悪の大幹部の日常   作:特撮仮面

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あいつは大幹部!―2

あの、銀次にとって悪夢のような班決めから時は過ぎ、ついに宿泊研修の日となった。

 その間に様々なことが起こった。葉月に銀次が絡まれたり、葉月に銀次がインタビューされたり、銀次が葉月にベアハッグ極めてみたり。

 

 

 今、銀次たちはバスに乗り、一路山奥の宿泊施設に向かっていた。

 

 なんだかんだ言って、この宿泊研修を楽しみにしていた銀次の表情は――暗い。

 彼は出発前に戦闘員に言われたことを思い出していた。

 

「銀次さん。宿泊研修、気を付けてください」

「どういうことだ?」

 

 戦闘員曰く、これから銀次の行く宿泊施設のある町は、近頃新しくできたばかりの悪の組織と、新人の正義の味方が睨み合っている真っ最中らしく、少々面倒なことになっているらしい。

 具体的にいうなら、新入りにありがちな、力の及ぶ範囲を考えない戦いが続いているらしく、気を付けてほしい。

 そんな通達を受けてしまえば、どれだけ楽しみにしていてもため息が漏れると言うもの。ヤレヤレとため息を吐く彼を見て、隣に座る人物が声をかけてきた。

 

「甲山君、どうかした?」

「ん? ああいや。ちょっと思うところがあってな」

 

 声をかけてきたのは、このクラスのアイドル、ノゾミンこと、|雪原望(ゆきはらのぞみ)。容姿端麗、雪の名に恥じぬ白い肌と冷たい眼光が特徴的な少女。

 彼女の隣など、このクラスの男子から文句が飛んできそうなものだがそんなことはなく、むしろ心配するような視線が飛び交っていた。

 

「思うところって?」

「…車に酔わないか、とか?」

「…フフ、フフフ」

 

 笑いを堪える望を横目に、自分でもなに言ってんだろうかと苦笑してしまう銀次。しかし、楽しみにしていた宿泊研修がまさかこんな事になってしまうとは…。

 

「やっぱ不良って感じがしないね、甲山君は」

「…そうか? こんな髪の色してるし、それっぽいだろ」

「そんなこと言ってるのがね。不良ぶったところで格好良い訳じゃないよ?」

 

 周囲の、雪原さん何言ってんの!? と言わんばかりの視線など気にならないと言うように言葉を重ねる望に対し、無遠慮だな、と苦笑する。

 

「格好良いか悪いかじゃなくて、これが俺のスタイルなんでな。不良生活は楽しいぞ?」

「ごめんけど、私はまだ落ちぶれたくないんだ」

「落ちぶれるったぁ酷い言いようだな」

 

 この、雪原望と言う少女は怖いもの知らずなのかどうなのか。怖い不良である銀次を前にしても、表情一つ変えることなく、本当に普通に接してくる。

 雪、という名前は強ち間違いじゃないのかもしれないな…。こいつ、中々面白い。研修前と言うこともあり、上機嫌になる、のだが。

 

「ひゃっ!?」

「っと! 大丈夫か?」

「あ、え、あ、ああ」

 

 急なハンドル操作と急ブレーキによって通路に持っていかれそうになった望の身体を、銀次が確りと抱き締めて支える。

 銀次の胸の中で何とか状況を把握しようとする望。そんな彼女が見たのは、突然の出来事にざわめく車内で、一点を見つめて鋭い眼光を飛ばす冷静な銀次の姿。

 

 まるで、こうなることを、何よりこんなことになった原因を全て察しているかのような、どっしりとした雰囲気は、浮き足立つ周囲の雰囲気もあって一際異彩を放っていた。

 

「ん、抱き締めて悪かった。ちょっと急だったんでな」

「構わないよ。シートベルトをしていたとはいえ、助かったからね」

 

 自分達の体勢に気付いたのか、二人して照れ臭そうに笑いながら身を離す。その顔には先程の雰囲気はなく、あれは気のせいだったのだろうかと彼女は目をしばたかせる。

 望の行動に思わず首をかしげた銀次であったが、シートベルトをはずすと席から立ち上がった。

 

「ちょっ、どこへ行く気だい!?」

「あー、当たり屋紛いのことをしたらしい馬鹿を殴ってくる」

「え? って、ちょっと!?」

 

 望の制止や、バスの『…銀さん、頼むから派手にやらないでくださいよ? …俺らが苦労するんだからちょっと待って!?』運転手の制止を振り切り、席を立ち上がった銀次は扉を開けてもらい外へ出ていく。

 

