平和な地球旅行   作:荒無 時竜

2 / 4
課題の波にもまれています、時竜です
最近ルルブを購入しまして、新たに増えた資料を片手に少しづつプロット練りをしている最中でありますが、文章の書き方が昔と変わっていないかと少し心配もしています



晩餐の刻

今日もこの椅子の上で目を覚ます

最早見慣れた光景、驚くことも、ここはどこかと狼狽することもない

自分の星の夢を見ることも、日を追うごとに少なくなってきた

それは良いことなのだろうか?と考えもするが、変化があるという事は何かのきっかけにはなりえるだろう

もしかしたら、そんな言葉の先に続く文章を書くことが出来るかもしれない

新しい考え方が芽生えるかもしれない

今までを捨て去るという物悲しい側面を持つ行動……いや、実際に私自身が動いているわけでは無いから「衝動」というべきか?

ともあれ、ソレは確かに歓迎すべきものであると私は思った

何故かと問われれば簡単に答えを返そう、幸せであるからだ

この感情はきっと、幸福と呼ばれるものに分類されるであろうと考える。だから幸せなのだ

人の体を引き裂いて内臓を嬲り、四肢を捥いでダルマに変えた後細切りに細かくしていく事よりも

手足から少しずつ、何とも言えぬ奇怪な鱗をもった変死体へと姿を拗らせ、恐怖と絶望をその者だけでなく

周りで過ごしていた人間すべてに与える事よりも

この小さな小屋の中で、好きな本を手に取って椅子を揺らすことの方が

私にとっては確かに確かで有意義な事だった。

否、寧ろ前述したことは須らく無駄であったと豪語してもいいほどに、今のこの空間が好きなのだ

邪神と呼ばれ、崇め奉られた私がそのようなことを抜かすとはと、過去の私は悲嘆するだろう

いや、とぐろを巻き牙を立て、仮面の奥を憎悪と悲哀を搔き立てた得も言えぬような表情に変えて無かったことにしようとするかもしれない

ただ私はきっと臆することも、動じることもなく、その仮面の奥のむき出しの牙の内側へと

まるで呼吸をする際、冷たい空気がなだれ込むことを許容するように、カルボナーラを入れることが出来ると思っている

そしておそらく笑うのだ

道化師に転がされるのも時には必要であると。

ここまで考えて、私はやっと目を開けた

 

小さな机がそこにはある

その上には小さな文学書と黄白二色のランプが瞼が閉じる前と違わぬ位置に存在している

体の力は入れずに、ただ腕だけを動かして私はそっとその書物を手に取った

「風の掛け行くままに」と書かれた日本語の書物、惹かれるように私が古書店で購入したもので

あの空間の不可思議な香りがこの本からも微かに匂うのを私は読むときいつもどこかで楽しみにしている

層になった紙の側面にそっと指を這わせてから。私はぱらぱらと本を開いた

青年が放浪しながら、自分が何なのかを探すこの時代とは違った世界を現した物語

それは何となく自分に重なるようで、これもまた「変化」を促しているのかもしれない

何はともあれ、毎日少しずつこの本を読み進めるのが最近の日課となっていた

二ページ程、昨夜の続きを追いかけるように文字を眺め見てそれから本を閉じた

椅子に沈み込んだ上体を起こし、垂れ下がったローブを手繰り寄せてからそっと立ち上がる

さぁと空気を吸い込む

言葉を口にする、何気なしに

「今日の晩御飯何にしようか」

 

 

