魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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終わりへの架け橋

 ハァ―――

 

 視界の先は常に閉ざされた万華鏡

 

 ハァ―――

 

 満たされた体感は摩天楼の上

 

 ハァ―――

 

 吐かれた吐息は永久の眠りに

 

 ハァ―――

 

 この思考は今永遠の氷獄へ

 

 

 

 なんだコイツ、強すぎる―――

 

 オルランドが最後の標的にと定めたロストロギア、その価値は無しに等しく守りも一番薄い。

 仕掛けるタイミングは決めていた。

 一番被害が少ないと踏んだ、田舎町の先にある休憩所。

 出発地点、ゴールのクラナガン管理局支部。

 そこまでの道のりと時間と人の体力、すべてを計算に入れて攻め入るはここと決めていた。

 

 護衛の魔導士は、僅か三人―――

 

 元々近接戦を得意としていない典型的で模範的なミッド式の魔導士達、昏睡させるのに手間を必要としなかった。

 

 アイツとの模擬戦の成果がこんなところで活かされるのは癪ではあったが仕方が無い。

 ロストロギアの運搬を任されていた者は、私の姿を見たと同時に逃げ去った。

 

 それでいい―――

 

 私がロストロギアが収められているトラックの荷台に手を伸ばそうとした時、それは起きた。

 

「ヴァリアブルシュート!」

 

 ―――ッ!!

 

 それは荷台を突き破って現れた。

 オレンジ色の魔法弾。

 それはを間一髪躱すが、その魔法弾は空中を縦横無尽に飛翔し、まるで蜂が獲物を狙うかのように迫ってくる。

 私はそれをデュリンダナで叩き切った。

 その剣戟に魔力を乗せ荷台事真っ二つにする。

 そして現れたのは、長い夕日のような髪をした女の魔導士だった。

 その姿を見た時、私は幻視してしまった。

 それはきっとバリアジャケットが似ていたからだろう。

 

 我が友、ティーノ・ランスターと……

 

「あなたがここ近日発生しているロストロギア強盗事件の犯人ってことでいいかしら?」

 

 女はそう言うと、荷台からトンっと軽く飛び降りた。

 口調は優和、ただし銃口はこちらに向けられたまま一ミリも動いていない。

 

「そっ……黙秘って訳ね……。想定内だけど」

 

 コイツはただの魔導士じゃない。

 全身の神経がそう告げていた。

 だから反応出来た。

 

「……今回の事件には合計10の容疑で令状が出てる。あなたはその被疑者と言うことで任意同行して欲しいのだけれど、構わないわね?」

 

 気が付けば、真後ろから喉元に魔力刃が当てられていた。

 

 いつの間に……

 

 だが未だに眼前には、こちらに銃口を向ける真後ろの人物と同じ女がいた。

 不思議に思っていると、眼前の女が魔力の残滓を撒き散らしながら消え去った。

 

 幻術か―――

 

 こんな高位な魔法を事も無げに使用し、あまつさえ私の後ろを取ったのだ。

 油断ならない、このままでは、私達の計画の邪魔になる。

 

 私の頭の中に声が響く。

 それは、ディオニソス司教様の声、私のトリガーとなるその声が響く。

 

 悪を滅しなさい―――オルランド―――

 

 気が付けば、私は後方の女を蹴り飛ばしていた。

 

「ふぅーーー……」

 

 たまらず息を吐き出す。

 

 勝てるか分からない。

 

 だが、勝たねばならない―――。

 

 そのためなら私は―――

 

 決着は意外な結末に終わった。

 

 欲を出した人物が生み出した僅かな隙をついて、女を倒すことが出来た。

 

 執務官、そうあの女は呼ばれていたな。

 

 私は、皮肉気に口元を歪めた。

 

 これで私は、列記とした犯罪者だ。

 

 ロストロギアの入ったケースを片手に持ちながら、私は未だに雪が振り続ける空を見上げる。

 殺すつもりで放った最後の一閃、それが鈍ってしまった。

 あの刹那の時に呟かれた一声、それにトリガーを斬られた。

 

 あの女の口から出た名前―――

 

 最後になると悟ったのか、見開かれた瞳に剣線を写し、乞うように放たれた名前―――

 

