悪の大幹部の日常   作:特撮仮面

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妖怪少女と大幹部!-2

 甲山銀次が如月御幸と婚約者関係となってから数日が経過した。如月組と西木組の関係については目に見えた変化は見られないものの、銀次の周囲の変化は顕著であった。

 

 それが、如月剛毅が各方面に放った、己の娘である御幸に婚約者がいるという宣言。今まで混乱を避けるために黙っていたという建前の元発信されたその宣言を受けて、各地の如月組の関連組織はお祭り状態となっていたようだ。

 なお、甲山銀次の身元については、バース傘下の 企業のお偉いさんの息子ということになっている。シルバービートの正体は、バースの外部のものはほとんどが知らない状態であるが故の処置だ。

 

 そうした組織間の変化は顕著であるが、彼にとってそれよりも重要な変化が今起こっていた。

 それは、彼の学校生活での変化。

 

「…これ」

「また作ってきたのか?」

「…うん。だから」

 

 昼休憩。学生の誰もが授業を終え、空腹を満たすために購買部や食堂へ向かう時間。だが、この日は率先して動くはずの餓えた男子学生すらも席から立つことなく、とある二人の同行を固唾を飲んで見守っていた。

 それは現在このクラスの学級委員と副委員長を担当している、甲山銀次と如月御幸。

 

 数日ほど前から、この二人の仲が怪しいともっぱらの噂となっているのだ。

 

「分かった。じゃあ屋上でも行くか?」

「うん…」

 

 教室を出ようと歩き出した銀次の右斜め後ろを、貞淑な妻のように弁当をもって着いていく御幸。

 二人が教室を出ていって数秒すると、教室の空気が一気に弛み、クラスメイトたちは、はぁ、と大きなため息を吐いた。

 

「あの二人どうしたんだよ、マジで!!」

「もしかして、付き合ってるとか?」

「まさかぁ!」

「甲山の奴、脅したりしてないだろうな?」

「あいつがそんなことするか?」

「しないよなぁ…」

 

 誰もが思い思いに憶測を飛び交わせるのだが、この頃になるとクラスメイトたちは誰も銀次が暴力などで人を従わせているなどと言わなくなっていた。

 林間学校までは暴力的な不良だと思われていたが、林間学校で班員となっていた面々の彼の話や、教室内での葉月とのやりとりから、銀次の評価が少しずつ変化していっているからだ。

 それに、最近では学級委員としての仕事もしっかりとこなしている。そういった日々の行動が、彼のイメージを少しずつ変化させていた。

 

「うーん…」

「どうしたの? ノゾミン」

 

 教室の一角、林間学校以降何かと縁のある数名で机を寄せ合って弁当を突きながら雪原望が眉をよせて唸り声をあげていた。それを聞いた皆川葉月が心配そうに彼女に声をかける。

 

「いや、如月さんと銀次の関係が良く分からなくてさ。僕は何か特別な理由があると思うんだけど…」

「ああも熱々なら恋人に決まってるでしょうに。ねえ、謙一くん」

「…うーん。俺も葉月と同じ意見だけど、それにしても唐突過ぎるけどなー」

 

 滝謙一が二人の出ていった扉の方を眺めつつ、菓子パンを食べながら言う。

 普通、何かしらの関係の変化が起こるのならばその前に何かしらのアクションが起こるものであるが、あの二人にはそれが無かった。学校外で何かが起こったと言われればそれまでだが、それにしても二人が恋仲になるというのは些か急すぎる話であるため、不自然だった。

 

「そこらへんどうよ? 流星」

「…僕は、望と同意見かな」

「ほほう? その心は?」

 

 学校一のイケメンこと、天川流星の言葉に葉月が興味深そうに目を細める。箸と弁当箱を持っていたはずの手には既にペンとメモ帳が握られており、その変わり身の速さに苦笑しつつ、流星は離し始めた。

 

「相変わらず準備が早いね…。そうだね、まずは何であの二人が恋人同士じゃないかって言う理由だけど」

「ふむふむ」

「恋人だったらあんな風に言うかな?」

「あんな風に、といいますと?」

 

 葉月の疑問に、流星が先程の銀次の様子を思い出しながら答える。

 恋人同士であるならば、態々また作ってきたのか? などと聞くだろうか? むしろ、作ってくることを事前に言うかもしれないし、それに銀次の表情からは、あまり無理しないでほしい、とか、嬉しいけど何だかなぁ、といった少し苦笑するような雰囲気が感じられた。

 

 果たして、恋人がそんな感情を抱くだろうか?

