インフィニット・ストラトス―失われた未来― 作:レイブラスト
「ん……あれ? またここ……?」
夏休みが明けたある日、一夏は夢を見ていた。それはこの前、葛葉紘汰と邂逅した際に見えたのと同じ空間だったが、今回は明確に違う部分があった。
『……ひっく……ぐすっ……』
(女の子?)
目の前には見知らぬ少女がおり、手で顔を覆って泣いていた。戸惑う一夏だったが、放ってはおけず声を掛けた。
「……どうしたの? 何があったの?」
少女は顔を上げて一夏の顔を見ると、涙は止まったがその表情をより一層悲しげなものへと変えた。
『ごめんなさい……一夏。私は、貴女の弟を止めることができなかった……』
「え?」
『私達を動かせる唯一の男性でありながら悪事を重ねる彼を、ただ傍で見ていることしか…………本当に、ごめんなさい……!』
「貴女……白式、なの?」
コクリと少女は頷く。少し間を置いて一夏は膝をついて同じ目線に合わせると、そんな少女をそっと抱き締めた。
『……え?』
「謝らなくていいよ。春也を止めようとしてくれた、その気持ちだけで十分だから」
『ですが、私は…あの人の操縦者を、貴女の姉を見殺しにしたも同然の事を……』
「!? 千冬お姉ちゃんがどこに居るのか知っているの!?」
『……はい。でもここで教えても、目が覚めたら全てを忘れてしまいます。しかしこうして夢の中で伝える以外に、方法は……』
「そっか……」
少し考え、一夏は紘汰の言葉を思い出した。自分の中に眠る力は、自分の思いに応えてくれると。
一夏は目を閉じ、少女の手をそっと握って強く願った。
(この子の力になりたい。伝えたいことを、ちゃんと伝えられるように……!)
そうすると手と手の間に眩い光が溢れ出した。それはどんどん強くなっていき、そして―――
「…………夢?」
朝を迎え目を覚ました一夏は、身を起こして背伸びをする。と、自分のベッドに誰かが入り込んでいるのに気づいた。
「セシリア……昨夜一緒に寝たっけ?」
首を傾げながら布団を捲る。そこには―――
「はぇ?」
キョトンとした表情で一夏を見上げる、夢で出会った少女の姿があった。
「だ、誰!?」
「あの、その、私……」
「ふぁ……どうしましたの一夏さん? 大きな声を出して………………だ、誰ですかその方は!?」
一夏の驚きの声に目を覚ましたセシリアも、見知らぬ少女の姿を見て仰天した。
「ひうっ!?」
驚かれたことに驚いた少女は、小さく悲鳴を上げると光に包まれ、白色のロックシードとなってポトッとベッドの上に落ちた。
「「ええええええええええええええええええええええええええええっ!!??」」
立て続けに起こる想定外の出来事に、一夏とセシリアは早朝にも関わらず叫んだ。
朝の騒動からしばらく経った昼休み。文化祭の準備で忙しい中屋上に集まった一夏達(+通信状態でipadに映る凌馬)は昼食を摂った後、一夏が持っている白いロックシードを中心に囲んでいた。
「本当に女の子がロックシードになったって言うの? 何だか信じらんないわね」
「私だって信じられないよ。でも事実なのは確かだし……」
「論より証拠、コイツが実際に変化するのを見たら私達も信じられるが」
そう言ってラウラが手を伸ばした直後、白いロックシードがふわりと浮かんで光を放ち、少女となって姿を現した。
「わっ!? ほ、本当に女の子になった!?」
「嘘だろ……」
「な、何にせよ、これで今の話が真実ということが明らかになったわね……驚き過ぎて現実味が無いけど」
「それで……貴女は何者なのかしら? 詳しく話してくれる?」
「は、はい」
頷くと少女は事細やかに、自分の正体は白式のコアであること、夢の中で一夏と出会い光に包まれたこと、気がついたら現実世界に人として実体化していたこと、ロックシードに変化したのは自分でも驚いていること等を話した。
