IS幼稚園   作:オルコッ党は正義

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第一限目 幼女と入学初日

(き、気まずい……)

 

 複数から好奇の視線を送られている織斑一夏の心境は、ここから逃げたいという思いだった。

 右を向いても女の子、左を向いても女の子。

 前後左右どこを見ても幼女だらけの現状に、一夏は思わず遠い目をしてしまう。

 

「皆さんご入学おめでとうございます! このクラスの副担任になる山田真耶と言います。一年間よろしくお願いします」

 

 教壇のすぐ隣にいる緑髪の幼女──真耶が元気よくそう告げるが、クラスの人達が誰も反応しなくて涙目になっていた。

 一夏本人も残念ながら、真耶の言葉に反応する余裕はない。

 何故このような事になったのか、と現実逃避気味に一夏は記憶を掘り返していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも、事の発端は一夏が中学一年生の時になる。

 その日、いつも通り夕食の支度をして一夏の姉である織斑千冬を待っていたのだが、何故か彼女が帰ってくる時間になっても帰ってこなかったのだ。

 当然シスコ……姉想いである一夏は携帯に連絡をしたりするも、携帯は繋がらない。

 これはもしかして事件にでも巻き込まれたか、と一夏が警察に連絡しようとした時、玄関のチャイムが鳴り響いた。

 

「遅かったじゃないか千冬……姉?」

 

 千冬が帰ってきたと慌てて玄関を開けた一夏の目に入った光景は──

 

「れ、連絡が遅れてすまなかった一夏」

 

 ──幼女になった千冬の姿だった。

 

 

 

 困惑しながらも一夏は千冬を家に入れて、温め直した夕食を食べながら幼女姿になった原因を尋ねていく。

 疲れたように答える千冬の話によれば、どうやらISの生みの親であり、現在行方を眩ませている篠ノ之束が原因らしい。

 束曰く、くだらない凡人どもに利用されるくらいなら、IS操縦者を幼女化して困らせてやろう、と。

 思いつきで他人の身体を弄る相変わらずの天災振りに戦慄しつつ、一夏は千冬が元の姿に戻るのか懸念していた。

 

「千冬姉。その……元に戻れるの?」

あの馬鹿()は気が向いたら戻すと言っていたな」

「え!? じゃあ束さんが治すまで一生このままなの!?」

「非常に不本意ながら、な」

 

 額に青筋を浮かべた千冬が思わずといった様子で手に力を入れ、持っている茶碗が砕け散った。

 食器を壊した事に決まりが悪そうな表情を浮かべる千冬を尻目に、一夏は手早く机を片付けて新しい茶碗にご飯をよそう。

 

「もう壊したら駄目だよ千冬姉」

「す、すまない」

「それで、他にも小さくなった人はいるの?」

「ああ。それが──」

 

 改めて千冬から話を聞くと、今世界中では混乱の渦に巻き込まれているようだ。

 突如としてIS操縦者というエリートである女性が、全員幼女化。

 原因不明な事態に世界が右往左往していた時に、全世界の電波をジャックした束が説明した事により、ひとまず落ち着いたらしい。

 

「──という訳だ。全く、あの馬鹿者は」

「……これからどうなるのかな」

「さあな。とりあえず、次あったらあいつ()を一発殴らなければ気が済まないな」

「束さん……強く生きて」

 

 イイ笑顔で拳を握る千冬を見て、一夏は内心で束に合掌した。

 

 

 

 なお、この時どこかにいる兎耳を着けた科学者が、突然の悪寒に身震いしたとかしなかったとか。

 

 

 

 

 

「──ら君! 織斑一夏君!」

「あ、は、はい!」

 

 思いのほか思い出す事に熱中していた一夏は、自分を呼ぶ声で我に返り思わず立ち上がってしまう。

 あちこちでクスクスと笑い声が響き、それを聞いて赤面している一夏に、真耶は泣きそうな表情で口を開く。

 

「あ、あの大声出してごめんね? 怒ってる? で、でも自己紹介は織斑君の番なの。だ、だから織斑君自己紹介してくれないかなぁ……ぐすっ」

「わ、わー! 自己紹介しますから泣かないでください!」

「ほ、本当!?」

 