 

「それに、銀次君に恋人ができたら、あんな程度だと思う?」

「む、それは確かに」

 

 葉月もその言葉にうなずく。

 恐らく、甲山銀次という男はペットとか恋人とか、そういった関係の人間を大変甘やかすタイプだ。身内に甘いと言っても良い。それは、普段の生活や何かと突っ掛かる葉月への対応を見ていれば火を見るよりも明らかだ。

 そうした面を考えていくと、彼の態度は少々違う。

 あれはどちらかと言えば、迷惑をかけてごめん、とか、ありがとうな、とか相手を気遣うものだ。

 

「何にせよ、一回確認してみる必要がありますね!」

「…相変わらず生き生きしてるね」

「ん? いつものことですよ、ノゾミン」

「うん、まあ、いつものことだね、うん」

 

 

 

※※※※※※※

 

 

 

 

「ほんと、いつも悪いな。助かる」

「別に良いわよ。一人二人増えたところで私には関係無いんだし」

「…もしかして、組の御飯お前が作ってるのか?」

「悪い?」

 

 凄いな…。膝の上に置いてある弁当箱を見て感心する。

 

 弁当箱、というには些か重厚な、重箱というのだろうか? 黒塗りに金字の美しい箱の中は、普段楽するために購入しているコンビニ弁当と比べれば明らかにレベルの違う料理がずらり。

 出汁巻き卵に煮付け。焼き魚。季節感を重視してか、菜の花のおひたしなど目と身体に優しい物もしっかりと入っている。御飯には梅。中々豪華だ。しかし、見れば見るほど手が込んでいる。これを作るのにどれだけ時間がかかったことやら。彼自身家事も行うことがあるので、料理を作ると言う作業がどれだけ大変か分かっているつもりだ。御幸はこの程度と言っていたが、あの組員全員分の食事を準備するというのは、下ごしらえだけでもとても大変だろう。

 

「いただきます!」

 

 だからこそ、味わって食べよう――そう思っていたのは一口口にするまで。

 良く出汁のとれた出汁巻き。味は濃いが決してくどいわけではなく、ご飯が欲しくなるような丁度いい塩梅だ。出汁巻きを口に放り込んですぐに白いご飯をかきこむ。コンビニ弁当のように硬くない、少し柔らかめに炊かれた米だからこそ出来る冷めていても尚残る歯ごたえと米独特の甘味。美味い! とにもかくにもウマイッ!! 少し濃い目、自分の好みピッタリの弁当に気づけば周囲など気にすること無く箸を進める。

 

 濃い味と白米という完璧な組み合わせ。だが、いくら品を変えても少し口の中に味が残り飽きが来るというものだ。だが、それをこれまた強烈な梅が吹き飛ばしてくれる。

 これも上質な物を使っているのだろう。梅特有の酸っぱさがあるが、後に残るのはスッとするような清涼感。梅と米で再度口の中がリセットされ、また新たな気持ちで弁当に手を付けることが出来る。まさに考え抜かれた一品。

 

 差し出されたコップの中身を飲み干し、ホッと息を吐く。

 

 最近の昼は充実してばかりだ。これほど充実した御飯も久しぶりかもしれない。満腹感と、美味しい物を食べた満足感から足を投げ出し身体の力を抜く銀次。ヘタをすればそのまま眠ってしまいそうなほど気の抜けた様子の彼に、御幸がお茶を入れたポットを鞄にしまいながら言った。

 

「いくらなんでも気抜きすぎじゃないの?」

「ああ? 良いんだよこれくらい…」

 

 やはり自分を隠さずにいられると言うのは気分が良い。

 

 この男に自分を偽るなんて器用なことができるはずもないのだが、それでも大幹部という立場を隠し続けているのは心の中に疚しさ、後ろめたさを生み出してしまう。いくら強化人間として身体を改造していたとしても、こればかりは改造のしようがない。

 雲が千切れ千切れ飛んでいる青空。雲の形が綿あめに似てるなーなどと考えていた銀次は、ふと思った。

 

