「ナギ、風呂で泳ぐのはどうかと思うぞ…?」
「はっ!?」
その一言でナギは目を覚ました。目線を上に遣ると、そこには美術品の彫刻のような体をしたイジスが立っていた。
「お、起きたか。ずっと倒れてたから溺れたのかと思ってたぜー」
「人を勝手に溺れさせるなよ…ってか、俺どうしたんだっけ…?」
ナギはあやふやな記憶を一つずつ思い出していく。確か風呂に入りに来た後、タマモを見つけて近寄ったのだ。しかし何か良くない琴線に触れてしまったのか、桶を投げられて……
そうだ、あいつに桶投げつけられたんだ。そしてその原因は多分彼女の上裸を目撃してしまったからだと思われる…
「…タマモは?」
「あいつだったらあっちの方で浸かってるぞ?」
「まだ入っているのかよ!?」
そう思い目を凝らして立ち込める湯気の奥を見てみると、確かにタマモと思しきシルエットが湯船に浸かっているのが分かる。その影はこちらが見ている事に気が付いたのか、お湯を掻き分けて近付いて来た。
「さ、先程はすまなかったな…」
タマモは少し俯き呟いた。頬がほんのり紅くなっているのは湯に浸かり過ぎたせいではないだろう。対面に一瞬身構えたが、今度はちゃんとユアミを着てくれていた。ナギはホッと胸をなで降ろす。
「いや、俺の不注意もあったけどいきなりは流石に驚いたよ…」
「あ、あれはその、反射的に…」
まぁその気持ちは分からなくはないが、桶を投げつけられるとは予想外であった。もっと穏便にやり過ごす方法はあっただろうに…
「ん、何の話だ?」
話の流れをぶった斬るようにしてイジスが割って入ってくる。ナギは話題転換の意味も兼ねてイジスにこう振った。
「何でもないよ。それより、何処の店を食い歩いて来たんだ?」
「ん?まあ目についた店は片っ端から回って来たぞ。特産タケノコとモスポークの甘辛和えとか、薬草粥のユクモ温泉卵とじとか…もう全部美味かったぜ~!ユクモ村っていいとこだなぁ!」
「お。おう…」
ナギは苦笑いする。それは食の観点に於いてのみ、だと思うのだが。それより、こんな大食漢と一緒に回っていたエメルは大丈夫なのだろうか。今頃苦しそうにしている気もするが。
「一緒にいたエメさんは大丈夫だったのかよ?」
「それなんだけどな、こーんぐらいの皿を、『やっぱり、お料理っていいですね~!』とか言って平らげてたから大丈夫なんじゃないか?」
イジスは今、俗に言う「大盛」ぐらいの皿のことを指したのだと思う。それを難なく平らげるとはエメルもコイツと同じく大食いなのかもしれない。正直ちょっと驚いた。やっぱり学者は頭を使うので、その分カロリー消費も激しいのだろうか。
「タマモは村を回ってみてどうだった?」
「私もそれなりに良い所だとは思った。村の人々は余所者の私にも暖かく接してくれるし、それに…優秀なガイドさんに案内してもらえたしな…」
「ガイド?」
「呼びましたかニャ―?」
そんな声と共に一匹のアイルーが湯船から顔を出す。これがそのガイドとやらなのだろうか。
「申し遅れましたニャ、ボクはタマモさんの村観光案内をしているアイルー、サジという者ですニャ。どうぞ宜しくですニャ。」
「へぇ、観光ガイドアイル―って本当に居たんだな…」
サジはそう言われてエッヘンと胸を張る。ナギも噂でしか聞いた事が無かったが、まさか自分の村に居るとは思わなかった。
少し話を聞きたいと思ったが、それはタマモによって制されてしまう。
「ずっと浸かっていて苦しかったろう?なでなでしてやる~」
「や、やめて下さいニャ~」
そう言いながらまんざらでもない様子で撫でられるサジ。そういやタマモってアイル―好きなんだったっけな…
満足げな表情でサジを撫でくりまわしていたタマモだが、ふと思い出したようにイジスに問いかける。