 幼女化に精神も引っ張られるのか、目の端に涙を浮かべていく真耶。

 幼女を泣かすという事に罪悪感を感じながらも、一夏が自己紹介する趣旨を告げると、真耶は顔を輝かせて一夏の手を取り笑顔になった。

 無邪気に喜ぶ真耶に内心で苦笑いした一夏は、気を取り直して振り向きクラスを見渡す。

 

(うっ……)

 

 教室中から送られる様々な視線にたじろいでしまうが、一度深呼吸して一夏は幼女達を見返した。

 

「え、えと、織斑一夏です。男なのにISを動かせるとか、なんで幼児化しないのとか自分でもわかっていませんがよろしくお願いします」

 

 千冬が幼女化するという展開よりはマシだと思い、なんとか一夏は自己紹介をする事ができた。

 一夏にとっては、ISを動かせる事も充分に理解不能な出来事なのだが……幼女を見て冷静になれたのは不幸中の幸いだろう。

 小さな女の子に醜態を見せられない、という男としてのなけなしのプライドが働いたともいうが。

 最後に頭を下げてそう締めくくった後、一夏は顔を上げて周りの反応を窺うが、誰も反応してくれない事に不安になってしまう。

 

『……きゃ』

「きゃ?」

『きゃああああああああ!』

「うわっ!?」

 

 もしかしたら歓迎されていないのではないかと、一夏が内心で不安げに考えていた瞬間、突如として黄色い声が教室中に響き渡った。

 その廊下までに響くほどの大歓声に鼓膜を刺激され、一夏は顔を歪めながら耳を塞ぐ。

 一夏の視界の端では真耶もこの声には参ったのか、涙目になって蹲っていた。

 

「男! 男だわ! しかも美形!」

「爽やか系イケメンキタコレ! 鼻血出そう!」

「ぐへへ、お兄ちゃんと呼ばせてくだせー!」

「ロリ妹×兄……これは薄い本が滞りますわぁ」

「ふぉおおおおおお! ロリにしてくれてありがとう束博士!」

「な、なんだ……?」

 

 興奮からか鼻血を噴き出して幸せそうな顔をする幼女や、涎を垂らして不気味な笑顔をする幼女。

 他にも瞳を輝かせて義妹化を狙う幼女に、祈るように手を組んで束へ信仰を捧げる幼女等……とにかく教室は混沌と化していた。

 多種多様な幼女の狂喜乱舞する姿を見た一夏は、謎の悪寒に背筋を凍らせつつとりあえず歓迎されているという事に、ほっと胸を撫でおろす。

 

(良かった……男だから歓迎されないのかと思った)

 

 不幸中の幸いか幼女の言葉を殆ど理解できなかったので、一夏は純粋に喜び混じりっけのない笑顔を浮かべる事ができた。

 ある意味澄んでいるとも取れる一夏とは対照的に、汚れていると自覚している幼女達はその笑みを見て、各々が胸を抑えて気まずそうに目を逸らす。

 

「全くなんだ騒々しい……」

「あ、織斑先生!」

「織斑?」

 

 あらぬ方向を見ている幼女達に一夏が困惑していると、背後から呆れたような声と嬉しそうな声が聞こえてきた。

 その聞き覚えのある声と、真耶の口から出た聞きなれた苗字に、まさかと思いながらも一夏は慌てて振り向き背後を確認する。

 

「何故私のクラスにはまともな生徒が少ないのだ」

「ち、千冬姉!?」

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 振り返った一夏の目に入った光景は、腕を組み嘆息している千冬の姿だった。

 思わずいつも通りの呼び方をしてしまった一夏に、千冬は手に持つ出席簿を叩きつけようとする。

 しかし、腕の長さが足りず叩けない事に気が付き、千冬は不機嫌そうに鼻を鳴らして腕を下ろした。

 

「きゃああああ! 千冬様よ!」

「ふぉおおおおお! ロリ千冬様キタコレ!」

「ロリ姉×ロリ妹……薄い本が厚くなりますねぇ」

「私千冬様に憧れてロリになりました!」

「束様、あなたは神ですか!」

「私はこの時のために産まれたのですね!」

 

 千冬が現れた事に初めは呆然としていた幼女達だったが、やがて脳が理解を追いついたのか、先ほどの一夏以上の歓声を響かせた。

 鼻血を出しすぎて貧血になっている幼女や、悟ったように微笑を浮かべている幼女等。

 教室中は誰がどの声なのかわからないほど、騒音に呑まれていた。

 

「──静かに」

「はわぁ……流石ですぅ」

 

