なにがなんだか分からなかった……。
ただ、目の前に壁が迫って来ていたのは見ていて分かった。
それが魔力の塊であり、砲撃であると分かったのは、魔力の奔流に飲まれてからだった。
戦術は出来上がっていたはずだった。
望んだ通りの展開でもあった。
力を手に入れて、守りたい大切な人に見せつけたかった。
僕は、僕自身の力でここまで来たのだと……。
もう、君の重しになんてならない。
逆に僕が引っ張り上げてあげるんだと、そう伝えたかった。
そうするために、ここまで来て、なのに届かないのか……。
いつもそうだ、いつも僕は……。
僕は――――ッ!!
風が頬を撫でたのを皮切りに、重そうに瞼を開いたティーノの瞳に映り込んだのは、青い空と流れる白い雲。
「……痛ぅ」
「目が覚めたんだね」
目覚めて始めて聞いた声は、落ち着きを持った木々の潺のような声。
「キャロさん?」
「ちょっと待っててね」
キャロはそう言うと、回復魔法を唱え、ティーノの傷とライフポイントを回復させていく。
ぼやけていた脳が風に覚まされていくと、自分が最後方にいることが理解できた。
おそらくキャロさんの召喚魔法だろう。
遥か彼方では、なのはが移動を始めていた。
その向かう先は、エリオとフェイトが戦っている。
センターガードのなのはが移動を始めた。
ティーノはその様子を見ながら、なにかが始まると予感めいたモノを感じていた。
「ティアナさんのクロスファイア・フルバーストで全体的にダメージを追わせられたけど、こっちは負傷者が二名に、コロナは少し追いつめられてる。……うん」
キャロもティーノと同じく嫌な空気を感じたのだろう。
そしてそんなキャロの雰囲気を察したのか、ティーノの隣で同じくキャロにより回復されていたアインハルトも難しい顔をしていた。
今にも飛び出して行きそうな顔をしたティーノとアインハルトにキャロが、優しく微笑むと、ティアナに通信を繋げたその時だ。
青組が仕掛けて来た。
「2on1っ!」
ティアナとキャロがルーテシアの機転に驚く。
すぐ目の前には、ルーテシアとリオがいた。
キャロを速攻で潰し、アインハルトとティーノを仕留めるのだとすぐに判断出来た。
赤組にとってまずい状況である。
このままでは各個撃破されてしまう。
だが、キャロはどこか余裕を見せた笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。ティーノとアインハルトはそのままでね」
そう言うキャロにが笑う。
「うふふ~、この状況じゃどうしようもないんじゃないかしら?」
「大丈夫、ここからが赤組の勇気と力が試されるところだから!」
「その通りです。キャロさん!」
コロナが、自身が作り出したゴーレムであるゴライアスの肩に乗り近場まで来ている。
間に合うか……?
ティーノがそんな事を考えていると、キャロがティーノに指示を出す。
「ティーノ……」
「はい」
「ティアナさんが、姿を消した。恐らく、決めにかかってる。でも、その間ティアナさんは無防備になる……」
ティーノは、キャロが良い終わる前に行動に移っていた。
「行きます!」
ティーノは、ルーテシアとリオの攻撃を躱しながら、ブリッツアクションを何度も使用し、ティアナの元に向かった。
「……よかったの?」
ルーテシアがそう言うと、さらに不利になった筈のキャロは不敵に笑った。
「さすがティアナさんの子供だよね。きっちり、仕事をしてくれる」
「なんのこと……?」
「気づかないルーちゃん、自分達の立ち位置が変わっていることに」
そしてルーテシアとリオは気づく、お互いが同じ射線上にいることに―――。
そしてコロナもそれを待っていた。
「ゴライアスパージブラスト!」
巨人の腕が高速回転を始める。
そして唸りを伴って放たれる必殺技。
「ロケットパンチッッ!!」
ルーテシアもリオもまさかと言う思いであった。
まさか、コロナにこんなとって置きがあるんて、だからこそ二人は思った通りに言葉を発し叫んだ。
「「ウソーーーーーーッ!!」」
そしてルーテシアとリオの撃墜に喜ぶキャロとコロナであったが、勝利を確信した時が、危険な時なのは、どこも同じであった。
「へうぅうう―――っ」
「キャッ!」
「はい、キャロ撃墜にコロナちゃんの捕獲完了」
「な、なのはさ~~~ん、いつの間に~~~……」
ティーノは移動をしながら、その様子を見ていた。
「キャロさん……、コロナ……、くっ……」
一人さらに熱くなるティーノは、ティアナの姿を探し求める。
そして見つけた。
「ティアナ!」
ただし、その時にはティアナもなのはも、スターライトブレイカーのチャージをしていた。
そして、なのはとティアナの破壊の極光は放たれる。
「スターライトブレイカー・ファントムシフト!」
「スターライトブレイカー・マルチレイド!」
「「ブレイカーーー!!」」
オレンジ色の光と桃色の光がぶつかり、映画で見た最終戦争のワンシーンのような爆発と情景が広がる。
爆発の余波は広がり、戦場にいる者達を飲み込んでいく。
ティアナのスターライトブレイカーは、なのはのスターライトブレイカーの殆どを相殺するが、一筋の光はティアナに伸びていた。
ティーノの迫りくる光の壁からティアナを守るように立ち塞がる。
「ティーノ!」
ティアナが叫ぶが関係が無い。
ティーノは既に構えていた。
「エテルナシグマッ!」
ティーノの足元にミッド式の魔法陣が広がる。
