魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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友達

 レンガ造りの建物、近代的なつくりの建物が多いミッドチルダにおいて、あえてレトロなまるで寺院のような造形は、ここが聖王を祭る聖王協会が運営する学校だからだろう。

 校門まで続く直線状に伸びた道、由緒正しいその学校において今鳴り響く鐘の音色は、下校のチャイムであり、帰路につく年相応の少年少女にとってはまさに祝福の鐘の音であった。

 その音を全身に浴びながら、その煌びやかさに負けない程の元気を全身から出して、高町ヴィヴィオとその友人の、リオ・ウェズリーとコロナ・ティミルは歩いていた。

 

「今日の放課後はどうする?」

 

 元気っこを体現したような少女、リオ・ウェズリーはチャームポイントの八重歯を見せながら、二人に問いかける。

 

「今日はノーヴェさんも、用事があるらしいし、どうしよう?」

 

 コロナ・ティミルは、カバンを両手で抱えながら、お淑やかに悩む。

 すると、頬をかきながらヴィヴィオが答えた。

 

「ゴメン!今日は、予定があるんだ」

 

 すると、コロナは花が咲いたように笑う。

 

「くすっ、そういえば今日は弟君の家に行くんだったよね?」

 

 コロナがそう言うと、リオは腕を頭の後ろで組む。

 

「あぁ~そういえば、言ってたね!」

 

 二人にそう言われたヴィヴィオは恥ずかしそうにする。

 

「ティアナさんと、約束もしちゃったし、私が面倒を見てあげないとね」

「まったく、お姉ちゃんは大変だねぇ」

「もぅ、そんなじゃないよ、リオってば」

 

 女は三人集まれば姦しいと言うが、この三人の少女にあっては周囲に不快感を与える騒々しさはなく、その代わり華やかさがあった。

 そして、ヴィヴィオはティーノとなにをしようかな、と後のことを考え笑った。

 

「ヴィヴィオ~!」

 

 ホンワカとした大好きな声が聞こえる。

 

「あっ」

 

 校門の先にいたのは、自身の母親である高町なのはであった。

 ヴィヴィオはリオとコロナに別れの挨拶をすると、駆け出す。

 その足取りはどこまでも軽やかだった。

 

 

 私、高町なのはは、高町ヴィヴィオの母親をしています。

 今は、ここミッドチルダで暮らしています。

 そして、お仕事は時空管理局の本局で戦技教導官をしています。

 私が魔法に出会ったのは、小学3年生の時でそれから様々な経験を経て、大切な友人をたくさん得て、悲しいことをたくさん経験して、そして母親になって……。

 娘のヴィヴィオがあの頃の私よりも、年上になったことを思うと、少し複雑だけどそれでも毎日楽しく暮らしています。

 そして、驚くべきことに私の親友の一人のフェイトちゃんが新しく後見人になると聞いて、その相手があのジェイル・スカリエッティって聞いて驚いて、そのジェイル・スカリエッティが子供になっていて元教え子のティアナが保護責任者をしていると聞いて、まさに晴天の霹靂でした。

 私は、元ジェイル・スカリエッティ、現ティーノ・ランスターに対しては余り良い印象を持っていませんでした。

 だってジェイル・スカリエッティは、次元犯罪者でヴィヴィオに深い悲しみを植え付けた相手だからです。

 でも、実際に会ってみると拍子抜けするほどにティーノは良い子でした。

 私は、ティアナとフェイトちゃんの考えも知っているから……だから、少しづつではあるけれど、私は、過去に深い業を背負うティーノを認めて、認めてもらえるようにしようと、何度もティーノのいるティアナの家に足を運んでいます。

 その中で、ヴィヴィオとティーノは偶然にも出会ってしまって、最初はどうしようと思ったけれど、今となってはそれも杞憂でした。

 ヴィヴィオは、ティーノの良いお姉ちゃんになって、ティーノもそれを受け入れている関係にすぐになれました。

 

 ……たぶん。

 

 この前も、ティーノの様子を見に行くとヴィヴィオに伝えたら、すぐに私も連れて行ってと返事を返して来て、親としては嬉しい限りです。

 そして、ティアナの家のチャイムを押してアルフが出迎えてくれた、ヴィヴィオはすぐに家の中に消えていきました。

 私はその姿を嬉しく笑いながら、アルフに促されて家の中に招かれました。

 

 ティーノは良い子にしてるかな?