この星の日常というのは遥か彼方の恒星が此方の惑星に日を掛けた時に始まりを迎える

地球から何億何兆と離れた星にはいくつもの生命体が蠢いていた

王の名のもとに日々外敵を駆逐するための力が蓄えられ、家畜が育ち憎悪が練られる

心地の良い断末魔が、悲鳴が其処かしこから響き渡ることもあれば、悠然と振る舞われた酒に心を溶かし

響く笛の音に耳を澄ませて安息を取る日もある

この日常こそが我らの嗜好であり、王の意思でもある

それを享受し、共に過ごせる事こそが幸せである

そう信じていた

しかし

眼下の大衆が漏らす言葉はどれもこれもが「心配」と「嘆き」を含ませているものだった

あるものは「もうお帰りにならないのか」と、またある者は「不甲斐ないばかりに」と

かくいう私も、内心ではしっかりと王の御前に立っていられたらと、あの日の事をただただ思い出しては胸を締めていた

忌まわしき無貌の神の首を絞める力があれば、どれだけ嬉しかったことか

「また、嘆いているのかい。いつもいつも落ち込もうと努力するのは勝手で感心するが、今度ばかりは少々容認しかねるぞ?」

「勝手といいつつも制限をかけんとしてくる姿、矛盾が過ぎると思うのだが?」

「私とお前の仲だろう、世界広しと言えども分かち合うのは我ら以外にはそう居ないと見えるしな」

「その前に、王の御前に立つことのできる者……という所での差別化を図ってほしいものだな。ツァールよ」

そう言って振り向いた先、いつも見かける姿とは違う大型の人間を真似たかのような姿をしたツァールを目に映した

双子であるが故だろうか言わずとも意図は伝わってくる。

いや、考え方が似ているのだろう

お前、そう言いたい衝動を向こうが先に言葉で遮った

「ロイガー、君の個性は良くもあり悪くもある。

私たちは長い生を歩いていく中、悪い事もあろうが良いことがないわけでは無い。

そしてこれからを良くするために頑張るのだ。」

「煽りか?今度こそ私の勝利で幕を締めてやりたい気分だ」

「抜かせ、光年の歳月で引き分けしか訪れん事は等にわかっているだろうに」

そうだなと一言残してふらりとその場を立ち去った。

ツァールに言われたあの言葉はその昔にハスター様に言われた言葉だ

認めつつも自らの意見も言う御心深い一言に感銘を受けたことを昨日のことのように思い出す

そしてあの言葉こそ、ツァールとの唯一の相違であったりもする

自分がロイガーであることを刻んでくれた神だ、だから王なのだ

そんな王に対して、ツァールは自分の意思を私に示しにきた

人型、普段は肉塊の姿で触手を伸ばし気ままに過ごすツァールが姿かたちを変えて、はるばる私に物言いに来たのだ

わかるさ、双子だから

「王の元へ行こう……か」

それはあまりにも甘美な誘惑だった。

もうしばらくあのお姿を見ていない、地球という野蛮な星に移り荒事も立てていないとなれば

果たして無貌は罠にでも掛けたのだろうか

何度もよぎる不安を、一人懸命に抑え続けてきたのだ

それは配下のビヤーキを統治統括することは責務であるが故、たとえそれが王の為となろうとも

一時的な背徳になるかのようで、腰が引けていたからである

しかし、恐らく同じように考えていたであろう半身は決意を示した

少し羨ましく、同時に私が一緒に行かずしてどうするとも考えた

「ふふん、いいねぇ

美徳というのかね?こういった葛藤は」

咄嗟の声に冷や汗を流して振り返る

其処には何時ぞやと同じように潜り込んだ

「這い寄る混沌でございますよっと、先日は不躾ですいませんでしたねぇ」

奴だ、王を針にかけまるで釣りを楽しむかのようにしている黒幕だ

「謝るぐらいならば、星に返して頂きたいものですね。

そんなに奔放されてしまうと、こちらも迷惑なのですよ」

「おろろ、それは失敬失敬。

ともあれ、早く地球に向かった方がいいのではないですか?」

その言葉に思わず舌打ちをする

悲観する、悲嘆する、また頭の中に負の感情が込み上げて幾度の無い連鎖を繰り返す

あぁ、罠にはまってしまったのかと

王はだまし討ち取られたのかと

しかし、続く奴の言葉は違った

こちらが呆気にとられてしまうような、耳を疑うような言葉が続いた

それは

「今日はお鍋にするらしいですよ?

しかも良いお肉をセールで買えたとかで」

……

…………

は?

「は?」

「くふふ、いいですねその顔!

それが俗にいう『ぽかーん』って奴なのでしょう!

あぁ、良い。実にいい、最高の間抜け面だ」

目の前の邪神は馬鹿みたいな高笑いをする

石の砦に響く、耳が痛いほどの大きな笑い声だ

いやしかしそれはどうでも良い、奴が言った言葉を反芻してもう一度冷静になれ

鍋?

「鍋とは一体なんだ、新手の拷問か何かか?」

そう言葉にすると、邪神はたまらないといった表情で背中をみっともなく地べたへつけて転げまわる

ひぃひぃと言いながら腹を抱えて笑い転げた

相手が上の存在であろうと殺してしまいたくなるぐらいに、嫌というほどにバカにされていることが伝わってきた

一通り笑い転げた奴は上半身を起こして私に指をさす

「行けば分かりますよ、そして楽しんできたらいいんじゃないですか?