 細かくは聞こえないが、すぐに言い争う声が聴こえてきた。何やら当たり屋らしき数名の男たちと銀次が言い争っているようだ。

 

「…めぇ! 俺たちを悪の組織【ブッチャーズ】と知ってのことか? ああ?」

「お山の大将気取るのが精々の、当たり屋やるような飯事戦闘員ごときが笑わせんな」

「この、クソガキィイイイ!!」

『うわっ!?』

 

 何かが炸裂するような鋭い音が響き渡り、生徒達が頭を抱える。

 

 が、喚き声と共に断続的に鋭い音が響いたかと思えば、今度は鈍い爆発音のような音が響き渡り、断末魔の悲鳴が響く。

 外では一体何が起こっているんだ? 誰もがそう思ったそのとき、バスの扉が開いて疲れたように首を回す銀次が戻ってきた。

 一体何が起こったのか、この不良が何をしていたのか。クラスメイトが愕然として彼を見つめる中、銀二はそんな視線なんて気にせずに元居た席に座り直す。

 

「…甲山君、今何やって来たんだい?」

「ん? そりゃアレだ。大人の話し合い」

 

 大人の話し合いって何だよ!? クラスメイト達の視線によるツッコミを受けつつ、銀次は鼻を鳴らしつつ、ボソリと呟いた。

 

「あんな奴等に、折角の楽しみを邪魔されてたまるかってんだ」

「え? 今なんて…」

 

 エンジン音にかき消された彼の呟きは、望には聞こえなかったらしく、だが何か言っていたことは分かるので彼にそれを訪ねようとする。

 

 が、そこに外に出ていた先生達が戻ってきて、ピーッという音と共に扉が閉まりバスが走り出す。

 

「ん? どうした」

「いや、何でもないよ」

 

 首をかしげる銀次に首を振る望。この不思議な不良が一体どういう人物なのか全く分からない。噂通りの人物かと思えば、教室や先程のような話せば楽しい普通の男子生徒と変わらない一面もある。

 この人はどんな人なのだろう? 改めて興味を惹かれる望に対し、銀次は窓の外を眺めながら大きなあくびを噛み殺すのであった。

 

 ちなみに、表情にこそ出ていないものの、銀次自身は早まった行動をしてしまったという自責の念と、バレてないかという焦りで内心冷や汗まみれになっていることは、誰も知るよしもないのであった。

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

「はーい、ここからは班別に行動してねー」

 

 その後、何事もなく宿泊施設に到着した銀次たちは引率の教員の指示に従って、現在自分達が割り当てられた部屋へと向かっているのであった。

 誰よりも先に割り当てられた部屋にたどり着いた銀次は、畳張りの部屋の隅に鞄を置くと、しおりを開いてこれからの予定を確認し始めた。

 

――これからは食堂で食事。その後学校の創立とかの話しと簡単な勉強会。…その後は自由時間? 消灯時間が十時だから、大体一時間ちょっと自由時間なのか…。

 

 勉強に不安はない。その為銀次が考えるのは自由時間のことなのだが…。暇潰しの道具は持ってきていないし、携帯は許可がなければ持ち込み不可だったため持ってきていない。

 どうやって時間を潰そうか…。そんなことを考えていると、部屋の扉が開き続々と同じ部屋に割り当てられた男子達が入ってくる。

 

「あ、甲山…」

 

 男子の一人が銀次に気づいて小さく呟く。

 

 …おい、いくら不良相手でも失礼じゃないか。そう思うものの、声に出すつもりもなく相手を一別するだけで彼は立ち上がり、部屋を出ていこうかと歩き出す。

 

「あ、甲山君!」

「んだよ」

「えっと、僕も一緒に行くから待ってくれないかな?」

 

 彼に話しかけたのは、彼と同じ班の|天川流星(てんかわりゅうせい)。優しく争い事の苦手な彼が自分に話し掛けてくるとは。意外な行動に驚く銀次に笑いかけると、彼は鞄をおいて銀次の前に出る。

 

「じゃあ、行こ」

「…ああ」

 

 何? 俺と同じ班になった奴等は、どうして進んでヤバい不良と呼ばれている俺と関わろうとするわけ? 班員とはいえ、コミュニケーションをとろうとはしないだろ普通、と内心いぶかしむ銀次に、流星は振り返らずに言う。

 

「不思議そうだね」

「…何がだ?」

「君と話そうとしていることが」

 

 読心術でも使えるのか? と思うが、そういえば鎧着てないと、俺表情に出て分かりやすいって言われるもんなぁ、と納得する。

 

「まあな。自慢じゃないが、病院送りの喧嘩番長らしいからな、俺は」

 

