魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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 町は一変していた。

 まるで絵具をぶちまけたかのようなその景観に命の息吹は無く。

 心を冷やす風が静かに流れた。

 そんな街並みを押し流すかのような氷の塊、まるで氷山が逆さまになって降って来たかのようなその場所から、一つの炎の柱が天に昇った。

 その中心点から現れたのは、烈火の将シグナムであった。

 

「ふぅ……」

 

 シグナムは、小さく息を吹き出すと体についた埃を払った。

 そして、結界を解除する。

 それと同時に、戦火の後が何事もなかったかのように元に戻って行った。

 そして、街に人の息吹が帰って来た。

 だと言っても、時間は深夜だ。

 出歩いている人間などたかが知れていた。

 

「さてと……」

 

 シグナムは欠けた月を見上げる。

 これからどうするか。

 シグナムがそのことについて考えようかとすると、目の前にホログラムが映った。

 それははやてからの通信であり、シグナムは通信を繋げた。

 すると、映像の先では少し慌てたようすのはやてがいた。

 

「良かったシグナム、リインとティーノがどこに行ったか知らん?」

「すみません、主はやて……。先程までティーノと戦闘をしておりました」

「な、なんやて―――!?」

「説明は、後程……。今から戻りますので」

「了解や……。ケガは無い?」

「はい」

 

 そう告げて通信は閉じられた。

 

 

 

 

 ティーノとオルランドとリインは、電車に乗りながらこれからを話し合う。

 

「つまり貴様は、そのクイント・ナカジマと言う人が実はまだ生きていて、クイント・ナカジマの眠っている場所がわかるから、連れ戻しに行くと?」

「そういうこと……。でもまだ可能性の話しだ」

 

 ティーノはオルランドに説明した。

 ナカジマ家のことを、そしてクイントの事を。

 その話を聞いた後だと言うのに、死んだ人間がもしかしたら生きているかも知れないと言う、半ば妄想の世界の話を聞いてもオルランドは痛く真剣だった。

 

「でも、クイントさんがいる場所に当てはあるのか?」

「それは、ここに入ってる」

 

 ティーノはそう言うと、自身の額をつんつんと突いた。

 

「でもそれだけじゃないですよね?」

 

 そう言って来たのは、リインだった。

 リインは、座席に座るティーノの顔を覗き込むと微笑む。

 

「……」

 

 それに対してティーノは不貞腐れた顔をして、目を背けた。

 そんな黙り込むティーノを見たリインは、ティーノの頭を優しく撫でる。

 

「今は良いですけど、話したくなったら話すですよ?」

「……うん」

 

 ティーノが微かに頷き漏らした言葉を聞いて、リインは満足気に笑う。

 そんな様子を見ていたオルランドは、不思議に思ったことをそのまま口に出すことにした。

 

「失礼ですがリインさんは、ティーノとはどのような関係なのでしょうか?」

 

 オルランドにそう聞かれたリインは、一瞬キョトンとすると、ニンマリと笑顔を浮かべティーノの頭を抱え込む様に抱きしめた。

 

「私は、ティーノのお姉ちゃん第二号です!」

「はぁ……?」

 

 頭を傾げるオルランドの視線の先には、顔を赤くしたティーノがいた。

 

 

 

 

 

「すまねえ、俺のせいだ!!」

 

 その光景はある種異常であった。

 大の大人がそれも男が、一人の女子に頭を下げている。

 恥も外聞も関係無く頭を下げたままの男、ゲンヤにティアナは重い口を開いた。

 

「事情は聴きました。それで何故ティーノが出て行ったのかも分かりました」

「俺が……、俺がガキのあいつに変な事を言ってしまったために……、本当にすまねえ」

「大丈夫ですよゲンヤさん。ゲンヤさんの気持ちも理解出来ますし……、恐らくティーノの目的はもう一つある。いえ、それがメインでああると言っても過言ではないと思います」

 

 ティアナがそう言うと、周りにいた大人達が皆苦虫を嚙み潰したような表情に変わる。

だがそこで、はやてが両手を強く鳴らした。

 

「ティーノの目的はクイントさんを見つけ出すことと、おそらく自身の記憶……ジェイル・スカリエッティだったころの記憶を蘇らせること!これは、今までティーノからその手の質問を受けてもはぐらかせてきた私達の責任や。ティーノの気持ちも理解は出来る。でも、それはそれだけは何としても防がなあかん!現在、ティーノと行動を共にしてるのはオルランド君とリインや。この二人がおる限り無茶なことはせんと思うけど、万が一と言うこともある。やから、これからティーノを連れ戻すために私達も行動を始めるで!」

 

 はやてのその声を聞いて、大人達が立ち上がる。

 だが、はやてから待ったがかかった。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんそれにエリオとキャロは、このままここに残って子供達が不安がらんようにしたげて。ティアナとシャマルは、私と一緒に本局に行って今回の一件を上層部の連中に利用させへんために行動するよ。それで――――」

 

 そこではやては一息つく。

 そして願う様に告げていく。

 

「ヴィータ」

 

「はいよ!」

 

「シグナム」

 

「はい」

 

「ザフィーラ」

 

「お任せを……」

 

「頼んだで……」

 

 

 はやてが自身の家族に伝えると、ゲンヤが慌てた様に口を開いた。

 

「俺も行く。ティアナはあぁ言ってくれたがこれは俺の責任だ。自分のケツは自分で拭かせてもらう」

 

 ゲンヤとはやての瞳が重なり合う。

 はっきりと言ってしまえば、魔法が使えないゲンヤは足手まとい以外の何物でもない。

 だが、それでも下りないとゲンヤの瞳が物語る。

 二人の間に言葉にしない口論が生まれる中、ゲンヤの後ろから、ギンガとスバルが顔を出した。

 

