インフィニット・ストラトス―失われた未来― 作:レイブラスト
翌朝……と言っても午前4時という朝日が昇ろうとしている時間帯。スマホの目覚ましで起きた春也はすぐに千冬の部屋に入ると、荷物を漁り始める。
(ただでさえ千冬姉さんはIS相手に生身で立ち向かえるのに、アーマードライダーに変身した状態が相手じゃ僕に勝ち目はない。なら……)
少しして指先に固い物が当たる。取り出すとそれは千冬のゲネシスドライバーで、一緒にメロンエナジーロックシードも出てきて転がった。
「これさえ奪えば……ん?」
ふと荷物の中の携帯らしき端末が目にとまる。事のついでにとそれも手に取り懐へと仕舞う。
「う……うぅん……はる、や……?」
丁度その時、千冬が目を覚ました。起き上がり春也を見るその目は寝ぼけていたが、彼の手にゲネシスドライバーらが収まっているのを見て一気に意識を覚醒させた。
「春也、お前!」
問い詰めようとしたが、その前に春也は立ち上がり廊下へと出て行った。
「くっ!」
一体何故、春也は私のゲネシスドライバーを持ち出したのか。それ以前に、何故この時間にこの部屋にいたのだろうか。様々な疑問が千冬の頭に飛び交うが、気を取り直して荷物の中からもしもの為にと所持していた戦極ドライバーとメロンロックシードを取り出し、廊下に出た。
意外にも春也は廊下の端で立ち止まったまま逃げようとせず、出てきた千冬に面と向かって言った。
「どうしてこんなことをしたか気になる?」
「……ああ。是非とも聞かせて欲しいな」
「話してもいいけど、場所を変えてもいい? こんな朝早くから騒ぎ立てたらみんなに迷惑がかかるし」
「いいだろう。どこで話すんだ?」
「そうだね……あそこがいいかも」
手を叩き、さも今思いついたとばかりに言うと千冬に背を向けて歩き出す。千冬も弟の後に続く。
移動した先は岩場のある海岸だった。海に面した部分は崖になっており、落ちれば怪我は免れないだろう。距離を置いて立つ春也に千冬は尋ねた。
「それで、持ち出した理由は何なんだ?」
「……その前に聞いてもいい? 昨晩言ってた白騎士事件のことを会見で話すって……どういうこと?」
「……聞いていたのか」
「偶然だけどね。夜中に目が覚めて、気晴らしに廊下を歩いてたら聞こえてきたんだ。……驚いたよ。まさか白騎士事件が束さんが起こしたマッチポンプで、しかも千冬姉さんが白騎士を動かしてたなんて。……こんなこと本気で公表するの? 世界そのものがひっくり返ることになるんだよ……!?」
「……ISが世に出てから、身の回りのもの全てが変わってしまった。それをわかっているつもりだったが……私は気づいていなかった。だから私は贖罪を果たさなければならない」
全てが変わった―――女尊男卑のことかと思ったが、身の回りという言い回しから自分のことを言ってるのだろうと、春也は何となく理解してしまった。
「(何でわかったんだ? さては戦極凌馬か? アイツめ、どこまでも余計なことを……尚更ここでしくじる訳にいかなくなったな)悪いけどそうはさせないよ。千冬姉さんがどこまで知ってるかわからないけど、僕にとって不利なことをするなら―――消すだけだ」
ゲネシスドライバーを「こう使うんだっけ?」と腰につける。それを見た千冬もいよいよ覚悟を決める。
「それがお前の答えか……!」
戦極ドライバーを腰に当てるとメロンロックシードを持った手を顔の横に持っていく。
(もう1つ持っていたのか!? 主任みたいなことを……でも性能はゲネシスドライバーのが上だ!)
