インフィニット・ストラトス―失われた未来― 作:レイブラスト
彼女―――織斑一夏は絶望し震えていた。
第二回モンド・グロッソ決勝戦の直前。彼女は会場に応援に行く筈だったが、その途中に薬を嗅がされ気絶、拉致され気がつけば廃墟で縛られていた。
(……本当、私ってこんなことばっかり……)
『一夏姉さんみたいな出来損ないは僕達織斑家には必要無い存在だ。だから……さっさと消えてくれないかなぁ?』
小さい頃から彼女は、双子の弟である織斑春也にそう言われ虐められてきた。
一夏は姉である織斑千冬のような超人的な運動能力も、春也のような天才的な頭脳も持っていない。所謂要領の良くない人間だった。そんな彼女に対し周りの目は決して優しくは無かったが、千冬はそんな一夏によくしてくれた。わからないところは何度も丁寧に教えてくれたし、剣道も幼なじみの篠ノ之箒と共に鍛えてくれた。
だが―――春也だけは違っていた。
『千冬姉さんに目を掛けて貰うのは僕だけでいい。これ以上、僕の千冬姉さんに近づくな!!』
彼は一夏を、千冬の目の届かないところで執拗に虐め続けた。時にはクラスメイトを扇動し、決して周りにはわからないように。結果、彼女の身体と心には癒えない傷が無数についた。一夏は何度か姉に言おうとしたが、言えなかった。春也が千冬の居る前では仲良しのフリをし続け、『本当のことを言ったら、どうなるかわかるよね?』と脅しを掛けてきたからだ。
(何で私ばっかりこんな目に遭うんだろう……私が何したって言うの……?)
顔を上げてそう思った時、誘拐犯の男の1人がこちらに近づいて来た。
「なあお前等。コイツ―――ここでヤっちゃおうぜ?」
「っ!?」
「おいおい、いいのかよ? 大事な人質だろ?」
「構うこたぁねぇぜ。四肢や顔さえ無事……要するに外面さえよければその場は誤魔化せる」
「そうかねぇ。どうも俺は乗り気じゃないが……まあお前に任せるよ」
「へへっ。あんがとよっ」
(う、嘘? や、やめて……来ないで!)
恐怖のあまり声が出ず、身を悶えさせるが屈強な男性の力に勝てる筈もなく足を広げられ、下着をずらされる。男の方もズボンを下げ、自らの象徴を露わにする。
「前戯は……時間が無いからいいか。んじゃ行くぜ!」
「い、いや……やめて……」
か細い声も虚しく、ソレが彼女に宛がわれ―――
ブチィッ!
「あがぁあああっ!? あ…ああ……い、嫌ああああああああああああああああああああああああああ!!」
―――純潔を、散らされた。
その頃、廃墟の外には
「こちらオータム、作戦ポイントに到着した。これより任務を開始する!」
『了解。健闘を祈る』
通信を終えると彼女は赤いカラーリングのジューサーを模した新型ドライバー・ゲネシスドライバーを腰に装着。走りながら通常のロックシードを発展させた「エナジーロックシード」の1つで、『E.L.S.-02』と識別番号が振られたサクランボを模したチェリーエナジーロックシードを取り出し解錠させる。
『チェリーエナジー!』
オータムの頭上にサクランボの形をしたチェリーエナジーアームズが出現し、ふよふよと漂う。
「変身!」
『ロック・オン!』
ゲネシスドライバーのコアにチェリーエナジーロックシードをセットすると機械的なアラームが鳴り、オータムはドライバー右側のハンドル・シーボルコンプレッサーを押し込んだ。
『ソーダ! チェリーエナジーアームズ!!』
チェリーエナジーロックシードが左右に展開すると音声が流れ、彼女は腕部・脚部に毛皮状のアーマーが付属した薄い緑と黒のアンダースーツ・ゲネティックライドウェアに包まれ、チェリーエナジーアームズが頭部に被さり展開。上半身に装着され次世代型アーマードライダー・仮面ライダーシグルド チェリーエナジーアームズに姿を変え、左手には専用の弓矢型武器・ソニックアローが所持される。