「はやてさん、私達が行くので大丈夫です」

「父さんは、すぐに熱くなっちゃうからね~」

「お前ら……」

 

 そうして、各々が準備を始める中ティアナはスバルに近づきその手を弱弱しく握る。

 

「ティーノのこと、お願い……」

 

 悲し気に呟いたティアナの声に、その手に、スバルは力を入れる。

 

「大丈夫だよ。任せといて!!」

 

 その時、はやての眼前にホログラムが浮かび上がった。

 そこには、サウンドオンリーと書かれており、通信相手がリインであることが書かれていた。

 

 

 

 ミッドチルダ東部、その一つの駅を降りたところでティーノ達は困り果てていた。

 

「なぁ、この森の中を歩くのか?」

「うぇ~~~~……」

「……どうしよ」

 

 三人の眼前には、深い森が広がっていた。

 木々の背丈は、優に50メートルを超え枝から伸びた葉が日の光を遮っていた。

 時間はすでに朝の時間帯になっている。

 それなのに、出ている筈の太陽が見えない。

 三人は途方に暮れていた。

 その時、オルランドは仕方が無いなと溜息を零しながら、魔力を指先に集中させると、指笛を鳴らした。

 

「な、なにをしてるんだ?」

 

 ティーノとリインが目を丸くさせていると、オルランドはドヤ顔で言った。

 

「まぁ、見て居ろ」

 

 すると、木々の間から何かがガサガサと蠢く音が聞こえて来た。

 

「ティ、ティーノ……」

 

 リインがたまらず、ティーノの腕にしがみつく。

 だが、オルランドはそんなティーノ達を前にしても余裕のドヤ顔のままだった。

 そして木々の闇から、六つの光る瞳を前にしてリインが叫びそうになった所で、それは姿を現した。

 

「……鹿?」

「違うは馬鹿者、馬だ」

「でも角が生えているですね?」

「それは当然だ。彼らはユニコーンだからな!」

 

 だがその風貌はどこからどう見ても、鹿であった。

 嫌、サイズ的には馬並みではあるのだが、見た目が白い鹿だった。

 そんなことを考えていたからだろう。

 オルランドとリインを即座に乗せたユニコーンは、我先にと進もうとする。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 

 すると、一頭のユニコーンがティーノの前に頭を出してきた。

 否、ガンをくれて来た。

 そしてその瞳が語る。

 

 認めろと―――

 

「あぁもうわかったよ!お前はユニコーンだ!!」

 

 ティーノが叫ぶと、ユニコーンは嫌そうな顔をしながらもティーノをその背に乗せた。

 

「……お前の正確はオルランドとそっくりだよ」

 

 そしてユニコーンは走り出す。

 

「凄い凄い!速いですよ~!」

 

 木々の中を文字通り風のように走るユニコーンの背中の上でリインははしゃいでいた。

 

「おい、そんなにはしゃいでいると危ないぞ?」

「あっ痛!!」

「言うまでもなかったな……」

 

 盛大に舌を噛むリインを見ながら、オルランドはやれやれと首を振る。

 そんな二人の会話を後方に感じながら、ティーノは思考の海に浸かっていた。

 

 分かる―――

 この先にあるのが―――

 僕の中に溶けたジェイルが疼いているのが分かる―――

 でもなんだこの感じは―――?

 後ろ髪を引かれるようなこの感じは―――

 

「……考えても仕方が無いか」

 

 ティーノはそう言うと、後方の二人に向け声を張り上げた。

 

「もう少しだ!」

 

 ティーノのその声を聞いて、オルランドとリインの顔も引き締まる。

 そして木々が作り出す闇が開け太陽の光が差す世界に飛び出した。

 

「ここが……」

 

 それはまるで隕石が衝突したかのように巨大な穴であり、それは地獄に通じているのではないかと思えるほどに深い。

 まさに断崖絶壁であり、向かい側が見えない。

 よくその崖を見れば、そこの下側から上側に向け削れている。

 

 まるで、地底から何かが這い出したかのように―――

 

「ここは……」

 

 リインが険しい顔で呟く。

 三頭のユニコーンは何かに恐怖し始める。

 

「ここにクイントさんがいるんだな……」

 

 オルランドは地底を眺めながら呟く。

 その隣でティーノは独り言のように言った。

 

「あぁ、僕の記憶も……ここに……」

 

 それを聞いて、オルランドは驚いたように瞳を開けた。

 

「ティーノ……貴様……」

 

 だが、オルランドはそれ以上言えなかった。

 ジェイル・スカリエッティが何をしてきたかは知っている。

 だが、ティーノは本気でそれを求めていた。

 泣きそうな顔になってまで求めていた。

 

 ならば―――

 

 これ以上何かを言うのは無粋だ。

 

 オルランドはそう自身の中で結論付けた。

 そして、余りにも深い穴に足を竦めているリインに聞く。

 

「リインさんは戦えるのですか?」

 

 すると、リインはムッとした顔になる。

 

「私だって戦えるですよ!」

 

 リインはそう言うと、蒼い本を取り出しバリアジャケットを身に纏った。

 

「二人共いくぞ……」

 

 そして三人は、深淵に飛び込んで行った。

 

 

 

 なのは家でリインから通信を受けたはやては、拳を握りしめながら震える唇をなんとかして動かした。

 

「三人居場所が分かった……」

 

 大人達は、はやてのその雰囲気からそこがまずい場所であることが理解出来た。

 

「三人がおるんは、ミッドチルダ東部森林地帯中部……。かつて、聖王のゆりかごが浮上した場所や」

 

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