悪の大幹部の日常   作:特撮仮面

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あいつは大幹部!―3

「…あー、そうか。宿泊研修だっけか」

 

 いつものように目が覚めた銀次は、周囲から聞こえる鼾や寝息に、そう言えば宿泊研修だったと思い出した。

 

 腕時計を確認すれば、時間は午前五時。何時ものように起きてしまったと頭をかきつつ起きがると、他の生徒を起こさないように気を付けながら部屋を出る。

 この時間は教師も起きていないだろうし、職員も居ないこともあってか、施設の中はとても静かだ。

 

 出来るだけ足音を立てないように廊下を進んだ銀次は、玄関――は当然閉まっているので、表に出るのではなく、手近な窓の鍵を開けるとそのまま中庭へ出た。

 バレれば大変なことになるが、まあ教師が目を覚ますまでに部屋に戻れば良いだけのこと。

 

 中庭は結構広く、動き概がある。準備運動を入念に行うと、彼はゆっくりと動き出す。

 思い描くのは親父の背中。過去に何度も戦闘データを頭に叩き込み、何度も戦った仮想敵。目指すのは、あの正義の味方と最強と吟われた強化人間の姿。

 幾らか仮想敵に止めをさされ、やっぱ親父は強いなぁ、と少し顔がぼやけはじめている義理の父親のことを思い返す。

 

 親父が死んでから何年もたったが、俺はあの人に誉められるような幹部になれているだろうか? 朝の湿った冷たい空気に、少しセンチメンタルになる銀次。

 過去を思い出していても時間がもったいない。そう考えて再度動き出そうとしたところで感じる視線。教師部屋から誰かが出てきた気配はないし、何より教師なら先に声をかける。

 そうなれば、自然と視線の主は学生となるが、こんな時間に目が覚めているなんて中々健康的な生活をしているようだ。

 

「中々健康的な生活してんじゃねえか。…隠れても無駄だぞ」

「あ、あはは」

 

 開けっ放しにしていた窓から顔を覗かせたのは、女子生徒――望だ。

 

 人が見ているのに朝の練習なんてする気にはなれず、それに時計を見れば結構時間が経っていたので今日の練習はこれで終わりにしようと、望に窓枠から離れるように言って廊下へ戻る。

 

「おはようさん。何だ、凄い早いな」

「ちょっと興奮が冷めきれなかったのかな?」

 

 えへへ、と笑う望。その気持ちは分からなくもないので、銀次も少し口元を緩める。

 

 ふと視線を彼女の身体にずらす。

 

 寝巻きは各自自由であったため、銀次はTシャツに黒のジャージという出で立ちだったのだが、意外にも彼女もTシャツにジャージというラフな服装だった。

 指定じゃないのなら、女子は男子と違ってキチンとした寝巻きを持ってきていると思っていた銀次は意外そうな目で彼女を見る。

 

「どうかしたのかい?」

「いや、随分ラフな格好だなってな」

 

 もうちょっとちゃんとした格好をしてるもんだと思ってたと話す銀次に、皆こんなものだと笑う。

 

「甲山くんは女の子に夢持ちすぎだよ」

「そうなのか?」

「うん、皆こんな服装だよ。それに、こういうところだと恥ずかしいし」

 

 確かに、望の言う通りこういう場所には個人的なものを持ち込みたくはないかもしれない。彼女の言葉になるほどなと頷く。

 

「あ、もしかして変?」

 

 いくら皆に美人だのと言われたとしても、流石にこんなラフな服装では可笑しいかもしれない。それに、皆を起こさないようにこっそりと抜け出してきたから、髪もあまり整えていないのだ。

 もしかしたら少し言われるかもしれない、そんな彼女の内心には欠片も気づかず、彼は彼女の服装をもう一度見直して。

 

「…色々いじってる制服の時と比べりゃ、そりゃ変だけどな。でも、どこも可笑しくはないぞ? むしろ雪原もこういうのを着るって分かって好感覚えるくらいだ」

「へ、へぇ、そっか」

「それに、元が良いからかそう言うラフな格好も存外似合うのな。やっぱ見た目が良い奴は同じものでも着こなしとかのセンスが良いんだろうなぁ」

 

