ソードアート・オンライン ~塾講師の剣~   作:バヌケソ

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前話の内容、少し変えてます。


第7話

 「うっわ・・・」

 

 転移が完了して視界が開けた瞬間、無意識にそんな声が漏れた。

 人、人、人。見渡す限りだらけ。少し前の《ホルンカ》を遥かに凌いでいる。

 第2層主街区《ウルバス》は、やっぱり多くのプレイヤーでごった返していたのだ。

 武器防具をバッチリ装備した前線プレイヤー、《はじまりの街》を初めて出た思われる初期装備のプレイヤー、更には露店を広げるプレイヤーまで、幅広い人種が入り乱れている。

 テンションも一様に高く、まるで町全体がお祭り騒ぎだ。

 

 帰りたい・・・やっぱ来なきゃよかった・・・。

 心の中でそう呟かずにいられなかった。

 

 ここが混んでいる事くらい、俺は簡単に予想できていた。

 1層クリアの知らせが『はじまりの街』を駆け巡ったのはたった一時間前なのだから。

 ここ2層はまだ開放されたばかりであり、そんな注目の場所に人が押し寄せない訳が無い。

 だから来るのはせめて、三日くらい経ってほとぼりが冷め始める頃にしたかったんだ。

 したかったんだが・・・

 

 「おっしゃー、2層来たぞ~!!」

 「あれ、かっこいい」

 「ちょっと、恥ずかしいから大きな声上げないで!マコも勝手にフラフラしちゃダメでしょ!」

 

 周囲の目を気にせず拳を突き上げて叫ぶカズ、屋台の武器屋にフラフラと引き寄せられていくマコ、そんな2人をどやすエリ。

 

 コイツらが行くと聞かなかったのだ・・・。

 

 1層クリアの知らせを聞いてからの3人の興奮たるや、凄まじいものがあった。

 当然2層に行きたいと言い出し、『今行っても込んでるから何もできない、それより人が減る1層で楽しもう』と説得してみたものの完全に焼け石に水であった。

 これが職場の塾の先輩なら、きっと上手に丸め込めていたに違いないのだが・・・。

 

 ただ今回は俺も一方的に生徒の言いなりになったわけではない。

 連れてくるにあたって一つの条件を呑ませることはできたのだ。

 

 「おい!約束通り、遊ぶのはやることやってからだからな!」

 「わーってるって先生、まずはアレ片付けんだろ?」

 

 * * * *

 

 「あんたたちのおかげで助かったわ!こいつは少ないけどお礼だよ!」

 

 『おかみさん』風NPCはそう言うと、にっこり笑いながら硬貨を差し出してきた。

 それを遠慮なく受け取ると、視界に『クエスト達成』のメッセージが浮かび、僅かな経験値が加算される。

 

 「ほら、お前らも」

 

 ストレージを開いて硬貨を放り込みながらそう促すと、生徒達も指定のアイテムを一人ずつおかみさんに渡していく。

 これで、今日三つ目のクエストもほぼ完了だ。

 生徒の手に次々に手渡される硬貨を見て口角を上げながら、俺はさっきと反対のことを心の中で呟いた。

 やっぱり来てよかったかも、と。

 

 2層に来たらまずはクエストに付き合う。

 それが生徒に呑ませた交換条件だ。

 

 ベータの時、各層のスタート地点である主街区には大抵おいしいお使いクエストが転がっていた。

 街中だけで片付けられて、その割に報酬が良かったりするものが数個は用意されていたのだ。

 ただ報酬額はあくまで初心者救済レベルであり、最前線の方々には見向きもされていなかったが。

 少なくとも万年低レベルの俺にとって貴重な金策手段だった。

 普段はほとんど1層に篭っていたが、各層のボスが倒されて主街区が開放されたときだけはそこに足を運び、クエスト探しに精を出したものだ。

 そんな経緯から、俺は各層主街区のお使いクエストの知識だけは他のテスターに劣らない。

 

