魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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愛のカタチ

 

「はて……、君達はどこの誰かな?私のラボに招待はしていないはずだが……」

 

 ジェイル・スカリエッティがそう言いながら、顎に手を添えた。

 

「そうね、ジェイル・スカリエッティ……。私達が誰かと問われれば、こう答えるしかないわね。―――あなたに勝つことが出来る者よ」

 

 ティアナ・ランスターがそう答えれば、何が可笑しいのかジェイル・スカリエッティはくすくすと笑った。

 

「そうかそうか―――。私に勝ったことがある者達が、こうして集った訳だね。……実に、興味深い」

 

 ジェイル・スカリエッティはそう言うと、両手を掲げる。

 

 まるで、神託を受けるかのように―――。

 

「ならば、今の私が敵う道理は無いと言うわけだ。ただ、私も久方ぶりでね。もう少し夢の続きが見たいのだよ。……その鍵は、すでに見つけることが出来たしね」

 

 ジェイル・スカリエッティの瞳とティーノ・ランスターの瞳が交差する。

 深く深く、底に通じるように、短くけれど長く、その様を認識し合う。

 

「そうさせないって言ってるのよ」

 

 その視線の糸を断ち切るように、ティアナがジェイルとティーノの間に割って入る。

 

「私とて人だ。ならば、最大限に抵抗させてもらおうかな」

 

 ジェイルが戦いの火蓋を斬る一言を発した瞬間に、無数に存在するガジェットドローンがジェイルを守るように壁となる。

 さらに、空に浮かぶガジェットドローン達の瞳に光が集い出す。

 その光景は、空に浮かぶ満天の星空のように美しい。

 

「空は僕に任せて下さい」

 

 エリオがそう言うと、スバルは踏み込むように足を振り上げ、叩き落とした。

 

「ウイングロード!」

 

 洞窟内に縦横無尽に天走る道が生まれる。

 ウイングロードが完成した同時に、ジェイルは片眉を上げた。

 

「IMFが作動していない……?嫌……、あの少女か……」

 

 ジェイルの見つめる先、キャロ・ル・ルシエはすでに魔法陣を展開し、詠唱を始めていた。

 

「天駆ける蒼穹の道に導を……」

 

 ジェイルがそれを確認し、ガジェットドローンの出力を上げようとした瞬間、ほんの一瞬、瞬きの間に、その視界から一人の少年が姿を消した。

 

「若き槍騎士に雷光の靴を……重ねて詠唱す」

「二重詠唱……」

 

 ジェイルがキャロの技術の高さに敵の危険度を少し上昇させる。

 

「若き槍騎士に敵を貫く力を……」

 

 キャロが詠唱が区切られた瞬間、浮かべていたガジェットドローンの二割が一瞬のうちに爆ぜた。

 その爆音、爆光に反応した時、ジェイルは目の前の存在が自身を滅ぼすために生み出された存在であると、自身の戦術はすべて研究しつくされていると結論に至った。

 

 だが遅い―――

 

 その結論に至ると同時に、壁となっていたガジェットドローンはすべてスバル・ナカジマに打倒されていた。

 

「く……ッ」

 

 ジェイルが慌てて後退する。

 だが、スバルは逃がさない。

 リボルバーナックルを振り上げ、それをジェイルに叩きつけようとして。

 

 止まった―――。

 

「フフ―――、危ない危ない」

 

 スバル達は、紅い魔力の糸にいつの間にか体を絡めとられていた。

 ジェイルは、全てのガジェットドローンを生贄に、スバル達をバインドで捕える。

 戦いが始まる前、一目見た時から勝ち目がない事は理解した。

 ならば、勝てる環境を作ってやればいい。

 今までの会話、動作はこのための布石。

 全ては、今この瞬間のために。

 ジェイルは片手を握りしめる。

 それだけで、魔力の糸に捕らわれていたスバル達は細切れになった。

 

「フフフフ……、ハハハハハハハ……アハハハハハハ!!」

 

 ジェイルが高笑いする。

 それは、勝利が確定したからだ。

 だがそれは、こめかみに当てられた冷たい感触により、終わりを迎える。

 

「何がそんなにおかしいのかしら?」

 

