魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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知っている

 

 ザフィーラ達は、管理局本局からミッドチルダでの飛行の許可を得て眼下に街並みを残しながら空を飛んでいた。

 

「それにしてもなんで今まで、ミッドチルダ東部森林地帯中部に存在する聖王のゆりかごの浮上跡地に管理局の手が入っていなかったんだ?」

 

 騎士甲冑を身に纏ったヴィータが、先行するザフィーラに疑問を投げかける。

 

「管理局は聖王のゆりかごのあった場所に関してはJS事件終結とともに大規模な調査をしている」

「ならなんで……」

 

 ヴィータが小さな頭を使って考え出すと、同じく騎士甲冑を纏い空を飛んでいるシグナムが答える。

 

「ゆりかごの存在を隠していたのは、あのジェイル・スカリエッティだ。我々に発見されないように処置を施すことくらい簡単に出来てしまうだろう」

「でもさ、なにか釈然としないんだ……」

 

 その時、皆の前にホログラムが現れた。

 そこに映っていたのは、無限書庫で数多の本を開き情報を集めているユーノとアルフであった。

 

「ヴィータの考えは正しいよ。あそこには、少なからずジェイル・スカリエッティの知識が眠っている。その知識を悪用しようとする者達からしてみれば喉から手が出るほどに欲しい物ばかりだ。そのために、管理局ではあの辺り一帯に高ランクの魔導士を配置し外部からの侵入を拒絶しているんだ」

「でも、ティーノ達はその中に入ることが出来た。誰にも邪魔をされずに……」

 

 会話が止まり皆黙り込む。

 誰もその先を口に出来ない。

 その考えは非常にまずい。

 だから、誰もがそんな事は起きていないと口を噤む。

 

 そう―――

 管理局のしかも高い地位にあるもが―――

 JS事件で吐き出された管理局の膿以外に存在しているなど、誰も考えたくなどなかった。

 

 

 

 

 

 空を飛ぶことが出来ないゲンヤ達は、車で目的の場所を目指す。

 

「……すまねぇな。俺の我儘に付き合わせてしまって」

「そんなことないよ。私だってお母さんが生きているなら、何が何でも助け出そうと思うだろうし、何が何でも助け出して見せる」

「スバル……」

「だから、お父さん一人に背負わせたりしない……私も戦う」

「もちろん私もですけどね」

「ギンガ……すまねぇ……」

 

 

 

 

 

 ティーノ達一行は、まるで底なしなのではないかと疑いたくなるほどに巨大な穴の底に足を下していた。

 そこはまるで巨大な生物の口の中にでも入ってしまったかのように空気が湿っており暗かった。

 踏みしめた土の音が泥水の上を歩いているかのような音で、数歩先も視認できない。

心が体事へし折れそうな環境下、それでも三人はどことなく楽し気であった。

 

「うへぇ……太陽の光が届いていないのですよ……」

「それだけ深いと言うことだろう……、だがこうも暗くては前に進むことも出来ない」

「そこは私に任せるですよ!」

 

 リインはそう言うと、片手を振るった。

 すると、洞窟全体が街灯に照らされた夜のように明るくなる。

 まるで豆電球に照らされた部屋のように、なんとも言い難い光量がティーノ、リイン、オルランドを照らす。

 そこはどこまでも続く泥の砂漠であった。

 

「なにもないな……」

 

 地下の水源よりもさらに深い穴の底であるためだろう。

 岩壁からは少なくない水が小さな滝となっていた。

 さらに、その水が足元の砂を掻き混ぜ泥となっている。

 そんな光景が延々と闇に伸びている。

 まるで悪魔が闇の先で手招きしているように不気味である。

 

「こっちだ……」

 

 ティーノはそれだけ呟くと歩みを進めた。

 

「お、オイ!」、

 

 オルランドが、声をかけて歩む速度を増す。

 すると、リインはオルランドを抜かしてティーノの隣に並ぶと、その手に自身の手を重ね合わせた。

 ティーノはそれに気が付いていないかのように無視しながら歩みを進め続ける。

 だが、重ねられたその手をティーノは確かに握りしめ返した。

 ティーノは闇の中を進みながら考える。

 