「ティーノ……」

 

 嘘であって欲しい。

 でも、あの女を斬り伏せた時、感覚で理解出来てしまったのだ。

 

 友情と言う器に罅が入ってしまうのを―――

 

 

 

 聖王教会の一室、そこは暗い只々暗い部屋だった。

 天蓋付きのベッド一つ、小さなテーブル一つに丸椅子が三つ、小さめのタンスが一つと慎ましい部屋だった。

 少し大きめの窓からは、落雷の光と雨風の音が響き、室内に影を作る。

 時折影を彩られる人物、ディオニソスとその眼下で眠りにつく少女アンジェリカ。

 

 再度の雷―――

 

 さすがに煩わしくなったのか、ディオニソスがカーテンを閉めようかと思案したとき、部屋の扉が開いた。

 

「―――戻りました」

 

 そこにいたのは、オルランドだった。

 オルランドの体は、所々に傷を負っており、予想以上に苛烈な戦いをしてきたことを物語っていた。

 

「大丈夫なのですか?」

 

 ディオニソスが落ち着いた口調でそう問えば、オルランドは無言で頷いた。

 そして腕に抱えていたケースの中からロストロギアを取り出した。

 それは見ようによってはただのガラクタであった。

 まるで錆びた歯車のようであるそれは、なんの力も秘めてはいないように見えた。

 

「これで全てが揃いましたね……」

「はい……」

 

 ディオニソスは祭服の中から今まで集めたロストロギアを取り出す。

 それは、形も大きさもまちまちのガラクタの集まりだった。

 ディオニソスはそれらを悲し気に見つめると、オルランドに振り返った。

 

「ここまで巻き込んでしまった私が言えたことではありませんが……良いのですね……?」

 

 それに対し、オルランドは年相応の少年の―――男の子の笑みで答えた。

 

「もう、決めていました。私は……一振りの剣として、男として……アンジェリカのために生きると」

「愚問でしたね……」

 

 ディオニソスはそう言うと、黙って部屋を出た。

 目的の場所に向かうためだ。

 

 静まり返る室内、先程までの雷雨は止み、窓から一筋の月明りが差し込む。

 優しく照らされるアンジェリカを見つめ、オルランドは優しく微笑んでその頬を撫でた。

 

「……大丈夫、私がどうにかして見せる」

 

 そしてアンジェリカの手を握りしめた。

 膝を付き額にその手を当て呟いたその言葉は、懺悔のように見えた。

 

「なんとか……間に合った……」

 

 心からの安堵がその言葉に乗っていた。

 

「お……にぃ……さま?」

 

 静かな、水面に落ちた滴のような声が聞こえた。

 オルランドが顔を上げると、アンジェリカが目を覚ましていた。

 

「ダメじゃないか、寝ていないと……」

 

 オルランドがそう言って手を放そうとした時だ、アンジェリカは繋がれたその手を握り返した。

 

「どこ……にも……」

 

 その声はとてもか細くて、耳を澄まさないと聞き逃してしまいそうな程に弱弱しい。

 

「どこにも、行きませんよね……?」

 

 アンジェリカの見た目は、特に大事ないように見える。

 だが現実は違う。

 彼女の体に巣食う病魔は、着実に彼女を苦しめていた。

 その命の灯が、明日消えてしまうかもしれないくらいまで……。

 それは病魔と呼ぶしかなかった。

 先祖代々、聖王の器に生まれた者が有する先天性の悪魔。

 今この時代においてもその治癒方法は確立されておらず。

 

 故に先祖代々聖王を早死にさせてきた悪魔―――

 

 それを防ぐ術が、もう目の前にあって、成功例も存在していた。

 

 だから―――

 

 オルランドは半ば無理矢理繋がれた手を放すと、その手でアンジェリカの頭を撫でてやった。

 

「私はどこにも行かないよ……。私が、アンジェリカに嘘をついたことなどないだろう?」

 

 だが、アンジェリカにはわかっていた。

 その微笑みが嘘だってことも、今にも壊れてしまいそうな程にオルランドが悲しんでいることも、もう帰ってこないかもしれないと言うことも……。

 急激な怠惰感に襲われながら、それに抗う様に涙を流し、落ちてくる瞼に力を入れて、アンジェリカは訴える。

 

