転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第11話更新です。
今回、いよいよ色々なものが動き出した感じです。
いつもの事ながらねつ造入ってますので、原作遵守でなければ嫌だという方はご注意ください。何でもOKという方はぜひどうぞ!!!

そして、散々引っ張ってきたターニャの2つ名がいよいよお披露目です!


第11話 “姫夜叉”

 ―――――――――――2時間後、ターニャは相棒のドゥーイと共にシャボンディ諸島へと上陸していた。

 その中でも、“黒ひげ”がいる可能性が最も高いエリア、20番GR(グローブ)付近に船を着け、見聞色(けんぶんしょく)の覇気を駆使する。

(“アカガレ島”から“前半の海(パラダイス)”に入ったなら、20番台のGR(グローブ)にいる筈…。)

 “新世界”からシャボンディ諸島に入るルートは、大きく分けて3つある。

 1つ目は、聖地“マリージョア”からの通行許可を得て船を乗り捨て、新しい船へ積み荷ごと移動する方法。世界政府加盟国の王族や貴族、世界政府に公認された商人たちはこの方法を使う。

 2つ目は、“マリージョア”の真下に位置する海底国家“魚人島”を経由する方法。主に海賊や、世界政府非加盟国の者たちが利用する方法である。

 一般的に知られているのはこの2つだが、実は“抜け道”が存在している。

 3つ目のルートは、“魚人島”を経由しない海底ルート。“赤い土の大陸(レッドライン)”には、海底火山の爆発や数100年の間に少しずつ繰り返された地殻変動によって、数10ヶ所の亀裂(きれつ)が存在している。

 そのほとんどは深いものでも数100mの浅い亀裂(きれつ)だが、その中で4ヶ所、元々あった亀裂(きれつ)を人工的に広げて“トンネル”として開通されたものが存在する。

 “魚人島”を示す記録(ログ)とは離れている為、その存在を知る者でなければ見付ける事は出来ないが、主に裏社会の人間が使用しているものだ。ターニャがその存在を知っているのは、かつて成り行きでマフィアの幹部を海賊から助けた事があり、その礼にと教えられたからである。

 当然、“新世界”に君臨する“四皇(よんこう)”ならばその存在を知っている筈だ。元々、自然に出来た亀裂(きれつ)を利用したものなのでそれ程大きいものでは無く、大きいものでもガレオン船が1隻ギリギリで通れる位な上に潮の流れが速い難所な為、大所帯である“四皇(よんこう)”はそうそう使わないルートではあるが。

 その中でシャボンディ諸島に最も近いのは、“アカガレ島”を経由するルート。“アカガレ島”は“新世界”と“前半の海(パラダイス)”を繋ぐ貿易の拠点であり、コーティング文化も発展している。“魚人島”との取引も重要視しており、海底ルートを行き来する為にシャボンディ諸島から植樹した“ヤルキマン・マングローブ”が数本根付いている為だ。

 ターニャ自身、“新世界”と“前半の海(パラダイス)”を行き来する場合はこのルートを使う事が多い。“魚人島”は“白ひげ”の縄張りになる以前は、人攫い屋や海賊などの人間から蹂躙(じゅうりん)され続けていた為、今尚人間に対する憎しみと恨み、恐怖が根付いている。例外は“白ひげ海賊団”の人間位と言っても良い。

 中には既にそれらを過去の事として処理し、入島する人間たち相手に商売を行っている者たちもいるが、そんな針の(むしろ)状態で過ごしたくは無い。

 既に“白ひげ海賊団”を出奔(しゅっぽん)した“黒ひげ”も、“魚人島”を経由するとは考え難い。“四皇(よんこう)”の配下にいたのならば、“黒ひげ”も当然そのルートを知っているだろう。