「聞けば聞くほど謎だらけだな……というか一夏。お前がそもそもの原因なのに、何故忘れていたんだ?」
「うーん、夢の中の出来事だったからかな?」
「はい。あの状態の私達と話したことは、夢の中でのこととなるので起きたら忘れてしまうんです」
「だからかな? 僕を含めて今まで誰も、ISコアに人としての意志と姿があるのを知る人が居なかったのは」
「かもしれないわ。……で、一部始終を見せましたけど、どうでしたかプロフェッサー?」
手に持ったipadに映っている凌馬に刀奈は語りかける。常に冷静に判断する彼も今回ばかりは激しく狼狽していた。
『いや……何というか……完全に予想外と言うか、まさか極ロックシードにそこまでの効果があるとは思ってなかった……』
「プロフェッサーですら想定してなかった事態なんですのね」
『想定できる訳がないよこんなの……それで白式……でいいんだよね? 君は千冬について何を伝えようとしてたんだい?』
「あ、そうだ! 何か知っているの?」
「そのことなんですが―――」
少女は皆に千冬が臨海学校の時、春也にゲネシスドライバーを奪われて斬月・真に変身され、彼女も斬月に変身して戦ったが倒されてしまったと説明した。
その説明に対する反応は愕然としたり、憤りを覚えたりと様々だった。
「は、春也が……千冬お姉ちゃんを……!?」
「他の誰かが変身しているとは思ってましたが、よりによってあの男とは……!」
「あんのバカ男! ついに尻尾を見せたと思ったらとんでもないことしでかして!! 連れてきて全員でボコってやる!!」
「それは無理よ。彼、どういう訳か夏休み明けてから一回もIS学園に姿を見せてないもの。家にも戻ってないわ」
「妙な話だな……が、それなら先に千冬お姉様を探して証言させればいい」
『……いや、現時点でそれは無理だ』
「どうしてですの?」
『実は昨日……見つけたんだ。その、千冬を』
「!? ほ、本当ですか!? どこで見つけたんです!?」
『臨海学校先から、かなり離れた沖合を意識不明の状態で漂流してるのを発見したんだ』
「漂流って、一ヶ月近くをか!?」
『ああ。今はウチの医療機関で保護している』
端末の映像が変わり、ベッドの上で人工呼吸器をつけて眠る千冬の様子を映し出し全員……特に一夏が真っ先に画面に近づいた。
『手は尽くしたし、今も束が付きっ切りで看ているが脳の損傷が激しくて……正直なところ、意識が戻るかどうか―――』
「…………そう……ですか……」
「一夏さん……」
一夏は込み上げてくる涙を必死で抑えた。そうしなければ今にも心が折れてしまいそうだから。それを察したセシリアも、一夏にそっと寄り添った。
その様子を見た凌馬は沈んだ気持ちを切り替えようと頭をフル回転させた。と、あることが頭に浮かんだ。
『そういえば……その子はこれからなんて呼べばいいんだい? 白式って言うのは女の子の名前にしては、らしくないだろうし』
「わ、私の名前ですか?」
「あ、言われてみれば……どうしよっか?」
困惑する少女を囲んでうーん、と全員で考え込む。少しして一夏がポンと手を叩いた。
「今ふっと思いついたんだけど……
名前の案の善し悪しを一夏は少女に尋ねる。突然少女の名前を決める話になったので困惑していたが、気を取り直すと一夏に笑みを向けて言った。
「いえ……とてもいい名前です」
「喜んでくれて良かった」
「名前で思ったんだが、授業中とか周りに他の生徒が居る時はどうやって過ごすんだ? さすがにそのままはまずいと思うぞ」
「それでしたら大丈夫です。普段はロックシードに変化してますので」
身体を光らせると、少女改め真白は再び白いロックシードに姿を変えた。
『うーむ、やはり科学原理が全くわからない……』
「わかったらわかったでプロフェッサーが恐ろしいですわ……」
変化する様子を見て頭を悩ませる凌馬に、セシリアはちょっとした安堵から嘆息をついた。
