インフィニット・ストラトス―失われた未来― 作:レイブラスト
彼―――織斑春也は幼い頃から、周りに賞賛されてきた。天才的とも言えるその頭脳を、類い希な身体能力を。だがそれは、偶然や努力で手に入れたものではなく、転生の特典として必然的に手に入れた力だった。
何故彼がそれ程までの力を求めたかと言うと、理由は単純。原作で一夏に惚れていた7人のヒロイン達を自分のものにする為だ。いくら先のことを知っていても、それに対処できなければ意味がない。力がいるのは当然だった。
そして見事力を手に入れた春也には、他にも自信があった。原作の一夏は異常な程に鈍感で唐変木で、ヒロイン達が暴走する切っ掛けを作ってしまったが、自分はそんな失敗はしない。一言一句聞き逃さず、フラグを折らないようにすることができる、と。
だが唯一、彼が懸念する材料があった。この世界における自分の双子の姉―――織斑一夏のことだ。特典で一夏は女になっているし、将来的には辱めを受けて死ぬ運命になっている……が、それは中学生になってからでその前に何か余計なことをしでかして、ヒロインとレズハーレムを作ることだって有り得る。彼はそう思い、千冬や周りの目が届かないところで彼女を虐めた。助けを呼べないように脅したりもした。時には誰かを嗾けて虐めさせた。決してバレないようにそうしたことを行いつつ、春也は篠ノ之箒と積極的に仲良くなろうとした……のだが、途中まで上手くいってたそれはある日を境に突然、向こうから露骨に避けられ始めた。
「どうしたの? 僕が何か悪いことでもした?」
そう聞くと、彼女は睨みながらこう答えた。
「自分の胸に聞いてみろ。詳しくはないが、私は知っているんだからな」
意味がわからなかった。もしかして、自覚が無いだけで何か酷いことでも言ったのだろうか。ISを発表する前の束に操縦方法をシミュレーターで教わりつつ、春也は箒と距離を詰めようとしたが結局避けられたままISが発表され、束と箒は自分の近くから居なくなった。このことに彼は少なからず憤りを感じ、一夏に八つ当たりしていたがその内気が晴れた。
5年生になると、凰鈴音が春也と同じクラスに転校してきた。気持ちを切り替え、春也は鈴と仲良くなろうとした。
日本語の発音のことでからかわれ虐められそうになった時に彼女を助け、それが切っ掛けで距離も縮まり始めた。……しかし、ここでまたしても予測不可能な事態が起きた。中学に上がった頃、箒の時みたいに鈴はある日突然春也を冷たい目で見てきて関わろうとしなくなったのだ。
一体何があったのか。箒の時と同じ問いをすると、鈴は怒鳴るように言ってきた。
「アンタ、自分が何したのかわかってんの!? あんなことするだなんて……最低! アンタなんか顔も見たくない!!」
益々意味がわからない。一体自分が何をしたのだろうか。わからないまま苛立ちだけが募り、しばらく一夏を気晴らしに虐めた。その後は弾や蘭に数馬と友達になったりしたが鈴には拒絶されたまま離ればなれになった。
何かがおかしい。そう思った春也だが、彼は決して慌てなかった。もし仮に原作から逸脱したことが起きても、繋がりをもった―――本人にとっても想定外だったが―――とある機関が指示通りに動いて補完してくれるだろう。だから安心して、こっそり買ったISの参考書を熟読しながら、第二回モンド・グロッソで一夏が行方不明になったことを思い出し笑いしていた。
そして―――
「ついに、ついにこの時が来たか……!」
彼は試験会場の一室に鎮座するISの前で感慨深く呟いた。いよいよ自分の名が世界に知れ渡る瞬間が訪れようとしているのだ。
「待ってろよ、みんな……僕は一夏とは違う。必ず幸せにしてみせるさ……!!」
他人からすれば歪んだものにしか見えない笑みを浮かべながら、彼はISに触れた―――
「え? 入学……ですか? IS学園に?」
春也が世界で初めてISを動かした男性として報道されてからしばらく。一夏は凌馬の言葉に戸惑っていた。