 間違い無く裏のルートを通って来る筈だった。

「やっぱり出遅れたかな…。」

 既に別の島に移動してしまった後かもしれない。

 海軍の駐屯所(ちゅうとんじょ)で、知り合いの海兵にそれらしい海賊が目撃されていないかを尋ねた方が良いかもしれない。

 ターニャがドゥーイに行き先の変更を伝えようとした時だった。

「グルルル…!」

 不意にドゥーイが()()を感じ取り、威嚇する。

 ドゥーイの見聞色(けんぶんしょく)は、野生を生き抜いてきただけあってターニャより数段上である。そのドゥーイが反応するという事は、少なくとも主であるターニャかあるいは彼自身に向けられた害意を感じたという事。

 ターニャ自身も警戒を引き上げた直後、見聞色(けんぶんしょく)によってその存在を感じ取り、鬼徹(きてつ)を抜き放った。

 ドンッ!

 ドドドンッ!!!

 キキキキンッ!!!!!

 銃声と共に放たれた銃弾を全て斬り落とす。

「その太刀(たち)(さば)き、夢にまで見たぜェ………!!!」

 直後に響いた濁声(だみごえ)に、ターニャが視線を声の方向へと向ける。

「“姫夜叉(ひめやしゃ)”ターニャ…!この日を待ってたぜ…!!テメェとまた会える日をよォ………!!!」

「…悪いけど、覚えがあり過ぎて思い当たらないんだけど、あんた誰?」

 肩まで伸びたざんばら(がみ)に頬骨の浮いた青白い顔、目だけがギラギラと異様に光る()せた男が、硝煙(しょうえん)の立ち昇る銃をターニャへと向けていた。

「っこのオレを…!忘れやがっただとォ……?!」

 怒りか屈辱か、声を震わせる男にターニャが冷たく言い放つ。

「少なくとも億越えか、それに準ずる実力者だったら覚えてる筈だけど…。全く記憶に無いって事はその程度って事でしょ?」

「ガウッ!」

 賞金稼ぎとして独立しておよそ2年、ターニャが壊滅させた海賊団は100近い。捕えた、もしくは手にかけた海賊は1000人を下らない。よほど名を上げた者ならばともかく、有象無象(うぞうむぞう)のルーキーなどいちいち覚えていなかった。ドゥーイもまた、ターニャに同調するように吠える。

「“ユード海賊団”船長、“硝煙(しょうえん)のユード”様を忘れただとォ?!」

 そう叫ぶなり銃を連射する男‐本人の証言では“硝煙(しょうえん)のユード”に、弾丸を全て斬り落としていたターニャの記憶が刺激される。

「ああ、思い出した…。自分の部下盾にして部下ごとあたしを撃とうとした挙句、嵐の海に身投げした海賊…。生きてたんだ?」

 およそ2年前、ターニャが賞金稼ぎとして独立したばかりの頃、“前半の海(パラダイス)”のとある島で島民たちを奴隷のように扱っていた海賊団の船長だった。当時15歳だったターニャによってほぼ壊滅状態となり、進退(きわ)まって部下を盾にして身を守り、その体ごとターニャを撃とうとした狂気の男。

 その後でユード本人は嵐の海に身を投げて消息不明となっていたが、ユードに撃たれた部下は肺を撃ち抜かれており、既に手の施しようが無かった。苦しむ男に嘆願され、最期はターニャが止めを刺したのだ。

 後味の悪い殺しを思い出し、ターニャが渋面(じゅうめん)となる。

「テメェのせいでオレは死にかけたんだ…!無人島に流れついて、そこを出るのに1年以上もかかっちまった……!!テメェに復讐する事だけ考えて生きてきたっ……!!!」

「…完全な逆恨みでそこまで人を憎めるってのも、一種の才能かもね。」

「グルル…。」

 ターニャだけでなく、ドゥーイでさえ呆れたような声を上げる。

「悪いけど、今忙しいんだ。復讐なら、またの機会にしてもらうよ。」

 ザシュゥッ……!!