 その光景を呆れたように眺めていた千冬がそう呟くと、ピタリと今までの騒々しさがなかったかのように全員口を噤み、教室は静寂に包まれた。

 そんなカリスマ性を発揮した千冬を、真耶はうっとりと頬を染めて見つめている。

 真面目な表情で自分を見る幼女達に満足そうに頷き、千冬はゆっくりと教壇に登ってから口を開く。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。私の仕事は諸君を一年で使い物になる操縦者に育てる事だ。私の言う事はよく聴き、よく理解しろ。できない者にはできるまで指導する。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。──以上だ」

 

 幼女──生徒を一人一人見渡しながら、そう告げて薄い笑みを浮かべた千冬。

 その捕食者が獲物を前にした笑顔に思わず引いている一夏に対して、クラスの生徒達は琴線に触れたのか熱い吐息を零していた。

 

「あぁ……千冬様素敵」

「ロリなのにあの絶対者の笑み……堪らないわぁ」

「流石モンド・グロッソの覇者だわ」

「それと、織斑。貴様はいい加減に座らないか」

「あ、すみません千冬……織斑先生」

 

 生徒達が騒がない事に満足そうにしていた千冬が、いまだに呆然としている一夏へ声を掛けた。

 それに慌てていつもの呼び方をしようとした一夏を千冬が睨みつけ、大人しく座らせる。

 着席した一夏は周囲を見渡していき、この居心地が悪い雰囲気に微妙な表情になってしまう。

 

(子供が多いなあ……)

 

 初めは慣れない千冬の幼女姿だったが、やはり何年も経てばそれなりに見慣れた光景になっていた。

 しかし、ここまで幼女に囲まれる経験が皆無だった一夏は、どこか小学時代を思い出す光景に落ち着かないのだ。

 

「え? 織斑君って千冬様の弟……?」

「それじゃあ世界で一人だけの男操縦者なのも関係あるのかな?」

「何故織斑君をショタにしなかったぁ!」

「ロリ姉×爽やか弟……次のテーマはこれで決まったわ」

「お兄ちゃん、お姉様を私にください!」

 

 そこで生徒達は千冬と一夏の苗字が同じ事に気が付き、予想をしたり結婚を申し込んだりしていた。

 勝手に兄呼ばわりされて困惑している一夏を見て、額に青筋を浮かべていた千冬は、疲れたようにため息をついてから一度瞳を閉じる。

 そして、瞳を開くと静かな声量で呟く。

 

「貴様ら……私は静かにしろと言った筈だが」

 

 明らかに怒気が含まれているその言葉に、生徒達は額に冷や汗をかきながら背筋を伸ばした。

 生徒が黙った事を確認してから連絡事項を告げはじめた千冬を尻目に、この先上手くやっていけるのか一夏は遠い目をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ちょっといいか?」

 

 あの後、半月で基礎知識を覚えさせる等といった見事な鬼教官ぶりを発揮した千冬に、内心で戦慄しつつ無事にHRが終わった事に安堵していた一夏。

 気が抜けて机に身を投げだしていた一夏に声を掛けてきたのは、仏頂面の幼女だった。

 

「……箒?」

「話がある。ついてきてくれ」

「あ、ああ」

 

 その見覚えのある姿に思わず一夏が呟くと、その幼女──箒は頷き扉の方へ向かっていく。

 それに慌てて一夏が追いかけ、興味深げに見てくる幼女達を引き連れ教室を出る。

 そのまま廊下の人気のない所に向かった箒は、振り向いて一夏を見上げた。

 

「ひ、久しぶりだな一夏」

「箒も久しぶり……えっと、箒は変わらないな」

 

 腕を組んでそう告げた箒の姿に、一夏は最後に見た時より小さい見た目になんともいえない気持ちになってしまう。

 一夏の記憶の中では、引っ越しの別れの時が最後の姿なのだが、今の箒はそれより小さい小学生低学年ほどに見える。

 昔と同じ綺麗な黒髪をポニーテールにしており、別れの時に一夏が贈ったリボンで括っている。

 

「こ、これは姉さんが……くっ!」

「ま、まあ落ち着け箒。俺は箒に会えて嬉しかったよ」

「むふぅ……っは!」

 

 苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべて地団駄を踏みそうな雰囲気を出していたので、慌てて一夏はフォローの意味を込めて箒の頭を優しく撫でていく。