 そんなやつに良く話しかけられるよなと笑う銀次。

 そんな彼に流星も笑って答える。

 

「ほら、班決めの時自己紹介あったよね」

「ああ……葉月の野郎」

 

 班決めの際の突然のインタビューの後も、葉月は班員が自己紹介をするたびに、いることいらないことペラペラとしゃべり、また、改めて銀次が自己紹介をした際にも、数多の質問をマシンガンのように彼に向かって投げ掛けていたのだ。

 しかも、銀次が自分のことを隠しながら話すのに気づけば彼女の言葉に乗ってしまい、身長や体重、果ては現住所と家族構成まで話してしまったのだ。

 この経験からか、銀次は少し葉月に苦手意識をもっており、今も少し思い出して苦虫を噛んだように表情を歪めていた。

 

「葉月を嫌わないでくれないかな? 凄く優しい女の子――」

「んなこたぁ分かってるよ。本人は隠してたみたいだが、バレバレだ」

 

 皆川葉月の印象は、細々色々聞いてくる無遠慮な女。だが、少し苦手に思いこそすれ、根本的に彼女のことを嫌いになれないのはそこだ。

 初めて話した班決めの時、彼女は少し身体を震わせていた。声だって良く聞けば震えていたし、銀次が発言するたびにビクビクしていたのも覚えている。

 学校一の不良と一緒の班になった時点で怖くてたまらないだろうに、空気を変えるために態々自分から話しかけてきたのだ。

 それに、家族がいないと答えた時のうろたえっぷりとシュンとした反応といい、数日も関わっていれば彼女がただの迷惑女ではないということは嫌でもわかる。

 

「あまり話しかけられるのも困るが、話しかけられて悪い気はしねぇしな。とは言え、隙あらば個人情報を漁るのは止めてほしいもんだ」

「………」

「なんだよ?」

 

 立ち止まって唖然とした表情でこちらを見る流星の顔を見て、銀次も立ち止まり、何でそんな表情をしているのかと訝しげに彼を見る。

 

「え? あ、ああ。…良く見てるんだなって」

「何がだよ」

「いや、何でもないよ。ほら、急ごう」

 

 何を見ているというのか。流星の態度に首をかしげるものの、足を早める流星に、まあ細かいことは気にしないでおこうと首を振る。

 

 彼に合わせるようにして、銀次も足を早めるのであった。

 

 

 

※※

 

 

「あ、銀くんこっちですよー!」

 

 食堂にやって来た二人を――正確に言うなら一人を出迎えたのは、一人の少女のそんな声であった。

 食堂中の視線がこちらへ向くのを感じて大きくため息を吐いた銀次は、迷いの無い足取りで未だに声をあげる少女の方へと大股で歩いていき、

 

「いだだだだ!? 痛い!? 痛いよ銀次くん!?」

 

 流れるように少女の頭を鷲掴みにすると、そのまま持ち上げるようにして力を入れた。

 多少手加減しているとは言え、流石に痛かったのだろう。叫ぶ彼女に言う。

 

「そりゃそうだ。痛くしてるからな」

「そ、そう、じゃない!!」

 

 振りほどこうと暴れる少女に、これ以上は周りに迷惑をかけてしまうと考えて手を離す銀次。

 頭を解放された少女――葉月は、目尻に涙を溜めながら銀次を睨み付けた。

 

「なにするんですか!? 死ぬかと思いましたよ!?」

「騒ぐてめえが悪い。あれか? 宿泊研修だからテンション上がってんのか?」

 

 むぐっと顔を赤くして押し黙る葉月を見て、これ見よがしにため息をはく。

 

 やはりテンションが上がっていたらしい。だが、テンションが上がっていたとは言え、それで不良に声をかけようなんて良くするものだ。友達でもないだろうに…。

 しかし、とこっそりと周囲の様子をうかがう銀次。やはり今のやり取りが目立ってしまったらしく、表面的には元の喧騒に戻っているもののチラチラとこちらを伺う人は多い。

 

 とりあえず、目につく人を軽く睨み付けて席に座る。

 

「どうしたんですか?」

「…分かってて言ってるだろ、テメェ」

 

 ニヤニヤと笑う葉月の脇腹に、抉るような肘鉄を食らわせる。

 ゴフッと女性が出してはいけない声を出して崩れ落ちる葉月。それを見た班員が苦笑しながら銀次に声をかける。

 

「今のは葉月が悪いけど、やりすぎなんじゃないかな?」

「こんくらいのお仕置きくらい許せよ、雪原」

「そうもいかないよ。ボクが班長だからね」

 