「ところで青果店で何かの果汁ジュ―スを飲んだのだが…イジス達も飲んだのか?」
「あ―、飲んだ飲んだ!アレ旨いよなぁ!俺なんか4つも飲んじまったぜー!」
「流石に飲み過ぎだろうが。私もこの後もう一杯買って行こうかな…」
暫く二人の会話を聞いていたが、体が火照って来たのでそろそろ温泉から上がることにする。
「俺はもう上がるけど、二人はどうする?」
「私もそろそろ出る。いい湯だったのでちょっと名残惜しくはあるがな…」
「先に行ってて貰っていいぞ。俺はもうちょい浸かってくぜ~。」
という事でイジスを残しナギとタマモはそれぞれの脱衣所へと入って行った。防具を再び着込みながら、ナギはこれからどうしたものかと考える。
イジスとエメルは暫くこの村に滞在するらしいからそれでいいだろう。だがタマモはどうなるのだろうか。今の所はナギの家に住み込んでいる形になっているが、同居人を養えるほどナギの稼ぎは多くない。いつかは家を見つけてもらう羽目になるだろう。
そんな事を考えていると、隣接している女性の脱衣所から何やら話し声が聞こえてきた。ここは通気の為だか知らないが天井と壁の上の所に隙間が空いているので、時折向こう側の音が聞こえたりするのだ。別に差し支えはないが。
「ちょっ、そこを触るのか…」
「触るワケではないですが、ここ引っ張んないとユアミがほどけないんですニャ…」
「なっ、そこは…ちょっと待て。一旦その手を止めろ…」
「でもこうした方が早いですニャ。えいっ」
「うひゃあっ!な、何をする!?」
…前言撤回。差し支えありまくりである。傍から聞いてると完全に勘違いされそうな内容だ。それも少しだけなら我慢できるが、「あっ…」だの「ふえっ…」だの着替えるだけなのにそんな声出るハズないだろと思うものまで混ざっている…
遂にナギの堪忍袋の緒も切れた。
「あの、お前らさぁ…そういうのは
脱衣所に、ナギの嬉しい悲鳴が木霊した。
◆◆◆
「全く、ここは公共の場だ…」
「うう、すまない…まさかあのような事が必要だとは…」
「そうやって誤解を招くような事を言うなって!」
今、二人は集会浴場から出て石段を下っている最中である。風呂上り緒後の醍醐味である温泉ドリンクは少し高めだったのでやめておいた。ハンターたる者、節約が大事だ。しかし、節約つながりで聞きたいことがある。
「ところでさぁ…その背中の双剣は、『つるぎたち研刃の切耶』だよなぁ?いつ強化したんだぁ~?」
ナギが尋ねると痛い所を突かれたらしく、タマモは明後日の方向へ目を逸らした。
「なっ…ゼニーは、自分のから出したぞ…?」
「素材は?」
「そっ、それは…… ナギのBOXからちょいと拝借を…」
「使ったんだな…?」
「うむ…すまない…」
「……まぁ、自分の武具を強くする目的なら俺はいいけどね。正直、レベル1辺りじゃ不安だったろ?」
「そうか、なら良かった…」
タマモの装備は近々強化してやろうと思っていたし、これで良かったのかもしれない。
石段を下り足湯の前まで行くと、聞き覚えのある声で話しかけられた。
「あ、いたいた~やっと見つけましたよ~」
振り向いてみると、そこにはやはりエメルがいた。まぁその独特の喋り方で誰かは一発で分かったが。
「あぁエメさん。何か用ですか?」
「さっきまで足湯の泉質調査をしてまして~、そこでお二人さんを見つけたので丁度良いかと~」
「足湯の調査って…」
「実は~ちょっと相談しようと思ってた事がありまして~…」
「む、何事だ?」
「はい、研究材料の件、なんですけどね~…」
この相談が、今後のタマモのハンター生活を揺るがす事になろうとは、思いもしなかったのだった。
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