泡狐竜と少女   作:佐渡山 創

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ハンターと少女

渓流のエリア6、先程まで相対していた泡狐竜が、突如人間と化した。

事実はこれだけ。しかし状況が飲み込めない。

目の前の少女の寝顔を黙って見つめているというのもアレなので、まずは声を掛けてみる。

 

「お~い、起きろよ~…」

 

大声、というよりは消え入りそうな声で、ましてや通じるかも分からない人間の言語だ。まぁ起きないだろう。

しかしそんな予想とは裏腹に、目の前の少女はゆっくりと体を起こした。寝起きらしいので今朝方のナギのように焦点の合わない目を動かし、あちらさんも状況認識を始めたようだ。

だが、自分と目が合った途端、急に後ずさる。思い切り後ろに重心を傾けたせいかナギとの距離はそんなに離れず、少女はその場で尻餅を付いた。

 

「なななななな、何だ貴様はぁ!?」

 

まぁそりゃ警戒されるでしょう。さっきまで命狙ってたんだから。それよりも元モンスターのくせにこちら側の言語が喋れるのはどういうことか。あまり深く触れない方が良さそうだ。

とりあえず怯えてる相手を落ち着かせるべく、背中のたまのをの絶刀の斬振を地面に置いてなだめる。

 

「大丈夫だよっ、もう狙ってないから!」

 

言葉の調子から自分もこの不可思議な状況に焦っているのが分かるが、そんな風になだめたせいか相手の疑いを更に深める。

 

「そんなはずがなかろう!貴様は本気で私を殺しにかかろうとしてたではないか!」

「いや、捕獲だから絶命はしないよっ!って、そうじゃなくて~…」

 

先程から何一つ相手の不安を和らげるような事ができていない。いくら冷静なハンターとはいえ、人間化したモンスターをなだめる術なぞ知るはずがないだろう。

しかしナギの真剣な眼を見て察したのか、少女は強張っていた顔の力を少し抜いた。

 

「……まだ信じがたいが、もう貴様に敵意はないのだろう?分かったから落ち着け。」

 

本来なだめる側なのに逆になだめられてしまった。かなり居心地が悪いが、まぁ結果オーライだろう。

ところで、ここまで言い合っていて服装の問題をすっかり忘れていた。あちらは特に気にしていないようだが、ナギは慌てて後ろを向いて持ってきていた防寒対策の毛布を投げつけるように渡す。ハンターたる者準備が肝心だ。

 

「まず話す前にこれ羽織ってっ!目のやり場に困るから…」

「私はこのままでも構わんが…何か変な物とかつけてないだろうな…?」

「付けてないから羽織ってよ。話ができないから…」

「むぅ、少し肌触りが…まぁいい。」

 

毛布貸されておいて触り心地が云々とは随分注文の多い奴だな、と思ったがコイツは元泡狐竜なので毛並に関しては人一倍うるさいのだろう。人ではなくモンスターだが。

 

「ここで話すのもアレだからとりあえずベースキャンプに行こう。付いてきて」

「貴様に従う筋合いはない」

 

と言いながらも距離を置いて付いてきているので、あちらも一人残される訳にはいかないのだろう。いきなり人間になって混乱しているだろうし。

こうして毛布を羽織った元泡狐竜の少女と、それを捕獲しようとしたハンターは、一路ベースキャンプへ向かって歩き出した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

エリア6を抜け、ナギと少女はエリア2に居た。やはり変わらず何頭かジャギイがうろついている。足音を忍ばせ通り抜けようとするが、モンスターの感覚の鋭さには勝てず、1頭が気付きこちらに向かって吼え、他の仲間も同調するように吼えだした。

 

「ひゃっ!な、何だ貴様らはぁ!?」

 

それは自分ではなく全てあの少女に向いているらしかった。元が泡狐竜なのでジャギイ達も警戒してるのだろうが、少女も怯えており…

……怯えている?