「今更なんだけどさ」

「…弁当? 皆に言われたからよ」

「言われた? 何を」

「あれほどにお嬢の事を想ってくれる男はそういねぇ。逃しちゃいけねえですよッ! とか言ってさ」

 

 男心を擽る方法を教えますッ! などとむさ苦しい男どもが自分の欲望混じりの男の夢を語る姿を思い出して、御幸は思わず額に手を当てた。

 確かに彼らの言う通り、覚妖怪である自分を大切に想ってくれる男なんてこの先早々出てこないだろう。必ず、心を読む力を恐れるか、利用しようとするに違いない。

 そう考えれば、今隣で、あの雲鯨みたいだなぁ、などと考えている男は希少だ。彼らの言う甘酸っぱい関係は知らないが、彼のことは自分でも驚くほど素直に受け入れられたのだ。自分を守ると考えている姿を見れば、せめて友達として何かしようと思うのは仕方のないことだと思う。

 

「そうか。…ま、あの人らも嬉しいんだろうし」

「分かってるわよまったく。…で、あんたの方は大丈夫なの?」

「ん? あー、如月組と組んだことについて各方面から色々話は来てるけど、そこまでのもんじゃない」

「そうじゃなくて!」

「あ? …バース関連じゃねえの?」

「……皆川さんのこと」

「……………あ!」

 

 しばらく首を捻っていたが、ようやく話の意図に気付いたらしい。こんな察しの悪さでよく大幹部と言うとてつもない立場に居られるものだと御幸は思った。

 皆川葉月。それだけではない。自分の振る舞いが原因の一つとは言え、教室中が今、自分達の挙動の一つ一つに注目している。

 基本的に皆して、如月御幸と甲山銀次が付き合っているのではないかと言う予測を立てているが、中には葉月たちのように二人の関係を疑う者もいる。

 

 特にオリエンテーション班はその気が強いようで、銀次は果たしてどうしようと言うのか。

 

「…どうせどっかで突撃インタビュー入るよな……。なら!」

 

 銀次が何やら思い付いたらしい。御幸は一体どんなことを思い付いたのだろうかと好奇心で彼の心を覗き――そして固まった。

 

「如月、俺に良い考えがあるッ!!」

「……はぁあああ!?」

 

 絶対大変なことになる。ドヤ? とポーズを決める銀次を見て、新たな火種になりそうな考えに頭を抱える御幸であった。

 

 

 

「銀くーん!」

「やっぱ来たかパパラッチッ!!」

「パパラッチとは失礼な! 私はれっきとした記者です!」

「なるほど、つまり機関車ハーヅキと」

「そっちの汽車じゃない!」

 

 いつものような軽いやりとりを行う二人。だが、これは互いにスパーリングをしているようなものだ。

 時間はホームルーム終了後。教室から人が出ていくなかで、銀次は葉月に視線を送った。

 その意図を完全に把握した葉月によって現在、オリエンテーションの班員全員を前にした御幸と銀次の関係についての発表を行おうとしているのだ。

 

「…では、単刀直入に聞きます。如月御幸さんとの関係は?」

 

 じゃれあいは終わり。真剣な、記者としての表情に変化した葉月は、対面にいる銀次に向かってそう問いかけた。

 教室のど真ん中、コロシアムのように開けられた円形の空間の中心で、二人が対峙する姿を、円の外から皆が見守る。

 そんな彼らを一度見回して、銀次は静かに告げた。

 

「俺と如月は――婚約者だ」

「………え?」

 

 二人の身体が固まり、目を見開く。その衝撃はいかほどのものか。ただ一つ言えることがあるなら、身体の震えと声の震えがその衝撃の強さを物語っていると言うことだろう。

 

「あ、あの、それはどういう…」

「だから、婚約者。俺のじいさんと如月の親父が決めたんだよ」

 

 で、だ。と彼が一呼吸おいて言葉を続けようとするのだが、そこで今一視線が定まっていない葉月に気づいたらしく、おいどうしたと声をかける。

 

「おい、葉月?」

「…………………」

「おいこら!」

「は、はぃい!?」

「…お前、大丈夫か? どっか悪いんなら今度でも――」

「だ、大丈夫です!! だから、どうぞ、続きを!!」

「お、おう? そ、そうか。なら続けるが」

 