さらに、その円陣の淵を炎が走りティーノとティアナを守るように燃え広がる。
その炎は地獄の業火―――
あの時、ティーノが生まれた日に目にした悪魔―――
その暴力を一手に集中させる。
「くぅ……」
右手の先に集まる紅い炎が熱により周囲を歪めていく。
だが、足りない……。
この程度では、アレには勝てない。
魔力が足りないなら、他所から持ってくるしかない。
ティーノは、体に負担がかかるからとユーノから禁じられていた奥の手を使う。
「エテルナシグマ、―――ロードカートリッジッ!」
「ロードカートリッジ」
右手と左手の手首部分から白い煙が立ち上りスバルのリボルバーナックルと同様のシリンダーが一回転する。
その瞬間、手首から全身に血液が一気に逆流したかのような、不快感がティーノを襲う。
その不快感は、心臓付近まで上り詰めると、内部から破裂するかのように一気に体外に放出されていく。
その力の濁流を手の先の魔力弾に上乗せしていく。
「ぐぅあ゛あ゛あ゛……」
痛い痛い痛い……。
だが、術式の構築は無理矢理続けていく。
八枚のプレートが魔力弾の前面に直線状に形成されていく。
壁はすぐそこまで迫っている。
青組の皆が勝ったと確信しているような気がして、無性に腹が立つ。
気に入らない―――
だから―――
それを―――
「覆すッ!」
そして、悪魔の如き紅い太陽が放たれる。
「ブレイズ・イレイザーッッ!!」
ブレイズ・イレイザーはプレートを一つまた一つと砕くにつれ、その熱量と速力を増していく。
そして八枚目のプレートが砕かれた時、最高潮に達した悪魔が星の光に真っ向からぶつかった。
相手はまさしく壁。
否、それは星が迫って来ていると錯覚する程に巨大である。
対するブレイズ・イレイザーは、小さな魔力弾である。
サイズ比では、力の差は見た通りとなってしまう。
ダムに小さな穴を空ける程度しか出来ないかもしれない。
それでも、その小さな穴だけで十分であった。
数舜、スターライトブレイカーとブレイズ・イレイザーが拮抗するが、ブレイズ・イレイザーはスターライトブレイカーを内部から食い荒らし、四散させながら突き進んでいく。
そして届いた。
そう思った時、ティーノの全身から力が抜け落ちていった。
目が覚めたティーノに待っていたのは、ティアナとスバル、なのはによる説教地獄であった。
なんでも、体に負担がかかる行為を軽々しくとしないで、とのことだった。
ティーノはその説教を正座しながら、聞いていたものの心の中では別のことを考えていた。
「勝てたんだ……、あの……スターライトブレイカーに……」
「「「ティーノ~~~~~ッ!!」」」
「は、はいッ!聞いてます!」
そして、その後三戦目まで行われ、日は沈みすっかり夜となっていた。
温泉に入った皆はそれぞれくつろいでいた。
ベランダで椅子に座り夜風に当たっていたティアナとスバルの元に、ノーヴェが顔を出す。
その中で、ヴィヴィオ達がDSAAに出場する話、さらにはアインハルトにもそれとなく誘いをかけてみることなど、ガサツな見た目からは想像も出来ない程に、コーチをしているノーヴェの姿と、それを陰から励ますスバルの姿にティアナは微笑ましい気持ちになる。
そしてその話はティーノにまで及ぶ。
「ティーノは男子の部に出るのか?」
「その方向では考えていないわ」
「ティーノの目指す強さとは、少し違うしね」
「それに、ティーノには少し声が掛かっていてね」
「へぇ……、どこから?」
「聖王教会、その騎士養成所の訓練にって騎士カリムからね」
「まぁ、それもティーノ次第だけどね」
三人は、夜が更けていくのも関係無く未来の子供達に花を咲かせていた。
ミッドチルダ北部ベルカ自治領聖王教会
聖王教会と呼ばれる古風な建造物の数々は、まるで健美な城の様で堅牢な要塞のようであった。
その裏庭、莫大な敷地内でも影の日向となりしその場に、黄金色の髪を切りそろえた少年騎士が一人、黙々と何かを振り払うかのように剣を振っていた。
「オルランドお兄様~、オルランドお兄様~!」
影を作る壁の向こう側から、声が聞こえる。
その声は鈴を鳴らしたように清らかで、集中していた神経がそちらに向かってしまった。
「お兄様ぁ~……」
オルランドは、その声が涙声になるのを聞いて、盛大に溜息を吐くと、後頭部を二度掻く。
剣を鞘に納めると、近場の木にかけていたタオルを手に取り、慣れた手つきで汗を処理していく。
そして、陰から光の元に出るとそこには妹の姿があった。
「私はここだ、アンジェリカ」
「お兄様~!」
アンジェリカはそう言うと、オルランドの胸に飛び込んだ。
オルランドは、身動き一つせずにそれを受け止めると、アンジェリカの肩に手を乗せ引っぺがす。
「それで、私になにかようか?」
「あぁ、そうでした!騎士カリムがお呼びです。なんでも、会って欲しい人がいるとか……」
「理解した。お前はすぐに自室に戻れ、体に障る」
「は~い……」
アンジェリカは返事を返すと、しょんぼりと俯いてしまう。
そんなアンジェリカにオルランドは、後頭部を二度掻くと、ポンとアンジェリカの頭に手を乗せた。
「騎士カリムの話が終わり次第、アンジェリカの部屋に遊びにいく」
オルランドのその声を聞いたアンジェリカは花が咲いたように笑った。
「本当ですか!?」
オルランドは、苦笑いを浮かべた。
「あぁ、騎士に二言は無い」
そしてオルランドは、教会内部に入っていく。
これから、新たな物語が生まれるとも知らずに―――