 

 そんな風に思っていたら、聞きなれた叫び声が聞こえてきました。

 

「ふぇぁああああああああっ!」

 

 あぁ、神様――――。

 良いように思っていましたが、私はもしかしてヴィヴィオの育て方をどこかで間違えてしまったのでしょうか。

 家の奥から、フリフリの服を着て涙目のティーノが全速力で走ってきてアルフに抱き着きつく姿を見て、言い知れぬ背徳感を感じながら、私は内心娘にサムズアップするのでした。

 

 

「ア、アルフ~~~……」

 

 そう言いながら、怯えた様子のティーノは、助けを求めるようにアルフのもふもふの体に顔を埋める。

 アルフはそんなティーノの姿を見て、また困ったようにため息を吐く。

 そんなティーノに、なのはは少し体を倒し目線を合わせるようにして優しく言う。

 

「よく似あってるよティーノ、うん……、すごく可愛いね!」

「ぐすっ……」

「ありゃりゃ……」

 

 ティーノは、なのはの存在に気付くとアルフの体を盾にするように体を移動させてしまう。

 その姿を見たなのはは、少し悲しそうな顔をすると、バレバレの鳴き真似をする。

 

「ぐす……、ティーノ君の意地悪……私、悲しいな……」

 

 すると、ティーノは泣き真似をするなのはを心配して、恐る恐るなのはに近づき、小さな手で、膝立ちをして両手の握り拳を両目に押し当ててうえ~んうえ~んなんて、今時幼稚園児でも、馬鹿にしそうな泣き真似をするなのはの頭を優しく撫でる。

 するとなのはは、まるで罠にかかった獲物を捕らえる肉食獣のように両手をバッと開くと、驚きびくっとしたティーノを抱き上げる。

 

「つっかまえ~た~♪」

 

 抱き上げられたティーノは、騙されたと気が付き暴れようとするが、そうするとなのはがケガをしてしまうと考え、どうしようもなくなり、フリーズしてしまう。

 そして、リビングに拉致されていく姿を見つめながら、アルフは今日一番のため息を吐くのだった。

 

 

 太陽もその姿を消し、街には人口の小さな太陽のみが瞬き始める。

 人が自然に打ち勝った象徴とも言うべき星々の煌き達は、人々の道しるべとなり今日も輝き続ける。

 仕事を終え、帰路についていたティアナは、家の前にたどり着くと同時に進行方向の道から見知った人物が手をぶんぶん振って歩いてくるのを見つけた。

 

「ティア!」

「スバル、悪いわね。忙しい中無理言って」

「気にしないで、今日はきっとティアナにとってもティーノにとっても大切な日になると思うし、その場に居合わせてもらえるなら、仕事の疲れなんて吹っ飛ぶよ!」

「まったく……、ありがとう」

「それよりも、その手に持ってるのが?」

「えぇ、ずっとこのままって訳にも行かないし、なにより次に進まないと……」

「うん……」

 

 二人はそんな会話をすると、少し暗くなった雰囲気を誤魔化すように、玄関の扉を開ける。

 

「まぁ、今日はくつろいでいきなさい。それなりの、もてなしは約束するわ」

「じゃあ、膝枕して、あ~んとかしてくれるの!?」

「調子にのらない!」

 

 くすっと、二人で笑いながら扉を全開にすると、家の中から騒がしい毎日が聞こえてきた。

 

「こらっ、ティーノおとなしくしなさい!」

「二人ともいいよ~、目線こっちに頂戴!」

 