 妙に強調する葉月に気圧されながらも彼は話を続ける。

 

「こっからが重要なんだが…。お前ら、如月の実家がどんな家か知ってるか?」

「ミユキンの? …えっとやの付く自営業」

「お前、そんな呼び方してたのな。まあそれは良い。そう、自営業だ。でも最近如月の実家で色々ゴタゴタがあったんだ」

「はぁ…でも、それがどうしたら婚約者に繋がるんですか?」

「それはだなぁ――」

 

 如月御幸、彼女に現在の父との血縁はない。彼女は現在の父である如月剛毅の親戚から引き取られた子供だった。

 

 ヤクザとはいえ、如月は凄く皆に親切にしてもらって、色んな人に愛されながらここまで元気に育ってきた。けれど、そんな如月に最近大変な事件が起こってしまったんだ。

 

「大変な事件、というと?」

「如月が引き取られた理由になる。…話しても良いか?」

 

 銀次に問われ、御幸は頷いた。

 その反応を見て、彼は話を続ける。

 

 御幸が引き取られた理由は、彼女が生まれて間もない頃はあまりにも病弱で、尚且つ特異な能力を持っていたからだ。

 よくニュースでやってるだろ? スーパーパワーの子供って。如月もそういう特殊な力を持ってたんだ。でも、如月は身体が弱すぎた。その力だってそんなに使えるものじゃない。

 

「……能力とは一体?」

「あらゆる動物と話せる、だったっけ?」

「…うん。植物とかの気持ちがわかる」

「…それ、読心術みたいじゃないですか!」

「そう、今回の事件にはそれが関係してくるんだよ」

 

 身体が弱く、能力もそうでもない如月は、実の父たちに利用価値がないとして捨てられた。

 

 けれど、如月が今の家に来てから状況が変わったんだ。

 

 実家の考えでは、どうせどこかで死ぬって言われてたらしいんだが、如月は彼らの予想を裏切って元気に育っちまった。

 だから今、実家の方が如月を呼び戻そうとしてるんだよ。

 

「何故ですか? ミユキンの力はその実家の方では使えないってされてたんですよね?」

「ああ。でも、そういう能力の研究を調べたら、使えるかもしれないってのが分かったらしい。…葉月、お前が言ったみたいにな」

「私が――読心術!?」

「そうだ。彼らは、如月を取引相手の心を読む道具として改造し、使用しようとしてたんだ」

 

 如月の実家の権力は強い。最初の頃は如月組も抵抗してたんだけど、もうそれも難しくなっててな。だからこその、婚約者だったんだ。

 

「…分かったけど、なんでそこで唐突に婚約者!?」

「ああ、言ってなかったか。実は俺のじいさん、YLCの会長なんだよ」

『………えええええ!?』

 

 ユーブカンパニー――YouLoveCompany略してYLC。現在日本だけでなく世界にその名を轟かせる超有名企業団体である。

 製菓、建築、製鉄。ありとあらゆる分野の更なる発展とお客様の幸福を信念とするグループ。この、神山市の開発にもこのYLCが関わっている。

 

「ど、どどど、どういうことですか!?」

「あー、俺の親父がじいさんの子供と大親友だったかなんだったかで、その関係で引き取られたんだよな」

「あ、あ、こ、今度銀くんの家に遊びに行っても良いですか!!」

「え? ああ、構わねえけど…」

 

 まさか、学校一とも言われている不良が超有名企業の御曹司などと誰が予想するだろう。

 如月の婚約者よりも衝撃的すぎる彼の人間関係に皆が動揺を隠せない。そんな周囲を不思議に思いながら、銀次は話を続けた。

 

「じいさんと如月の親父もそういう仲でな? それに、この神山市の開発で如月組にはお世話になってるしって訳で、一芝居うったわけだ」

「……の」

「……おーい、話聞いてるかー?」

「ひゃい!? あ、はい! 大丈夫です問題ない!」

「…どう考えても問題あるが…まあいいや。兎に角、如月の実家を何とかするために、まずは身の回りを固めようって話になったから婚約者になったわけだ」

 

 葉月は、銀次の話をメモにまとめていく。

 