「逝かないで……私を、一人にしないで……」

 

 涙が頬を伝う。

 瞼が完全に落ち、再び眠りについたアンジェリカにオルランドは顔を歪めた。

 

「……行ってきます」

 

 そして、扉が閉じられる音が室内に響くと月明りも姿を消し、室内を完全な静寂が支配した。

 

 

 

 ミッドチルダ首都クラナガンの管理局直下病院、その一室の前には子供達と大人達がいた。

 その中で、心配気に病室の扉を見つめるのは高町ヴィヴィオだった。

 彼女は、ティアナが意識不明のケガを負い、ティーノがそれに付きっ切りで看病をしていると知ったのは、遂先程だった。

 中々顔を出さないティーノに電話を掛けたことから事実が発覚し、その時たまたま一緒にいたコロナ、リオ、アインハルトの静止を振り切りここまで来た。

 後から集まって来たアインハルト達と、なのは達にことのあらましを聞き憤慨したのも遂先ほどのこと、大人達が黙っていた理由は単純で、明日にはインターミドルのエリートクラスでの対戦が待っているからだった。

 ヴィヴィオはずっと後悔していた。

 

 どうしてもっと早くにティーノに連絡を入れなかったのかと……

 

 大切な人が傷つけられる恐怖、いついなくなるか分からない恐怖は自分は理解しているはずだった。

 姉として失格だと、泣きそうになった。

 だが、病室の扉を開くことが出来ない。

 どんな顔をしてなんて声をかければいいのかわからないからだ。

 その時、ヴィヴィオの肩に手が置かれる。

 振り返るとそこには、ノーヴェがいた。

 ノーヴェだけではない。

 元ナンバーズの皆もいた。

 皆が皆、ティアナに救われた人達ばかりであった。

 

「ヴィヴィオ……」

 

 なのはがヴィヴィオを呼ぶ。

 ヴィヴィオはたまらずに、なのはに飛び込んだ。

 そして涙を流す。

 自分の不甲斐無さを呪うように、それを浄化するために涙を流す。

 なのはは、そんなヴィヴィオを優しく抱きしめる。

 

 その時だ。

 

 ヴィヴィオはハッと何かに気が付き、廊下の先を見た。

 皆も何事かとそちらに目をやる。

 するとそこには、純白の乙女がいた。

 真っ白なドレスを着た少女の名はアンジェリカ・ゼーゲブレヒト、覚束ない足取りで騎士カリムに連れられて一歩一歩近づいて来る。

 その場にいた皆が目を見開く。

 その姿は、余りにもヴィヴィオに似ていたからだ。

 ヴィヴィオの別の可能性の一つと言われても違和感が無い少女は、ヴィヴィオ達まで後数歩と言うところで躓く。

 

「危ない!」

 

 それをヴィヴィオが咄嗟に抱きとめた。

 緑と赤の瞳が互いに交差する。

 

 ―――それだけで十分だった。

 

 語る必要などなかった。

 

 ヴィヴィオはアンジェリカを連れて病室の扉を開く。

 眩い太陽の光が二人を包み込んだ。

 視界が光に慣れてくると、予想外の光景が二人の瞳に写り込んだ。

 空中に飛び交うホログラムの数々、さらに床にはチラシが所狭しと散らかっていた。

 この光景には、子供組も大人組も空いた口が塞がらなかった。

 

「な、なにをしてるんだいアンタは!?」

 

 皆を代表してアルフが口を開く。

 その声に気が付いたティーノは、なんて事ないように振り返る。

 その服装はいつもの私服だった。

 嫌、いつもより気合が入った服装だった。

 

「あぁ、アルフ何って……アンジェリカ?」

 

 ティーノの姿を見たアンジェリカは溜まらずに、駆け出しティーノに抱き着いた。

 

「お兄様が、……お兄様がッ!!」

 

 それは余りにもみっともなかった、とても女の子がして良いようなお淑やかな行いではなかった。

 だが、ティーノは理解していたアンジェリカが何を言いたいのかを―――

 ティーノは、アンジェリカの両肩に手を置くと真剣な瞳で見た。

 