 そこにはクロスミラージュを構えたティアナがいた。

 ジェイルに動揺が走る。

 そして、今しがた細切れに変えた躯を見れば、それらは魔力となって消えた。

 

「幻術……だと……?」

 

 自分にすら見破ることの出来ない幻術を目の前の年若い女が使えることにも驚いたが、それよりもいつから幻術と入れ替わっていたのか。

 そこにすべての疑問が向けられた。

 それを察したティアナが、引き金に力を籠めて答える。

 

「全てよ―――。ガジェットも私達も何もかもが幻術……、あなたの前に姿を現した時点で、全て片付けていたわ」

 

 それだけを言うと、抵抗しようとしたジェイルに向け魔弾を放った。

 

「おやすみなさい、ジェイル・スカリエッティ……。二度と目覚めないで……」

 

 ジェイル・スカリエッティは思う。

 目覚めてすぐにこれかと―――

 つくづく自分はついていないのだと実感させられる。

 今の自分は、オリジナルのジェイル・スカリエッティが予備として残した過去のメモリの集合体。

 私には、こんな結末がお似合いなのか……。

 あぁ、もっと欲しかったな……。

 欲しい、とにかく欲しい……。

 

 おいで―――

 

 誰だ君は……?

 

 おいで―――

 

 私を欲してくれるのか……?

 

 おいで―――

 

 あぁ、行くよ……今すぐにでも、君の下へ……。

 

 ディオニソスの体が倒れ伏す。

 

「ディオニソス司教様!!」

 

 その様子を見ていたオルランドが叫んだ。

 

「大丈夫、ティアナさんの魔法弾は優秀なんだ。ディオニソス司教に傷を残すことなく内部の敵を撃ち抜くことが出来る」

 

 オルランドとティーノの後方からエリオがそう声をかけて来た。

 

「エリオさん?」

 

 ティーノがそう声をかけると、エリオはニコリと微笑む。

 

「うん、よく頑張ったねティーノ」

 

 エリオはそう言って、ティーノの頭を一撫ですると、キャロと共にディオニソスを拘束しているスバルとティアナの下に向かった。

 その時、拘束されていたディオニソスを中心にテンプレートが広がる。

 互いを削り合う歯車が高速回転し、光り輝く。

 その光景にティアナとスバルが驚き、エリオとキャロは二人の下に駆け出す。

 だが、テンプレートは一つでは無かった。

 

「え……、なに……これ……?」

「ティーノ!」

 

 ティーノの下にもテンプレートが生まれていた。

 そして回転を進める互いのテンプレートから、幾何学模様が生まれ、それが世界樹の枝のように伸び始める。

 一つの世界がもう一つの世界を飲み込む様に、新たな命を吹き込むように、ティーノの世界がディオニソスの世界を侵食していく。

 

 

「ここは、いつもの……?」

 

 その世界は、河川敷だった。

 清さにおいて他の侵入を拒む大きな川を挟み、男とティーノは見つめ合う。

 そこはティーノの夢の世界だった。

 

「やぁ、随分と無茶をしたようだね」

 

 川を挟んで向かい側から、いつものように幸薄そうな男が声をかけて来た。

 ティーノもそれに対して、いつものように答えた。

 

「それでも、意地があったんだ。どれだけ傷ついても貫きたい想いがあったんだ」

 

 そう笑うティーノに対し、幸薄そうな男は誇らしげに笑った。

 

「そうかい、それは良かった……」

「うん……、本当に良かったよ」

 

 その時、ティーノの後方から砂を踏みしめる音が響いた。

 ティーノがそちらに振り返ると、ティーノを大人にした姿、ティーノの別の未来の姿をした人物がいた。

 それは、幸薄そうな男とも似ていて、ティーノとも似ている。

 丁度その中間のような男だった。

 その男がティーノの隣に立つ。

 

「痛かった?」

 

 ティーノがそう言うと、ティーノの隣に立つ男、ジェイル・スカリエッティが頬を掻いた。

 

「すごく痛かったよ。あの女子が放った魔力はまるで頬を引っ叩かれたかのように痛かった」

「でしょ?ティアナは怒ると怖いんだ」

 

