インフィニット・ストラトス―失われた未来―   作:レイブラスト

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第3話 明かされる真実

(織斑一夏……織斑千冬の血縁者でしょうか? でも一体誰があんなことを……!)

 

所持していた学生証を見ながら、セシリアはベッドで眠っている少女―――一夏を見る。その表情は険しいものだ。と言うのも、チェルシーが彼女の衣服を脱がして身体を拭いた時、全身についた傷跡と強姦された痕跡を見てしまったからだ。

 

「う、ううん……」

 

その時、一夏が呻き声を上げながら瞼をゆっくりと開けた。

 

「気がつきましたか?」

 

「は、はい。……あの、貴女達は?」

 

「私はセシリア・オルコット。オルコット家の当主をしておりますわ。そしてこちらは、専属メイドのチェルシー・ブランケット」

 

「よろしくお願いします」

 

「う、うんよろしく……って、オルコット家って確か、イギリスで名高い貴族じゃ……」

 

「ええ、そうですわ」

 

頷くセシリアに、一夏は目を見開いた。すぐに傍らに置いてあった携帯を取って日付と時刻を確認するが、別に数日経過している訳でもなかった。

 

「おかしい。私、ドイツに居た筈なのに…どうしてイギリスに居るの?」

 

「突然目の前に現れたんですの。それにしても妙な話ですわね……貴女の身に何がありましたの? 体中の傷も、何か関係が?」

 

「(あ、見られちゃったんだ)ううん。身体の傷は、今よりずっと前につけられたものだよ」

 

「……よろしければ、詳しく聞かせて貰えないでしょうか?」

 

「……いいよ、気晴らしにもなるし。そんなにいい話でもないけどね」

 

前置きを入れてから、一夏は訥々と話し始めた。自分が織斑千冬の妹で、双子の弟から拒絶され彼や、彼に扇動された者達により虐められ傷を負わされてきたこと。そして今日……モンド・グロッソ決勝直前に誘拐され、犯人の1人に心身共に一生癒えぬ傷を与えられ、気がついたらここに居たことを。

 

「……酷い話ですわね。どうして貴女のような人が、そのような目に……」

 

「本当、何でだろうね……私の努力が、足りなかったのかな? そうだよね、そうでなきゃ出来損ないだなんて―――」

 

「そんな筈がありませんわ!! 貴女は姉や弟に追いつけるよう、常に努力し続けて来たんでしょう!? それをこんな……こんな目に遭わせるだなんて!!」

 

拳を握り締めて立ち上がり、怒気を露わにするセシリア。彼女自身、一夏の境遇に共感できる部分があった。過去に両親を事故で亡くし、遺産目当てで近づく周囲の大人達から遺産を守る為に不断の努力を続け、新型ISのテストパイロットにも選ばれた。

だから許せなかった。一夏が続けてきた努力を、平気で踏みにじる者達が。

 

そんなセシリアの言葉に一夏は驚き、顔を綻ばせた。

 

「……ありがとう。オルコットさんて、優しい人なんだね」

 

「……私、人の努力をバカにする人が許せないんですの。……それより、これからどうするおつもりで?」

 

「これからか……正直、家にはもう帰りたくないかな。千冬お姉ちゃんには悪いけど、春也に…男の人に酷いことされるの、もう嫌だし……」

 

俯きながら言うと、傍に立っていたチェルシーが少し考えて述べた。

 

「それでしたら、ここに住むというのはどうでしょう?」

 

「まあ……それはいい考えですわね、チェルシー」

 

「え、い、いいんですか? 色々と問題があるんじゃ……国籍とか」

 

「大丈夫ですわ。私、ISのテストパイロットを務めていますから、政府の方々とは多少コネがありますのよ」

 

不安げに尋ねる一夏に、セシリアは自信満々な笑みを浮かべて言った。一夏はしばし考え込むと、顔を上げた。

 

「……わかりました。ご厚意に、甘えさせて頂きます」

 

「決まりですわね。これからよろしくお願いしますわ。それと、私のことはセシリアと呼び捨てにして下さいまし、一夏さん」

 

「うん。わかったよ、セシリア……ってあれ? 私、いつ名前教えたっけ?」

 

首を傾げながらキョトンとする一夏に、セシリアとチェルシーは「可愛い」と思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。一夏が居なくなった後の廃墟に、ISを纏った織斑千冬が現れた。彼女は一夏誘拐の報告が伝わるや否や、試合を棄権して飛んで来たのだ。ところが、指定してきた場所には一夏どころか犯人の姿すら居ない。

 

「……一体どういうことだ? まさか、別の場所に逃げたか?」

 

「その心配はないわ。織斑一夏は無事よ……一応はね」

 

突然背後から聞こえてきた声に振り向くと、スーツを着た金髪の女性が歩み寄って来ていた。

 

「貴様、何者だ? 一夏が無事とはどういうことだ?」

 