 その言葉に、“硝煙(しょうえん)のユード”が激昂(げっこう)しかけた瞬間、瞬時に距離を詰めたターニャが男の両腕の腱を斬り裂いていた。

「ッギャァアアアァアアアア―――――――――――――ッ!!!!!」

 拳銃を取り落とし、ユードが痛みに絶叫する。

「……まぁ、その“機会”があればの話だけどね。」

 ドッ…!

 鳩尾(みぞおち)に拳を叩き込み、ユードの意識を一瞬で刈り取りながらターニャが続ける。

「ったく、余計な手間を…。ドゥーイ、一旦海軍の駐屯所(ちゅうとんじょ)に寄ろう。こんなトコに転がしてても迷惑になるだけだし…。」

「ガウ。」

 溜息を()いたターニャがドゥーイを(うなが)し、ユードの(えり)を掴んで駐屯所(ちゅうとんじょ)へと引き摺り始めた。

 

 ━60番GR(グローブ)、海軍駐屯所(ちゅうとんじょ)

 ザワッ…!

 ターニャがユードを引き摺り、駐屯所(ちゅうとんじょ)へと姿を現した瞬間、そこに集っていた賞金稼ぎたちが一瞬ざわつく。

「よう、ターニャ。前半の海(こっち)にいるなんて珍しいな。」

「リブロ大佐、久しぶり。」

 ターニャに気付くなりすぐに歩み寄ってきたのは、この駐屯所(ちゅうとんじょ)の最高責任者‐アリオスト・リブロ大佐である。

「よう、ドゥーイもいたのか。お前ら、いつも一緒だな。」

「ッガウ……。」

 ターニャの足元に佇んでいたドゥーイに気付いたリブロは、荒っぽくドゥーイの頭を撫で回した。…ドゥーイは若干迷惑そうだったが。

「ガープ中将は元気か?」

「相変わらずかな。」

 30代後半と将校の中では割と若い方であるリブロ大佐は、新兵時代は元々、祖父‐ガープ中将の部隊にいた為、ターニャの事も良く知っている。2mを超す長身で、がっしりとした体付きに厳つい顔のリブロ大佐だが、気は良い男であり、ターニャの事も昔から可愛がってくれていた。

