が下がったサウンドが流れる。円盤を回しトリガーを引いた瞬間、銃口から巨大な砲弾が放たれた。当然福音も迎撃してくるが、連射時のように迎撃の合間を縫うのではなく砲弾はエネルギー弾を消し去り、尚且つ勢いを殺すことなく福音に直撃。
「これなら防ぐことなんてできないでしょ!」
姿勢を崩したところに更に二発撃ち込む。火花を上げながら福音は墜落し浅瀬に叩き付けられた。
必死に起き上がる福音へと鎧武は迫ると、火縄大橙DJ銃を消してカチドキ旗をそれぞれ手に持った。
「はぁあああっ!」
先端で福音を思い切り突くと、次いて腹の部分で殴りそして一回転しながら旗に炎を纏わせると、火の粉と共に福音を薙ぎ払い遠くへと弾く。
「まだ終わりじゃないよ!!」
再び火縄大橙DJ銃を所持すると戦極ドライバーからカチドキロックシードを外し、DJ銃の窪みにセットした。
『ロック・オン!!』
ドライバーや無双セイバー、ソニックアローのソレとは違い力強く雄々しい音声が響き渡り、銃口にエネルギーがチャージされていく。
「行けぇぇええええええええええええええ!!」
『カチドキチャージ!!』
トリガーを引いた途端、まるで光線のような砲撃が放たれ福音を飲み込む。砲撃が収まらない内に福音は限界を超えて爆発四散し、止んだ後には破片1つさえ残らなかった。
「な、何だあの威力は……!?」
少し離れた場所で白式・雪羅を纏った春也は、福音の最期を見て背筋が凍り付いた。
「無人機がみんなを足止めするのに力不足なのはわかっていた……だから福音をパワーアップさせたのに! なのに何故……何故貴女は僕の邪魔をするんだ……!!」
拳を強く握り締めると、変身を解除して互いを労りながら旅館に戻る面々に見つからないよう先に旅館へと戻った。
「…………ん、んぅ……ここは………………?」
「目を覚ましたか」
戦いの後、医務室で眠っていたナターシャは目を覚ますと丁度視界の端に千冬の姿を捉えた。
「織斑、千冬…………何故貴女が…私の目の前に?」
「
「ああ……気絶してる間に日本の近くまで来てたのね。貴女が助けてくれたの?」
「私じゃない。自慢の生徒達のお陰だ」
フッと笑みを浮かべて言う千冬に「そう……」と呟くとゆっくり起き上がる。すると寝ていた状態では見えなかった2人の女性―――オータムとスコールが目に入った。
「よっ。久しぶり」
「!? 何で貴女達がここに……軍を辞めたんじゃ……」
「辞めた時に言ったでしょ? 傭兵になるって」
「所属している組織のリーダーが、ナタルを無事救助しろって依頼を受けたんだ。で、俺とスコールがナタルを本国に連れてく為に呼ばれて来たって訳」
「…………え? てことは道中スコールと一緒になるってこと?」
「そうなるわね」
どこか艶を含んだ表情で言うスコールに、ナターシャは顔を青くする。それを疑問に思った千冬はオータムに小声で尋ねた。
「一体彼女らに何があったんだ?」
「あー……簡潔に言えば、スコールは超肉食系女子ってことだ。俺は元々ソッチ系だったから良かったんだが、ナタルはノーマルだからなぁ……一種のトラウマになってんだ」
「そ、そうなのか……」
何かと弄くられている姿を想像し憐憫の視線を向けていると、ナターシャから救いを求めるかのように見つめられる。
「……スコール。彼女は病み上がりだから、手荒な真似はするなよ」
「勿論♪」
が、触らぬ神に祟り無しと半ば見捨てた発言により、スコールは悲壮な表情のナターシャを担いで部屋を出た。丁度そのタイミングで部屋に凌馬が入って来た。
「……何か福音の操縦者が絶望した表情でスコールに担がれてたけど、何があったんだい?」
「スコールの悪い癖が出た」
「……それはお気の毒に…………」
「それより、何か用か? データならもう渡した筈だが」
「おっと、思わず忘れるところだった。実は千冬に用があるんだ」
「私に?」
「今夜、皆が寝静まった頃―――私の部屋に来て貰ってもいいかい?」
場の空気が凍った。
千冬は呆然とした表情を赤らめていき、オータムは千冬の勘違いに気づいてため息をつき、凌馬は「変なこと言ったかな?」と自分の言葉を振り返り、綾に気づいた。
「いやいやいやいや、違うよ!? 単に織斑春也関連の話をする為であって、他意とかは無いよ! 束も一緒だしさ!」
「な、何だ……人を驚かせて……」
「確かに誤解させるような言い方したアンタも悪いわな」
オータムにジト目で見られ、凌馬は「うっ」と罰が悪そうに頭を掻いた。
「じ、じゃあ伝えることは伝えたから、私はこれで……」
空気的に居づらくなり、衝動的に部屋を出る凌馬であった。
「思わず飛び出しちゃったけど、どこで何してようか……おや?」
考えながら廊下を歩いていたが視界に映った光景に足を止めた。視線の先では春也に対し一夏達(主に鈴)が問い詰めていた。
「だから! アンタが一夏を海に突き落としたんじゃないかって言ってんのよ!」
「何度も言ってるだろ。どこにそんな証拠がある?」
「一夏が乗ってたダンデライナーがほぼ無傷なのが何よりの証拠じゃない!」
「それだけじゃないよ。私は福音を正面に見据えていたにも関わらず、背後から攻撃され無理矢理鎧武を解除された。貴方以外に誰ができたって言うの?」
「というか、それ以前に君達が揃いも揃って嘘でもついてるんじゃないか?」
「何だと……!」
「まあまあまあまあ! 不毛な喧嘩はそこまでにしようじゃないか」
「あ、プロフェッサー! でもコイツが……」
「そういうのは私達に任せておいて。君達はまず戦闘の疲れを養うんだ」
間に割って入った凌馬に不満げな声を上げるが、彼の説得で尋問を取りやめ立ち去った。
真夜中―――
春也は不意に目を覚ました。就寝時間が遅い訳でも尿意を催した訳でもなく、不意に胸騒ぎがして目が覚めたのだ。見れば一緒に居る筈の千冬がいない。
(千冬姉さんがいない……何なんだろう、この不安は……? どうも落ち着かない)
気分でも変えようと、白式を持って廊下に出る。暗所に目を慣らしながらみんなを起こさないように静かに歩いていくと、とある部屋から明りが漏れていた。気になって近づくと話し声も聞こえる。
(何を話しているんだ?)