 予想もしなかったべた褒め具合に、思わず顔を伏せてしまう望。俺なんてなーと話を続けようとしていた銀次だが、彼女の様子に気づいて話を中断させる。

 

「お、おい、どうした? やっぱ不愉快だったか?」

「いや、違う違う。…その、そこまで褒められると思ってなくてね」

 

 彼の的はずれな言葉に首を振りながらも、彼女は少し視線をそらしながら言う。

 

「そうか? クラスのマドンナだかアイドルだかって騒いでる連中なら、これくらい褒めるだろ?」

「いや、皆ボクの顔とか身体とかに目を向けるからさ。着こなしとかあまり言われないんだよ。言われるとしても、なに着ても似合うね、とかだし」

 

 それに、下心が一切感じられないくらい素直に容姿や服装を誉められるなんて初めてだしと内心で呟く。

 

「ふーん、そりゃまた損してんなぁ」

「損って何が?」

「ほら、雪原って制服とかしっかりしてるように見えて、少しスカート短くしたり色々してるだろ? そう言う努力が見えれば、また変わってくるだろうにってな」

 

 班員になったとしても、班で集まるとき以外は窓の外を眺めていたり、毛頭教室に居ないことが多くクラスのことなんて全く気にしていない様子の銀次が、望がこっそりと行っていることに気づいている。

 

 その事実に望が驚いていると、何だよそんなに見て、と眉を寄せる。

 

「あ、いやその、意外だなって」

「あ? 何がだよ」

「ほら、甲山くんは他の人に興味なさそうなのに、ボクのこととかよく見てることがさ」

 

 良く見ている、そう言われて初めてそのことに気が付いたのか、銀次は大慌てでそれを否定する。

 

「ばっ、別にお前らを見てた訳じゃねえよ!」

「え? そうなのかい?」

「当たり前だろうが! …お前ら皆目立つせいで、視界に入ってくるだけだ。決して興味が湧いてたとか、そういうのじゃねえかんな。というかそんなこと考えるなんて自意識過剰すぎるぞ」

 

 そこまで全力で否定しなくても良いじゃないか。少し傷ついてしまう望。

 

 どうやらそれが表情に出てしまったらしく、銀次は目に見えて狼狽えた。

 

「あ、いや、でもほら、やっぱ見てたかもしんねぇ。お前ら見た目良いし、俺も男だから美人は見たくなるし。それにやっぱ班員だから少し気になってたし」

「……ふふ」

 

 先程と真逆のことを言っている銀次の狼狽っぷりに思わず笑いそうになる望。

 

 それを見て、とりあえずなんとかなったかとホッと胸を撫で下ろす銀次。いくら不良であることを良しとしているとは言え、流石にこんな下らないことで心象を悪くしたくなかったようだ。

 

「本当に面白いね、君は」

「そりゃどういう意味っ……と、そろそろお喋りも終わりだな」

 

 面白いとはどういう意味だと問いただそうとするも、教師の部屋から動く気配が複数。それに、生徒のなかにも目を覚まし始めているものもいるようだ。

 

 腕時計を見れば、すでに六時を過ぎ、起床時間も近くなっていた。

 

 このまま外にいては、ましてこの姿を誰かに見られるのは不味いな。そう考えると、即座に話を切り上げる銀次。

 

「どうかしたのかい?」

「そろそろ起床時間だし、お互い戻った方が良いだろ」

「…確かに。少し名残惜しいけど」

 

 このタイミングでそんなことを言うんじゃねえよと内心頭を抱える銀次。

 

 強化人間で悪の組織の大幹部をやっていたとしても、その実年頃の男子な訳であり、こんな寂しそうにされると少し揺らいでしまう。

 とは言え、そこはしっかりと自制を効かせる。

 

「まあ、そう言うな。また話せるんだしよ」

「ん、それもそうだね」

 

 銀次としても望と話すのは面白いので名残惜しいモノがあるのだが、だからと言ってこの現場を誰かに見られるのも問題だ。

 さて、それじゃあ部屋に戻るかと彼女に背を向けようとするも、ふと気になることがあったので振り返って自分の頭を抑えて見せる。

 

 彼の意図が理解できない望が首を傾げるのを見て、

 

