泡狐竜と少女   作:佐渡山 創

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閑話休題:タマモ、ユクモ村を満喫する

ナギの家を出ると、柔らかな午後の日差しがタマモ向かってに降り注ぐ。理想的な昼下がりだ。これから村内を巡るには丁度いい塩梅である。実家である渓流からほど近いこの村の雰囲気が、タマモは好きだった。

 

「さて、まずはあそこに行くかな…」

 

そんな事を呟きながら石段を下る。少し歩くと、タマモの目指していた目的地が見えてきた。

 

加工屋だ。そこだけ熱気が充満し、錆臭い鉄の匂いがする。店先には工房の主である竜人族の爺さんが立っており、営業はしているようだ。

 

「あぅあぅ!よう来たなぅ。ありゃ?見ねえ顔だが、どっかから来たんかぇ?」

 

近付くと向こうから話しかけてきてくれた。しかし初対面なので、不思議そうな顔をされるとこちらもちょっと困る。

 

「少し前からここに滞在させて頂いている、タマモという者だ。見ての通りハンターをしている。」

「あぅ!あのハンターさんだったかい!まぁ、今日は何の用でい?」

 

あの、とはどの事か全然分からんが、とりあえず用件を告げる。

「この双剣を強化して欲しいのだが…これが素材だ。頼めるか?」

「あぅ、お安い御用でい!小一時間程で完成するけぇ、村ん中でも見てってくれや!」

 

タマモは既に自分の愛刀と化している狐双刃アカツキノソラを差し出す。やはり自分の見込んだ通り、双剣は良かった。

ちなみに強化の為の素材はナギのアイテムBOXからこっそり拝借してきた。沢山あったので少しぐらい使っても気付かれないだろう。同族の素材を見るのは少々心が痛んだが。

 

こうして強化を任せ、タマモは加工屋を後にした。これから何処に行こうか考えていると、不意に自分の着ているミツネsフォールドの裾が何者かに引っ張られていることに気付く。振り返ってみると、そこには薄水色の毛並みをしたアイルーがちょこんと立っていた。

 

「…っ!」

 

その可愛さに思わず息を呑む。抱いて撫でて高い高いしてあげようと思ったが、律儀に一礼して喋り始めたので手を止めた。

 

「いきなり申し訳ないですニャ。ボクはこの村の案内をしているアイルー、サジと申しますニャ。察するに、この村はあまり来たことがないとお見受けしますニャ。なので案内をして差し上げますニャ~」

「よ、良いのか?」

「はいですニャ。この村の魅力を、余すところなくお教えしますニャ。」

「そ、そうか…なら、宜しく頼む。」

 

こんな可愛いアイルーに村を案内してもらえるのだ、タマモは二つ返事で承諾した。尤も始めから断る気も無かったが。

 

「じゃあ、始めはこの商店街からですニャ。観光のキホンは、やっぱ食ですニャ~!」

 

元気よく走り出す水色の背中を見て、タマモの足も少し速まったのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「どうでしたかニャ?」

「うむ、最高だった…」

 

村の中心を貫く石段を上りながら話す一人と一匹。商店街では、雑貨屋や素材屋の他にもかなりの数の料理店が軒を連ねていた。

その中の何件かをサジと共に回り、少し雑貨屋を見て戻ってきた。やはり人間の作る食べ物は旨い。前に四日間程食べていなかったので尚更だ。

惜しむらくはエメル達と出会えなかった事だろうか。

 

 

「さて…最後は、あそこですニャ」

 

サジがビシッと指差す先は、村の一番奥に鎮座する他のより一回り大きい建物だった。

 

「前から気になってはいたのだが…何なのだアレは?」

「あの建物こそが、ユクモ村が誇る温泉!まぁ集会浴場ですニャ。」

「む、あの建物だったのか…」

 

前からユクモ村に温泉がある事は知っていたが、まさかあんなに巨大だとは。もっとひっそりと湧き出る秘湯のようなものをイメージしていた。

 

「ささ、最後は温泉に浸かって旅とか歩き回った疲れを癒しますニャ。その後は厳選されたドリンクが冷えて待ってますニャ。心ウキウキワクワクですニャ~」

「ほう…なら行こうか。」

「了解ですニャ!」

 

これ以上飲み食いするのもアレだとは思うが、満喫する為にも気にしない事にした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「…?これはどうすればいいのだ…?」

 

タマモは今、集会浴場の脱衣場に居た。勿論女性の。

どうやらここは混浴で、ユアミなるものを着用してから風呂に入る決まりらしい。が、肝心のユアミの付け方が分からず苦戦中なのだ。

 

「ここをこう結べば…?むぅ、違う…」

「タマモさん、結べましたかニャ?」

「いや、何処をどうすれば良いのか分からなくてな…」

「それなら、今がチャンスですニャ。浴場に誰もいないうちにゆっくりするのですニャ。」

「それもそうか…ならば入るとしよう。」

 

そう言い湯船に向かい足を浸けると、実にいい感じの湯加減だった。熱くもなく温すぎなく…こういうのを「適温」と言うんだったか。

 

「ニャ~、やっぱいつ来てもいい湯ですニャ…」

 

気持ち良さそうな顔をしながら肩まで浸かるサジ。そんな姿を見ているとちょっと意地悪したくなる。お湯をチャプッと掛けてやると「何するんですかニャ~。」と言う。あぁ…可愛い……。

しばらくサジと戯れながら絶景を眺めていると、自分達の他にも人が入ってきた事に気づく。タマモは今の姿を見られるのはマズいと思い、必然的に湯船の奥へと移動する。そして声の大きさを落としてサジに話しかけた。

 

「悪いがユアミを着せてくれぬか…?着用の仕方が分からんのだ…って何でアイツこちらに来るっ!?」

「別にいいですけどニャガボォッ!?」

 

まずい。近付いてきたから動揺してサジを湯船の中に沈めてしまった。いや、寄ってくるならまだ平常心を保てたが、その前に呼び掛けられた声が物凄く聞き覚えのある声だったのだ。

もう壁伝いに逃げようと思って後ずさった時、急に風が吹き込んだ。それまで充満していた湯気が殆ど吹き飛び、タマモのボディラインが明らかになる。

 

湯気の向こうに立っていたのは誰であろう、やはりナギだった。その瞬間、彼女は手元にあった檜の桶をひっ掴み、体を捻って思いっきり投擲した。

ナギの驚く顔が一瞬見え、遅れて盛大に水飛沫が飛び散る。

 

タマモが我にかえった時には、既にナギは湯船の中に倒れていたのであった。 

 

 

 

 

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