 ティアナの目に映ったのは、メイド服を着た二人の天使だった。

 一人は満面の笑みを浮かべ、女神に愛されているかのように幸せそうなヴィヴィオ。

 もう一人は、羞恥に顔を真っ赤にしながら、うるんだ瞳に両手でスカートを握りしめるティーノ。

 そして、そんな二人をプロの写真家が使うようなカメラで高速撮影しているなのはの姿であった。

 おもちゃにされているティーノのそばには、着せ替え人形にでもされていたのだろう、女物の服が乱雑に積まれていた。

 ティーノとヴィヴィオの姿を見たスバルは、目にハートを浮かべながら、かわいい~、と叫び抱きしめようと駆け出す。

 だが、ティアナの姿を見つけたティーノは、今までの涙がまるで偽物であるかのように笑顔になり、スバルの手をかわし、ティアナに抱き着いた。

 

「おかえりなさい!」

 

 そんなティーノに心の中が温かい何かに満たされていくティアナは、優しく微笑むと、ティーノの頭を撫でる。

 

「ただいま」

 

 

 家の中を食欲を刺激される匂いが満たす。

 それは、なのはとティアナが用意した晩御飯であり、一つの丸テーブルの食卓に用意されたそれを皆で囲んで食べていた。

 

「ティーノ、ほら、あ~ん」

「……」

 

 ティアナの膝の上に座るティーノは、大嫌いなニンジンを食べるようにとティアナにあ~んをされていた。

 だが、ティーノはそれをプイっと顔をそらし、黙秘する。

 

「好き嫌いをしていると、強い男の子になれないよ?」

 

 ティアナの隣に座るスバルが、困るティアナのフォローにあたる。

 ティーノは、その言葉を聞き、食べたくないけど、食べないといけない、けど食べたくないと、顔をぶんぶんと左右にふった。

 そんなティーノにヴィヴィオは不敵に笑うと、これ見よがしにニンジンを食べる。

 

「ニンジンも食べられないなんて、ぷ~くすくす……」

「うぅ~~~」

「こら、ヴィヴィオそんなこと言って、ピーマン食べてないよ」

 

 ヴィヴィオはなのはのその言葉に、ちろっと舌を出して誤魔化す。

 そんなヴィヴィオを見たティーノは、得意顔でピーマンを食べる。

 そして、ヴィヴィオに視線を移すと、謎の勝った宣言をするように鼻でヴィヴィオを笑った。

 すると、ヴィヴィオのこめかみに怒りマークが生まれ、ヴィヴィオはティーノの柔らかな両頬をつねって伸ばす。

 

「このーーーー!」

「ういーーーむーーーー!」

 

 そんな二人を、静かに床でご飯を食べていたアルフが尻尾で頭を叩く。

 すると、二人はしょぼんとした。

 なのは、閃いたと両手をぽんと叩く。

 

「それじゃあ、二人で食べさしっこしよっか♪」

 

 二人はなのはに言われ、おずおずとニンジンとピーマンを箸でつまむと、交差させるようにしてお互いの口に運ぶ。

 

「「あむ」」

 

 そして、二人同時に目をギュッとつむるとお互いの箸につままれた大嫌いな食べ物を食べる。

 

「「うげぇぇぇ」」

 

 そして、心底美味しくないと言いたげに苦い顔を作る。

 その様子を、なのはが嬉しそうにカメラに収めていた。

 

 

 食事が終わり、皆でテレビを見ていると、ティアナがなのはとスバルとアルフに目配せし、それぞれが頷いた。

 

「ねぇ、ティーノ」

「?」

 

 ティアナがヴィヴィオの隣に座りテレビを見ているティーノを呼ぶと、ティーノはティアナの傍まですぐに来た。

 そして、ティーノの隣にいたヴィヴィオは、不安そうな顔をするとなのはの手を握る。

 

「……外に出たい?」

 