「髪、跳ねてんぞ」

「本当!? …どう? 直った?」

「いや、直ってないが…ま、それも可愛くていいんじゃねえか?」

 

 それじゃあな、と言うだけ言って小走りに男子の部屋へと向かう銀次。そんな背中に小さな声で、馬鹿! という言葉が飛んでいくのであった。

 

 

 

 

※※※※※※※

 

 

 

 

 朝食を済ませて始まるのはオリエンテーリング。各班毎に指定の目印を見つけて、そこにある判子を集めるという、所謂スタンプラリーのようなものである。

 

 現在、各ルール説明が終わり、班毎に目的の目印目指して出発し始め、その中には銀次たちの班もあった。

 

「どこから回ろうかな?」

「あくまでこの敷地内の話なんだろ? じゃあ適当にそれっぽいところに行けば良いだろ」

「そうは言うけど、やっぱりやるからには誰よりも早く終わらせたいじゃないか」

「…雪原、これそう言う競技じゃねえから」

 

 何やら闘志を燃やす望を見て、ため息を吐きながら昔からの付き合いだという男二人に視線を向ける。

 健二はノリノリで「そうだ! その調子だぞ望ちゃん!」とか言っているのに対し、流星は困ったように笑いながらこちらを拝むようにする。

 なるほど、この望という少女は案外勝ち負けに拘るタイプなのか。新たに知った一面を意外に思いながら、戦闘をいく彼女についていく。

 

「銀くん、何で鞄持ってきてるの?」

「あ、それ俺も気になってたんだよ」

 

 葉月が銀次の背負う鞄に気づいてその中身を訪ねる。他の人が皆手ぶらなのに対して一人鞄を持っているのはとても目立つ。

 

「ああ、これか」

「…これにはファストエイドキットや別枠の包帯、消毒液などの入った救急箱、ナイフやハサミなどの工具が入っている」

「…如月、何でわかった?」

「…甲山は保健係だから」

 

 なるほど、保健係だからかー。

 

「って、そんなので納得しないですよ!?」

 

 葉月がツッコミを入れるものの、逆に銀次は首をかしげるだけだ。

 

「これから山に入るんだから、これくらいは用意しておいて損はないだろ? 何があるかわかんねぇんだし」

「ま、まあそれはそうですが…」

 

 蜂に刺されたり、蛇に噛まれたりしたときなどは如何に処置を迅速に行うかという話になる。つまり、ある程度の道具を用意したうえで、それ相応の知識を持ち得ていれば致死率を減らすことにつながる。

 確かに、そういえば聞こえはいいのだが、いくら保険係と言ってもやり過ぎ感は否めない。更に言うなら、彼がそう言う知識を持ち合わせているのかがとても不安であった。

 

 そんな皆の心配に気づいたのか、銀次は笑いながら言う。

 

「安心しろ。傷の手当から自給自足、果ては毒の処理までなんでもござれだ。これでも何度もそういうことをしたことがあるからな」

 

 お前は一体どんな生活をしているんだ!? 逆に不安になってくる班員たちであったが、銀次はそんな皆に気づかずに、ほら、さっさと行こうぜと急かす。

 先先進む彼の背中を眺め、班決めの自己紹介の時点で銀次のキャラが分からなくなっていた班員たちは皆、余計に甲山銀次という人物が分からなくなっていくのであった。

 

 

「ふぅ、これで四つ目か」

 

 その後の班のスタンプラリーの進行具合は順調なものであった。

 望が具体的な道筋を示し、それをポイントポイントで流星たちがサポートする。ある意味このオリエンテーリングの最大の目的を達成させている銀次たちの班は、着々とゴールに向かって歩みを進めるのであった。

 

「あ、きーちゃん達だ」

「葉月の知り合い?」

「うん。おーい、きーちゃーん」

 

 藪のそばで何やら固まっているグループを発見した銀次たち。

 それは葉月の知り合いの居る班らしく、様子のおかしいその班に葉月が駆け寄っていく。

 

 少し気になるので歩みを止めた銀次たちの元に、葉月が帰ってくる。

 どうやら、大幅に時間短縮しようと森の中をつっきろうとした結果、班員が出っ張った木の根に足をとられて転んでしまったらしい。しかも、その時に思いきり足を捻ったらしくこの場から動けないそうなのだ。