 一夏に撫でられてご満悦な雰囲気を醸しだしていた箒は、暫くして我に返ったのか頭を撫でている手を振り払って後ずさる。

 

「いいい一夏! いきなり女性の頭を撫でるな!」

「あ、悪い。……そういえば、去年剣道大会優勝したんだったな。おめでとう」

「なっ!」

 

 頭を抑えて注意した箒に手を上げて謝りながら、不意に箒が大会で優勝した事を一夏は思い出した。

 笑顔でその事を祝うと箒は愕然とした表情を浮かべ、勢いよく一夏へ駆け寄り問いつめていく。

 

「どうした箒?」

「なんでその事を知っているんだ!」

「なんでって新聞で見たからだけど」

「な、なんで新聞を見てるんだ!」

「そんな無茶言うなって……」

「む、むむぅ……」

 

 不満げに睨みつけてくる箒の様子を見て、一夏は思わず苦笑いしてしまう。

 口をへの字にして唸っている箒に、一夏がなんて声を掛けようか迷っていると、チャイムの音が鳴り響いた。

 

「あ、チャイムが鳴ったな。教室にもどろうか、箒」

「ま、待て一夏! 話はまだ終わっていない!」

 

 背後から慌ててついてくる足音を耳に入れつつ、一夏は相変わらずな幼馴染みの様子に嬉しくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。では今から来週末に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めたいと思う」

 

 あれから、理解不能な授業内容に頭を悩ませたり、金髪縦ロールな幼女に目をつけられたりといったイベント等。

 そんな忙しい出来事が終わり帰りのHRになった時に、教壇に立つ千冬がおもむろにそう告げた。

 

「はい! 私は織斑君を推薦します!」

「お兄ちゃんが代表だと良いと思います!」

「賛成! やっぱり唯一の男だからね!」

 

 初日から訪れた怒涛の展開に疲れ、一夏は頬杖をついてボーッとしていた。

 その時、自分を推薦する声があちこちで聞こえてきて、その事に一夏は慌てて立ち上がり口を開く。

 

「ちょっと待った! 俺はやるなんて──」

「他薦された者に拒否権はない。選ばれたからにはやれ、いいな?」

「──ま、待って千冬姉……ぐぅっ!」

「織斑先生だ、馬鹿者」

「ずみまぜん……」

 

 千冬の鋭い眼光に怯むも、一夏は再度否定の声を上げようとした。

 しかし、千冬が飛ばしたチョークが額に当たってしまい、激痛に涙を浮かべて蹲る。

 額を抑えている一夏の間抜けな姿に、千冬はため息を一つ零して教室を見回していく。

 

「他に推薦もないようならクラス代表者は織斑──」

「待ってください! 納得がいきませんわ……あぅっ」

「──なんだ、オルコット?」

 

 チョークが粉々に砕け散る威力を見たからか、千冬と目が合わないように視線を逸らす生徒達。

 その事に呆れたような顔をした千冬がそう告げた瞬間、先ほど一夏に絡んできた金髪縦ロールの幼女──セシリアが机を強く叩いて立ち上がった。

 机を強く叩きすぎたのか痛がる様子をしていたセシリアは、暫くすると髪を優雅に払って咳払いを一つ落とす。

 

「では改めて……このような選出は認められません!」

「ほう? だが、織斑は他薦されたぞ」

「物珍しさから推薦しただけに違いありません! ……大体、男がクラス代表等いい恥さらしですわ!」

「ふむ……」

 

 顎に手を当てて思案する素振りを見せる千冬に、セシリアはここが押し時だと思ったようで、口許に笑みを形作って大袈裟な身振りでポーズを取る。

 

「それに、実力から見てもわたくしが代表になるのはもはや必然……いいえ、そういう運命なのですわ! それを物珍しさからという理由で極東の猿にされては困ります!」

「はわわ……オルコットさんそのくらいで」

 

 極東の猿呼ばわりされて視線が険しくなっていく生徒達を見て、真耶が慌てたようにセシリアに声を掛けるが本人が気が付く様子はない。

 やがて、興が乗ってきたのか頬を赤く染めるセシリアは千冬を真っ直ぐ見つめ、高らかに声を響かせる。

 

「わたくしはISの技術を学ぶために島国に来たのです! 決してサーカスをするためではありませんわ! ──いいですか、クラス代表は実力のトップがなるべき。それはつまり、イギリス代表候補性であるこのわたくし! そう、このセシリア・オルコットがなるべきですわ!」

 

 そう叫ぶと腰に手を当ててドヤ顔をするセシリア。

 しかし、自分では決まったと思っているセシリアとは対照的に、教室内は剣呑な雰囲気に包まれている。

 千冬もこのような暴挙には呆れているのか、額に手を当ててため息をついていた。

 激痛から立ち直った一夏も、周りの雰囲気を感じとって顔を上げる。

 

(ええっと……つまり、あいつが代表者になるのか?)

