泡狐竜と少女   作:佐渡山 創

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柔能く剛能く狩人らを制す

「タマモさんが…………武器も持たずに、渓流へ狩猟に行ってしまわれたんです!」

『……っ!』

 

その言葉を聞いた瞬間、ナギ達に動揺と緊張が走る。しかし、この文言だけでは状況が掴めない。ナギは一呼吸して心を落ち着かせると、今一度コノハに問い直した。

 

「タマモが一人で狩りに……という事は、獰猛化タマミツネが出現したんですか?」

「はい、実は今朝、渓流周辺の村から『泡狐竜がもたらす被害は思ったより大きい。物流にも影響が出ているので、早急に狩猟願う』と依頼が入ったんです。」

「そんなに影響が…」

「ふむぅ…そこまで事態が大きいのは~、タマミツネは獰猛化の影響で好戦的になっている為だと推測されますね~…」

 

エメルも会話に参加し、学者らしい意見を述べる。ナギも確かにその通りだと思うし、小さい村ならその分受ける被害も甚大なのだろう。

だが、問題はそれだけではなかった。

 

「タマモ…あいつ、武器も持たずに狩りに行ったのか…」

「そうなんです。私がタマミツネ討伐の依頼が入っている事を告げるやいなや、慌てて集会浴場を飛び出して行ってしまって…。」

 

ナギは部屋の一角を見る。そこには、彼女の武器であるつるぎたち研刃の切耶が綺麗に立て掛けられていた。

元がモンスターとはいえ、今は生身の人間である。何も持たずに狩り場へ出るというのは危険な行為であり、命の保証すらないかもしれない。タマモの事は、早急に手を打たねばならない状況だった。

 

「とっ、とにかくナギさん達は準備をして、早く渓流に向かって下さい。依頼書は私が手配しておきますので!」

 

コノハは集会浴場へ駆け戻っていき、再び残される3人。

 

「武器も持ってねぇって、何をそんなに慌ててたんだ?」

「タマモさん、大丈夫なんでしょうか~…」

「今は大事に至らない事を祈るしかないな。コノハさんに言われた通り、タマモを捜しに早く渓流に向かおう、二人とも。」

「おう、了解したぜ!」

「わかりました~」

 

イジスとエメルにそう呼び掛け、早速準備に取りかかる。

 

程なくして準備を終えた後、各々の装備に身を纏った二人を連れて家を出ようとしたが、再び、壁に掛けられたタマモの双剣が目に留まった。

 

 

彼女の双剣は鍔も刀身もピカピカに磨き上げられており、手入れが丹念に行き届いている事を物語っている。

 

「……無事であってくれよ。タマモ…。」

 

ナギは双剣を布で丁寧に包んで荷袋に入れると、タマモの無事を祈りながら渓流に向かった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「おー、ここが渓流かぁ。綺麗な所だな~」

 

ガーグァが牽いてきた荷車から降りると同時に、イジスがそんな感想をもらす。そういえばこいつは渓流に来るのは初めてだったのかと、ナギは思った。

 

「自然に関心を持つのはいいが、今はそれどころじゃないだろ。タマモを捜さないと。」

「渓流はエリアの数からしてそんなに広くはないのですが~、どこか安全な場所にいると良いですね~。」

 

エメルが地図に赤丸を付けながらそう言う。

今はタマモが居そうなエリアに目星を付けながら、獰猛化タマミツネを狩猟する作戦を考えている最中だった。今回の依頼では、獰猛化タマミツネの狩猟とタマモの捜索の両方をこなさなければならないのだ。

 

「どうです、目星は付きましたか?」

「うーん……中心部の雑木林周辺か、その隣のエリア4が気になりますね~。まぁ、一番近いエリア4から5、6と回っていきましょうか~。」

 

エメルが巡回ルートを提示してくれたので、二人はそれに従う。まずはエリア4からだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

