泡狐竜と少女   作:佐渡山 創

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龍歴院編
タマモ、ハンタ―になる


「よーっし、着いたな…」

 

ナギは飛行船の搭乗口から降りると少し伸びをした。天を仰ぐとと昨日の風雨はどこへやら、何処までも続く青い空が広がっていた。

乗っている時は遅れるかもと思ったがそんな事は無く、予定通りに航行していたようだ。

 

「うう…空を飛ぶというのは…結構大変なのだな…」

 

そんな事を思っていると遅れてタマモが降りてきた。顔色が悪い理由は陸上とは違い不安定な空の上で体調を崩した、つまり乗り物酔いをしたのだろう。

 

「案外乗り物に弱い、と…」

「だ、黙れ…」

 

しかしこのままだとハンター登録は愚かまともに行動する事すら難しいかもしれない。ナギはタマモを連れて近くにあった長椅子に腰掛けた。

 

「水飲めば少しはになるかもしれないから、これ飲んで…」

「あ、有難う…」

 

水を口に含んだタマモは幾らか楽になったようだった。徐々に元の血色を取り戻していき、もう一口飲むと今までのだるさが嘘だったかのように立ち上がった。軽い症状だったとはいえ、モンスターの超治癒力の片鱗を垣間見た気がした。

 

しかしいつまでも座っていては迷惑が掛かると思ったのでナギも立ち上がり、周囲の様子を窺う。ここは龍歴院なので周りはほとんど同業者しか居ないのだが、その人々の中に一際重厚な装備に身を包んだ男性ハンターを見つける。そのハンターはこちらを一瞥すると、重そうな装飾を物ともせずに走り寄ってきた。

 

「む、あれはハンター、なのか…?こっちに近付いてくるぞ…」

「あっ。あの装備…久しぶりだな、アイツと会うの…」

 

タマモの訝しげな問いかけを無視し一人で呟くナギ。やがて件の男がやって来た。

装備しているのは巨獣ことガムートの素材から作られたガムートsシリーズ。使用武器はガンランスで、今日はオストガロアの素材から鍛え上げられた極星銃槍ストリゲーツを背中に担いでいた。

その男はガムートsヘルムを取り、赤茶けた色の髪を出しながらナギと話し始める。

 

「よう、久しぶりじゃん。元気にしてた?」

「もちろんだ。いやぁー連日狩り続きで疲れたぜー」

 

言葉の割には笑顔で肩を回しながら話す男。こういう所はやっぱり変わってないなと思った。

 

「あの、ちょっと悪いのだがそちらの者は…」

 

案の定タマモを置いてきぼりにしていた。少し罪悪感を感じつつ、ナギは紹介の意味合いも兼ねてタマモに向き直った。

 

「こちらのハンターはイジス。俺の友達だ。」

 

ナギの紹介に合わせて同調したかのように頷くイジス。

 

「おうっ。宜しくな。んでこっちの小っちゃいのは誰だ?」

「こいつはタマモ。この間泡狐竜を狩りに行ったら倒れてたから村まで連れてきたんだ。ってか小さいってお前失礼だぞ…」

「はは、悪い悪い。まぁ何はともあれ宜しくなー。」

「む、宜しく頼む…」

 

タマモのことだから警戒するかもと思っていたがそうではなかったらしい。ファーストコンタクトは上々だ。

 

「そういや、何でナギはここに居んだ?」

「タマモのハンター登録をするために、はるばるユクモ村からやって来たんだよ。」

「お前、連絡取れないと思ったらユクモ村に居たのか。なら一報くれれば良かったのによー」

 

確かコイツにはユクモ村にいると手紙を送った筈だが、読んでいないのだろうか。あるいは封を切る前に捨てたか食ったのだろう。どちらにせよ、ちゃんと読んでほしいものである。

 

「んじゃあ俺はもう行くぜ。何日かはこっちに滞在するつもりだし、何かあったら声かけろよぉ。」

「おう、分かった。」

「さ―て、宿はどうすっかな~…」

「宿、取ってないのかよアイツ…」

 

暢気に鼻歌を歌いながら去っていく大きな背中を見送りながら、ナギは半ば呆れ気味に呟いた。

 

「あれが貴様の友達か。なかなか接しやすい奴だな。」

「ま、そこが長所でもあるんだけどな…」

「まぁ、もし貴様があそこまで軽ければ、私はもっと警戒していただろうな。」

「まだ俺でも信用されてないのかよ…」

「ふふ。まぁ良い。とりあえず登録とやらをしに向かおう。行くぞ、ナギ。」

「もうちょいゆっくりしてからの方が…あ、おい!」

 

ナギの事を無視して足早に龍歴院を目指すタマモ。彼女が自分の名前を初めて呼んだことに、ナギはまだ、気付かなかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「これで良し、っと」

 

ナギはペンをカウンターの上に置き、たった今署名した書類をもう一度見直した。そこにはハンター登録の旨とナギ、そしてタマモの名前が書かれていた。それを目の前に座っている職員に提出して、確認を仰ぐ。職員は素早くそれらに目を走らせ、こちらを向きこう言った。

