銀河紙メンタル伝説 作:七色プリズム
これ、がどんなきっかけで身に宿るようになったのか自分でも経緯は知らない。
しかしこの能力がどんなものなのかは理解していた。
十二の試練(ゴッド・ハンド)
ランク:B
由来:ヘラクレスの十二の偉業。生前の偉業で得た祝福であり呪い。Bランク以下の攻撃を無効化し、蘇生を重ね掛けすることで代替生命を十一個保有している。更に既知のダメージに対して耐性を持たせる効果があり、一度受けた攻撃に対してよりダメージを減少させる。
更にこれだ。
筋力:A+
耐久:A
敏捷:A
幸運:B
いったい何の因果かなのだろうか、私の身にはヘラクレスの祝福が宿っているのだった。
訳が分からない。
幼い頃から不可思議な現象は起こっていた。
例えば、幼児ながらに大人と同レベルの運動が出来るとか。
例えば、想定以上の力が出せるとか。
だがその程度のことがいったいなんだと言うのだろうか?
この世界の暦は宇宙歴。
銀河帝国と自由惑星同盟が150年もの戦争をし続ける世界。
1度の戦いで数多の生命が消えていく、数の戦いの世界。
かつて私が読んだこの世界の名を『銀河英雄伝説』という――――。
私の名前はマリアエレナ・メルクーリ。
自由惑星同盟軍人少尉ニック・メルクーリを父に持ち、ホテルのウェイトレスをしているアリス・メルクーリを母に持つ、現代では珍しい父母の揃った家庭で生まれ育った。
勿論、父方と母方の親は戦死しているため三世代揃って、という希少なケースにはなっていない。
母はホテルのウェイトレスをしているだけあって笑顔が素敵で、まあ、贔屓によるバイアスが掛かっているかもしれないのだけれど、美人だと思う。
褐色のウェーブがかかった髪は母から受け継いでいる。
父は軍人なのであまり帰ってこない――実を言うと、僻地の任務でハイネセン以外の星に行っているらしいのだが、その星の名前を単に私が覚えていないだけである。
決して私の頭の出来が悪いわけではないと主張はしておこう。
年に数えるほどにしか逢えないが、真面目な性格で子供の私によくお土産をくれる。特に甘いお菓子を。
幼い時から2人は私の事をしっかりと育ててくれ、また、特に母は美味しいご飯を作ってくれた。
とても感謝している。
また、私の異常な身体能力が周りに知られ始めて私が疎外感を感じている時にしっかりと話を聞いてくれたのは、度量の大きさを表していると思う。
そんな両親と諍いが起きたのは進学の希望を伝えた時だった。
「軍戦科学校に行きたいだと!」
ダン、と拳をテーブルに打ち付けニックは吼えた。
自由惑星同盟では女子の兵役はなく、それ故女性軍人は数少ないのだった。
女性軍人になった人間の殆どが経済的な理由での任官であり、一般的な女性は民間の職につくことが当たり前であった。
「マリー、何故軍戦科学校に行きたいの?
ママとパパに何の説明もなくただ行きたい、と言うなんていうのは絶対に駄目よ」
「パパ、ママ。
お願い、私の話を聞いてください」
「ああそうだな、聞くだけ聞いてみようか」
「パパ、ママ。
私の身体能力がとても優れているのは知っているよね?」
「そうだな……」
マリアエレナの身体能力は年々成長しており、その可憐な外見とは裏腹に青年軍人を軽々と上回るようになっていた。
最近は力の制御が出来るようになり、程々の身体記録に偽装することが可能となっている。
それでもトップクラスの身体能力であるが。
「それでね、学校の先生からこの能力を活かせるような進学がいいんじゃないのかって言われたの。
本当は私も軍戦科学校に行きたい訳じゃないの。
本当は、学校の体育の先生になりたかったのよ」
「なればいいじゃないか」
「学校の体育の先生ならママも応援するわよ」
「でもね……」
マリアエレナは苦虫を潰したような表情になった。
「また教育のお金が削られるらしくて、私が教員免許を取る頃にはもう就職先がないだろうって……」
「あー……」
「そうだったの……」
自由惑星同盟は慢性的な銀河帝国との戦争によって人員の減少や経済の弱体化が進んでおり、
増税と出費の削除が行われることが少なくなかった。
そして真っ先に出費の削除が行われるのは社会福祉に関することである。
声をあげる者は存在するが、社会福祉は弱者の為の制度であって、
声の大きい強者に打ち消されるのが当然の宿命であった。
「だからね、私、こう思ったの。
――私がやりたいのは体育を教えたいのであって、子供に教えたいんじゃないわ。
だったら軍人を体育を教える立場になってもいいかなあ、って」
「なる、ほど…。
分からなくはないがしかし、うーん……」
国防の為の金額は増加しつつある。
そのお金は何処に注ぎ込まれる事になるのか?
答えは人間と道具である。
国家の人員が減少している現在は、国力の勝る銀河帝国に勝つべく人材の育成に力を入れている。
つまり、人材の育成にかけられるお金は他の分野に比べると多いのだ。
子供に体育を教えるのか、軍人に体育を教えるのか、
どちらが易しそうなのかは後者に軍配が挙がる事になる。
「でもいくら体育を教えたいと言っても軍戦科学校に行くという事は、軍人になるということよ。
ママはマリーがこの世から消えてしまうなんて事は嫌だわ」
「うん。だからね、陸戦部門の軍戦科学校で上位層にくい込んでみせる。
そうすれば単なる一兵卒じゃなくて、少なくても精鋭部隊の新人になれる。
そしたら先生になれる道が拓けてくると思わない?」
銀河帝国との戦闘で最も必要とされているのは宇宙艦隊である。
何故ならば制宙権が無ければ上陸作戦は不可能だからである。
陸戦部隊はたしかに必要ではあるものの、銀河帝国との戦闘というよりもむしろ治安維持の役割の方が大きい。
そのため、陸戦部隊精鋭となると活躍の場が逆に少なくなってくるというのが現状であった。
「マリー、お前は知らないかもしれないが、陸戦部隊の精鋭は男しかいないんだぞ。
私は何よりもそこが心配なんだ。
お前はこの歳になるまで浮いた話の1つもない子だ。
悪い男に捕まったらどうするんだ」
「パパ……。
私だって浮いた話の1つくらいはあるのよ。
隣の席の子とか」
「それで、それはボーイフレンドなのか?」
「ボーイ、フレンドよ。他にもガールフレンドとか数える程度には居るわ」
「お前って奴は、お前って奴は……」
ニックはあまりの愛娘の恋愛事情の拙さと薄さに天を仰いだ。
普通なら恋人の1人や2人、既に経験しても可笑しくない年齢なのである。
「あなた、話が逸れているわよ」
「ああそうだったな……」
「パパとママは結局認めてくれるの?」
「私は今の話を聞いて賛成することにした。
お前は男が沢山いる環境にでも放り込まないと、結婚出来なさそうだからな」
「私もそう思います」
マリアエレナは喜ぶべきか悩んだ。
志望理由よりもむしろ自分の恋愛事情に重心のおかれた決定だからである。
兎も角、マリアエレナはこのような理由で陸戦部門の軍専科学校への進学をすることとなった。