「アンジェリカの言いたいことは分かってる。でもね……僕も我慢の限界は等に超えているんだ」

 

 その冷え切った声に、アンジェリカは悲しみに顔を歪める。

 

「大切な人が傷つけられた……。許すことなんて出来ない」

 

 アンジェリカは泣きそうになり、事を理解していない者達はティーノを止めようとする。

が、次の言葉でそれも止まる。

 

「だから、アイツを本気でぶん殴ってくる」

「へっ……?」

「僕とアイツは今のところ勝敗は10対10……ここで白黒はっきりさせるのも悪くないだろ?」

 

 ティーノはそう言うと、頭をガシガシと掻いた。

 その動作はどこか、オルランドの動作と似ていた。

 だからだろう、アンジェリカも少しだけ落ち着くことが出来た。

 

「あ゛ぁ゛~~、ムカつくね。なんでアイツはアンジェリカをここまで悲しませんてんだ?なんで僕になにも言わない?僕はそこまで頼りないのか?」

 

 ティーノはそう言い終わると、気が付いたようにハッとした。

 

「それよりも、体は大丈夫なのか!?」

 

 ティーノが突然自身を気遣ってくるのが可笑しかったのかアンジェリカはくすくすと笑った。

 

「少し辛いですが、大丈夫です」

「お前の大丈夫は、大丈夫じゃないだろ……」

「な、なにを……ひゃっ!」

 

 ティーノはアンジェリカをお姫様だっこすると、眠るティアナの隣に横にした。

 

「ここは僕の特等席なんだけど、今日は譲ってあげる」

 

 そしてアンジェリカの頭を優しく撫でた。

 

「オルランドは僕が連れて帰る……。そんで、ティアナとアンジェリカに謝らせる。……約束する」

 

 だから、とティーノは一歩引いてアンジェリカと向き合った。

 

 その姿はまるで絵画の姫に問いかける騎士のように、様になっていた。

 

「許可をくれ姫よ……。僕は今からあなたの剣と戦う。どちらも無事ではすまないかもしれない。だが、友として男として、僕は行かなければならない。だから、その許可をくれ」

 

 その勇ましいまでの言葉に瞳にアンジェリカの頬は一瞬赤くなる。

 そして、微笑んだ。

 

「私の剣を頼みます……。我が魔導士よ」

 

 アンジェリカが手を伸ばしティーノの額に当てた。

 そして虹色の魔力光が二人を包む。

 ティーノの頭の中に薄暗い中でディオニソスといるオルランドの姿が見えた。

 

「私がお兄様と別れた最後の夜に見た夢です。恐らくお兄様はそこにいます」

「……理解した」

 

 ティーノはアンジェリカから離れると、エテルナシグマからあるデータを複数出した。

 それはどれもデートスポットと呼ばれ有名なところばかりであった。

 余りにも場に似つかわしくないそれらの数々に、皆が今までそれを見ていたのだと気が付いた。

 

「これは、僕がティアナの退院祝いに行こうと思っていた場所なんだ。……オルランドと先に行って来て感想を教えて欲しいんだけど、頼めるかな?」

 

 ティーノが笑いながらそう言うと、アンジェリカはキョトンとした顔から嬉しそうに笑い、目にダイヤの様な涙をため頷いた。

 

「はい!」

 

 そしてティーノは魔法陣を展開する。

 それは転移魔法陣だった。

 それを見ていた大人達がティーノを止めに入ろうとするが、すでに転送は始まっている止める術などなかった。

 淡い紅い光の中で、ティーノが振り返る。

 その視線の先には、元ナンバーズの面々が写っていた。

 元ナンバーズの皆は驚く。

 ティーノとして外に出てきてから、ジェイルとは会ったことも無かった。

 会わないですむなら……そう、、思っていたことも正直あった。

 だが、見つめられるその瞳には何故だか絶対的な信頼感があった。

 ティーノからしてみれば初対面の者達ばかりなのにだ。

 

 なのはでもなく。

 フェイトでもなく。

 はやてでもなく。

 守護騎士達でもなく。

 アルフでもなく。

 