 ティーノが笑い、ジェイルも笑った。

 そしてジェイルが川を挟んで向かい側にいる人物に向き合った。

 

「……私は、こちら側にいることにしたよ」

「そうかい、君が選んだことなら、私はそれでいいと思うよ」

「あぁ、だってこちらの私は私に手を差し伸べてくれたんだ。……こんなに嬉しいことはなかったよ」

 

 そしてジェイルがティーノを見ると、ティーノはジェイルを見つめていた。

 

「でも、僕をあげることは出来ないよ。僕は僕で君じゃないんだ」

 

 そう言ったティーノに対し、ジェイルはバツが悪そうに笑った。

 

「そんなことは考えていないさ。それに、君が許してくれても他の人達が許してくれそうにないからね」

 

 ジェイルがそう言って空を見上げると、霧に覆われた空から雪が降って来た。

 その雪はティーノの側にだけ降り注いでおり、川を挟んで向かい側には振っていない。

 雪の礫がティーノの掌に収まると、そこから光が溢れ出した。

 その光の先には、外の光景が写されており、ティーノの手を握りしめてなけなしの魔力を振り絞っているオルランドの姿が写っていた。

 

「何をしているんだティーノ・ランスター!私達のケンカはまだ終わっていないだろう!寝てるんじゃない!飲まれるな!帰ってこいッ!!」

 

 光が収まると、オルランドの姿は見えなくなった。

 

「まったく、アイツは……」

 

 ティーノがそう言うと、目の前にいるジェイルが眩しそうに羨ましそうに微笑む。

 

「良い友人を得たね……」

「そうだね、だから、ごめん―――」

「良いとも、私は君の一部となって、君の感情を愛を自由を見させてもらうことにしたからね。その代わりと言ってはなんだけど、私の力は君に託そう―――。きっと、今の君の願いを叶えてくれるはずだからね」

 

 ジェイルが光の礫となってティーノの体に入り込む。

 不快感は無い。

 むしろ、冷たいその感情をティーノは優しく抱きしめて、様々な人から受け取った温もりで暖めていく。

 冷たい思い出を暖めたティーノは、空を見上げた。

 

「一緒にいこうジェイル・スカリエッティ……、君の力が今必要なんだ!」

 

 さぁ帰ろう。

 

 愛した皆が待つ、あの場所へ―――

 

 

「う、うん……」

「ティーノ!!」

「あわッ!!」

 

 ティーノがぼやける視界を目を擦り鮮明にすると、そこはティアナが元いた病室であった。

 ティーノはアンジェリカのベッドの隣に用意されたベッドに寝ておりそのティーノにティアナが抱き着いていた。

 アンジェリカのベッドの方にはオルランドが椅子に腰かけていた。

 ティーノが目を覚ましたのを確認したオルランドは、嬉しそうに微笑む。

 アンジェリカは口元を押さえて喜んだ。

 色々と過保護に聞いて来るティアナに相槌を打ちながら、アンジェリカを見たティーノは、自身の胸元に手を当てた。

 そして立ち上がる。

 その光景を見ていた、ティアナをはじめとしたストライカーズの皆にナンバーズの皆、八神はやては、言葉を発することが出来ない。

 ティーノの姿がどこか神々しく見えたからだ。

 アンジェリカの前に立ったティーノにオルランドが声をかけようとした。

 

「アンジェリカの治療を始めるぞ。オルランド……」

 

 だが、その言葉を聞いてオルランドが固まる。

 

「ほ、本当に可能なのか……?」

 

 震える声で聞くオルランドに対して、ティーノが真剣な目で答えた。

 

「僕とお前がいれば大丈夫だ。……僕たちに不可能は無い」

 

 その言葉があまりにも自信に満ちていて、力強くて、オルランドは涙を堪えるために空を仰いだ。

 

「……始めるぞオルランド」

「あぁ、よろしく頼む……」

 

 ティーノとオルランドはバリアジャケットを纏う。

 横にさせたアンジェリカをティーノが見つめる。

 アンジェリカの様態は、見た目は大丈夫そうに見える。

 だが、ティーノには理解出来ていた。

 もぅ、アンジェリカの体は一日ともたないことを、アンジェリカが気丈に振舞い苦しみを誤魔化しているのを―――

 

