泡狐竜と少女   作:佐渡山 創

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ざわめく森

「で、その材料がどうかしたんですか?」

 

エメルから相談を持ちかけれたナギ達は茶屋に来ていた。別に立ち話でも良かったのだが、「そういう訳にはいきませんよ~」とここに通されたのだ。そんなに大事な話なのだろうか。

彼女は茶を一口啜って喋りだす。

 

「前に、ユクモ地方の素材が研究に必要だと言う事は話しましたよね~?それで村の皆さんに色々聞いて回った結果、『ユクモの堅木』が最適だと思いまして~…」

「それを私達に採集してきて欲しい、と?」

「いえ、今回は私も同行します~。当初は一人で行こうと思っていたのですけれど、大勢で集めた方が多く取れそうなのでお二人に協力を求めた次第です~。」

 

ナギはなるほどと思い納得した。ユクモの堅木の採集程度ならすぐ終わるだろう。それにエメルの言う通り、一人よりも多人数で行った方が採集の効率は上がると思う。

しかし、ナギには一つ引っ掛かる事があった。

 

「ハンターではない龍歴院の研究員が、フィールドに立ち入って大丈夫なんですか?」

 

基本的にハンターとモンスターの生態を観測する気球以外は、安全と生態系をみだりに乱されるのを防ぐためフィールドへの立ち入りは禁止になっているはずだ。その事を問うと、彼女はこう答えた。

 

「あれ、言ってませんでしたっけ?私達研究員は狩猟や素材の採集も行う為に、ハンターも兼任している事が多いんです~。勿論私もハンターですよ~」

「そ、そうだったのか…!?」

「いや、初耳ですよ…というかエメさん、ハンターってイメージが無いんですが…」

「失礼な~、私はこれでも多少は自分の腕に自信があるんですよ~?」

 

エメルはぷぅ、と少し頬を膨らませながら答える。初めて会った時から感じていたマイペースな雰囲気と、自分達のようなハンターという職業が結び付かなかったから驚いたのだ。

というか、同業者なら何でジンオウガ狩猟の時に付いて来なかった。研究が忙しかったのだろうか。

しかし、意外な人がハンターやってるもんだなぁ…人は見た目に依らないという事だろう。

 

「素材を採りに行くと言っても採集ツアーですので、時間はそんなに掛からないかと思います~。」

「そうですよね。俺はいいけど、タマモはどうする?」

「私も付いて行く。少し前から実家が恋しくなっていたし…久々に渓流を回りたいからな。」

「そっか。なら、俺らも同行させてもらいます。」

「助かります~。では、すぐ行きましょ~う!」

 

エメルは二人の手を引き茶屋を出る。こうしてナギ達はユクモの堅木の採集に付き合う事となった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

三人は予定通り渓流に到着し、準備を進めていた。とは言っても採集のみなので、狩りをする時程入念な準備は要らない。使うかは分からないが、ナギは一応ピッケルを持ってきた。

 

「ふぁぁ~、ここはすごい景色ですね~…」

 

エメルが遠方に見える山々を指しながら呟く。きっと初めて訪れた渓流からの眺めに感動しているのであろう。

 

「あの山なんか、巨大なモンスターの牙の化石みたいですね~!一度研究してみたいです~。」

 

…どうやら違ったようで、彼女の眼を通すと山すらも研究対象として見えるらしい。職業病かよ。

 

そんな彼女でも準備はしっかりしており、ナギの見たことのない装備をしていた。名を「龍歴士シリーズ」と言うその防具は白いマントのような物を羽織り、所々化石を模している鎧が付けられている。さながら白衣のようで、学者である彼女にはぴったりだろう。

武器は片手剣の「歴耀剣クレテシア」で、灰と藍の色彩が目を引く。ナギが駆け出しの頃支給されたベルダ―ソードの最終強化らしい。

これらのことから、生半可な実力ではない事が伺える。やっぱり見た目によらず凄いハンターなのかも知れない。

 

「ところで、堅木はどのエリアから採れるんですか~?」

「私の知っている範囲ではエリア5、4の倒木から採集できるらしいが、他の所からも取れるかも知れんな…」

「タマモさん、よく知っていますね~」

「まぁ、少し前まで住んでいたからな。」

「やっぱり────でしたか~…」

「…?何か言ったか?」

「いえ、独り言です~。」

 

エメルの呟きを訝しがるタマモ。ナギも何を呟いたのか気になったが、二人共準備は出来ていたのでそろそろ行こうと促す。ナギは二人に声を掛け、一行はベースキャンプを後にした。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