 

 各ポイントに教師が配置されているとは言え、皆慌てていて教師を呼ぶのも儘ならない。そんな状況であるらしい。

 先生を呼びに誰かを走らせた方がいいか、望はそう考えて流星や謙一に声をかけようとしてふと思い止まると、リュックから何かを取り出そうとしている銀次に声をかけた。

 

「ねえ、出来るなら処置――やる気満々だね」

「は? 馬鹿言うな。ここでなにもしなかったら少し気分が悪いだけだ」

 

 それに、宝の持ち腐れは勿体無いし。そう言っててきぱきと目的の物を取り出した銀次がきーちゃんの居る班へと歩いていく。

 

 おら、退け。彼の言葉に十戒の如く人が割れる。

 地面に座り込んでいるのは女子生徒。右足を投げ出していると言うことは、捻ったのは右足か。

 

 状態を確認すべく、相手の前にしゃがみこむ。

 

「おい」

「は、はひ!」

「捻ったのは右足か?」

「え? …は、はい。そうです」

 

 ちょっと触るぞ、と相手の右足を持ち上げると、そのまま靴と靴下を脱がせら足首に触れつつ足の平に手をおいて状態を診る。

 

「今は痛いか?」

「は、い。凄く」

 

 足首が砕けてる訳ではないし、骨が折れたり関節が完全に外れているというわけでもないようだ。

 つまりは捻挫。とは言え、根っこに引っ掻けた分ダメージは大きいらしいのに、更にこの場が山道ということもあり歩くことは難しいだろう。

 

 とりあえず足首に保冷パックを乗せ、それを包帯でしっかりと動かないように固定する。

 

「とりあえず、これで終わりだ。誰か先生は呼んでないのか?」

「あ…」

 

 教師を呼ぶと言う選択肢が、見事に頭から抜け落ちていたらしく、班員の男子が今思いついたというように声をあげる。まあ、仕方ない。冷静さを保つなんて中々出来ないし、それにここで会ったのも何かの縁だろう。

 

 銀次はゆっくりと右足を下ろすと、少女の隣に移動し背中に手を回す。

 

 一体何をするつもりなのか、困惑する周囲は無視して、俺の首に手を回せと指示。しっかりと手を組んだのを確認すると、膝の下に手を入れてーーそのまま持ち上げた。

 

「わ!?」

「すまん、こいつの靴と、あと俺の荷物を頼む」

 

 俗に言うお姫様だっこというやつだ。

 

 周囲はこの状況がまだ理解できていないらしく、は、はぁ、と気の抜けた返事をしながら少女の靴と彼の荷物を持つ。

 

「甲山くん、おんぶとかは出来なかったのかい?」

「立ち上がるのも儘ならないんなら、それする時間が無駄だろ? それに、抱え方なんざ皆同じ同じ」

 

 ああ、君ならそう言う気がしていたよ。バスと朝、数時間の付き合いで何となく甲山銀次と言う人物の性格を把握し始めた望は、仕方ないなと笑うと、きーちゃんの班の人に話をつけ、ここから近いスタンプの場所までついてきてもらうことにする。

 

 保冷パックをいつまでも付けるさせているわけにもいかないので、流星に銀次の付き添いを任せて先行してもらう。

 

「大胆だねぇ、銀くん。これは後でインタビューをしなきゃ」

「……甲山、高校デビューミスったから不良呼びされてるんじゃない? あれどう考えても只のシャバ僧よ」

「如月ちゃんナチュラルに酷い! それと無口じゃなくなってる!? …しかし、お姫様だっことは…くぅー、羨ましー」

 

 初日の恐怖はどこへやら。どうやら銀次たちの班の中で、良くも悪くも銀次への評価が変化し始めているようだ。

 

 果たして、この行動が彼の不良ライフにどう影響するのか、それはまだ誰も知らないのであった。

 

 

 

※※※※※※※

 

 

 

 運が良いのか、彼らが向かったスタンプの場所には堂上莉愛が控えていたため、特にトラブルなく問題は終了。簡単な状況説明などのお陰で、残念なことにスタンプラリーで一番早くゴールに辿り着くことは出来なかったものの、これはこれで良い結果であったと言えよう。