 そう聞かれたティーノは、一瞬驚いた顔をし、そして嬉しそうに瞳を輝かせるがそれはすぐに伏せられる。

 

「……出たくないよ」

「本当に?」

「……うん」

 

 ティーノは察していたのだ、外に出たいと我儘を言えば、ティアナに迷惑がかかることを……。

 理由なんてどうでもいい、ただティアナが困ることをティーノはしたくなかった。

 そこには、子供の無垢な愛が見える。

 だから、ティアナもスバルもなのはも、アルフもヴィヴィオも辛そうに顔を歪める。

 

「僕は、外に出たくないよ……。外に出なくても皆いるから、寂しくないよ」

 

 そういったティーノの手をヴィヴィオは、ティーノの隣にまで歩みより自然と握っていた。

 ティーノは驚くでもなく、嫌がるでもなく、すがるようにその手を握り返す。

 ヴィヴィオは知っていた。

 ティーノが家の外に行きたがっているのを、しつこいくらいにヴィヴィオに外の様子を聞いてくるから―――、ふとした瞬間に窓の外に視線を向けているから――――。

 ヴィヴィオに手を握って貰ったからか、ティーノは無理矢理に笑顔を作ることが出来た。

 そして、誰にでもわかる嘘をついてしまう。

 

「だから―――、だから、僕は大丈夫だよ」

 

 すると、ティアナは悲しそうにするでもなく、嬉しそうにするでもなく―――。

 怒った顔をした。

 

「ティーノ、私は嘘をつく子は嫌いって言ったでしょ?」

 

 そして、ティーノの頭を優しくゲンコツする。

 すると、ティーノはティアナに叱られたと、嫌われたと、目に涙を浮かべていく。

 

「でも、でも……、僕が外に出たら、ティアナも困るって……」

「だれがそんなことを言ったの?」

「だって、だって……、外のみんなは僕の事が嫌いで、僕と一緒に外に出たら、ティアナやみんなが悲しむって……」

 

 ティーノの瞳には、不安という涙が溜まり続け、決壊し溢れ出す。

 だれもその涙を止めようとはしない。

 不安は、この場で出し尽くしてしまえばいいと、皆が思っていた。

 

「外の人は、僕が嫌いだから外に出たら、怒られるって―――」

 

 どこまでも、大切な人達を思う少年の心を慈しむように、たまらずティアナはティーノを抱きしめていた。

 そして、ティーノは泣き叫んだ。

 外に出たいと、いろいろなところに行きたいと、もっと皆と喜びを共感したいと―――。

 ティーノの我儘らしい初めての我儘、皆がそれを優しく見守っていた。

 

 

 ティーノが泣き止むと、ティアナは一つの箱をティーノに手渡す。

 

「これは?」

 

 すると、ティアナは優しく笑う。

 

「これはね、ティーノが外に出れるように、そして自分を大切な人達を守ってくれる。そんなティーノの手助けをしてくれる。大切な友達よ」

 

 ティーノは、理解できていないかのように首をかしげると、箱の蓋を外した。

 すると、箱の中には一つの金属製のカードが入っていた。

 

「クロスミラージュ?」

 

 そこには、ティアナのデバイスであるクロスミラージュの待機モードと同じデバイスが入っていた。

 ただ違う点は、クロスが描かれているクロスミラージュと違い、Σが描かれていた。

 

「その子の名前は、エテルナシグマ。ティーノの、友達よ」

「友達……」

 

 友達という単語に、初めての感覚を覚えるティーノは、恐る恐るエテルナシグマを手に取ると、不安げにエテルナシグマに語りかけた。

 

「これから、よろしくね」

 

 すると、電子的ではあるが優しい声がかえってきた。

 

「よろしくお願いします。マイフレンド」

 

 その声を聞いて、ティーノは花が咲いたように笑顔になるのだった。

 




エテルナシグマ。
名前は三菱自動車のエテルナΣから。
意味は、永遠にあらゆる面での良さを集大成する。
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