「ところで、コイツを引き渡したいんだけど…。」

「死んで…、はいないな。見た顔だが、手配済みか?」

 ターニャが引き摺ってきたユードを見たリブロが素性(すじょう)を尋ねる。

「最近はどうだか知らないけど、2年前に1度消息不明になった海賊、“硝煙(しょうえん)のユード”。…2年前にあたしが取り逃がした海賊だよ。」

「!ああ、覚えてる…。生きてたのか。」

「無人島に流れ着いて、あたしに復讐する事だけを考えて生きてたらしいよ。」

「そのまま足を洗って身を隠せば良かったものを………。」

 何でわざわざ敵わない相手にちょっかい出すんだ、とでも言いた気なリブロが呟く。

「それに関しては同感。」

「グルル。」

 ターニャのみならず、ドゥーイでさえ同意するように唸りを上げた。

「まぁ、分かった。そいつはこっちで引き取ろう。手配書も撤回されちゃいないから、後で懸賞金も引き渡す。ここに受け取りに来るか?それとも…。」

「あたしの口座に繰り込んでおいて。」

「だろうな。分かった、手続きはやっておく。」

 ユードを部下に引き渡し、懸賞金の受け取りについても確認したリブロがちゃっちゃと書類を準備する。

 引き渡しの書類にターニャがサインし、手続きは完全に完了となった。

「そう言えば、最近“新世界”から逆走してきた海賊がいない?」

 ふと思い立ち、出入り口まで見送ってくれたリブロに尋ねる。もし目撃情報があれば、一先ずこの駐屯所(ちゅうとんじょ)の責任者であるリブロに話が通る筈だ。

「“新世界”から?…いや、今のところそんな話は聞いてないが…。」

「そう……。」

 ターニャが落胆の溜息を()いた時、()()知らせは届いた。

「リブロ大佐!見た事の無い旗印の船が、急に海中から現れました!!」

「!海中からだと?」

「はい!それが、コーティングに失敗した訳でも無いようで、意図的に浮上したとしか…。」

「場所は?」

「っは?」

 急に会話に割り込んできたターニャに、海兵が一瞬呆気に取られる。リブロはターニャのその反応で何かを悟ったらしく、部下を促した。

「良いから。場所は?」

「は…、はっ!!!場所は54番GR(グローブ)付近!!!シャボンディ諸島を離れ沖に向かっているようです!!旗印は髑髏が3つ並んでいます!!!!」

「!」

 髑髏が3つ並んだ旗印、その言葉にターニャの遠い記憶が刺激される。

 “黒ひげ海賊団”のものに間違い無かった。

「ドゥーイ!行くよ!!」

「ガウッ!!!」

 ターニャの言葉に、心得たようにドゥーイがその身を1度ブルリと震わせる。

 メキッ…!メキメキッ……!!!」

 そして、その体が徐々にその体積を増し、大きく膨れ上がった。

「ガォオオオオッ!!!!」

 元の猫程の大きさかおよそ7~8倍、普通の虎のおよそ2倍近くまで巨大化したドゥーイが雄叫びを上げる。

 ドゥーイは“超人(パラミシア)系”ラジラジの実を食べた、“大きさ自在”(とら)。小さくなる事は出来ないが、自身の100倍までの大きさなら自在に巨大化する事が出来る。

 その背中にターニャがひらりと飛び乗った事を確認し、ドゥーイは猛然(もうぜん)と走り出した。目指すは54番GR(グローブ)

 人では到底出す事の出来ない、4つ足の獣ならではのスピード。みるみるうちに周囲の景色は流れ、54番GR(グローブ)に辿り着く。

 ザリッ……!

「っ!あれか……!!!」

 到着まで、時間にしておよそ5分弱。驚異的な速さだったが、その間に目的の船は徐々に沖へと進んでいた。しかし、風は向かい風であり、思ったようなスピードは出ていなかった為、まだ手の打ちようはあった。

「っ逃がすか…!」

 ターニャ自身の船は20番GR(グローブ)付近に隠してあり、今から取りに戻っている時間は無い。咄嗟にターニャが飾りベルトに仕込んでいた長針を取り出し、“黒ひげ”の船へと投げ付ける。

 ヒュンッ……!

 カッ……!

 手裏剣(しゅりけん)術も大きく括れば剣術の1つ。狙いは(たが)わず、その(いかだ)のような丸太船へと突き刺さった。

「良しっ……!」

「グルル…?」

 不思議そうにターニャを見詰めるドゥーイを優しく撫でながら、ターニャが笑みを作る。

「大丈夫だよ、ドゥーイ。これで逃がさない…。」

 物騒な笑みを浮かべながら、ターニャがパンツのポケットを探る。

 取り出したのは、2cm四方の小さな白い紙。“Tanya”と中心にサインされたそれは、ターニャ自身のビブルカードだった。

 先程打ち込んだ長針には、矢羽のように細工したターニャのビブルカードの一部が付けられている。ビブルカードは、欠片同士が引き合う性質を持っている。その特徴を使って相手の居場所を探索する事が出来るのだ。

 以前祖父から教えられた、一部の海軍将校も使用している、海賊を追跡する為の手段である。

 1度仕込めば、相手が仕掛けに気付くまでもう見失う事は無い。

 くつり、と狂暴な笑みを浮かべたままターニャが(ささや)く。

「行こう、ドゥーイ。“狩り”の始まりだ……!」

 

 




用語解説
姫夜叉…ターニャの2つ名。由来についてはおいおい…。

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