「私はスコール・ミューゼル。亡国機業(ファントム・タスク)所属よ。それと一夏ちゃんのことだけど、私達の本社に来てからでいいかしら? 何分私達も把握し切れてなくてね」

 

「…………わかった。言う通りにしよう」

 

しばし迷った千冬だったが、ここに居ても何の手掛かりもないと考え、彼女に着いて行くことにした。

廃墟の外まで出るとスコールは量産バイク・ローズアタッカーに跨り、千冬にもISを解除して後ろに乗るように促す。訝しみながらも搭乗すると、スコールの運転で発進。一定速度まで一気に加速し、サクラハリケーン同様ワープした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツからいきなりワープして亡国機業(ファントム・タスク)本社に到着した衝撃も抜けきらないまま、千冬はトップである人物が居る部屋へと案内された。

 

「初めまして。私が亡国機業(ファントム・タスク)のトップ兼技術主任の戦極凌馬だ。よろしく」

 

「織斑千冬だ。早速だが、一夏はどこに居る?」

 

「それなんだが、本来ここに連れてくる筈が不測の事態に遭ってね。現在彼女はイギリスに居るらしいんだ」

 

「イギリス? イギリスのどこだ?」

 

顔を顰めて詰め寄った時、デスクに置かれたPCの画面にピピッという音と共に地図と赤い点が表示された。

 

「ちょっと待って、今詳細位置がわかった。……ふむふむ。どうやらかの有名なオルコット邸に保護されてるようだ」

 

キーボードを操作して答える凌馬に、千冬は「そうか。感謝する」とだけ言うと背を向けて歩き出そうとした。

 

「あ、待った待った。下手に連れ戻したりしない方がいいよ。少なくとも、織斑春也と会わせることになるだろうし」

 

「? 春也と会わせると何かまずいのか?」

 

「そうか、君は知らなかったっけ。彼女、織斑春也に相当虐められてたんだよ」

 

「何!?」

 

「勿論証拠だってある。……束」

 

「アイアイサー!」

 

突然壁の一部がどんでん返しとなって、ウサ耳カチューシャをつけた女性・篠ノ之束が資料の束を持って現れた。

 

「束!? お前、なんでこんなところに……」

 

「説明は後々。それよりこれを見てよ」

 

資料をずいと差し出され、千冬は受け取って一枚一枚捲って見ていく。すると最初は普通だった彼女の表情が、みるみる驚愕したものに変化していった。

 

「こ、これは……! そんな、まさか……!?」

 

「信じられない? これを初めて知った時の私もそうだったよ。まさかはるくんが、いっちゃんに対してあんな酷い仕打ちをしてたなんてさ……。この時ばかりは、表立って動くことができない自分の立場を呪ったよ」

 

「……じゃあ、春也が私の前で見せていた姿は、偽りのものだったということか…………だが、それなら余計に一夏を保護しなければ。無理に家に返したりはしない。せめてここなら!」

 

春也に会わせるのが危険なら、会わせなければいい。そう考えての発言だったが、凌馬は首を横に振って言った。

 

「残念だが、今はそっとしておいた方がいい。無闇に接触すれば、心の傷が広がりかねない。……全身の傷のことを言ってると思ってるなら、それは違う。一夏ちゃんは、女性として最も陵辱的な行為を誘拐犯の男にされたんだ」

 

「!!!!!!」

 

ハンマーで頭を殴られたような衝撃だった。女性として陵辱的な行為……それが何を意味するのか、千冬にも察しがついた。

 

「だから一夏ちゃんに関しては、ある程度傷が癒えるまで接触しない方が良いんだ。一応、監視はしておくけど」

 

「そうか……」

 

呆然と呟いた千冬の心は、一夏を救えなかった悔しさと自分への怒りが混ざり合っていた。そんな彼女の様子を知ってか知らずか、スコールは千冬を見て言った。

 

「貴女のせいじゃないわ。まさか実の弟が姉を虐めているだなんて、普通思わないもの。……それに後悔ならいつでもできるけど、これからのことはどうするの? 試合をほったらかしにして来たんでしょ?」

 

「ああ……私は現役を引退する。そろそろ頃合いだと思ってたしな……」

 

「その後は何もやることは無いかい? もし無ければ、ここで働いて欲しいんだけど」

 

「ここでだと? 何故だ?」

 

「純粋に君の戦闘能力を買っているからさ。それに、一夏ちゃんに何か起きた時、ここに居ればすぐに出動ができる」

 

「……なるほど。そう考えれば魅力的だが、情報をリークしたドイツ政府も黙ってはいないだろう」

 

「そこはご心配なく、上手く交渉してみせるから」

 

ロックシードをクルクルと指で回転させつつ、PC画面に映る一夏とセシリア達が仲良くしている様子を、凌馬は微笑ましく見ていた。

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