 そして主街区に来るハメになった今日、どうせならと生徒も巻き込んで半分ヤケで受けてみたわけだが、これが中々当たりだった。

 各クエストとも、予想に反してベータからの変更点がほとんど無いのが大きく、そのおかげで混雑の中で3つも片付けることができた。

 しかも生徒一人一人にも受注させたので、報酬は4倍だ。

 後で回収すれば大金が一気に舞い込み、生活費を差っ引いても夢のブロンズソードに手が届く。

 生徒の稼ぎをピンはねすることに心が多少痛まなくもないが、生活費を負担してきているのだからこれくらいは許されよう、きっと。

 

 などと頭の中で悪い顔をしながらそろばんをはじいていた俺の意識を、か細い声が呼び戻した。

 

 「終わった」 

 

 気付けば、最後に並んでいたマコが、手のひらに硬貨を乗せて俺に見せてきていた。

 3人ともクエストを終えたようで、こちらを見ていた。

 

 「・・・先生、今ちょっとニヤついてたろ」

 

 カズがそんなことを言ってくる。

 ったくコイツは、いつもいらんところで鋭い。

 

 「ねえよ。それよりココ見て回りたいんだろ?クエストは今ので最後だからもういいぞ。6時に転移門集合な。外には絶対出るなよ」

 

 そこからの行動はみんな早かった。

 カズとマコは回れ右で即行で駆け出し、エリは俺に軽く会釈してから2人を追ってく。

 3人はクエストの最中も街に興味津々だった。

 何でそこまで・・・と思わなくも無かったが、考えてみればコイツらは『はじまりの街』以外の町村に入ったことが無い。

 ベータ時代に10以上の街に入っている俺とは感覚が違っていて当然といえば当然か。

    

 そんな事を考えているうちに、3人の背中は人混みに紛れて見えなくなった。

 その直後だった。脳裏にピリッとした感覚が駆け巡ったのは。

 3人をこのまま行かせてはいけない気がしたのだ。

 俺、何かやり忘れているような・・・何だ・・・?

 

 その直後、5時を知らせる鐘楼の音が街に鳴り響いた。

 俺は我に帰ると、それを思い出すのはひとまず後に回すことにした。

 そんなことより、今は1人で過ごせる貴重な時を楽しまなければならない。

 集合までの1時間は、生徒だけでなく俺にとっても自由時間なのだ。

 

 露店に立ち寄って安い飲み物を買った後、街の端っこにある小さな広場まで足を運ぶ。

 ベータの時はほとんど人っ気の無かったこんな場所ですら、今はそれなりに混んでいる。

 とはいえ転移門周辺の繁華街よりは遥かに少なく、ここなら多少は落ち着けそうだ。

 

 空いているベンチでもあれば更に最高なんだけどな~。

 などと天に訴えながらダメもとで広場を見渡すと―――あった。

 一脚だけ、3~4人が座れるところに右端に1人しか座っていないものがあるではないか。

 取られまいと急いで近付き、隣をよく確認せずベンチの左側にドカッと腰を下ろす。

 

 買ったばかりの飲み物を口に運ぶと、コーヒーによく似た味が味覚に広がった。 

 安物だけあって、そのおいしさはファーストフード店の100円のものと同程度。

 ベータの時は飲んでガッカリしたこれが、しかし今は不思議と美味しく感じる。

 ジョッキ生を一気飲みした人のように思わず『かーっ!』とやりたくなった。

 

 息を大きく吐きながら顔を上げると、夕日に染まる街並みが視界に入った。

 建物だけでなく、天然の外壁も燃え上がるような朱色に染められており、中々に壮観だ。

 この街に来てからずっと目に入っているはずの景色だが、肩の荷を降ろした状態では全然違うものに見えて、俺は思わず目を細めた。

 

 本当に久々に、心からリラックスできている気がする。

 少なくともデスゲーム開始以降ではこれが初めてだろう。

 狩りや授業のことを何も考えずに過ごせるってすばらしい。

 クエストで一儲けもできたし、何だかんだでこの街に来たのは正解だったようだ。

 今日ばっかりは生徒に感謝せねばなるまい。

 

 さて、残り時間はここに座ってゆっくりしよう。

 そう決め、残りのコーヒーを口に運ぼうとして上げた左手を、俺は半端な位置でピクッと止めた。

 視界の右端。本当に端の端で、何かが動いた気がしたのだ。

 隣に座っているプレイヤーが、顔をこちらに向けたような・・・てか、見られてる・・・?