その日の午後の最終授業は、一組では学園祭での出し物を決める話し合いをすることになった。執行及びまとめ役はクラス一のしっかり者と称される
「何か良い案はありませんか?」
「そう言われてもねぇ……」
「織斑君を主軸とした奴をやりたかったのに、当人が居ないんじゃ決めらんないよ」
「夏休み明けてから一度も来てないよね、織斑君」
「それ言ったら織斑先生もだよ。やまちゃんが代理で担任やってるけど、何やってるんだろ……」
「ああもう、話を逸らさない! 何でもいいから、意見を言って下さい!」
春也と千冬の不在でモチベーションが下がってしまっているクラスメイト達を見かねた静寐が、パンパンと手を叩く。その直後、ラウラがスッと手をあげた。
「知人の薦めを思い出したんだが、メイド喫茶はどうだろうか。経費の回収には向いているし遊び心もあるだろ?」
「メイド喫茶か……いいかも!」
「でもメイド服はどうやって用意するの?」
「私裁縫部だから、縫えるよ!」
「私も実家で余っているのをいくつか取り寄せますわ。それからついでにと言っては何ですが、茶器も届けさせましょう。より本格的になりますわ」
「さ、さすがセシリア……規模が違う!」
「では出し物はメイド喫茶と言うことで、オーケーですか?」
『『『オーケー!!』』』
満場一致で出し物が決まった。テンションの差が激しいなぁ、と思いながら一夏が皆を眺めていると、真白のロックシードがカタカタと揺れた。一夏はバレないようにこっそりと手にして小声で話す。
「どうしたの?」
『皆さん楽しそうにしているので、何だか私まで楽しみになってしまいまして』
「きっと楽しい学園祭になるよ。一緒に見て回ろうね」
『はいっ』
一旦会話を切り上げると、ラインナップ等を次々と出し合い決めていくのであった。
「もうこれだけの数を揃えたんですか……」
格納庫にて無数の車が鎮座しているのを見て、春也は壮観だなと零した。
「結構大変だったでしょう? 休み無しで作業してたって言ってましたし」
「それ以上に私も現場も楽しんでやってたから、そんなに苦ではなかったわ。そうよね?」
「はい! 特に、白式・雪羅等の専用機の武装データを搭載したTFを作った時なんか、もう全員揃って大興奮、濡れ濡れでしたよ!」
「品のないこと言わないで下さい。てか仲良くなってますけど、そんなんで始末できるんですか?」
「心配ご無用です! 完成記念にと渡したワインに毒仕込みましたから、とっくにあの世行きですよ!」
「……自分から聞いといて何ですけど、喜々として言うことじゃ無いですよねそれ。後、ちゃんとドライバーとロックシード持ってますよね?」
「ええ、忘れてないわ」
言いながら美咲は認証済みの戦極ドライバーを、優陽はゲネシスドライバーを取り出す。彼女らが用意した材料で、春也が作ったものだ。
「それにしても、ちゃんと説明されても信じられないわ。ISコアそのものを加工することで、ISを超える兵器が簡単にできるなんて。……ところで貴方も忘れて無いわよね?」
「TFをいつでも起動できる遠隔装置のことですよね。ちゃんと持ってますよ」
左腕の白式があった部分に装着した時計のようなものを指して言う。これと同じものを美咲も所持している。
(それにしても朝起きた時、白式が無かった時はびっくりしたな……一体どこにいったんだ? ISコアに意志が芽生えてどっかに飛んでったとか? ……な訳ないか。理由が何であれどうせこれからの戦いでは役に立たないし、廃棄処理する手間が省けたからいいけど)
「ところでだけど、夏休みからずっとここに居て、IS学園にも行ってないんじゃ不審に思われるんじゃない?」
「どうせこれから裏切りに行くようなものなんです。だったらあんな邪魔者ばかり居るような場所に行こうが行くまいが変わらないでしょ?」
笑顔で言い放つ春也に、美咲は彼の裏に潜む狂気を感じ取るのであった。