「オラァ!」
変身完了と同時にドアを蹴破って突入する。
「あがぁあああっ!? あ…ああ……い、嫌ああああああああああああああああああああああああああ!!」
彼女の目と耳に飛び込んできたのは、強姦されている一夏の様子とその悲鳴だった。
「っ……! テメェ等ァァァアアアアアアア!!」
即座にソニックアローを構え、シグルドは一夏を犯していた男を撃ち抜いて殺すと、残る男達も切り裂いて殺害する。
『おいどうした! どうなった!?』
「……こちらオータム。作戦は失敗。織斑一夏は生きているが既に……ッ!」
『……そうか……間に合わなかったか……。なら、後は予定通り頼む』
「了解」
結果を聞いた凌馬は残念そうな声を出し、指示を伝えて切った。こうなることは彼の友人が転生前に書いたことを読んでて知っており、止めようとしていたのだ。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ」
「……………………」
肩を担いで問いかけるが一夏は虚ろな表情のまま一切反応せず、シグルドは「可哀想に」と心底同情しながらサクラハリケーンへと運んだ。
「座標軸入力完了っと……掴まってろよ!」
メーター部にあるデジタル画面を操作し、シグルドは一夏を前に乗せた状態でサクラハリケーンを走らせる。そしてディメンション・インジケーターと呼ばれるデジタルメーターが現れ、ある速度に達しようとした時―――彼女にとって予想外のことが起きた。
「逃がすか!」
ダァン! ダァン!
誘拐犯の1人が後ろから拳銃を放ってきた。当然命中率は悪いのだが、運悪くソレがデジタル画面に直撃。火花を散らし、数値が変わってしまった。
「何っ!? うわあっ!!」
気を取られて画面を見た直後、サクラハリケーンが瓦礫に乗り上げた為バランスを崩しシグルドは地面に投げ出され、サクラハリケーンは一夏を乗せたまま車体が回転し、現れた空間の裂け目を通ってどこかに消えた。
「クソッ! 聞こえるかプロフェッサー、大変だ! サクラハリケーンが一夏と荷物を乗せたまま、どこだかわからない場所に飛ばされちまった!!」
『何だって! 君は無事なのか!?』
「直前で投げ出されたお陰でな。とりあえず、予備のサクラハリケーンでそっちに向かう!!」
『ああ、頼む!』
あまりにも予想外な事態に取り乱しかけるが、深呼吸をして落ち着くと凌馬は一夏と積んでた荷物が飛んだ場所を探し始めた。
イギリス オルコット家
「ん……」
金髪の少女―――セシリア・オルコットは自宅の庭に置かれたパラソル付きのテーブルで、従者のチェルシー・ブランケットが付き添う中、紅茶を嗜んでいた。
『そういえばお嬢様。何故今の時間に、外で紅茶を飲みたいと仰ったのです?』
思い出したかのようにチェルシーが問いかけると、セシリアはティーカップを皿の上に置いて不思議そうに言った。
『自分でもよくわかりませんの。ただ何となく、ここで何かが起きそうな、そんな予感がして……』
庭の一角を見つめた―――その時だった。突如として空間が歪み、バイクが出現。セシリア達から見て右側に少し走るとバランスを崩し転倒。乗っていた少女と後ろに縛ってあったアタッシュケースは投げ出され、バイクは鍵の形になり小型化した。
『な、何ですのこれは!? っ、チェルシー!』
『はい!』
慌てて従者と共に駆け寄ると、気絶している少女を助け起こし、周りに飛び散ったものも確認する。
(私が感じた予感は当たっていましたのね。……それにしても、この方は一体……)
少女を見下ろし、セシリアはため息をついた。