 

 (なんだ?)

 

 そのまま右方向に視線を向けた直後、コーヒーを危うく落としそうになった。

 もしも口に含んだ後だったら、マンガのように盛大に噴出していたかもしれない。

 視界に映ったのが、思いっきり見覚えのあるプレイヤーだったからだ。

 全身に纏う、灰色のウールケープ。

 フードの奥で輝く、鈍色の瞳。

 2週間ほど前に出会ったレイピア使いの少女が、以前と同じ姿のままで同じベンチに座っていたのだ。

 俺が座っているのがベンチの左端。対して向こうは右端。

 1メートルほどの間を挟んで、こちらを横目でジッと見ているではないか。

 

 なんてこった・・・。

 このベンチに座るとき、隣に先客がいるのは分かっていたが、席の確保を優先するあまりそれが誰なのかは確認しなかった。

 まさか、最も会いたくない相手だったとは・・・

 

 そして、意外にも向こうから口を開いてきた。

 ただ、その言葉は友好には程遠いものであったが。

 

 「お邪魔だったかしら」

  

 「い、いやいや全然!その・・・生きてて良かったと思ってな」

 

 まずい、声が震えて、いかにもウソを言ったかのようになってしまった。

 一応、『生きててよかった』は半分以上は本音で言ったつもりなのに。

 あの時、低レベルかつ軽装備で森に入ろうとする彼女を、俺は止めることができなかった。

 その直後に死なれでもしていたら、他人事とはいえ一生の後悔になっていたかもしれない。

 まあ、『俺の責任にならずに済んだ』というドライな思考もかなり含まれてはいるが。

 

 それに対して向こうは何も言わず、こちらの目をジッと見つめてきた。

 まるで、俺の言葉の真偽を確かめるかのように。

 その視線は相変わらず刃物のように鋭い。

 思わず目を背けたくなるが、その瞬間にウソ扱いされてしまいそうなので、俺は必死に耐えながら視線を返し続けた。

 

 (あれ・・・?)

 

 ある事に気付いたのは、その時だった。

 

 ―――この子の目・・・なんか以前と・・・

 

 初対面時は、ある一瞬を除いて完全に失われていた瞳の輝き。

 それが今は・・・ほんの少しだけだが・・・。

  

 そこまで考えたところで、レイピア使いは唐突に口を開いた。

 

 「あなたもね」

 

 そう言うやいなや俺からプイと視線を外し、正面に向き直ったのだ。

 あなたも・・・?さっきの俺の言葉に対する返事だろうか?

 だとすれば、どう捉えるべきなのかやや迷う内容だ。

 あなたも死んでいなくて良かった、と言ってくれているのか?

 いや、まさかな・・・。

 

 やや煮え切らない気分のまま、俺も同じように正面に向き直った。

 中途半端な位置で止まっていた右手を口まで動かして飲み物を流し込む。

 苦味の効いた味が、気持ちを少し落ち着かせてくれた。

 

 とりあえず、この席からは離れることにしよう。

 話は一区切り付いたし、互いに視線も外している。席を立つなら今のうちだ。

 せっかく確保した休憩場所を手放すのは惜しいが、この子の隣では気が休まる気がしない。

 それに、推定年齢15歳前後であるこの子は俺の4人目の生徒になる可能性を持つ危険人物なので、一刻も早く離れたい。

 

 右をチラッと見やると、彼女はまだ正面を向いたままだ。

 チャンスとばかりに静かに立ち上がろうとした直前。

 こんなタイミングで、脳裏にある疑問が浮かんでしまった。

 

