1
あーあ。死んだ。
とーとー死んだ。
あんなに銃弾ぶち込まなくてもいいだろ。
なんだよ、僕のことをそんなに恨んでたのかよ。確かに誤って君達の姉妹を殺したのは悪いと思ってる。罪悪感で胸がいっぱいだ。でも、故意にやったわけじゃないんだ。僕の意思でやったわけじゃないんだよ。そこだけは分かってほしい。分かってほしいんだよ。
だからあんまり虐めないでおくれ。いくらでも罪は償うから。お願いだ。
まだ……死にたくないんだ。
毎日の日常には飽き飽きしていた。刺激的な非日常を求めてた。それは本当だ。でも……こんな。人の生き死にが関わる非日常なんていらないよ……。もっと……こう、『どこにでもいる平凡な高校生』みたいな。ラノベの主人公みたいな。可愛い女の子に囲まれながら学園生活を送る、みたいな。そういうのが欲しかった。
こんなんじゃ……なかったんだ。
2
八月二十日、夜。
とある病院、特別室。
「また凄い状態でもってきたねぇ……」
「アンタなら治してくれると信じていたよ」
厳重なロックがかかったその部屋には、ベッドに横になる包帯グルグル男と、瞳の色以外全てが真っ白な少女と、カエルみたいな顔をした医者がいた。
「君が運んできた時には最早死んでいると言っても過言ではない状態だったよ。それにしても凄いね、彼は。回復力が人並み以上だ」
「当たり前だろ。『神様の力』が宿ってるんだ。そこらへんの人間と一緒にしてもらっては困る」
「『神様』ってのは凄いんだねぇ」
「もっと崇めろ」
突き刺すような冷たい声にカエル顔の医者はたじたじになる。
「にしても彼、面倒なことに巻き込まれたねぇ。その『神様の力』とかが宿る前はlevel0の何の変哲もないただの高校生だったのに。それが発現したタイミングで人を殺しちゃって、そしてさらに運が悪いことにそれが『妹達』だったとは……」
「あぁ。つくづく運の無い男だ。それでこの有様だ。笑えもしない」
エトロスは未だに表情を崩さないため、カエル顔の医者はどういった対応をすればいいのかイマイチ掴めない。
「君が学園都市に来てもう数ヶ月は経ったかい?」
「そうだな。もうそんなもんになる」
「早いものだね。まさかこんな短時間で探し物が見つかるとは。
「コイツの運が私にでも回ってきたのだろうか。それならこっちは万歳だ。なんせ私は得しかしていないからな」
「いい性格してるよ、君」
「褒め言葉として受け取っていいのか?」
「いいや、皮肉だよ」
とても静かな病室で、淡々とした会話が続く。
「どうするんだい、彼が起きたら?」
「どうする、とは?」
「全部話すのかい?
「あぁ。話すよ。でないと納得いかないだろうからな」
「……話して彼のためになるのかい?」
「……?」
「彼がそれを知って、得することがないんじゃないかな。少なくとも、自身が襲われた理由は分かるだろう。だが、幼なじみにはクローンがたくさんいて、そのクローンは今実験に使われている。そんな学園都市の『闇』を知って、彼は『表』の世界に帰ってこれるのだろうか」
「いや、もう遅いんだよ。『妹達』の存在を知り、一方通行とも関わった。遅いのだ。彼は学園都市の『闇』に触れたも同然。可哀想だよ。『最高の力』を手に入れるために、学園都市での『存在』を失ったんだからな」
一呼吸置いて、
「でも、これは好機なのだ。話をして、彼が
「君って子は……せっかく見つけた探し人をなんだと思ってるんだか……」
「彼のためを想ってなんだよ。彼はまだあの『絶対破壊の右手』を使いこなせていない。百パーセント使いこなせるようになってもらえないとこちらとしても困るんだ。そのためにも、やはり経験を積ませるのが一番と判断した」
「全ては君の目的のために、か」
カエル顔の医者は静かに眠る皐月の顔を見つめ、小さく呟く。
「……ほんと、最高についてないよ、君」
「
ここで初めて、エトロスは少しだけ口角を上げた。
全ては自身の目的のために。利用するものは利用し、つけ込める隙にはつけ込む。今では親しげなカエル顔の医者だが、彼とてこの白い少女の全ては知らない。いや、知っているのは彼女の約一割程度だろうか。彼女は謎に包まれたまま。瞳の色以外全てが白い彼女は、皐月の眠るベッドに腰をかけ、優しく彼の手を握った。
「早く目覚めてくれ。でないと、
ボソボソと皐月に語りかけるエトロス。その話の内容はカエル顔の医者にはよく分からなかった。
だが一つ言えるのは、
隣にいる少女から、全くと言っていいほど、
生気を感じなかった。