 

 耳に入っていた情報を咀嚼した結果、早い話がセシリアが自薦したという事になる。

 一夏がセシリアをなんとなく見てみると、当の本人は口許に手を当てて高笑いを響かせていた。

 そんなある意味残念な様子を見た一夏は、頭にセシリアがクラス代表者になった場合を思い浮かべてみる。

 

(……ないな)

 

 対戦者を足蹴にして愉悦に浸るセシリアの姿が目に浮かび、その酷さに一夏は頭を振って思考から追いだした。

 すると、教室が静まり返っている事に一夏は気が付き不思議に思い教室内を見回すと、驚いている生徒達の表情に、顔を真っ赤にして肩を震わせているセシリアの姿が目に入ったのだ。

 

「あ、あ、あなたねえ! わたくしの事を侮辱していますの!?」

「へ? もしかして声に出てた?」

 

 怒りの表情で詰め寄ってくるセシリアを見て、一夏が慌てて千冬に目を向けると呆れたように頷かれた。

 自分の迂闊さに一夏が落ち込んでいる間に、こちらにたどり着いたセシリアは、眉尻を吊り上げて口を開く。

 

「イギリスの代表候補生で主席一位のわたくし、セシリア・オルコットを侮辱しましたわね!」

「い、いや俺は……」

「──決闘ですわ!」

「決闘……?」

 

 一夏へ指を突きつけ宣戦布告をしたセシリア。

 自分を睨みつける幼女に決闘と告げられ困惑している一夏を尻目に、セシリアは千冬へ顔を向ける。

 

「他薦された事に拒否権がないのであれば、決闘で白黒はっきりつけても問題ないですよね?」

「……話し合いで解決は無理か、決闘を許可する。来週の月曜日、場所は第三アリーナで行う。両名は試合までにできる事を準備しておくように」

 

 暫し悩む仕草をした後に千冬が許可を出し、その事にセシリアが満面の笑みを浮かべる。

 

「織斑先生から許可も出ましたので、これで問題ないですわ」

「だから俺は──」

「あなたが負けたらわたくしの奴隷にしてあげても良くってよ。このセシリア・オルコットの奴隷になれて光栄と思いなさいな! おーほっほっ!」

「──話を聞けって……」

 

 一人で勝手に盛り上がったまま高笑いを響かせ、セシリアは席に着いてしまった。

 勝手にセシリアと戦う事を決められて項垂れている一夏を尻目に、千冬は改めてクラスの連絡事項を告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ここが1025号室か」

 

 あれから結局決闘を止める等と言いだせる雰囲気ではなく、一夏は諦めてセシリアを闘う事を承諾した。

 自宅通学と言われたのに寮生活にいつの間に変えられたり、必要最低限の荷物しか千冬に渡されず内心で涙を流したり。

 そんな小さなハプニングが幾つかあったが、一夏はなんとか自分の部屋にたどり着く事ができたのだ。

 

 鍵を開けて部屋に入った一夏の視界に入ったのは、綺麗に整えられた室内だった。

 寛ぐには良さそうな内装に満足しつつ、一夏はベッドに腰を下ろした。

 暫く部屋の相方が来ないのかと一夏が待っていると、どこからともなくシャワーの音が聴こえてくる。

 

「へー、この部屋ってシャワーもついているの……か……ま、まずい!」

 

 シャワーを使っているのが女の子だと気が付き一夏が慌てて部屋を出ようとするも、その事が合図だったかのようにシャワー室の扉が開いてしまう。

 

「すまない。先にシャワーを使わせてもらって……いた」

「……よ、よお。箒」

 

 バスタオル姿一枚の箒と目が合った一夏は、気まずそうに目を逸らしながら声を掛けた。

 その言葉に箒は暫し硬直していたが、やがて理解が追いついたのか瞬く間に顔を真っ赤に染め上げていく。

 