 如月の過去が凄まじいものであると言うことは分かった。そして実家がどれだけ畜生かどうかも。

 YLCの御曹司が婚約者となれば、いくら力があっても如月に手を出すことはとても難しい。恐らく、迂闊に手が出せない内に如月の実家を何とかしようと言うことなのだろう。

 

「なるほど…分かりました。で、私に何をしてほしいんですか?」

「…バレた?」

「銀くん、分かりやすいですからね」

 

 俺ってそこまで分かりやすい? と皆に視線を投げ掛ければ、帰ってくるのは苦笑であったり目を逸らしたりといった反応ばかり。少しだけ傷つきながらも挫けずに銀次は言った。

 

「あー、この話を面白おかしくして学校に出してほしいんだよ。不良、熱愛か!? みたいな」

「ふむふむ、わざと目につくようにするんですね」

「よく分かったな。そのとおり、学校内でもいくらか居るからな。あえて目立つようにするわけだ」

 

 監視の目があることはほぼ確実。ならば、あえてこちらから情報を開示することで相手の出方を伺う。この情報が相手側に伝われば、婚約者関係が真実だと理解するはず。

 バース関連という情報は既に出しているため、予想される相手の反応が正解ならば――

 

「いやー、それにしても出来る女は辛いですねぇ」

 

 頼られるというのは気持ちいい、と得意気な顔で葉月がいう。

 

 今回の策、葉月が居るからこそできることだ。これから色々準備してもらうこともある、何か礼をしなければならないだろう。

 

「なあ葉月、折角手伝ってもらうんだ。何か要るもんとかあるか?」

「要るもの、ですか?」

「色々してもらうんだから、少しは礼しなきゃなってな」

 

 あ、でも俺に出来る範囲のことだけだぞ、と釘を刺しつつ葉月に問い掛ける。だが、いくらなんでも突然すぎて彼女も何が欲しいかわからない。

 

「それ考えるの、今度で良いですか?」

「ん? ああ、別に構わねえけど」

「それじゃあ、何か思い付いたら言いますね」

 

 楽しみに待っててくださいと笑う葉月に、どうかお手柔らかにと苦笑する。

 これで今回の取材は終わりだろう。銀次は大きくのびをして席を立ち上がろうとする――が、そんな彼の手をとって葉月は言った。

 

「なぜ立ってるんです?」

「そりゃ、もう取材は――」

「いつ取材が終わったと錯覚していた?」

「なん……だと……」

 

 そんな馬鹿な。戦慄する銀次に対し、葉月はにっこりと笑いながら言った。

 

「ところで、ミユキンと婚約者みたいですけど、もうあんなこととか、やったんですか!!」

「やっぱそういう質問するんだな!?」

 

 その後、日が暮れる寸前まで葉月の質問は終わらないのであった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 暗い部屋の中で、一人の男が一枚の大きな紙を手にした。

 

 それは作り込みこそ本職に勝るとも劣らない、だがどこまでも学生創作の域を出ない学校向けの新聞。鴻上学園高等部新聞部が発行している新聞だ。

 メインとなる大きな見出し、その内容はこうだ。

 

『学校一の不良、まさかの熱愛!?』

 

 内容をまとめると、甲山銀次という少年がある女性と婚約しているという話。

 

「くみちょ――」

「やりやがったな糞餓鬼がぁあああ!!」

 

 激昂。新聞を地面に叩きつけ、彼は巨大な拳を新聞の落ちた床に叩き付ける。

 

 床が抉れ、拳が埋まる。

 

 目障りな新聞をぐちゃぐちゃにしても、怒りが収まることはない。

 挑発だ。これは、如月組ではない。甲山銀次という男による挑発。

 自ら顔を晒し、婚約を吟う。つまり、俺は逃げも隠れもしないから、どっからでも掛かってこいという銀次からのメッセージ。

 

「ああ……上等じゃねえか。ようやくだ」

「く、組長…」

 

 腰の引けた部下が彼に声をかける。

 

「おい…」

「は、はいぃ!」

「宣戦布告すんぞ…!!」

 

 なめ腐った糞餓鬼を潰す。

 怒りに燃える真っ赤な瞳。

 西木組組長、西木源吾(にしきげんご)が金棒を構え、吠えた。

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