白式を部分展開してISの集音機能を使い聞き耳を立てる。春也が耳にしたのは、彼にとって衝撃的なことだった。
春也が起きる数分前。千冬は凌馬、束と面と向かって座っていた。
「で…話とは? 春也のことだとは聞いたが」
「単刀直入に言おう。
「……そうか」
「? 驚かないの、ちーちゃん?」
「大してリアクションしてないだけで十分驚いてるさ。ただ……貴方が断言するということは、確固たる証拠があるということなんだろう?」
「良くわかってるね、その通りだよ。証拠の1つとして、まず束にネックワークで福音に侵入して調べて貰った結果、ISコアそのものに暴走プログラムと強引な自己進化プログラムが入れられていたことが判明した。それも後付けでだ」
「後付けで……そんなことができるのは―――」
「ここに居る篠ノ之束か、私か織斑春也の3人ぐらいだろうね。他に居たら既に耳にしてる筈だし」
凌馬はそう言ったが、実質犯人は春也1人に絞られる。だが彼は「だけど」と話を続けた。
「これよりも決定的な証拠がある。白式から発信された何らかの電波を衛星がキャッチしたんだ。しかも同時刻に離れた場所で無人機と思われる機体群が起動している。そこで電波の行方を辿ったところ……」
「発信された電波は無人機のもとへ向かっていた、と?」
「正解~! いやはや苦労したよ。衛星を無数に経由するなんて方法使ってたから、普通の人には追跡できなかっただろうね。ま、この束さんとりょーくんにかかれば電波さえ見つけちゃえばこっちのもんだけど」
「これらを突き付けてしまえば、最早言い逃れはできないだろうね。背後に潜んでいる組織のことは、取り調べの時に自白剤でも飲ませれば簡単だから……実質全てが解決したと言っても過言じゃない」
「……………………………」
春也が―――自分の弟が行ってきた凶行を止めることができる。安堵しかけるが、はたとあることに気づく。
「いや、まだだ。春也は世界初の男性IS操縦者と、織斑千冬の弟という肩書きがある。今のままでは上から圧力を掛けられてしまうだろう」
「……ほう。君から指摘されるとはね。ま、指摘されてなくても私から問いを投げかけていたが……どうするつもりだい?」
「……会見を開いて白騎士事件の真相を話す。そうすることで、春也は後ろ盾を完全に失う」
「なるほど。ISの優位性を示した事件が実はマッチポンプで、しかも君が動かしていた真実が白日の下に晒されれば、ISと君の信用は地に落ちることになる。またとない手だが……覚悟はあるのかい? 君も、束もだけど」
「私は全然オッケーだよ。ちーちゃんが決めたことだし、それに……はるくんを止める為以外にも、今の世界を作ってしまった贖罪を償わないといけないから」
「私も覚悟を決めた上で言ったんだ。ただ束を巻き込んでしまうのが心配だったんだが……杞憂だったようだ」
「纏まったみたいだね。よし! では会見の詳しい話は後日するとして、今日はもう帰るとしよう」
「泊まっていかないのか?」
「デスクワークほっぽり出して来たから、徹夜でやらないといけないんだ。じゃ、そういうことで」
「ばいび~!」
そう言うと凌馬と束は窓から外へ出て行き、バイクの音と共に遠ざかって行った。
「……私もそろそろ寝るか」
電気を消し、千冬も布団の中へと潜った。
(とんでもないことを聞いてしまった……)
廊下にいた春也は大いに焦った。聞いていたのは白騎士事件の辺りからだったが、彼を揺さぶるには十分すぎた。
(このままじゃ僕が積み重ねてきたもの全てが無駄になる! こうなったら…一か八か、明日の明け方の、誰にも知られない場所で千冬姉さんを殺るしかない!)
実姉を手に掛ける決意をしてスマホで時計のタイマーを明け方にセットすると、廊下で眠りにつくのだった。