渓流のエリア4は元々小さな集落だったらしく、傾いた家屋や井戸、遠方に見える棚田の跡から人が住んでいた事が分かる。しかし長年このままの状態だからか、まるで時が止まっているかのようだった。

ここには廃屋もあるので、ひょっとしたらタマモが身を潜めているかもしれない。ナギ達はそれらを覗いて見回り、姿を捜し始めた。

だが結局見つからず、三人は顔を合わせる。

 

「タマモ……一体どこに居るんだろう…」

「こんだけ捜しても居ないって事は、別のエリアで隠れてるんじゃねえか?」

「そうですね~。そこで上手くモンスターをやり過ごせていると良いのですが~……」

「じゃあ、エリア5に行きますか…」

 

ナギが次のエリアに向かおうとすると、ふと、視界の端に異様な光景が飛び込んできた。

ある所だけ地面が黒く焦げており、そこがすり鉢状に抉られている。その中心には、鋭角的な何かが深々と突き立っていた。

 

 

「二人とも、あれ、何なんだ……?」

「あ?…何か刺さってんぞ?」

「ホントですね~。ちょっと気になるので見てきます~!」

 

エメルはそう言って謎の物体の方へ駆け出していき、それを調べ始める。

 

 

その時だった。エリア7の方向から、件のタマミツネが姿を見せた。獰猛化の影響か気が立っているらしく、近くにいたエメルを見つけるなり尻尾を振り上げ襲い掛かろうとしている。彼女は採集に集中しており、背中ががら空きだった。

 

「エメさんっ、危ない!」

「…っ!」

 

ナギがそう叫んだと同時に、イジスが駆け出す。そして泡狐竜とエメルの間に走り込むと彼女を庇うようにして盾を構え、間一髪で攻撃を防ぎ切った。

 

「大丈夫かっ、エメル!」

「あ…っ、ありがとうございます~…」

 

攻撃が防がれるとは思っていなかったのか泡狐竜はグルルと唸り、身を翻して三人の前に着地する。

そのヒレは、すでに紅に染まっていた。

 

「もう怒ったのか!?」

「いきなり戦闘かよっ!」

「じ、刃薬の準備が~…」

 

イジスとエメルはいきなり戦闘に突入した事に面食らっていたが、泡狐竜は待ってはくれない。次にナギに狙いを定め、懲りずにもう一度尻尾を振りかざしてきた。

それをジャスト回避で迎え撃つナギだが、タイミングが早すぎた。尻尾が赤黒く煌めき、一拍置いて攻撃されたからだ。

 

「ぐぁっ!」 

「ナギさん!」

 

それをまともに喰らい、堪らず吹っ飛ばされる。二回目でもやはり痛い。早急に回復しなければ、この前みたいにやられてしまう…。頭では分かっていても、体がいう事を聞かなかった。

 

遠くから、泡を纏いながら突っ込んで来る泡狐竜が見える。開幕早々、ここまでかと思った矢先。

 

 

エメルが、ナギの体を抱きながらきりもみ回避で戦線から離脱、泡狐竜の突進を紙一重の所で避けた。狩技の一つ、絶対回避だ。

 

「ナギさん、大丈夫ですか!」

「ありがとうございます、エメさん…。」

「こういう時のための、絶対回避ですから!」

 

エメルのお陰で何とか力尽きずに済んだので、冷静になり回復薬グレートを飲みながら今の状況を確認する。

イジスは標的を見失った泡狐竜の背中に乗っており、エメルは会心の刃薬を塗り斬撃を与えていた。

 

「うぉっ、よく暴れんなぁ!」

 

泡狐竜は背中のハンターを振り落とさんと機敏に動き回る。

迂闊に近付くとナギも巻き込まれるので乗りを成功させるのは難しいかと思われたが、何とか泡狐竜からダウンを奪った。

練気の色を上げたいが、ダウン中は思うようにジャスト回避ができない。なので、ナギはイジスにこう呼び掛けた。

 

「俺を撃て、イジス!」

「毎度毎度、乱暴な方法だなぁ!」

 