 銀次の診断通り少女の怪我は捻挫であり、それ以外は特に怪我もなく健康体のようだ。暫くは歩くのも大変だろうが、捻挫も放置しておけば大変なことになる。手助けできて良かった。

 

 さて、そんな銀次たちは現在自由時間。

 

 昼食は飯盒炊飯。カレーも班毎に作ると言うものであったが、家で家族の為に料理を作る御幸、元々料理が好きな望、そして自炊しており、こっそりマイ包丁、エプロン、三角巾を持参していた銀次、班の半分が料理の出来る人と言うこともあり、他の班と違ってしっかりとしたカレーが出来上がるのであった。

 とは言え、その最中には望と銀次による玉葱を微塵切りにするか、炒めるか、ご飯の水の分量はどうするかなどの争いが起こったり、御幸と銀次の間でジャガイモを投入するタイミングや、コーヒー牛乳を入れるか、ヨーグルトを入れるかと言った論争が起こったり、三人並んで調理する姿を葉月が冷やかしてアイアンクローを極められることがあったりした。

 さて、そんな彼らも自由時間になれば他の班員やクラスの友人と遊びに出るもので、銀次は一人ベンチに座り空を眺めていた。

 

「君、不良仲間とか居ないのかい?」

「しっ、駄目だよノゾミン! ボッチの人にボッチなんて言ったら怒られるよ?」

「おい葉月。ちょっと必殺技の練習に付き合えよ」

「私に死ねと申しますか!?」

 

 あんまりなことを言う二人に少しこめかみをぴくぴくと動かしながらそんなことを提案する銀次に、葉月が慌てて望を差し出すようにしてその後ろに隠れる。

 

「の、ノゾミンはどうなんですか!? この人だってボッチ言ってましたよ!?」

「少しはオブラートに包んであるから良いんだよ。それに、雪原の方が見た目良いし」

「顔か!? 世の中やっぱ顔なんですか!?」

「あと…いや、これ以上は止めとくか」

「何処を見た!? どこを見てそんな残念そうなため息を吐いたんですか!? 言え!! 言えェ!!」

 

 ムキャー! と掴みかかってくる葉月の頭を抑える銀次。いつものようなやり取りであったが、妙な寒気を感じて慌ててそちらを向き、銀次は表情を凍りつかせる。

 

ーーこ、このバース大幹部シルバービートを釘付けにするだと!?

 

 にっこりと満開の花を思わせる可愛らしい笑顔を見せる望は、そのまま言った。

 

「ボク、そういうの嫌いだよ?」

「「は、はい!」」

 

『どうすんだよ、よくわかんねえけどマジギレじゃねえか!?』

『ノゾミンはスタイルが良いこと気にしてるの忘れてた!?』

『え、そうなのか? スタイルが良いって良いことだろ?』

『ノゾミン昔からあの口調だったから、一部の男子女子双方から嫌われてたんですよ』

『なるほどな。容姿が良いのも考えものと言うことか』

 

「二人とも、どうかしたのかい?」

 

 ヤバイ。時間を経るごとに笑顔がどんどん輝きを増しているような気がする。

 ここはどうにかするしかない。話の流れ的に容姿の話題で押しきる! 決死の覚悟を決めて、銀次が望に声をかける。

 

「いや、望は美人でスタイルが良いなってな」

「…そりゃ、ボクも努力してるからね」

「努力って、なんちゃらダイエットとかか?」

「いや、そんなことしないさ。健康的な生活を続けて、適度な運動をしてるだけ」

 

 それが難しいんだけどね、と苦笑する望。生活が不安定になりがちで、結構コンビニ弁当に頼ることも多い銀次は、素直に関心する中、彼の隣ではざくりと何かが突き刺さる音が響いていた。

 

「それが一番難しいだろ?」

「まあね。でも、習慣になれば楽なものさ。胸とかは遺伝だろうけど」

「あー、そうか。なら、仕方ないな」

「一々こっちを見るな! 抉りますよ!」

 

 若干涙目になる葉月を見つつ、銀次は話を続ける。

 