それに合わせて春也もメロンエナジーロックシードを同じように掲げた。
『メロン!』
『メロンエナジー!』
『『ロック・オン!』』
それぞれのドライバーに装填して鍵を掛け、千冬はカッティングブレードを倒して輪切りにし、春也はシーボルコンプレッサーを押し込んでカバーを開いた。
『ソイヤッ! メロンアームズ! 天・下・御・免!!』
『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』
音声が二重に流れ、ライドウェアやゲネティックライドウェアで包まれた身体に、現れたアームズが被さって展開。千冬を斬月に、春也を斬月・真に変身させた。
「「…………………………………………」」
左手でメロンディフェンダーを持つ斬月は右手で無双セイバーを抜刀する。斬月・真はソニックアローを握る右手の感触を確かめながらすっと構える。
「「……はぁあああああああっ!!」」
ほぼ同時に2人は走り出した。ソニックアローと無双セイバーの刃がぶつかり火花を上げる。鍔迫り合いの状況から互いに距離を空けると、斬月はがむしゃらに斬りかかる斬月・真のソニックアローをメロンディフェンダーで受け流しつつ、無双セイバーで足払いをする。そして倒れたところに一気に無双セイバーを振り下ろすが、斬月・真もソニックアローで十字に防ぐ。
「何故一夏にあんなことをしたんだ!? 誰にでも得手不得手があることは、お前もよく知っているだろ!! しかも直接的にだけではなく、周りを嗾けてまで……!!」
「邪魔だったんだよ! 僕が一夏の役割を持ってるのに存在して、挙げ句に織斑家の出来損ないときてる! だから排除してあげようとしたんだ! 周りを使ったのは、僕が目立つところで直接やったら今度は僕が汚点になってしまうからだ!! 千冬姉さんにとっても得な筈だよ!?」
最早取り繕う必要も無しとばかりに斬月・真は吐き散らすと、左足で腹部を蹴り飛ばす。すぐに立ち上がるとソニックアローの弓を引いて光矢を放つ。
「っ!」
斬月はこれをメロンディフェンダーで防ぐと、無双セイバーの後部スイッチを引いてチャージし、トリガーを引いて光弾を放った。
回避した斬月・真はこれでもかと光矢を放つが、斬月は冷静に防いだり回避しながら光弾を放ちつつ接近していく。
「この……! でやぁぁあああああっ!!」
「はぁあああああああ!!」
カウンター狙いでソニックアローを振るうが、それが届く前に無双セイバーが斬月・真を切り裂いていた。
「ぐっ……!」
「得な訳があるものか! お前も一夏も、私にとっては大事な家族に変わりない!! 排除なんて、間違っても望むものか!!」
更に無双セイバーで斬りつけられ、斬月・真は仰向けに倒れた。
「な、何で……このベルトの方が、性能は上なんだろ!? その考えが間違っていたのか!?」
「間違ってはいない。だが……ベルトの性能の違いが、戦力の決定的差になるのではない。それを教えてやる!」
無双セイバーの切っ先を斬月・真に向けて言う。このままやられる訳にはいかない!と、斬月・真は咄嗟に岩の一部をもぎ取って砕くと、斬月に向かって投げた。
「うっ!?」
思わずメロンディフェンダーで顔を覆う斬月だが、その隙を逃すまいと斬月・真は起き上がりソニックアローによる連続切りを決めていく。最後に上半身に蹴りを放って仰向けに倒すと、全力でソニックアローを振り下ろした。
「うああああああああっ!!」
「くっ……!」
咄嗟に左手をメロンディフェンダーから離して無双セイバーを両手持ちにし、先ほどとは逆の姿勢で十字に防いだ。
「さっきさ、僕も一夏姉さんも同じ家族だって、そう言ったよね千冬姉さん!?」
「ああ、そうだ!」
「だったら何故! 家族である僕の道を阻もうとするんだ!? 千冬姉さんがISで世界最強になって、崇められる程有名になって……僕にとって千冬姉さんの名前はこれ以上とない権力になった! 誰も僕に逆らわなくなった! だから尊敬してたのに……! でも僕の邪魔になるなら、権力を奪うのなら、千冬姉さんなんてもういらない。世界最強の弟と言う肩書きを僕に与えたまま、消えてよ……!!」
「春也ぁぁ……!!」
ソニックアローを押し退けると無双セイバーで斬月・真の上半身を横薙ぎに攻撃し、更に突きを放って後じさりさせた。
「ぐはっ! くぅ……!」
体勢を立て直すと斬月・真はメロンエナジーロックシードをゲネシスドライバーから外し、ソニックアローに取り付ける。それを見た斬月も戦極ドライバーのカッティングブレードを左手で一回倒した。
『ロック・オン!』
『ソイヤッ! メロンスカッシュ!!』
音声が鳴ると同時に斬月・真は弓を引き、斬月は勢いよく走り出す。
『メロンエナジー!!』
強化された光矢が斬月に向かうが、無双セイバーを振るい発生した斬撃でこれを打ち消す。驚愕する斬月・真だが再び弓に手を掛け、二発三発と放つ。しかしこれも斬月は打ち消し、インファイトへと持っていく。
エネルギーをチャージしたソニックアローのアークリムと無双セイバーの刃が斬り結ぶ。負けるものかと斬月・真はソニックアローを大振りするが、無双セイバーで受け流した斬月は一回転した後、斬月・真を横一文字に切り裂いた。
「ぐぁぁああああああああああっ!?」
斬月・真は大きく吹っ飛ばされ膝をつく。
「これで終わりだ……春也!!」
駆け出して一気に接近すると、斬月・真に向かい無双セイバーを振り下ろす。だが……
「っ……!」
斬月の脳裏に、物心つく前の幼い一夏と春也と共に過ごした時のことが過ぎった。
(両親が家を出て、私が親代わりとなって2人を育てて来た。平等に接したつもりだった……なのに春也。何故お前は変わってしまったんだ? お前は何を求めているんだ……!?)