 

「ちょっと待て、その理屈おかしくない!?」

 

本来大型モンスターの泡狐竜であるはずのあの少女が、ジャギイ如きに怯えるなどあり得ないだろうに。

ナギがたまのをの絶刀の斬振の刃を光らせると、ジャギイ達は委縮して巣穴に戻って行った。そして何故か件の少女も、

 

「ひ、ひゃあっ!」

 

と叫び涙目でエリア3へ一目散に走っていってしまった。しかしベースキャンプのあるエリア1方面とは真逆であり、慌てて呼び止める。

 

「ちょっ、そっち道違うってー!」

 

しかし時既に遅し。もう少女の姿は見えなくなっていたので、ナギは呼び戻すべくエリア3へと足を運んだ。

 

 

 

エリア3は所謂アイルーの巣だ。彼らも人間程ではないがそれなりに社会や物流があり、その集まりである巣に来るとたまにアイテムが拾えるとか拾えないとか…

しかし今はお宝探しをしている場合ではない。少女を見つけ出すべく辺りを見回すと、竹藪の影に隠れているモンスターの影…もとい人影に目が付く。たぶんあそこに居るのだろうと、ナギが近寄ってみると。

 

ンニャー、ニャア

 

「よしよし… あっ、ここにもいたか。」

 

ウニャ?

 

「かっ、可愛い…」

 

少女は、アイルーの中心に居座り、一匹ずつ撫でたり抱っこしたりしていた。そんな光景を見ているとこちらまで癒されてしまいそうだが、とりあえず声を掛ける。

 

「何してるんだ?」

「巣に持ち帰りたい…はぅ……なっ!?」

 

沈黙が、二人の間を満たした。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「まさかアイルー好きだったとは…言ってくれりゃあ連れてったのに」

「うっ、うるさいうるさい!たまたま移動した先で見つけただけだ!」

 

ナギ達はエリア1の滝の前を歩きながらそんな会話をしていた。

確かにナギもアイルーは好きだ。あの愛くるしい顔と行動を見ているとぎゅっと抱きしめたくはなる。少女の気持ちは分からなくもない。

 

「ま、俺もアイルー好きだし、いいじゃん。」

「貴様と一緒にするな。私は魚でも持っていないかと思っただけだ。」

 

頑なに否定するらしい。素直じゃない奴だ。

などと思っているとじきにベースキャンプへと続く道が見えてきた。今度は迷ってもらっては困るので、ナギは少女に念を押す。

 

「いいか、ベースキャンプは右の道だからな?反対側行くと迷うぞ」

「言われなくとも分かっている。」

「なんで分かるんだよ?」

「右の方面から人間の生活している気配がする。まぁ拠点だろうとは思ったがな。」

「襲撃されなくて良かったよ…」

 

そう思い頭を抱える。もしベースキャンプの位置が分かっていたのなら、襲撃されないのは単なる運だったのだろうか。

 

「ま、この際どうでもいいか…」

 

ナギは何故か重い体を引きずりながら、愛しのベースキャンプへ帰ってきたのだと実感したのだった。

 

 

 

到着したベースキャンプは狩りに出る前と何一つ変わっていない。先程予想だにしない出来事があったせいか、妙に懐かしく感じた。

その出来事の中心である少女が支給品BOXの傍で辺りを見回して立っている。ベースキャンプはモンスターに襲撃されにくい所に設けられるので、元モンスターの彼女にとっては初めて見る光景だろう。

そのまま放ったらかしにしておく訳にもいかず、ベッドの脇に置いてあった荷袋から携帯食料を取り出し、少女に投げて渡す。

 

「ほら。腹減ってるだろうしまずはそれ食べて。」

「何だいきなり。まあ、いただきます…」

 

ベースキャンプに来るまでの道程である程度危害を加えるつもりはないと分かってくれたようだが、それでも疑いの念は抜けないらしく時折こちらを見ながら携帯食料を食べている。