 わかる―――。

 僕は知っている―――。

 頭の中にこの風景が残っている訳ではない。

 けれど、この体が心がまるで家の中であるかのように、足を運ばせてくれる。

 僕には、この闇の中をどう進めばいいのかわかっている。

 ある。

 この先にあるんだ。

 僕の記憶が―――、そして恐らく過去の僕が深く関わりそのせいで犠牲になってしまったクイントさんが、この先に―――。

 

 ティーノの瞳には、光しか見えていない。

 どれだけ闇が覆い隠そうとも、その中の光が確かに道しるべとなって見えていた。

 だからこそ、盲目になっていた。

 

 その闇は、過去は―――未来を殺すと―――。

 

 

 

 

 

 はやてとシャマルは速足で本局内の廊下を歩いていた。

 それは上層部でも、ティーノ達の事に理解を示す人達、本局統幕議長のミゼット・クローベル、武装隊栄誉元帥のラルゴ・キール、法務顧問相談役のレオーネ・フィルス。

 時空管理局黎明期の功労者として伝説になっている三人であり、実質の管理局内での最高権力者に陳謝と助力を乞うためである。

 はやて達三人は、三又に分かれる廊下の中心で立ち止まる。

 そして三人がそれぞれ三手に分かれて、動くため行動に移そうとした時、後方から声が聞こえた。

 その声は、何か楽しい事を思いついた子供のように無邪気で狂気に満ちていた。

 

「やぁ、お久しぶりです。八神二等陸佐」

「サンザ・グラトン刑務官……」

 

 サンザは、はやてに名を呼ばれると嬉しそうにその手を重ね合わせた。

 

「どうかされたのですか、そんなに急いで?なにか危急な要件でも?」

「あなたには関係の無い事です……」

「嫌ね、別に私としてはあなた達が何をしようともどうでもいいのですけどね?そこの執務官殿には、色々とまぁありましてね」

 

 サンザはそう言うと、ティアナを一瞥した。

 ティアナもその瞳に受けて立つ。

 

「私の監獄から逃げ出した犯罪者を託ってどういうつもりか知らないが、これだけは言っておきます。―――犯罪者ジェイル・スカリエッティは必ず牢獄に送り返す。どんな手を使ってでも必ずね」

 

 サンザはその瞳に明らかな侮蔑を込めてティアナに言った。

 そして一瞬たじろぐティアナを鼻で笑い来た道を引き返そうとした時、思い出したと言わんばかりに言い出した。

 

「あぁ私としたことが、言いたい事を言った満足感から肝心なことを聞き忘れていた」

 

 そしてその瞳に三人を収めて語る。

 それははやて達にとって衝撃以外の何物でもなかった。

 

「第17無人世界ラブソウルム軌道拘置所11番監房ウーノ、第6無人世界キリーク軌道拘置所1番監房トーレ、第6無人世界ゲルダ軌道拘置所2番監房クアットロ、第17無人世界ラブソウルム軌道拘置所6番監房セッテ」

 

 その単語の羅列を聞いて、はやて、ティアナ、シャマルは顔を青くしていく。

 

「今から数時間前、何者かに手引きされ脱獄した元ナンバーズ達、……犯罪者達がどこにいるのか御存知ですか?」

 

 

 

 

 

 目的地まで後数分、すでに森林の先に巨大な穴が見えていた。

 風邪を斬り進むシグナム、その時風の中から嫌な空気が肌を撫でたのを感知した。

 それと同時にシグナムは叫ぶ。

 

「躱せ!!」

 

 その声が終わるよりも早くヴィータとザフィーラは回避行動に出る。

 その刹那、三人の間に魔力弾のような光弾が通過し、さらに周囲に刃のついたブーメランが無数に姿を現す。

 

「これは!?」

 

 ヴィータが叫ぶ。

 見覚えがあった。

 この戦術も、攻撃も、空気も全て覚えがあった。

 

「久しいな、と言うべきか……あの時は世話になったな機動六課」

「……」

 

