泡狐竜と少女   作:佐渡山 創

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ユクモ村帰還編
ユクモの地に降り立つ四人 ~前編~


 

ナギは、「そこ」に立っていた。

 

右を見ると、見るも無惨に積み上がった瓦礫の山。

左を見ると、折られた木々や根本から抉りとられた大木が。

空は暗雲に覆われ、湿り気を孕んだ風が頬を撫でる。考えなくとも何かの災禍に見舞われたのだろうと分かった。

これはどうすればいいんだ。どうして自分がこんな所に。そんな事がナギの頭をよぎる。

 

とりあえず、ここがどこなのか確かめないと。

 

そう思い、歩みを進める。しばらく瓦礫の山を踏みながら探索していると、辛うじて形を保っている建物の横に人影が見えた。

 

近くまで行ってみると、どうやら8、9歳ぐらいの少年のようだった。周りを見ても保護者らしき者はいない。自分は救援隊ではないが保護しないと、そう考えて声を掛けようとした矢先。

 

少年はゆっくりと立ち上がり、少しふらついた足取りで何処かへと歩いていく。しかし目線はどこか上の空で、それがナギには魂が抜けた人のように思えた。

少年が歩いていく先を見やると、そこには大きく口を開けた渓谷があった。このまま歩いて行ってしまっては危ない。ナギが少年の肩に手を、

 

掛けようとして、その手が虚空を切った。

 

(え…?)

 

ナギは今確かに肩を掴もうとした。が、まるで霧を触るかのように、掴めた感覚がなかったのだ。

 

(どういう事だ…?)

 

物理でダメなら声しかない。そう思い呼びかけてみるも、聞こえていないのか一向に立ち止まる気配はない。

 

(…っ!)

 

走り寄って少年を止めようとするも、どういう訳か追いつく事ができない。一体何がどうなっているのだ。ナギが混乱している間にも少年は歩みを止めない。

 

(ダメだ、そっちは危ない!)

 

少年の体が支えを失うまで、あと───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああっ!?」

「ぬおっ、起きた。というか私の膝を枕にして寝るなぁ!」

「……え?」

「『え』じゃないだろう馬鹿か。ほら、ユクモ村に着いたぞ。早く降りる支度をしろ。」

「夢、か?」

 

…先程のは何だったんだろう。何か酷く嫌な夢だったような気がする。

 

「…大丈夫か?寝ている間、うなされていたように見えたが…」

「ん…大丈夫だよ。ちょっと疲れてただけだろうな。」

「む、ならば良い。」

 

ハンターたる者、疲労は大敵だ。帰って来たからには温泉に浸かって癒されたい所だが、ふとあの二人の姿がない事に気付く。

 

「あれ、イジスとエメさんは?」

「あの二人なら、『旨そうな店見つけたー!』とか言って早速食べ歩きに行ったが?」

「はは…」

「そりゃ4日も携帯食料じゃ、あいつらも私も我慢ならんだろう…」

 

こればっかりはナギも同意する。タマモの言った通り移動中は携帯食料だけで、ろくに美味しい物が食べられなかったのだ。そろそろナギもちゃんとした料理が恋しくなりつつある。

食堂に行って、久々に特産タケノコの煮物でも食べたいなぁ…

 

「何をボーっとしている。置いていくぞ?」

「ん…悪い、久々に帰って来たような気がしてな…」

「まぁ、いろいろあったからな…」

 

龍歴院での出来事はもう「いろいろあった」で纏めたい。具体的に語るのは億劫だ。

そんな事を考えながら村の中心を貫く石段を登り、やっと愛しの我が家へ帰ってきた。藍塗りの暖簾をくぐると、もう懐かしく感じる部屋の香りが出迎えてくれる。

 

二人は荷物の整理をし、これからどうするか話し合った。

 

「私は一人でこの村の中を少しうろついてくる。人間の生活が気になるし、何よりここは美しいからな。」

「そっか。なら俺もぶらぶらするか…」

「じゃあ自由行動という事で構わんな。あの二人と合流できればいいのだがな…」

 

そんな事を呟きながらマイハウスから出て行くタマモ。手持ち無沙汰になったナギは、折角なので一人の時間を楽しもうと集会浴場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「やっぱりユアミはちょっと涼しいな…」

 

ナギは今、集会浴場の男性の脱衣所にいた。ここの温泉は混浴で、一旦男女別に分かれた脱衣所でユアミスガタに着替えてから入浴する、という決まりなので着替えていた訳である。

 

風呂場に行くと、半露天なので外との気温差で湯気がもうもうと立ち込めていた。

体をさらっと洗い流し湯船に肩まで浸かる。熱くもなく、かといってぬる過ぎない丁度いい温度の湯がナギを包み込んだ。

 

「はぁ~、やっぱ温泉はいいよなぁ~…」

 

やはり疲れていたのだろうが、その疲れが一気に抜けていく。足湯でもそれなりに気持ち良かったが、本物の温泉は違う。

 

しばらく癒されながら目の前に広がる大渓谷を眺めていると、ふと浸かっているのは自分一人だけではない事に気が付いた。誰だろうと思って近付いてみると、それは見覚えのある人物だった。

タマモだ。恐らく村内を回っていたらここに行きついたのだと思う。前来た時に温泉に入りたいと話していたし、さぞかし喜んだだろう。

 

「どうだ?いい温泉だろ?」

 

少し自慢げに問うナギ。その時突風が吹き込み、湯気を殆ど吹き飛ばした。

 

「はぁ!?」

「んなっ!?」

 

双方の驚く声が浴場に響き渡る。

え、何でアイツ、ユアミ着てないの…?

いや、厳密に言えば腰の所で巻いて留めているが、使い方全然ちがうじゃんソレ。

 

「なっ、なっ…」

「おい、何でユアミしっかり着てな…」

「うわああああああ!!!!こっちを見るなぁぁぁぁっ!!」

「いやちょっと待……ってその桶の構えは、伝説のトルネイ…ギャアアアアアア!!!」

 

パコォーンッ

 

タマモの投擲したユクモ印の桶が、ナギの眉間に見事ヒットした。

 

は、初めて会ったとき同じ格好だったろうがーっ……

 

そう思ったが、彼女もいろいろあって成長したのだろう。また一歩人間に近付いたね。

 

タマモの抜群のプロポーションと、チラッと見えたあまり大きいとは言えない胸を脳裏に焼き付けたまま、ナギの意識は湯船の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

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