長い時間狩りを共にしてきた間柄、その意図はすぐ伝わったらしい。ナギはガンランスの砲撃をジャスト回避すると泡狐竜に駆け寄り、一文字斬り、続いて気刃無双斬りとお決まりのコンボを決める。

 

「いい連携ですね~、私も負けてられません!」

 

エメルはそう言いながら、ダウン復帰した泡狐竜を更に拘束すべく落とし穴を仕掛けていた。しかしこれだけだと避けられてしまうので、角笛を吹いて自分に注意を向ける事も忘れない。

 

ナギとイジスは二手に別れ、罠に誘い込もうとエメルの元へ。泡狐竜は見事に、策略と落とし穴に嵌まった。

 

「これが、痛手になればいいのですが~…」

 

泡狐竜の前に立ち、青い滅気の刃薬を歴曜剣クレテシアに塗りたくるエメル。次の瞬間、一歩後ろに下がり、頭へと狙いを付けて突進斬りを繰り出し…

 

そのままの勢いで、盾を天に衝き上げた。

 

エメルが使ったのは「昇竜撃」という片手剣専用の狩技で、上手く頭に当てれば気絶を狙えるという大技だ。オーラを纏って泡狐竜の頭を揺さぶる様は、まさに天に昇る竜の如し。そして、その勢いは止まらない。

更に追撃を見舞うべく、盾を下に向けて上から叩きつける形でフィニッシュを決める。バキィン、と小気味のいい音が3回し、頭部のヒレが砕け散る。泡狐竜は呻きながら頭を地面に垂れた。

 

「おぉっ、すげーよエメル!」

 

感嘆しながら、嬉々として竜撃砲を撃ち込むイジス。ナギもエメルの効果的なアイテムの使い方、そして狩技を的確に当てる腕に舌を巻くばかりだった。

このまま行けば泡狐竜を退け、タマモの捜索に戻れる。

そう思っているが、ナギには引っ掛かる点が二つあった。

 

 

一つ目は、なぜ自分達と遭遇してからすぐに怒りだしたのか。

これは獰猛化の影響と考える事も出来る。しかし、ナギ達は出会った時点で、泡狐竜よりも先に攻撃を仕掛けていない。よって、これは少し不可解なのだ。

 

二つ目は、こうもあっさり頭部のヒレ破壊が出来たという事だ。泡狐竜の頭部は耐久性が高く、破壊の仕方は二段階に分けられる。いくら昇竜撃といえ、破壊出来ても裂け目が入る程度であり、今のように一発でヒレが砕け散るのはおかしい。

 

以上の二つの出来事を鑑みるに、この泡狐竜は「自分達と遭遇する前、何者かと戦っていた」とナギは思う。もしこれが本当ならば、この渓流にもう一体、大型モンスターがいる事となる。

水獣か、青熊獣か。あるいは雷狼竜か。

この仮説を皆と共有したいが未だに戦闘中であり、そのような隙はない。

一旦退くべきか、と考えていた時、その予想は見事に的中する事となる。

 

 

「おいっ、ナギ!もう一体何か来たぞ!?」

「どうします、ナギさん!」

「やっぱりそうか。このままじゃ、どんどん厄介になっていく…ぞ……」

 

やってきた「何か」を見て、ナギは絶句した。

 

 

 

それは、タマミツネのようだった。

唯一、決定的な違いを挙げるとすれば、人の形をしているという事。二の腕から先は泡狐竜の腕のような形で、長細く、それでいて鋭い爪が生えているのが分かる。

何より目を惹くのは、その尻尾。いつも結んでいたサイドテールが、そのまま根元から泡狐竜の尻尾にすげ替わっていた。特徴的なヒレが見受けられないのは、雌だからであろう。

 

容姿、体格、髪の色、その他全てが、ナギの知っている人物と一致する。

 

 

「…………見つけた。」

 

 

 

 

先程まで戦っていた泡狐竜と寸分違わぬ眼光で、こちらを見据えるタマモの姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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