 雲の切れ目から現れたのはかつてのジェイル・スカリエッティの最高戦力。

 その腕と足に虫の羽のようなブレードを顕現させ武人の如き立ち姿。

 桃色の髪を風に靡かせ、その手を油断無く構える戦人。

 

「戦闘機人……」

 

 そこにいたのは、いるはずの無い者達。

 トーレとセッテであった。

 

 

 

 

 

 

 スバルとギンガとゲンヤはミッドチルダ東部森林地帯の鬱蒼とした木々の中にいた。

 

「お父さん大丈夫~?」

 

 木々や草の数々を文字通り倒しながら道を作るスバルが自身の後ろでゼーハーゼーハーと肩で息をいているゲンヤに声をかける。

 

「だ、大丈夫だ!これくらい……」

 

 そんなゲンヤに肩をかそうとギンガが近づいたときに、それは起きた。

 

「ッ!?」

 

 スバルがシールドを張り、ギンガがゲンヤの前に立つ。

 スバルのシールドに弾き飛ばされたのは、触手のようなコードの群れであった。

 

「あら~、少し見ない間に随分鼻が利くようになったのね~」

 

 その声は、どこか甘い雰囲気を持っていた。

 だが、スバルとギンガは知っていた。

 その裏に隠された棘を、その存在を―――

 

「ど、どうして……?」

「そんなの脱獄したからに決まっているじゃない~、お馬鹿ちゃんなんだから~」

「あなたが収監されていた場所は、そんな簡単に脱獄出来る場所じゃないはず」

「でも、現に私はここにいるのだし、どれだけ疑われてもそれが証拠ですし~……」

 

 世界が歪んでいく。

 木々が草花が空が、まるで歯車のように回り出し、巨大な牢獄とかしていく。

 その光景に驚くスバル達を可笑しそうに笑いながら、クアットロは宣言した。

 

「ここから先に、通すわけにはいかない」

 

 

 

 

 

 暗闇の中を進み続けるティーノの手を握りしめていたリインは、突然の身震いに襲われる。

 

「てぃ、ティーノ……」

「……」

「ティーノ……」

「……」

「ティーノッ!!」

「わわ、どうしたの!?」

「無視するなんてひどいです!」

「ご、ごめん……」

「もぅ……」

 

 リインは頬を膨らませながらもティーノを見つめる。

 ティーノは謝罪の言葉を口にしながらもその視線は暗闇の先に向けていた。

 その黄金色の瞳には何も映していない。

 リインもオルランドもなにも映してくれていない。

 目的も忘れ、自身も忘れたかのように、闇に心を奪われているようにしか見えない。

 だから、少しでもティーノに闇から遠ざかってもらおうと、リインは小さな頭で考えて掌にあるものを乗せてティーノに渡した。

 

「これは?」

 

 ティーノが受け取ったのは三つ葉のクローバーのネックレスだった。

 

「私のネックレスを渡すので、ティーノのネックレスを下さい!」

 

 ティーノは突然そんなことを言われて、何を言っているんだコイツはと思いながらも、リインも一度言い出したら聞かない性格であるのを知っているティーノは早く先に進むためにも、溜息を吐きながらも、ポケットの中からネックレスを取り出し、リインに手渡した。

 それを受け取ったリインはネックレスを大事そうに抱え込むと真剣な瞳で言った。

 

「忘れないでください……。私は、ティーノのお姉ちゃんなんです」

「あ、あぁ……?」

「お姉ちゃんなんですからね!」

「わ、わかったよ」

 

 理解したのならそれで良しと、リインが鼻からフンスと息を吐き出したのを合図に再び歩みを進める。

 そして目的の場所に辿り着いた。

 そこはティアナの家に置いてある転送装置と良く似た機械だった。

 闇の中で淡く光る装置は、未だにそれが生きているのを示していた。

 

「ここがそうなのか?」

「あぁそうだ……この先にある」

 