 ティーノはナンバーズにその瞳を向けていた。

 

「……ティアナとアンジェリカを頼む」

 

 その言葉は、ナンバーズの皆の心を打った。

 その小さな体に過去の姿を見た。

 裏切り者と罵られるかもしれないとの恐怖心があった。

 牢屋に入れられた他の姉妹と違い、外に出て平和を謳歌する自分達を軽蔑しているとも思っていた。

 でも、どこまで行っても……、誰がなんと言っても……、彼は、生みの親なのだ。

 ナンバーズ達は、知らず知らずのうちに皆が任せろと頷いていた。

 ティーノはそれを見て満足そうに笑う。

 

「ティーノ!」

 

 その時、ヴィヴィオが叫んだ。

 転送が始まり魔法陣から伸びる紅いカーテンに両手を付けて、必死に懇願するように叫んだ。

 

「明日ッ、明日にエリートクラスの試合があるの!だから……だからッ!!」

 

 そんなヴィヴィオを見ながら、ティーノは優しく笑い、薄い魔力のカーテンで閉ざされたヴィヴィオの手と自身の手を重ねる。

 

「絶対に見に行くよ。だから負けないでね……お姉ちゃん」

 

 そしてティーノの姿は消えた。

 

「ヴィヴィオ……」

 

 なのはが、ヴィヴィオを心配して声をかける。

 だが、振り返ったヴィヴィオの顔は晴れやかだった。

 

「アインハルトさん!」

「は、はい!」

「コロナ」

「うん!」

「リオ」

「は~い!」

 

 ヴィヴィオは両手をぐっと構えた。

 

「こうしちゃいられない……特訓に付き合って!」

 

 そしてヴィヴィオ達は病室を後にし、それになのはとフェイトも続いた。

 皆がこの時確信した。

 

 ティーノなら、なんとかしてくれると―――

 

 

 

 薄暗い洞窟の先、そこには黄色い蛍光灯の光だけが灯っていた。

 洞窟の先に待っていたのは、途轍もなく広い広間であり、その先にはもう一つ扉があった。

 

「始めるよ……」

 

 ディオニソスはそう言うと、今まで集めて来たロストロギアを扉に翳す。

 すると、扉は勝手に開いた。

 そう、今まで集めていたロストロギアはすべてただの鍵でしかなかった。

 

「この先にあるのですね……?」

 

 オルランドが口を開く。

 

「あぁ、その通りだとも……。この奥に眠っている。全ての次元世界の知識を集約し、不可能と言われたことを神の御業の如く成しえた至宝……。ジェイル・スカリエッティの知識が……ここに」

 

 扉の先には薄く光る廊下が続き、10m先も見えはしない。

 まるで地獄の門が口を開けたかのような幻想に捕らわれるも、その一歩を踏み出そうとして踏みとどまった。

 

「どうかしましたか……オルランド?」

 

 オルランドは笑う。

 腹の底から楽し気に笑った。

 ディオニソスは、今までのストレスからか遂に壊れてしまったのか、と考えたがそれは静かな冷気によって覚まされる。

 

「……ディオニソス司教様、先に行って下さい」

 

 その声を聞き、半ば恐れるようにしてディオニソスは暗闇の先へと姿を消して行った。

 オルランドは見つめる。

 

 遥か天を―――

 そこに集うは流血の紋章。

 洞窟内の魔力を集めるかのように、一点に集約されていく血潮の流れ。

 

 来ると思っていた。

 不可能だと考えていたが、それでもあいつなら、どうにかして来てくれると。

 

 そう―――

 

 願っていた―――

 

 血潮が固まり、それが爆ぜた時、そいつが現れた。

 

 一直線に、迷うことなく、拳を振り上げて。

 

「エテルナシグマッ!」

「始めましょう。マイフレンド!」

 

 だから―――

 

 でも―――

 

 引くわけには行かない。

 

 ここで終わる訳には行かない。

 

 なにより―――

 

 貴様との最後は決めて置きたかった。

 

「ティーノ・ランスターぁああああああッ!!」

 

 振り下ろされた拳。

 

 振り上げられた刃。

 

 洞窟内の広間の中心で、互いの想いが交差し爆ぜた。

 

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