 この子は、一体何のためにここに座っていたのだろう。

 観光を楽んでるようは見えず、休憩目的とも思えない。

 今もベンチに座り、真正面を見据えているだけ・・・いや、そうではないようだ。

 よく見ると、この広場に誰かが入って来る度にそちらに視線を向けており、その度にフードが少し揺れている。

 これはもしや・・・

 

 「誰か探してるのか?」

 

 とっとと立ち去らずにそんな質問をしてしまった事を、俺はすぐに後悔することとなった。

 これが引き金となって、隣のレイピア使いが予想外の行動を連発し始めたからだ。

 

 彼女はまず、肩をピクンと震わせた。

 続けて、顔をバッとこちらに向けてきた。それもかなりの勢いで。

 そしてこちらをキッと睨みつつ、ドスの効いた声で即答した。

 違うわよ―――と。

 そしてガタッと立ち上がり、唖然とする俺を尻目にスタスタと立ち去ってしまったのだ。

 街とフィールドを繋ぐ門の方に向かって。

 その背中が人ごみの中に消えるまで、そう時間はかからなかった。

 

 「何なんだ・・・」

 

 たっぷり一分掛けて思考のスタン状態から回復した後、そんな呟きが口から出た。

 ベンチを確保したまま彼女から離れることができた点では、結果オーライと言えなくもない。

 だが、後味が悪すぎてとても喜べない。

 まるで俺がすごく悪いことをいったみたいではないか。

  

 それに、あの子が感情を見せたのは初めてだ。

 正面から見据えた両眼には、怒りと照れが入り混じっているように見えた。

 年相応の、『図星を突かれ、ムキになって否定している』かのような反応。

 ということは、自分で聞いておいて難だが、誰かを探していたのは本当だったのか。

 

 もしや、心許せるパートナーでも見付かったのだろうか。

 だとすれば、瞳に僅かな輝きが宿っていたのにも少し納得がいく。

 一体どんなやつが・・・気になる。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 今は貴重な休憩時間なんだ。

 心を休めないといけないんだ。

  

 自分にそう言い聞かせながら飲み物を口に運ぶも、容器が既に空になっていたことに気付く。

 もう一杯買うか・・・。

 一杯だけでも相当な贅沢なのにおかわりなんぞ未知の領域だが、今は飲みたい。

 何でもいいから水以上のものを飲んで、気分を新たにしたい。

 金だって、今日はいつもと違って4人分の稼ぎがあるから大丈夫だ。

 そんな事を思いながらメニューを開き、所持金を確認する。

 ほら、こんなにあ・・・

 

 「ん?」

 

 目をこすって、表示額をもう一度凝視する。

 やはり足りない。何度見ても、表示されるのは予想の4分の1程度。

 あれ・・・これだけ?4人で3つクリアしたの・・・に・・・・・・ 

 

 「あぁ!!!!」

 

 俺は大声を発しながら、勢い良く立ち上がっていた。

 周りから奇異な視線が飛んでくるが、構わず駆け出す。

 

 クエストの報酬を生徒から回収するの、完全に忘れてた!

 

 まずい、まず過ぎる。

 ここに来てからの生徒達は何かに取り憑かれたかのようにハイなテンションだ。

 そんな状態で金を持たせたまま街を回らせたらどうなってしまうか、想像に難しくない。

 間に合え・・・!無事であってくれ、俺のブロンズソード代!

 

 そう祈りながら街を駆け回るも、混雑した街での捜索は難航を極めた。

 

 メールで呼び出せばいいことに気付いたのは、かなり経ってからだった。

 

 その後、転移門に現れた生徒達は、所持金をバッチリ使い込んでいた。

 

 装備の更新及び強化、アイテムの購入、買い食いと、内容は様々であった。

 

 

 

 やっぱ来なきゃ良かった・・・

 

 その呟きは町の喧騒に掻き消された

 




主街区においしいお使いクエストがあるというのは勝手な設定です。
あと、ア○○さんが人を探しているのも勝手に想像しました。
原作でも、黒の人を少しは探していてもおかしくはないハズ・・・多分。
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