 

「これでタマモさんのハンター登録は完了しました。これから頑張って下さい!」

 

 

ここは龍歴院の建物内部、その一角にあるカウンター。そこでナギはタマモがハンターとなるための手続きを行っていた。

 

本来ハンターとなるには訓練所である程度の実績を残し教官に認められ卒業し、そこから初めて下位ハンターからの扱いとなるのだが、今回の場合、タマモは筆記試験の時点で並の上位ハンターをも凌駕する程の知識を長々と書き連ねたらしいので特例により上位ハンターとしての登録が認められた、のだそうだ。

 

「うん、俺忘れかけてたけどお前元々『狩られる』対象だったんだよな…」

「当然だ。あんな試験、易しすぎて欠伸が出るほどだったからな」

 

必死に努力してやっとの思いでハンターになった新米を全否定するかのような言葉だった。訓練所は愚か、筆記試験で落とされる見習いも居るというのに。

 

「何はともあれ、無事に登録できて良かったな…ってそうだ、まず加工屋行こう。武具ってどうする気だ?」

 

目的地を加工屋に定め、そこへ向かって歩きながらタマモに話し掛ける。

 

「ぶぐ?何だそれは…」

 

この反応を見るに、装備をしないで狩りが務まると思っているらしい。

 

「まさかなんも装備せずにモンスターを狩る気じゃないだろうな…?」

 

ここまで指摘して、タマモはようやく自分の間違いに気付いたらしい。場を取り繕うように、赤面しながら大きな声で返す。

 

「あ、あぁ!ぶ、武具か。うむ、もちろん知っていたぞ。さぁ~てどうするかな~…」

 

目が泳いでいるのは指摘しないでおこう。

 

「まぁ、選択肢はこっちの都合で一つしかないんだけどね…」

「む。装備できるのなら何でも良いが…」

 

と、言っていたのだが。

 

 

 

 

 

 

「…何故貴様と同じ装備にせねばならんのだ…!」

「いや、こっちの都合でこれしか、ね…」

 

ただ今、タマモが装備しているのはミツネsシリーズ一式の剣士用。もう余裕を持って生産できる武具がこれしかないのだ。主に素材と予算の都合からして。

 

「…自分の肌触りに近いでしょ?だから妥協してくれないかな…?」

「むう、一応私と同じ泡狐竜の素材ではあるが…」

「もうこれでいいじゃん?ね?」

「まぁ、貴様がそこまで言うのならしばらくはこれでも…」

 

押しに勝ち、ナギは心の中でと快哉を叫んだ。これで懐事情も一安心だ。

ちなみに武器は双剣で、狐双刃アカツキノソラを選んだらしい。彼女曰く、「元の舞って狩るような感覚に最も近かったから」だそうだ。

 

 

そんなこんなで何とかタマモの装備も決まり、加工屋を後にするとそこにはイジスが落ち込んだ様子で立っていた。そして自分達の姿を捉えたのか、重そうな足取りでこっちへやって来る。

 

「どうしたイジス、何かあったのか?」

「うう、聞いてくれ…宿を…取り損ねちまったぁぁ!」

「はぁ!?だから早めに取っとけって言ったじゃんか!」

「いや、さっき取りに行こうとしたらお前らの姿を見つけて、その後行ったらどこも満室で…」

「あぁ、それで…何か悪いことしたな。で、なぜ俺達の所へきたのさ?」

「いや、その… お前らユクモ村へ帰るって言ってたじゃん?だったら俺も一緒にって…」

 

要するにこういう事だろう。行くあてがないから自分達と一緒にユクモ村へ連れてってくれ、という事か。

 

「…タマモ、どうする?」

「私は別に構わん。ただし、帰る時は陸路だがな…」

 

タマモは飛行船に弱いという事が判明したので、帰るときは荷車を呼ぶと事前に決めていたのだ。時間は掛かるが、この際仕方ないだろう。

 

「ん、じゃあ、仕方ないな…」

「本当か!?いやーありがとう!」

「ま、友の悩みだからね…」

 

悩んでいる時は、出来る限りその悩みを聞いてあげるのが友の役目だろう。尤も、それで尽くすとまではしないが。

 

「ならここにもう用は無いし、今からユクモ村まで行く、って事でいいな?」

「うむ…」

「おう。」

 

各々の方法で意見を肯定し、一つにまとまる。

 

「じゃあ荷車を…」

 

呼ぼう、としたその時、ナギが着ているミツネsアームが何者かに引っ張られるのを感じた。驚いて後ろを向くと、そこには龍歴院の制服を着た、研究者と思しき女性が立っていた。しかし背がナギより頭一つ分ぐらい小さく、制服のサイズが合ってない感があった。

それからその女性は、ゆっくりとした口調で喋り出す。

 

「あのぉ~、いきなりすいません~。もし良かったらでいいんですが~…」

「はい、何でしょう?」

「三人共~、私の研究に、付き合って頂けませんか~?」

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

このいきなり現れた女性が後に自分らに深く関わってくるとは、この時、ナギ達は知る由も無かった。 

 

 

 

 

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