銀河紙メンタル伝説 作:七色プリズム
宇宙歴797年9月21日。
マリアエレナ・メルクーリ伍長はイゼルローン要塞の憲兵、所謂MP (military police)として就任した。
マリアエレナは精神科から退院したばかりという事で、希望部署への異動を多少の配慮をしてもらえた。
マリアエレナの能力は白兵戦において図抜けたものであり、
ここで退職されるよりは少しばかりの融通を利かせて職務に準じてもらいたい、という意図があった。
このような理由で、マリアエレナは両親が殺されたハイネセンから遠く離れた、
イゼルローン回廊はイゼルローン要塞へ移動することとなった。
「よう、ユリアン!」
「こんにちは、ポプラン少佐」
ユリアン・ミンツに珍しく声をかけてきたのはオリビエ・ポプランであった。
珍しく、というのはユリアンとポプランの仲が悪いという事ではなく、
ポプランが自主的に男に対して声をかける事が珍しいということである。
ユリアンは笑いながら返答する。
「珍しいですね。
ポプラン少佐が、わ、ざ、わ、ざ、僕に話しかけてくるなんて」
「おいおいユリアン。
そんなに俺が色男過ぎるって皮肉るなよ」
「はいはい」
ポプランがユリアンに上機嫌で話しかける時、高確率で美女と悪巧みが絡んでいる。
今回もその中の確率に入っていた。
「どうやら新しく赴任してきた美しい女がこの僻地の要塞に来たらしい。
ここはひとつ、お前さんの男ぶりを上げるためにこのオリビエ・ポプランが女への声のかけ方の指南をしてやろうじゃないか」
「ああ、僕はそういうのはまだいいですよ」
「馬鹿を言うんじゃない。
俺の弟子として恥ずかしくないように特訓しろと言ってるんだ」
ユリアンがポプランの弟子なのはスパルタニアンの戦いにおいてであって、断じてナンパのやり方ではない――。
しかし、ユリアンはポプランの事が嫌いではない。
むしろ好きである。
丁度手持ち無沙汰であったことも関係し、ポプランの用事に付き合う事にした。
「そこで何をしている。
その女性から手を離しなさい。
さもなくば私がMPとして治安維持の仕事の内容を、貴方の身体に物理的に叩き込みます」
マリアエレナはパトロール中に路地裏で女に乱暴しようとしている男を発見した。
男は軍人であるのか女の関節を極めており、女に抵抗をさせないようにしていた。
女は恐怖に顔を引き攣らせ、涙を流している。
婦女暴行の立派な現行犯であることには間違いなかった。
声をかけられたことに男は身体をびくつかせたが、声の出元が華奢な女であると認識すると嘲笑した。
「ふん、お嬢ちゃんが俺の身体にどう教えてくれるって?」
この男の不幸は、マリアエレナの能力を知らなかったことである。
マリアエレナの能力を知っているものは、軍専科学校の同期と教官、前上司と前同僚、そして両親と病院関係者だけであった。
つまり、イゼルローン要塞にマリアエレナの能力を知る者はマリアエレナの書類を読んだ者だけである。
「3つ数える間に投降しなさい」
「するわけないだろ」
「3」
「2」
「1」
「――――拘束する」
ごおん、という異音が路地裏から聞こえたのはポプランのナンパが不発に終わった後であった。
明らかな騒乱の気配に、お祭り騒ぎが好きなポプランの精神は高揚した。
「ユリアン、行くぞ」
「はいっ!」
ポプランの陸戦能力は、ワルキューレによる戦功に比べれば微々たるものではあるが、それでも上から数えた方が早いのである。
ユリアンの陸戦能力も、ローゼンリッター隊長ワルター・フォン・シェーンコップに師事しているだけあって、優れたものである。
異変が起きた時にその騒ぎの中に飛び込んでいっても、身体能力に関しては不安の少ない人選である。
そしてポプランとユリアンが見つけたものとは。
「大丈夫でしたか?さぞ怖かったでしょう」
「いえ…ありがとう、ございます……」
「この人の骨、1本くらい折っておきます?
今なら正当防衛ききますよ」
「いや、いいです……」
倒れた男と涙を流している女、そして女を慰めている女軍人であった。
恐らく女軍人が婦女暴行に及んでいた男を倒したのだろうという予測が容易くつく光景であった。
ひゅう、と口笛を鳴らす。
「何者っ……お、お疲れ様です!少佐!」
マリアエレナは新たな不審者に過敏になったが、相手が少佐の階級章を付けている軍人だと分かると、慌てて敬礼した。
「いや、俺への敬礼はいいからそこの女性を保護してやってくれ。
俺のような青年が慰めるよりは女性同士の方がいいだろう?」
パチリと女性陣に向かってウインクを投げかけたのは、やはりポプランの女好きがそうさせたのであろうことはユリアンにとって明白であった。
女性陣からのポプランへの好感度は、不審者から良い人へと上がった。
「では、とりあえず貴方の洋服を…あっ、破れてる……。
とりあえず私の上着を羽織っておいてください」
「ありがとうございます」
「事情聴取を行いたいんですけど、1回自宅に帰ります?それともこのままMPの事務所に…」
マリアエレナはその身体能力が人外のものであると正しく認識している。
その為、対人戦においては基本的に手加減をしている。
犯罪者を全員この世から消してはいけないのがMPの仕事である。
故に、婦女暴行を働いた男に対して適切な力が振るい方が甘く、
気絶していた男の意識の回復が早かったのである。
「――はあああああっ!!」
男はマリアエレナの背後から飛びかかろうとした。
「危ないっ!」
「後ろ――!」
マリアエレナは後ろへ振り向きながらしゃがみこんだ。
そして拳を地面に叩きつける。
通常ならば手の骨が折れるだけの作業。
しかしマリアエレナの身体能力は地面の硬度を上回り、見事に粉砕した。
まさか足元が破壊されるとは思わなかった男は、身体の体勢を崩した。
体勢の崩れた人間の相手程、対人戦において楽な戦いはない。
マリアエレナは出来るだけ手心を加えながら男の胴を爪先で蹴り上げた。
そして宙に舞いながら回し蹴りを叩き込む。
男は壁に身体をしたたかに打ち付けて沈黙した。
「被害はないですか?
ああ、ちょっと砂がついちゃってますね……」
マリアエレナが真っ先に心配したのは被害者の女であった。
マリアエレナの言う通り、確かに砂が洋服にかかっていたがたいした量でもない。
「ありがとうございます。
その、お強いんですね……」
「ええ、軍人ですから!」
ポプランとユリアンは同じ事を思った。
軍人というだけでこんなに強い訳がないだろう、と。
マリアエレナは女性を安心させようとしてこのような冗談を言ったのだが洒落になっておらず、後に某高級士官達から「下手な冗談は止めてくれ」と言われることとなる。
続けて鬱展開が続いたので、自分の精神のためにギャグ回を書きました。
イゼルローン日記好きなのでイゼルローン要塞編続きます。多分。