 

まぁこっちも聞きたいことは山ほどあるし、元がモンスターなのだ。いつ襲ってくるとも限らないのでとりあえず話を訊くべくベッドの上から手招きをする。

そうして二人で車座になり、聞き取り調査開始。服などという気の利いた物は持ち合わせていないので、申し訳程度に毛布を前後に羽織ってもらった。

 

「とりあえず、名前とかって無いの?」

「名前か…我々は便宜的に泡狐竜と呼ばれてはいるようだが、特にこれといった物はない。」

 

まぁ、いきなり出て来て「名前は○○だ。」などと名乗られても驚きだ。無いと考える方が妥当なので、思い切ってこう切り出す。

 

「そうだ。名前、付けちゃてもいい?」

「…貴様が付けたいのなら好きにしろ。あまり酷いようだったらそれなりに覚悟しておけよ…?」

 

…なんか楽しまれているような気がする。あれか、堅苦しい言い回しとは裏腹に案外楽天家だったりするのだろうか。

 

と、ここで改めて件の少女を見やる。

長い髪は泡狐竜の毛と同じように濃い紫色を持ち、妖艶さを醸し出している。目は水玉(すいぎょく)のように鈍色に光っており、光が入る角度によって微妙にその色を変える。すっと整った顔立ちと体つきは人間で言えば間違いなく美人の部類に入るだろう。流石美しさを持つ泡狐竜なだけある。

まぁ、こんなことを考えていては名前が決まらないので思考を元に戻す。

 

「うーん、タマミツネ…タマミツネ…タマm… 『タマモ』なんてどう!?」

 

おっ、我ながらいい感じのが来た。グッジョブ、俺。

 

「『タマモ』か…即興にしてはいい名前だな。少々言いにくいが」

「褒めてんのかけなしてんのかどっちだよ…」

「まぁ、しばらくはこれでいくかな。ふふ、タマモか…」

 

なんだかんだで気に入ってるらしかった。

 

「うん。名前はこれでいいとして、これからどうするつもりなんだ?」

「ふむ…いきなりこのような体になって、まだ戸惑ってはいるが…勝手は分かってきたのでこのまま元に戻れる算段が見つかるまで待つしかないな。」

「やっぱり人間として生活すんのか?」

「そうするしかあるまい。こうなった以上、以前と同じ環境では身が持たんと思うのでな…」

 

確かにそうだろう。ハンターならともかく、普通の人間が自然に身を投げるようなものだ。危険にも程がある。

 

「んじゃまぁ、とりあえず帰るか?背ビレ破壊がサブターゲットだったから荷車呼べるし」

「そうさせていただこうか…貴様に付いていくのは癪だが、身寄りがないのでな…」

「癪は余計だ。ほら、呼んだからもう少しで来ると思うぞ」

 

そんな事を話していると程なくして、ギルド派遣のガーグァ荷車がやって来た。御車のアイルーは来た時一人だったのが二人になっていて目を丸くしていたが、泡狐竜の被害に遭ってたから救出した、という理由で搭乗を許可してもらう。

そうして諸々の出発の準備が完了し、荷車はゆっくりとユクモ村に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

揺れる荷車の中、ナギはもう一つ気になっていた疑問をタマモに投げかける。

 

「そういやさ、何で人間体が雌なんだ?ハンターが狩る個体は雄の方が圧倒的に多いらしいけど…」

「貴様は雄だけで繁殖が成り立つと思うか?本日対峙した個体がたまたま雌で、この私だっただけだ。」

 

言われてみれば頭部のヒレの大きさが通常と比べて若干小さかったような気がする。まだまだモンスターの生態は分からない事が多いのだろう。

 

 

荷車は夜の闇を裂くように走る。ユクモ村に着くのは夜明けになりそうだ。

 

 

 




何やかんやでナギに心を開いた少女…改めタマモ。さて、これからどうなる事やら…?

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