違った王の姿に落胆しなければいいですね」

既に足元は細長い奴の手の上であることを悟った

いいだろう、罠だろうといってやろうじゃないかと

混沌なるものを一瞥してから先刻ツァールと話した高台へと掛けた

其処にはすでにツァールの姿はなく、ただ一匹のビヤーキが

「ロイガー様」と呼び掛けてきただけだった

わかるとも、と一言掛けてその上にまたがる

一瞬のうちに周りは暗く輝く銀河へ、星間飛行へと塗りつぶされていった

少し遥か先、青と緑の惑星を目指して

 

 

 

「果てさて無貌な奴は伝言を届けてくれたのだろうか」

少し明るい部屋の中、大きな物置の中にしまってある木製のちゃぶ台と呼ばれるものを引き出しながら、そっとつぶやいた

買い物から帰るその道の途中、早めの夕飯を済ませたニャルに出くわした

よぉ黄衣となれなれしく近づいてきたあいつはおもむろに

「部下の事忘れないでやれよな?」と口にした

当然、忘れたことなどないと突っぱねると、なら夕飯に誘ってやれよと言い出して

最初は星の事は任せているから星から遠ざけるわけにはと断ったのだが、いやいやと立て続けにやいのやいの言われ

二人とも頑張ってるよ、ねぎらってあげなよと畳みかけられたらいつの間にか、伝言頼めるかい?と

いま考えるとやはりあいつはまくし立てるのが馬鹿みたいにうまいなぁと感じる

やはり流されてしまったし、あいつ私の星にしょっちゅう出没していると暗示してきやがった

よっぽどの自信家なのか、楽しいもの好きなのか

それとも罠なのか、結局何年付き合ってもなおわかる気がしない

寧ろ俺だけ一方的に理解されている気さえする

面倒な奴だと思いつつも、かせっとこんろなどと呼ばれるものに手をかけた

惚れ惚れするようなきれいな鍋をその上にのせて水を入れ火にかける

白滝、豆腐、ネギに……良い赤色をした牛肉

最近俗世に慣れすぎたのか、人肉を食おうと思わなくなってきている

いや違うな、一番顕著な変化がこれだろう

牛最高、てかこんなにうまいならもっといい生物見つけて牧畜した方がいいかもしれない

私の星、もっと改善案たくさんあるのでは?

具の詰まったタッパや袋を風の力で浮かせて、キッチンへと足を踏み入れる

野菜と白滝を先に切ってからザルへと投げ入れ、フライパンを火にかける

油をかるく注いでから、一口大に切った牛肉を投下。

私はこの焼いている時の音が好きで、お湯で茹で切れると分かっていてもつい焼いてしまう

じゅうぅという肉汁したたる音を聞きながらほんのり茶色味を帯びてきた辺りで火をとめた

余熱でまだ音を漏らすフライパンをよそ眼にし、コンロの方へと目をやると

かたかたと小さな音を立てつつ鍋が微かに揺れている、煮立ち始めている証拠だ

いいねぇなんて呟きつつ肉を一度皿に分けて野菜を炒めることにする。

家を出る前にスイッチを入れた炊飯器も、後五分と表示を変え甘辛い味を思い出して口を思わずぬぐった

遥かに優れた食文化だと何度だって思う、なんせこの私が思わずそそられてしまうほどに、魅了して止まないのだから

あぁ、ツァールとロイガーにも味合わせてやりたい、、来てくれるだろうか

一本大事に残しておいた蜂蜜酒も、惜しまず出そう決めたし試みとして「そーだ」なる飲み物も買ってきた

寧ろここまで準備してから一人で食べるのも寂しい

そう考えている内にある程度の調理過程が終了した、後はことこと弱火で火にかけていくだけだ

冷蔵庫から生卵を取り出して小さな器に割り出しかき混ぜる

黄色に多少の緑の刺繍が入った座布団へ腰を下ろしてちゃぶ台の前に向き直ると二つの座布団が目に飛び込んだ

誰も座っていないそれにに不思議と寂しさは感じなかった

その理由をすぐに理解することが出来たのは、やはり気にしすぎていたからだろう

始めは微かな音だ、それはやがて大きな音に変わる、些細なもの

しかしこの星では明らかに異質な音で、されど私には親しみがある

やがて玄関の前で大きく一唸りして、まるでさっきまでなっていたことが嘘だったかのように静けさが辺りに訪れた

玄関が、開く

ひとりでにではない、奥に確かに二つの影がある

私を呼ぶ声がする

久々に見る顔が、気配がそこにはあった

「「ハスター様」」

少し申し訳なさそうな入りにくそうな顔をしながらも、一番よく表れているのは嬉しそうな表情だ

過去の私は冷たい言葉を返したかもしれない、あるいは沈黙を守ったかもしれない

けれど、美味しい食文化は確かに私を良い方向へ変えた

「おうおう来たか

鍋も丁度煮えたし、一緒に食べよう」

今この全世界を、混沌と憎悪ではなく素晴らしき食文化で染め上げたいと思った 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。