 だから、皆の夢を現実にするために―――

 

 神秘を奇跡に落とし、人の力で現実と為す。

 

 その力の名を呟く。

 

 自分にのみ与えられた。

 

 万人の夢と言う名の欲望を形にした力。

 

 その名は―――

 

「インヒューレントスキル発動……、アンリミテッド・デザイアー」

 

 その名をティーノが呟くと同時に、足元に歯車をいくつも重ね合わせたようなテンプレートが姿を現す。

 さらに、そのテンプレートから光が溢れ出し、アンジェリカの虹色の魔力と共鳴を始める。

病が表面に姿を現したからだろう。

 アンジェリカの口から静かな悲鳴が上がる。

 額には汗がびっしりと張り付き、全身が痛みに抗っていた。

 その様子を苦悶の表情で見ていたオルランドがたまらず叫ぶ。

 

「ティーノ!!」

 

 だが、真剣な顔をしたティーノはその瞳をオルランドに向けた。

 その金色の瞳の奥に、幾何学模様の歯車達が見えた。

 オルランドが言葉に詰まっていると、ティーノが口を開ける。

 

「オルランド、お前はアンジェリカを愛しているか?」

「当たり前のことを聞くな私は、アンジェリカの兄だぞ!」

「違う―――男として、アンジェリカと言う女を愛しているか?」

 

 その言葉に、オルランドは狼狽える。

 

 目の前で苦しむアンジェリカを見て、胸の内から湧き上がる想いが、兄妹だからと済まされる感情でないことは、理解している。

 だが、自分はグランディス家の人間で聖王家を守るために存在を許された家で、アンジェリカは罪に塗れた自分を許容してくれる存在で、そんな存在にこんな穢れた感情を向けていいわけが無い。

 

 だから、答えをだせない―――。

 

 アンジェリカを自分で汚してはならない―――。

 

「私は……愛しています……」

 

 だが、その声は苦しむアンジェリカから発せられた。

 

「私は……、一人の女として……お兄様を……オルランド・グランディスを……愛しています」

 

 息も絶え絶えで、何を言っているのかも聞こえないくらいに弱弱しい声でアンジェリカは言った。

 

 愛の言葉を―――

 

 オルランドはその言葉を聞いて、覚悟を決めた。

 自分の穢れを背負わせてしまったとしても、彼女と共にいたいと決意した。

 

「私も愛している。アンジェリカ―――」

 

 その告白を聞いて、アンジェリカとオルランドの双方は笑った。

 これで終わっても悔いはないと言わんばかりに、やっと互いの本心が聞けたと涙を流しながら笑った。

 だから、こんな二人を終わらせてはならない。

 

「オルランド、アンジェリカの胸元に手を乗せろ……」

「えっ……」

 

 ティーノにそう言われたオルランドは一瞬頬を赤くさせる。

 

「色気づいてんじゃねぇ馬鹿野郎!ったく、早くやれっての!!」

 

 ティーノは強引にオルランドの手をアンジェリカの胸元に乗せる。

 

「良いか、願え―――。全ての不幸からアンジェリカを愛した女を救うための力を願え―――願え、愛した男と今後もあり続けるために、ともに生きるために、すべての災厄に打ち勝つように願え!」

 

 アンジェリカとオルランドは願った。

 

 ずっと、ずっと一緒にいたいと―――

 

 そのための力を―――

 

 剣を―――!

 

 アンジェリカの胸元、リンカーコアから虹色の魔力光が輝き出し、それが生まれた。

 

「なんだ……これは……?」

 

 それは一振りの剣だった。

 ただ、虹色に輝く剣だった。

 その剣を抜ききったオルランドにティーノが言う。

 

「そいつの名前はオートクレール、アンジェリカとオルランドの願いを形にした。二人のための、二人だけの災厄を斬り伏せる剣だ」

 

 そしてオルランドは、オートクレールでアンジェリカの体に巣食う聖王家を代々苦しめて来た病魔を断ち斬った。

 オートクレールに斬られたアンジェリカの体には傷一つない。

 血色も良くなってきている。

 疲れから安眠を始めたアンジェリカを見つめて、オルランドは腰を抜かした。

 そして、跪くとティーノに頭を下げた。

 