「でもどうして私が? セシリアや箒とかはまだわかるけど」
「みんなと一緒の学校に入った方が、寂しくなくていいと思ったんだ」
「大丈夫なんですの? IS学園には織斑春也も入学するんでしょう?」
「織斑春也と2人きりにならなければ問題ないだろう。皆が居る前で暴力を振るう訳にはいかないだろうし」
「学園には私も居て常に目を光らせてるから、心配することはない」
「………………」
目を閉じ、黙考する一夏。このまま怖いことから目を背けていいのか? それとも立ち向かうべきか? 考えた末、彼女は目を開けて言った。
「わかりました……行きます、私も」
「本当にいいんですの、一夏さん?」
「いつまでも目を背けてちゃダメだから。ちゃんと、春也と向き合って話してみないと」
「お前がそんなことを言うとは…強くなったな」
覚悟を感じさせる一夏の言葉に、箒は微笑む。それを見ていた凌馬は、今度はセシリア達を見て話し始めた。
「後、セシリアちゃんとラウラちゃんは基本的に自分のISを使ってくれ。イレイザーっていう架空の会社の正式なテストパイロットという肩書きになる一夏ちゃんと箒ちゃんはともかく、国に所属している娘達が自国のISを使わないなんて、メンツが潰れちゃうからね」
「箒ちゃんとまーちゃんも同じだから、気をつけてね~」
「それはわかりますけど、だからって新世代型ISを作らなくても……」
「私なんかセシリアと同じ、イギリス側から出向したパイロットとして登録されてたぞ」
「それだけならまだマシだ。私とセシリアのISは……」
「ええ……」
4人ははぁ、とため息をついて顔を見合わせた。箒には束が完全新規で設計した第4世代型IS「紅椿」が、マドカには凌馬がイギリス政府と交渉して得たBT兵器搭載IS二号機「サイレント・ゼフィルス」が与えられていた。セシリアとラウラのISはこれまで使っていた「ブルー・ティアーズ」と「シュヴァルツェア・レーゲン」だが、欠点が気になった束によって改造が施されていた。
具体的にはブルー・ティアーズの方はビットがレーザーライフルと同時使用することが可能なまでに操作しやすくなり、レーザーライフルは途中から半分に分割でき、後ろ半分が実弾装備のマシンガンとして使えるようになった。シュヴァルツェア・レーゲンはAIC使用時に必要な集中力が軽減された他、(これはラウラ達には秘密なのだが)VTシステムが外された。
「り、凌馬さん。このことって簪や刀奈さんにも伝えなくていいんですか?」
「早めに伝えてあるよ。刀奈ちゃんは専用機を持ってるし、簪ちゃんはこれから貰うらしいから。…さて、最後になるけど千冬。君に渡したいものがある」
何だろう?と不思議に思う千冬に、凌馬は引き出しから出したソレらを持って立ち上がった。
「それは…ゲネシスドライバーとエナジーロックシード?」
「ようやく君の分が完成したんだ。いやはや、苦労したよ。君が存分に使いこなせるようにしなきゃならなかったからね」
「今後はこれを使って戦えと言うことか。いいだろう」
何度か頷くと、彼女はドライバーとロックシードを受け取りまじまじと見つめた。
「それにしても、一夏達は羨ましいぞ。先に入学することができて」
「ラウラはドイツ政府からの任務が通達されているそうだからな」
「お陰で途中編入しなければならん。祖国からの命令とは言え、全く間の悪い」
同情を含んだマドカの呟きに、腕を組んでむすっとした顔でラウラが若干の不満を口にする。
「というか問題ないのか? IS学園に行ってる間も依頼が来るのでは」
「あー、時々は頼むかもしれないけど、基本はオータムとレイドワイルドのトルーパー隊で賄うことにするよ」
「そういうことだから、お前等は安心して青春を満喫してろ」
ニッと笑うオータムに皆も釣られて笑う。その中でただ1人、凌馬は「いよいよだ」と内心決意を新たにしていた。