 だからあまり酷いことは無しだよ? そう言って笑う望に、やれやれと肩を竦める。

 別に暴れる予定なんて欠片もないのだが、どうにもこの望という少女に言われてはいつものようになにか言い返す気にもなれず、とりあえず残りの班員が来るまで大人しく待つことにする銀次。

 

「お、不良もしっかり来てんな! しかも両手に花かー、良いねぇ」

「…うるせぇぞ、滝」

 

 からからと笑いながら彼の席の位置を茶化すのは、|滝謙一(たきけんいち)。茶髪と快活な笑顔が特徴的なクラスのムードメーカーのようなポジションに居る男子生徒だ。

 確かに彼の言う通り、両脇を葉月と望という二人の美少女で固めた銀次は、席の位置も相まってそう見えなくもない。

 睨み付ける銀次を笑って受け流しつつ、彼は銀次の正面に座る。

 

「…」

「如月も来たか」

 

 謙一の後ろから現れ、会釈して席につくのは艶のある黒髪で目元を覆う、|如月御幸(きさらぎみゆき)。

 銀次の班は、男子三人女子三人の六人班。これで全員と言うわけだ。

 

 こっそり周りを見て銀次は改めて思う。この班は人選がおかしいと。

 

 謙一も流星も、高等部一年男子のなかで五指に入るほど有名かつ人気な存在であり、女子の葉月も一年や取材を受けた人から人気がある。

 望に至っては、今年のミス鴻上を狙えるとすら言われている高等部トップクラスの美少女で、しかも文武両道、性格も良い。

 御幸も、実は彼女の家がとある有名な一家であったりする。本人も結構良い性格をしているという話もある。

 

 つまり、この班の人間は皆クラス全体、学年全体に影響を及ぼすことが出来るのだ。明らかに莉愛あたりが仕組んだとしか思えない。

 

「これで四班は全員揃ったね」

「そうだね。あとは、他の班が揃うのを待つだけかな?」

「早く食おうぜー。腹へったよ俺」

「謙一、君高校生なんだからそろそろそう言うの止めなよ」

 

 だらしなく椅子に身を預ける謙一に、行儀が悪いよと注意する望。

 その姿はお母さんそのもの。そこでふと気になったことがあり、銀次は葉月に声をかけた。

 

「なあ皆川。雪原と滝達って仲良いのか?」

「あ、銀くんは知らないんですね。ノゾミンと滝くん達は、中学からの友達ですよ?」

 

 あの人たちより遅いですが、私もですけど、と笑う葉月。なるほど、普段クラスで話している様子と、バスで話したときと比べて、明らかにあの三人の距離が近いと感じたのは、それが原因か。

 

 納得する銀次を見て、葉月がニヤリと笑う。

 

「もしかして、銀くんノゾミン狙ってるんですか?」

「何!? 甲山、望と付き合うなら俺を倒してからにしろ!」

「どうしてそうなる…。ちょっと興味があっただけだ」

 

 悪乗りする二人に溜め息を吐く銀次だが、ふと視線を感じてそちらを見る。

 そこに居たのは、ニヤニヤと口元を歪める班員達の姿。

 

「そっか、甲山くんはボクに興味があるのか。照れちゃうなー」

「…おい」

「甲山……面白いな」

「如月、久しぶりに言う言葉がそれか」

「そうか、望ちゃんにもついに春が来たんだね」

「おいこら天川。何目元拭ってんだ、殴るぞ」

 

 どうやら銀次をからかうことで満場一致しているらしい班員達を見て、こいつらは…と首を振る銀次。

 と、そこで生徒達の前に教師が現れ、日程と注意を始める。誰でもわかるような注意を二三回終えると、ようやく食事の時間だ。いただきますの声と共に、生徒達の声が戻ってくる。

 メニューは学校側から指定されたものを生徒が事前に選ぶと言うもの。さらに、学校行事のご飯は量が少ないのが定番だが、ここはご飯を含めて結構な量がある。銀次達、男子高校生と言う飢えた人種にとってはありがたいものだ。

 

「…ふぅ」

 

 他の班員が話ながら食べているなか、一人無心に付け合わせの漬物と米を頬張って内心ニコニコしていた銀次は、隣から聞こえてきた溜め息にどうしたのかとそちらを向いた。

 

「どうしたんだ、雪原。箸が進んでないぞ」

「いや、昔はこれくらいペロリと食べれてたんだけど、今はちょっと、ね」

 

 彼女の手元にあるのは豚カツ定食。カツが二枚、更にメンチカツが乗っかっており、その隣に山盛りのキャベツ。圧倒的なボリュームである。

 