それが斬月を躊躇わせた。振り下ろした手は無双セイバーが当たる前に止まり、斬月・真を仕留めることはできなかった。
(今だ!!)
『メロンエナジースカッシュ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
最大のチャンスを見逃す筈もなく、斬月・真はシーボルコンプレッサーを一回押し込んでアークリムにエネルギーをチャージし、左下から右上に向かってソニックアローで斬月を切り裂いた。
「ぐああああああああああああああああっ!!」
衝撃で戦極ドライバーが身体から外れ、それにより変身が解除されながら斬月は大きく吹き飛ばされる。
(春也……)
変身が解かれた千冬は、斬月・真に手を伸ばしながら海中にその姿を没した。
「……さよなら、千冬姉さん」
変身を解除し別れの言葉を告げた春也は、ヒビが入って使い物にならなくなったメロンロックシードと、同じくヒビが入って左側のプレートに描かれていた横顔が消えた戦極ドライバーを拾い旅館へと戻った。
数時間後。帰りのバスの中はちょっとした騒ぎになっていた。
「織斑先生、どこ行っちゃったんだろ? 寝ぼけて山ちゃんの話聞いてなかったからわかんないよ」
「ちゃんと聞いときなさいよ。昨日ISに関する事故が起きて、それの報告書を作る為に先にIS学園に戻ったって」
「そうそう。しかもその後、政府関係のところにも行くんだって。先生も大変だなぁ」
クラスメイト達が口々に言うのを、春也は内心ニヤニヤしながら聞いていた。
(我ながら無理があるとは思う言い訳だったけど、山田先生が騙され易い性格で助かった)
そう。春也は千冬を屠った後、真耶にこう話したのだ。
『織斑先生の伝言を預かってて、
…と。真耶は当然ながら驚き、更に何故荷物を置いたままなのかも尋ねたがこれについては、
『相当慌ててたらしくて、忘れてしまったそうなんです。報告書を作った後すぐに政府へ赴く予定だから、僕に持ってきて欲しいと言われました。……全く、ズボラなんだから』
と話した。真耶は苦笑しながらもこれを信じ、噛み砕いて一組の生徒達に説明したのだ。……勿論納得してない者達もいるが。
「本当に千冬お姉様は1人で戻られたのだろうか? どうも怪しい気がするが……」
「事実だとしても、千冬姉さんの性格から連絡しないのは不自然だな」
「それにベルト等が入っている荷物を他人に預けるのも、おかしな話ですわ」
「確かに妙だな。一夏……お前はどう思う?」
「わかんない……けど、千冬お姉ちゃんのことを考えると胸騒ぎがするの。何も無いといいけど」
不安を抱えながら、一夏達はバスに揺られてIS学園へと向かった。
IS学園到着後、荷物を置いてから真っ先に生徒会室に向かい千冬が戻って来ているか刀奈に尋ねた。すると……
「織斑先生? 帰って来てないわよ。監視カメラには映ってなかったし、潜伏しているレイドワイルドも見てないって言ってたわ」
「潜伏? IS学園にレイドワイルドのメンバーが居るのか?」
「ええ1人だけ。三年生のダリル・ケイシーこと、本名レイン・ミューゼル。スコールさんの姪よ」
「そんなことより、ここに居ないなら千冬お姉ちゃんは一体どこに?」
「とりあえず山田先生に相談してみよう。何かわかるかもしれない」
一同が生徒会室を出ると、当の真耶とばったり鉢合わせた。
「あ、山田先生。丁度いいところに」
「丁度いい?」
「実は……」
と、千冬がIS学園に戻っていないことを話す。すると、「やっぱり」と腕を組みながら言った。