「まあ、何だ? 美人なのは損も多いんだろうけど、それは普通の奴には無い武器なんだし、武器は有効活用するに限る訳でな。つまり、色々あるんだろうが、えっと……何かすまん」

「結局謝るんですか!?」

「いや、言葉募っても結局謝るしかないなってよ」

「さっきまでの話の流れは!? あれ地雷原でタップダンス踊ってますよ!?」

「…俺、マインスイーパー得意なんだよ」

「今関係ないですよ!?」

 

 結局、有効な策は思い付かなかったらしく二人してお互いに望を怒らせた罪を擦り付けあう。

 わいわいと騒ぐ二人、そんな二人を見てクスクスと笑う、望。

 

「え?」

「二人とも慌てすぎだよ? ボクがそんなことで怒るはず無いじゃないか」

「「嘘だ!?」」

 

 ならあの気は何だったんだ!? 二人して震えたあの威圧感は!? 視線で抗議する二人を気にすることなく、彼女は銀次の隣に座る。

 

 ノゾミンは酷いです。そんなことを言いながら葉月も銀次の隣に座る。

 

「狭いんだが」

「銀くんが大きいんです。よっていただけますか?」

「駄目だよ。そうしたらボクが狭くなるじゃないか」

「お、お前らなぁ…」

 

 後から座ってきたくせに、何でそんなに大きな顔が出来るんだよ…。距離が近すぎて少し困ると言うこともあり、そろそろと立ち上がろうとするのだが、そんな彼の裾を葉月が掴む。

 

「まあまあ、遠慮しない遠慮しない。ほら、ここに座りなさいや」

「俺が先に座ってたんだけどな」

 

 無理矢理振りほどくのも何なので、大人しく座り直す銀次。

 

 しかし、銀次が座り直したことで会話が途切れ、なんとも言えない沈黙が訪れる。

 

 しかしそれは決して居心地が悪いと言うものではなく、両隣から感じる体温と、穏やかな風に乗って聞こえてくる同級生たちの声を聞いて思わず平和だなぁと染々と感じ、それを口に出そうとして。

 

「キャアアア!?」

 

 空を切り裂く悲鳴に、銀次の身体が、思考が戦士のそれに変化する。

 

Ag《何が起こった!》

Lion《ブッチャーズとか言う連中の襲撃! 首領を名乗る奴も居る!》

Ag《生徒の避難を優先。お前は万が一があっても変身するなよ。人間なんだから》

Lion《わかってるよ。…どうやら五人隊も来たらしいし、そっちも早く避難してよ》

Ag《ああ。分かった》

 

 バースの強化人間、改造人間に共通する通信能力。脳に埋め込まれた電子チップによって思考を言葉に変換し、互いに連絡を取りあう一種のチャットのような機能だ。

 視覚データも受け取り、簡単に状況を把握した銀次は、まだ状況を飲み込めていないらしい二人に向き直ろうとして、二人の視線に気づいた。

 

「ふへへ、女が居んぜ」

「お、良いねぇ」

「何か男も居るが、まあボコボコにすりゃ良い話だ」

 

 額に大きなBの文字。ブッチャーズ戦闘員だ。

 

「あ、ああ…」

「だ、大丈夫だよノゾミン! 大丈夫!」

 

 戦闘員。その響きから雑魚敵、やられ役などと思われがちであるが、それはあくまでも正義の味方から見ただけで、一般人からすれば、雑魚とかそんなことは決してない。

 成人男性はおろか、オリンピック選手に勝るほどの身体能力を誇る彼らは例外なく、警察、軍隊でも手こずるほどの力を持っている。

 そんな戦闘員が三人。味方に喧嘩慣れしている不良が一人居たところで、そんなものは物の数ではない。彼女たちの絶望はどれだけのものだろうか?

 

 ただ一つ、この状況でイレギュラーがあるのだとすれば、その不良が只の不良ではなく、世界でも類を見ないほどに強い存在だったと言うことだろう。

 

「あー、大人しくどっか行ってくんねぇか? 今の俺は機嫌が良いんでな。今なら見逃してやるからよ」

「ちょ、ちょっと銀くん!?」

「おうおう、なめくさってくれてんナァ!!」

 

 瞬間、肉を潰すような鈍い音と断末魔の叫びが響き渡るのであった。

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