三人はエリア1、2、3を抜けてエリア9に来ていた。ここはユクモの堅木が採集…もとい、剥ぎ取れるエリアで、ベースキャンプから近かったので始めに訪れた。途中のエリア3でタマモがアイル―の皆さんと戯れていた分少し時間を食ったが、さしたる問題ではない。

 

「う~ん、大量大量!皆さんはどうですか~?」

「私は3つ剥ぎ取れた。ナギはどうだ?」

「俺は2つかな。1つユクモの木だったから。」

「首尾は上々~、でも、このエリアからはもう取れなさそうですね~。」

 

まずはユクモの堅木をトータルで9つ採集できた。いくつ必要なのかは分からないが、なるべく耐久性がありそうな部分を選んで剥ぎ取った方が良さそうだ。

これ以上このエリアに用は無いので、ナギ達はエリア5へと向かうべく、南側に口を開けている洞窟の中へと入っていく。

 

 

「私もこのエリアには訪れた事が無かったが…こんなに美しい所だったのだな。」

 

タマモはそびえ立つ石筍や淡い黄金色に輝く洞窟奥部を眺めながら呟いた。この景色はナギも初めて訪れた時に圧倒されたものだ。エメルも同じように景色に感動するかと思ったのだが。

 

「おぉ…カブレライト鉱石に…これは太古の塊じゃないですか~!ナギさん、ピッケルありがとうございます~!使い切っちゃいましたけどね~」

 

彼女は景色に目もくれず、洞窟内の採掘ポイントを巡り掘り出された鉱石類に目を輝かせていた。

…そんなに掘りたいなら火山にでも籠ったらどうですか。まぁ、もし連れて行ったら戻って来なくなりそうなので止めておこう。

 

「いや~、良い研究材料が取れました~。そろそろ次行きますか~。」

「はは…」

「それは良かったですね…」

 

半ば引きぎみに言うナギとタマモ。学者として研究熱心なのは良い事だが、それに没頭し過ぎて本来の目的を忘れないか心配だった。

 

 

 

 

 

それからナギ達は順調に足を進めていき、今はエリア5にて採集を終えた。

 

「よし、こんなもんかな…」

「終わったか?なら次のエリアに向かうか。」

「そうだな…って、エメさんは?」

「彼女なら、あっちで何かしているみたいだが…」

 

見ると、タマモの言う通りエメルはエリア6の入り口付近をうろついていた。始めはキノコでも探しているのだろうと思ったが、何故か必要以上に辺りをキョロキョロと見回し、まるで何かに警戒しているようである。

ナギは近づいて声を掛ける。

 

「エメさん、どうかしたんですか?」

「えっと、あの~…そろそろ採集をやめて、帰りませんか~?」

「へ?まだ次のエリアもありますけど…?」

「と、とにかく!採集は切り上げて、さぁ帰りましょう~!」

 

いきなり帰ろうと言い出すエメル。彼女のこういう気まぐれな言動は何回か経験してきたが、今回は少しばかり強引な気もする。

 

「うーん…そこまで言うのなら…タマモ、切り上げるか?」

「私は別に構わんが………っ!?」

 

タマモに意見を求めようとした時、彼女の目が大きく見開かれた。その視線は、自分の後ろを見据えている。異変に気づき、背後を向こうとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

ナギの身体に、衝撃が走った。

そのまま横に思い切り吹っ飛ばされ、木の切り株に全身を叩き付けられる。骨が軋み、肺の中の空気が一気に吐き出された。

 

「がっ!?」

「ナギっ!」

「ナギさん!?」

 

タマモとエメルの驚愕の声が聞こえて来るが、そんな事は気にしてられない。何者だ。一体何が、ナギを襲ったのだ。

意識を必死に保ちつつ、さっきまでナギが居た所に目を遣ると。

 

「タマミツネ…」

 

ナギを襲ったのは、紛れもなくタマミツネだった。しかも、頭部と尻尾に何やら黒い障気を纏っている。

 

突然のモンスター登場に二人は面食らっており、その場に立ち尽くしていた。しかしタマモは気持ちを切り替え、背中のつるぎたち研刃の切耶を引き抜きながら泡狐竜に向かって駆け出す。

 

「いきなり奇襲とは、卑怯にも程があるだろう!」

 

タマモは双剣を振り回しながら言った。だがそんな彼女の奮闘空しく、泡狐竜はナギに狙いを定め、華麗な身のこなしで一気に肉迫してくる。

逃げようと思ったが体が言う事を利かない。先程の一撃で、体力を半分以上奪われてしまったようだ。

泡狐竜の尻尾が、一段と赤黒く輝きながら降り下ろされた瞬間──。

 

 

ナギの意識は、そこで途切れた。

 

 

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