「いいいいいい一夏なんでお前がここに!?」

「いやあ……ここ俺の部屋でもあるんだよね」

「ななななななな!」

 

 顔を背けて告げた一夏の言葉に、箒は言葉にならない声を漏らす。

 そんな箒の様子を一夏は横目で見て、幼女姿だった事に感謝していた。

 バスタオル一枚で髪が濡れているその姿と相まって、箒は色っぽいと言われれば色っぽいだろう。

 しかし、一夏はロリコンではないので幼女姿に欲情する事はなかったのだ。

 

「あのさ箒……」

「なななななんだ?」

「服着てくれない?」

「服? ……うわあああああああ! 早く部屋から出ていけええええ!」

 

 気まずそうに告げた一夏の言葉に、箒はキョトンとした後自分の身体に目を向ける。

 そして自分がいまだバスタオル姿だった事を思い出した箒は、そのまま近くにあった竹刀を手に取り一夏へ斬りかかった。

 背の大きさからか脛に当たるその痛みを堪えながら、なんとか一夏は部屋を転がりでる事に成功する。

 

「た、助かったぁ……」

「あ、織斑君だ!」

「え、もしかしてここが織斑君の部屋なの!?」

「ちょ、ちょっと?」

 

 一夏が扉の前で思わず胸を撫でおろしていると生徒達に見つかり、沢山の幼女達が群がってきた。

 小さい子供にまとわりつかれてなんとなく幼稚園を思い出しながらも、一夏はなんとか生徒達を落ち着かせていく。

 しかし、男を見られて興奮しているのか落ち着く様子は見せず、むしろ一夏に鼻息荒くにじり寄ってくる生徒達。

 

「怯えているイケメン……最高だわぁ」

「あーん、織斑君可愛いー」

「うひひひひ、いいお尻してますな」

「ほ、箒ぃ! 頼むから開けてくれぇ!」

 

 目つきが危ない生徒達に危険を感じた一夏は、部屋に入れてくれるように扉を叩いて箒を呼んだ。

 暫く一夏が生徒達と攻防を繰り広げていると、ゆっくりと扉が開き隙間から箒が顔を出す。

 

「も、もういいぞ」

「じゃあ俺は部屋に入るからまた明日な!」

「あぁ! 行かないで織斑君!」

「部屋であんな事やこんな事をするの──」

 

 手を伸ばして引きとめてくる生徒達を尻目に、一夏は早口で挨拶を告げると扉を閉めて鍵を掛けた。

 突然の行動に目を白黒している箒へ向き直り、改めて謝罪するために一夏は頭を下げる。

 

「すまん、箒。覗くような事になって」

「も、もういいから頭を上げろ! 一夏の誠意は伝わったから……」

 

 その言葉にゆっくりと一夏が頭を上げると、困ったやつだと言いたげに微笑む箒の姿が目に入った。

 とりあえず怒ってなさそうだと安堵した一夏は、箒に使ってない方のベッドを聞いてから、鞄の中身を出して整理していく。

 

 改めて鞄の中身を見てみる一夏だったが、先ほど千冬が告げた通り最低限の着替えと携帯の充電器しか入ってない事を確認する。

 ゲームや漫画等が入ってない事に肩を落としている一夏に、箒が不思議そうに首を傾げていた。

 

 そんな一夏にとっては悲しい出来事が起きたり、箒とシャワーを使う時間帯等の話し合いをしている間に消灯時間となったので、一夏達は寝る事にした。

 

「一夏……決闘等して大丈夫なのか?」

「平気だろ、多分」

「そ、そうか。何かあれば私も手伝うからな」

「ありがとう、箒。じゃあおやすみ」

「お、おやすみ一夏……ふふふ」

 

 最後に笑い声を漏らした後、箒の声が聞こえなくなった。

 箒の寝息を聞きながら天井を眺めていた一夏は、今日一日を振り返りながら頭を悩ませていた。

 

(はぁ……女の子と戦うのは嫌だな、しかも小さいし。でも決まった事だしな……千冬姉には恥をかかせられねえ)

 

 拳を握って決意を新たにしていると思ったより疲れていたようで、気が付けば一夏は深い眠りに入っていくのだった。

 

 

 

 ──この日を境として、一夏は幼女達と様々な事件に巻き込まれていく。

 そして、それと同時に沢山の幼女に惚れられてしまうのだが……幸か不幸か現時点の一夏に知る由はなかった。

 

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