泡狐竜と少女   作:佐渡山 創

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舞い込んだ依頼

「・・・・・・・・・はい?」

 

三人は声を合わせて驚く。これから帰ろうとしていた時にいきなり呼び止められ、しかも『研究に付き合ってくれ』と言われた。何があるのか知らないが、驚かない方がおかしいだろう。

突然の申し出に面食らっている三人を余所に、女性はまた語りだした。

 

「あ、『付き合う』というのは少々語弊がありましたね~。まぁ立ち話も何なので、とりあえず私の研究室まで来てください~」

「え?あ、はい…」

 

つい流れに乗ってokしてしまった。これからどうなるのだろう。少し逡巡した後、確認を仰ぐべく二人に問いかける。

 

「ど、どうする…?」

「むぅ…承諾してしまった以上、行くしかないだろうな…」

「お、おう…だな。」

 

いつもは能天気なイジスも珍しく戸惑っている。それもあの女性がマイペースな雰囲気だからだろうか。まぁここでずっとつっ立っているのもマズイと思うので、三人は急いで女性の背中を追いかける。小柄故か、そんなに追いつくのに時間は掛からなかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ちょっと汚いですけど、まぁくつろいで行って下さい~。」

 

通された研究室は少々薄暗いにせよ、あまり不快感はなかった。

研究台と思われる机を見やると、モンスターの爪や鱗の化石らしき物体が幾つか載っていた。その他にも本棚は研究用の書物みたいなものがギッシリ詰められている。これだけ見ると典型的な研究室だが、その中心で紅茶を淹れるべくいそいそと動き回る背の低い人影。傍から見たら子供が悪戯をしているようにも見える。

そんな光景を眺めていると、イジスが何やら話しかけて来た。

 

「なぁナギ…あの人、綺麗じゃね?」

「初対面でその直球感想はどうかと思うぞ…」

 

イジスに言われてついその人に目が行ってしまう。眠そうな半開きの碧眼にのんびりとした口調、子供のように小柄な体。それに見合った感じで肩の辺りまで伸ばした緑色のセミロングの髪。その先端は少しカールしている。俗に言う「ゆる何とか系」と言う感じの女性だ。

ここまで見ていてイジスの言う通り美人だと思う。恐らく龍歴院の中では少しは噂になっているだろう。

 

「まぁ、否定はしないけどな…あ、戻ってきた」

「お待たせしました~、こんな物しかありませんがどうぞ~。」

 

カップの中を見て、タマモが不思議そうに呟く。

 

「これは…何なのだ?」

「これは『紅茶』っていう飲み物だ。熱いから気をつけろよ…っておい!」

「ズズ…ふむ、なかなか美味だな。」

 

淹れたてで熱々の紅茶になんの躊躇いもなく口を付けるタマモ。普通なら火傷する所だが、こんな些細な事は平気なのだろうか。

 

「うん、うまいうまい!」

 

イジスはイジスでお茶菓子を頬張っている。包装からして少しお高めの菓子だろうが、それをかっ食らうとは。少しは自重しろ、イジスよ。

ナギが呆れていると、それまで微笑んでいた女性が思い出したかのように口を開く。

 

「あ、申し遅れました~、私、龍歴院で研究者をしておりますエメルと申します~。気軽に、『エメ』って呼んで下さいね~」

「あ、はい…。それでエメさん、『付き合ってほしい事』とは?」

「単刀直入に申しますと~、研究材料の採集ですね~」

 

そういう事か。研究者からのハンターへの依頼はよくある事だし、ナギも依頼されたことがある。なら何故あんな誤解を招くような言い方をしたのか。ちょっと身構えてしまったではないか。

 

「して、その依頼というのは何なのだ?」

 

今度はタマモが二の句を継ぐ。初めてのクエストだし、彼女なりに興味があるのだろう。

 

「そうですね~…今は超電雷光虫が欲しいので、それの採集…ひいては、雷狼竜ジンオウガの狩猟をお願いしたいのですが~。」

「ジンオウガ、だとっ!?」

 

タマモは目を見開いて驚く。

無理もないだろう。雷が苦手な彼女にとって、その雷を操る竜へと挑むのはやっぱり怖いのだと思う。ここは、ナギもタマモのフォローをしなくてはいけない。

 

「あー…タマモ。 嫌なら、俺とこの菓子食ってるバカと二人で行ってくるけど…?」

「っ…!私が逃げるとでも思ったか!私は泡狐竜だぞ?あのような者に臆していては面目が潰れてしまう!」

「そうか…じゃあ、同行するって事でいいんだな?」

「……う、うむ。」

 

タマモは渋りながらも肯定する。

 

「あのぅ、やっぱりダメそうですか~…?」

 

一連の会話を聞いて、エメルは不安そうに尋ねてくる。が、ここまで来たものを受けない訳にはいかないだろう。

 

「いえ、大丈夫です。ちゃんと受理しますよ。」

「そうですか~、ありがとうございます~。じゃあこちら依頼書に…」

「もう書いてあるんですか!?」

「はい。もう誰かに受けてもらおうと思ってましたから~、依頼書は先に書きましたよ?」

「よ、用意いいですね…」

「あ、目的地は孤島ですよ~。渓流と間違えないようにして下さいね~」

 

雷狼竜、と聞く限り目的地は渓流だと思っていたのだが、今回は孤島だったらしい。近年では氷海にも出没しているらしいが、何がしたくてあんな寒い所に姿を現しているのだろう。

 

 

「じゃあ~、これでクエストカウンターを通して頂ければokですね~。どうか宜しくお願いします~。」

「了解です。よし、2人とも行くぞ~…って、いつまで食ってんだお前は!」

「ん?結局どうなったんだ?」

「はぁ…これから孤島に超電雷光虫の採集とジンオウガを狩りにいくんだよ。分かったら40分で支度しろ。」

「おっ、狩りだな!腕が鳴るぜ~!」

 

そう言いながらあの脳筋は研究室を飛び出していった。どうでもいいが、食った物ぐらい片付けてけ。

 

「じゃあ、俺等も行くか… タマモ?」

 

ふと見ると、タマモは何やら呪文のようなものをブツブツと唱えていた。恐らく雷大丈夫だとかいう念が込められているのだろうが、傍から見ると少し不気味である。

 

「あ―…では、いってきます…」

「は~い、宜しくです~。」

と笑顔で手を振るエメル。

 

大丈夫か、この面子で。そんな思いがナギの頭の中を過ったが、もう時既に遅し。

こうして、初めてとなる三人での狩猟は幕を開けたのであった。

 

 

 

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