「感謝を……、ティーノ・ランスターに最大限の感謝を……」

 

 そう言って喜びの涙を流すオルランドにティーノは笑いかけた。

 

「気にすんな―――。僕達は、友達だろ?」

 

 オルランドはその言葉に笑うと、立ち上がった。

 

 その顔には、輝きしかなかった。

 

「あぁ、私達は友達だ!」

 

 そう言ったオルランドだったが、今までの無理が疲れとなって噴出したのか、ティーノ

へもたれ掛かる形で気を失った。

 ティーノはオルランドを受け止めると、アンジェリカの隣に寝かせる。

 すると、オルランドの胸元にアンジェリカは顔をすり寄らせ、オルランドはアンジェリカを抱きしめた。

 そんな二人の姿に満足気に頷くティーノであったが、ふと目に映ったカレンダーを見て、青ざめる。

 

「……ティアナ」

「どうしたのよ?」

「僕はどれだけ寝てた?」

「だいたい、半日程よ。……はいはい、分かっているからそんな泣きそうな顔をしない」

 

 ティーノとティアナが駆けだす。

 そう今日は、ヴィヴィオのエリートクラスの試合の日だった。

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 エリートクラスの二回戦目、ヴィヴィオは苦戦していた。

 相手が何度もDSAAに出場している選手であることもそうだが、ヴィヴィオはいつもの集中力を出せずにいた。

 

 一回戦、ティーノは来てくれなかった……。

 大丈夫だよね……?

 

 その時、相手選手の右ストレートがヴィヴィオの頬を捕える。

 

「ぐっ!!」

 

 そのまま膝をつけてしまいそうになる。

 だが、ヴィヴィオは堪えた堪えてしまった。

 相手選手の左ストレートが叩きつけられるようにして迫る。

 これで決まる。

 観客のほとんどがそう思った。

 盛大にヴィヴィオを打ち倒すのだと、その光景を今か今かと待ちわびる。

 試合をしているドームは満員で、その観客席から見ている人達が全て自分の負けを期待して歓声を上げているのだと思ってしまう。

 ヴィヴィオの試合を見に来ていたなのはとフェイトが精一杯に声を出す。

 ヴィヴィオの後方では、セコンドとして自分についているノーヴェや友人達が声援を送ってくれる。

 

 頑張れって言ってくれる。

 でも、もう足にも腕にも力が入らないよ。

 

 ヴィヴィオの弱り切った瞳が相手選手の拳を捕える。

 

 あぁ―――……、ここまでなのかな―――……

 

 そう思った時だった。

 

「負けるなぁああああああ!!」

 

 ふと耳に待ち望んだ声が聞こえた気がした。

 錯覚かもしれない。

 でも、足に力が戻った。

 

「僕は勝ったんだ!だから、お姉ちゃんも負けるなぁあああああ!!」

 

 聞き間違いじゃない!

 ヴィヴィオの腕に力が戻る。

 迫る拳を確実に瞳に納め、さらにその先を目指す。

 

「アクセル・スマッシュッ!!」

 

 ヴィヴィオの放った渾身の一撃は、相手選手の腕をすり抜けるように相手選手の頬を打つ抜き吹き飛ばした。

 見事なまでの、クロスカウンターであった。

 割れんばかりの歓声が響き渡る。

 相手選手のダウンを審判が認め、ヴィヴィオのKO勝ちが決まった。

 その瞬間、ヴィヴィオは力が抜け落ち尻餅をついてしまった。

 そして目的の人物を探す。

 すぐに見つけることが出来た。

 ティーノは会場の入り口のすぐそばにいた。

 体はボロボロで傷だらけだった。

 でも、無事にいてくれた。

 それがとても嬉しかった。

 だが理不尽にもこうも思ってしまった。

 

 来るのが遅い、と―――。

 

 ヴィヴィオに向け、ティーノがサムズアップした。

 その顔が満面の笑みだったからだろう。

 ヴィヴィオもティーノに向け、満面の笑みでサムズアップした。

 そしてヴィヴィオとティーノは互いにサムズアップしていた腕を下すと、倒れ込み溜息を零すように呟いた。

 

 

「「良かったぁ~~~……」」

 

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