デートから始める異世界生活   作:シークレット/K

43 / 45
今回も遅くなってしまって、本当にもうしわけありません。
相も変わらずの不定期ですが、よければどうぞ.....。


第四十二話 幕開け

-士道side-

 

「.....どう。.....ねえ、聞いてるの、士道?」

「.....え?」

 

意識が浮上する。

目の前には琴里が居た。

 

「え、じゃないわよ。せっかく話してあげてるのに、うたた寝してるなんていい度胸じゃない」

「.....あ、ああ。悪い、琴里。ちょっと、ぼうっとしてただけだ。.....ちょっと、休ませてくれないか?」

 

士道は理解した。

死に戻りを、したのだと。

 

琴里が、仕方がないわね、と言って士道の部屋を出ていくのを見送り、士道はベッドに寝転がって死に戻りする前の光景を思い返す。

 

「確か、"大罪司教"とかいうやつが襲いかかって来たんだよな。そして.....」

 

レムが、殺された。

その言葉を呑み込んで、士道は自身の手を見る。

 

届かなかった。

否、あの時の士道は相手を倒すことを優先して、レムを助けようと手を伸ばすことさえしなかった。

レムには見えていなかった紫色の手の勢いを見て、手を伸ばしても間に合わないと、決めつけてしまっていた。

 

確かに、その判断は間違ってはいなかったかもしれない。

でも、自ら手を差し伸べるのを諦めてしまっていた事実が、士道を自責の念に駆り立てる。

 

「.....そして、俺もあっけなくやられて、それで。スバルが来たんだったよな?」

 

そばには狂三がいたはずだ。

つまり、スバルは"ゲート"を十分に快復しないまま、エミリアとの約束を破ってまでやって来たことになる。

おそらく、狂三の分身体がこの辺りに潜んでいて、情報を掴んだ段階で王都に向かって、狂三本体に伝達したのだろう。

 

それがスバルの耳に入れば、即決で助けに向かおうとするのは容易に想像出来た。

 

となれば、士道が死んだあと、スバルが死に戻りしようがしまいが、確実にスバルと狂三の二人は駆けつけてくれる。

さらに、スバルも死に戻りしたと仮定するなら、何かしらの他の救援を期待することも出来るだろう。

それまで、ここを守らなければならない。

 

「でも、ここに居る人だけでここを防衛出来るのか.....?」

 

あらかじめ襲撃があることを知っている。

確かにそれは大きなアドバンテージとなる。

だが、死に戻りする前のことを思い返すと、自分達は村の様子から襲撃が来ることを予測していた。

 

つまり、今の現状と同じようなもの(知っているのは士道のみなので、それよりもまずい状況だが、それでもこのことを話せば少なくとも琴里や十香達精霊は協力してもらえるだろう)だ。

襲撃までの猶予があるという違いはあるが。

 

そして、今出来ることは簡単に二つ思いつく。

一つは今のうちに村の住民を避難させること。

もうひとつは、死に戻りする前の様な結果にならないようにどうすればいいかを考えることだ。

 

いずれにせよ、鍵となるのはスバル達の援軍だ。

 

「.....あまり期待しすぎるのも良くないけど、来てくれるって信じるぞ、スバル」

 

===================================

 

-スバルside-

 

「おい、おいっつの!聞いてんのか?」

「.....ッ!!戻って、来たのか.....?」

 

死に戻ったことを感じて、辺りを見回す。

そこは間違いなく、賑やかな王都だ。

 

「おいおい、しっかりしてくれよ、兄ちゃん」

 

声の主を見ると、そこには傷面の強面が眉間に皺を寄せてスバルを見る男が居た。

 

「んで、リンガ、買うのか買わんのかどっちなんだ?」

「え?.....ああ、買うよ、買う買う。そのためにここに来たんだし、当たり前だろ!」

 

務めて明るく接する。

この御仁.....カドモンには世話になったぶん、恩返ししなければならないことを思い出す。

まあ、死に戻る前にも買ったのだが。

金貨一枚で買えるだけ買う。

 

「まいどあり!」

「いんや、こっちも色々世話になったんだし、これくらい安いもんだって!」

「だったら、もう少し買ってくか?」

「それはまた今度。また来た時に贔屓して買ってくよ」

 

会話を終わらせ、リンガが入ったバケツを抱えてその場を去る。

行き先は勿論、クルシュ邸。

とりあえずフェリスにゲートの快復をされながら、記憶の整理をすることを想像しながら、小走りで向かう。

 

#

 

「それで、なんだったか.....」

 