「職員室の先生が、織斑先生は戻って来てないって言ってたんです。それで今、織斑さん達に伝えようと探してたところなんです」
「そうだったんですか……」
「……そういえば、山田先生はどこで千冬さんが先に戻っているという話を知ったんです? 荷物も置いてったそうですけど」
「それは、織斑君が織斑先生からの伝言だと」
「織斑春也が? 余計に怪しいわね。何か隠しているのかも」
「人聞きの悪いことを言わないでくれるかな?」
刀奈がそう呟いた直後、いつの間にかいた春也が余裕綽々といった様子で歩み寄ってきた。
「! 貴様……」
「僕は織斑先生に言われて、山田先生に伝えただけだよ。その後のことは知る訳がない」
「どうだか。その伝えられるように言われたってこと自体が嘘なんじゃないの? 荷物を丸ごと置いていったってのも、変な話だし」
「逆に聞くけど、僕の話が嘘だっていう証拠もあるのかい?」
「それは……」
「無いよね? だったら、僕を犯人扱いして疑うのはよしてくれ。僕だって千冬姉さんがどこ行ったのか気掛かりなんだからさ」
「……そうね。疑ってごめんなさい」
「わかってくれたならいいんだ。じゃあ僕は行くよ…………あ、そうそう。千冬姉さんのことで何かわかったことがあったら、僕にも連絡を寄越してくれ」
そう言い残し春也は立ち去って行った。
「こうなったら、更識家の力で探すしかないわね」
「それは心強いが……本当に何も知らないのか、アイツは?」
「さあ……? とりあえず私、プロフェッサーに電話してみる。何か知っているかもしれないし」
携帯を操作すると、一夏は凌馬に電話を掛けた。
「もしもし、私だけど……あ、一夏ちゃん? 何か用? ……え、千冬? いや、こっちには来てないし、緊急の任務も与えてないけど……何だって?」
一夏から告げられたことに凌馬は顔色を変えた。そして電話を切るとすぐに束を呼び出した。
「どしたのりょーくん?」
「……困ったことが起きた。千冬の行方がわからなくなったらしい」
「!? ちーちゃんが……!?」
「理由は不明だがすぐに捜索隊を出す必要がある。束にも協力して貰えると有り難いけど……会見はどうする?」
「そんなの後でいいよ! ちーちゃんを探すのが先だもん!」
「そう言うと思ったよ。私も同意見だ」
あくまで平静に務めようとするが、想定外の事態に凌馬は内心動揺するのであった。
次の日の夜。春也は体調不良と偽り、ほぼ一日部屋に缶詰状態で、ゲネシスドライバーや壊れた戦極ドライバー等を解析していた。
「ふう……一日中調べてようやく全部理解できたけど、このアーマードライダーシステムってのは凄いな。ロックシードが、まさかISコアそのものを加工したものだなんて。しかもモード切り替えができて、通常時の出力は第3世代型どころか紅椿すらも超えているときてる。IS涙目って奴だね」
感嘆して言うと、春也はノートパソコンに表示された情報を、差し込んだUSBメモリに移動させシャットダウンした。
「ともあれ、設計図を完成品から求めることはできたし、後は好きなロックシードやドライバーを僕の味方の数だけ作ればいい。……ああでも、その前に福音を倒したあの形態と戦ってデータを得なきゃ。それとこのゲネシスドライバーにはつけられているけど、キルプロセスは外しておかないと」
背伸びと欠伸をして今日はもう寝ようとベッドに入った時、テーブルの上に置いてある待機状態の白式が目に入った。
「……折角
適当に分解するなりしようかなと言うと、春也は眠りについた。だが白式が悲しそうに輝いたのを彼は知らなかった。