「そんなんなら頼むなよ」

「それはそうだけど、ボク肉とか好きだからさ。つい」

 

 失敗したなー、と苦笑する望を見て、銀次は思案する。

 

 自分が頼んだのは天麩羅定食。今手をつけているのは、漬物とご飯、そして茄子の天麩羅。それ以外はまだ手をつけていない状態だ。

 

「貰うぞ」

「貰うって、あ!」

 

 食べ掛け含めてまだまだ沢山あるカツの乗った皿を望のトレーから取り上げると、代わりに天麩羅の皿を置いてやる銀次。

 ここで残すのは勿体無いし、天麩羅なら量は少ないから少しはマシだろう。そう考えての行動だった。

 

「ちょっと、甲山くん」

「あ? カツが食いたくなったんだよ。ほら、天麩羅やるからこれでチャラな」

 

 とは言え、強奪したも同然なので取り敢えず適当に言葉を並べると食べかけのカツに手をだし、もう返しませんとアピール。

 そんな彼を見て望はポカンとしていたが、くすりと笑うと、仕方ないなと食事に戻る。

 

「甲山君、いくらなんでも今のは…」

 

 流石に目に余ると感じたのだろう、注意しようとする天川だが、それよりも先に葉月と御幸が動いた。

 

「銀くん、これあげます」

「甲山……あげるわ」

「は? 好き嫌いすんなよお前ら」

 

 差し出されたのはキャベツと漬物。明らかに苦手だから最後まで残しておいたことが分かるラインナップだった。

 

 だから銀次は拒否したのだが、すると葉月が口を尖らせて言った。

 

「へぇ、やっぱりノゾミンには優しいんですねー」

「何だよ?」

「べっつにー」

 

 自分、不機嫌ですと言わんばかりにカツを頬張る葉月。ガキかこいつは、と表情を歪めるがいつまでもこうしていられるとうっとおしいし、何より飯が不味くなる。

 銀次は葉月の皿からキャベツを半分奪い、自分の皿に乗せる。そして彼女がなにか言う前にそれを食べ始める。

 

「あ、あの、銀くん?」

「全部は無理だが、半分なら手伝ってやる。…如月は我慢しろ。てか、それくらい食べろ」

 

 漬物と言ってもそれこそ小鉢ひとつ。我慢して食べろと言われて渋々と言った風に食べ始める御幸。

 これで落ち着いて食事が出来る、改めてキャベツの処理にとりかかる銀次。そんな銀次に葉月が慌てて声をかけた。

 

「あ、銀くん!」

「なんだ?」

「その、ありがとう、ね」

 

 はにかみながら放たれたお礼の言葉に思わず箸を止めるも、平静を装って、おう、なんて返事を返しながら再度食事に戻る、のだがそう簡単に話は進まない。

 

「んだよ、そこの男子二人。何か文句あんのか?」

「いやー、甲山はツンデレさんだなーってな。微笑ましい」

「ムグッ!?」

 

 予想外の言葉に食べていた米を詰まらせ、慌てて水を流し込む。

 こいつは一体何をいってんだ? 本気で理解できない銀次は、とりあえずニヤニヤ笑う謙一に噛みついてみる。

 

「な、何言ってんだテメェ!? 誰が何でツンデレだって?」

「わざわざ望のご飯取り替えてみたり、葉月の野菜も何だかんだ受け取ったし」

 

 確かに、自分の行動を客観的に見たらそう見えなくもないかもしれない。

 

「雪原のときはカツ食べたかったからだし、葉月のは、後々面倒臭いことを考えたら、先に妥協案出しといた方が良いと思ったからしただけだ」

「へー」

「それに、ツンデレだろうと何だろうと、普通は相手の許可貰ってこういうことするだろ。俺は自分がしたかったからしただけだ」

 

 どいつもこいつも、頭大丈夫かよまったく。心のなかでそう愚痴りながら彼は食事を再開する。

 これは同時に、これ以上は何があっても話さないと言う彼なりの自己主張であった。

 そんな彼の意思に気付いたのか、そこから先は誰も口を開かなずにただ食器の音がなるだけであったのだが、その空気はどこか浮わついており、少し頬を染めるもの、微笑ましそうに見るもの、ニヤニヤと笑うものと、皆少し変な表情で食事は続くのであった。

 

 

 その後、学年合同の勉強会で銀次が勉強が出来ることに皆が驚いたり、男子部屋で唐突に行われた性癖や好きな人暴露大会で、流星が意外と業の深い人物だとわかったりと、銀次にとって数日前とは比べ物にならないほど賑やかで、そして何だかんだで楽しい一日目となったのであった。

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