 オルランドに答えたティーノは淡く光る円柱の中心に歩みを進め。

 リインとオルランドも続いた。

 そして装置は独りでに稼働を始める。

 三人ともどれだけ強くともどれだけ修羅場をくぐっていようともまだまだ子供であった。

 だからだろう。

 三人とも知らず知らずの内に手を握りしめ合っていた。

 周囲の鉄の輪が回転し、光が強くなっていく。

 

 リインは思う。

 クイントさんを無事に連れて帰ると―――

 

 オルランドは考える。

 クイント・ナカジマを救い出すのが親友の願いなら、その願いを叶えるためにこの剣を振るうと、それが大きな借りを返すことに繋がると―――

 

 ティーノは欲する。

 クイントを救い出し、そして自身の記憶も取り戻して、ティアナに大丈夫だと、自分は悪い子では無いと言って、又皆で笑うのだと―――

 

 光が一段と強くなる。

 握り合う手に力がこもる。

 そして三人は転送された。

 

 

 

 

「う、う~ん……」

「ここは……」

 

 オルランドとリインは眩い光に瞼の裏側を照らされたまらずに瞼を開けた。

 そして見た光景に絶句する。

 そこには卵型のカプセルが所せましに並べられた場所だった。

 まるで大樹の根に守られているかのように分厚いコードが絡み合い、気味の悪い色をした液体をカプセルの中に注いでいる。

 

 そこに浮かぶは、一人の女性―――

 

 まるで無重力の世界にいるかのように、液体の中で眠っている。

 だがしかし、オルランドとリインは吐き気がした。

 その装置の数々が人命を弄んだ結果だと、瞬時に理解し何がなされていたのかを想像してしまったからだ。

 そして気が付く。

 

 一緒にいたはずのティーノがいないことに―――

 

 

 

 

「リイン、オルランド?」

 

 同じ時間、ティーノも二人がいない事に気がついていた。

 ティーノが転送された場所、それは不思議な場所であった。

 天井に所狭しと並べられたモニターの数々、黄金色に彩られた壁、大樹の根のような装飾が施された床、赤い宝石が光一直線に道を作り出していた。

 その全てを視認すると同時に激しい動悸がティーノを襲う。

 

「痛っあ……うぅ……」

 

 ノイズが視界一杯に広がり、見たことも無い情景がノイズの隙間に流れる。

 今とは別の時間が今の時間と重なり合い瞳に写る全てを塗りつぶしていく。

 

「知っている……僕は……知っている!」

 

 まるで警報を鳴らすように脈打つ心臓を右手を胸に持って行き握りしめることで黙らせる。

 一歩を踏み出す。

 その一歩が重い。

 まるで鎖に繋がれているみたいに、重い。

 だが、ティーノは進む。

 鎖の先に繋がる何かごと引きずるように一歩、一歩、着実に前に進んで行く。

 なぜなら分かっているからだ。

 そこに得たいものがあるのだと……。

 だが、足に繋がる鎖も重い。

 まるで今のティーノが過ちを犯さないように必死に引き留めようとしているかのように重い。

 ティーノはとうとうその重さに耐えきれず前のめりに倒れ込む。

 だが、そのティーノを抱き止める誰かがそこにはいた。

 

「やっと……やっと……お会いできました」

 

 その声は慈愛に満ちていて、今にも叫び出しそうなまでに喜びに溢れていた。

 ティーノは前に進むためにも、誰であっても利用してやると、助けてくれた人の肩を支えにしてでも前に進もうとする。

 

「やはりあなたは、頑固ですね……」

 

 助けてくれた誰かは、ティーノに支えにされても嫌な声色一つ出さず。

 むしろそれすら受け入れる優しさを持っていた。

 ティーノが無理矢理に顔を上げると、今までノイズが走っていた視界が急にクリアになっていく。

 そして視界一杯に広がる女性の姿を見て、何故だか涙が止まらなくなった。

 

「お久しぶりです」

 

 その人の笑顔がとても懐かしい。

 その人の紫色の髪が自身と重なって見える。

 その人の匂いが胸を焦がす。

 その人は―――

 

「ウーノは、お父様を……いえ、ドクターをお待ちしておりました」

 

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