クルシュ邸に戻ったスバルは、フェリスの治療を受けながら考えを巡らせる。

 

まず、一番厄介なことから。

スバルが死ぬ寸前に見た、巨大な白い鯨。

あんなものがいると知れただけでも幸運だったと言えるだろう。

事前に知っているだけでもだいぶ違ってくる。

 

「なあ、一つ聞いていいか?」

「にゃーに?もしかして、フェリちゃんを口説きにかかってくるのかにゃ?」

「いや、ちげえよ!?」

 

治療してくれているフェリスに声をかけると、冗談で返してきた。

分かってはいるのだが、過剰に反応してしまうのはスバルの癖だ。

 

「えっと.....。馬鹿でかい白い鯨の魔獣って、一般的に知られてたり.....」

「白鯨のこと!?」

 

スバルの話を聞いて、フェリスが血相を変えて詰め寄ってくる。

そのことに若干驚きながら、なぜそこまで食いつくのか、と問いかける。

 

「.....んー。これはフェリちゃんの一存で簡単に話していいことじゃにゃいの。だから、その辺については答えられにゃい。っていうか、スバルきゅんに答えるほどの信頼性がないし」

「直球だな!もうちょっとオブラートに出来なかったのか?」

「めんどくさい」

「直球すぎんだろ!」

 

ツッコミを交えて会話は進んでいく。

これじゃダメだとスバルは雑念を振り払うように首を横に振り、そして再び口を開く。

 

「俺は、その.....白鯨?らしき影を見た」

「.....続けて」

「何処か、ってーと、それはロズワール邸と王都の間の道のりの途中としか答えられねえが、霧の向こうに鯨の様な形の影を、確実に見た」

 

スバルの言葉にフェリスは治療の手を止めて、思考を巡らせ始めた。

士道のことで色々あって、霧が発生したなんて話が全く届いていなかったため、スバルの言葉の真偽はわからない。

だが、少なくとも何かしらの対応はとってくれるはずだ。

スバルはそう考えていた。

 

「.....悪いけど、スバルきゅんの一声だけで動くほど、クルシュ様も、勿論フェリちゃんも甘くにゃいよ」

 

その考えは、あっけなく砕け散った。

まあ、こちらに交渉の材料は何も無いのだし、こうなったのは当然の帰結と言ったらそれまでだが。

 

協力が得られないのであれば、何か別の方法を探すしかない。

ここで腹を立てて文句を言う時間すら惜しいのだ。

子供達を自分を犠牲にしてまでして守った士道を見て、心境が変わった可能性も否めないが。

 

「そうかよ。じゃあ、いい」

 

スバルの言葉に、フェリスは驚いたような表情をする。

 

「なんだよ?」

「うーんにゃ、別にぃ?てっきり、怒り狂って怒鳴ってくると思ってたからね」

「.....やっぱり、俺ってそういうイメージなのん?」

 

第三者から見た自分を知って、若干落ち込むスバル。

それをフェリスはにゃはは、と苦笑してスバルの治療を再開する。

 

ふと、気になることがあった。

 

「そういや、狂三はどこにいんだ?」

「うん?ああ、黒いドレスのメイドさんにゃら、今はクルシュ様と話してるよ」

 

純粋に驚いた。

全然見当たらないと思ったら、クルシュとの談話をしていただけだったことに。

てっきり、何かしら暗躍しているのかと思っていたのだ。

思いっきり偏見だが、そういうの得意そうに見えたから。

 

それはそうと、事態は振り出しに戻った。

聞けたのは、あの鯨の怪物の名称のみで、大した収穫もない。

どうやって士道を助けるか、考える。

 

このまま狂三と二人でロズワール邸へと戻って、それでなんとかなればいいが、それは無理だろう。

白鯨がいる限り、魔女教陣営の有利は揺るがない。

覆すためには、やはり誰かの協力が必要不可欠だ。

 

「だが、どうすればいい?」

 

一番可能性があったクルシュ陣営に拒否されたとなれば、他にあたっても拒否される可能性が高い。

あとはもうラインハルトぐらいしか思いつかない。

だが、あの"剣聖"にタイミングよく会えるのか。

何処か遠い場所に行ったりしているのではないか。

 

そうやって、案を考えても自らそれを否定するような考えが頭をよぎる。

 

.....まあ、とにかく。

 

「待ってろよ、士道、エミリアたん.....!必ず俺が、お前らを救ってみせる」

 

この時、ナツキ・スバルの単独での挑戦が、幕を開けた。




スバルの性格が原作よりもだいぶマイルドとなってしまった.....。
このまま突っ走りますけど.....。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。