魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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偽の聖王

 

 そこには何も無かった。

 空も大地も風も全てが紅にそまる。

 どこまでも、いつまでも続く無限世界。

 時すら止まったかのようなこの場は封絶結界であった。

 

 子供は見つめる。

 眼前20メートル先に浮かぶ紅い結晶体レリックを、金色に光る瞳を鷹のように細め射貫く。

 レリックは周囲から貪るように魔力を掻き集め体を構成していく。

 それはまるで、ゼリーが同族食いをするかのように醜く膨れ上がり続ける。

 

「そこまで、肉の器が欲しいか残滓風情が」

 

 子供は鬱陶し気に前髪を掻き揚げると、その手をそのまま腰に持って行き溜息をついた。

 

「馬鹿馬鹿しい、力の塊と成り果てても未だに現世に執着するとは……怒りを通り越して憐憫すら感じてしまうよ」

 

 子供のその言葉を浴びて、レリックは憤怒に震えるかのように、急激に体を作り出していく。

 そして、それは姿を現した。

 透き通った体、伸びた髪らしき物、透き通った胸元には紅い結晶体であるレリックが浮かぶ。

 その姿は見る者が見れば、悲鳴を上げてしまう代物であった。

 もし、ここに高町なのはがいたのならば、怒りに我を忘れてしまうだろう。

 もし、オルランドがいたのならば、悲しみに涙を零すだろう。

 その姿は、かつて聖王のゆりかご内部で猛威を振るった。

 偽の聖王の姿であった。

 

 偽の聖王から虹色の魔力が溢れ出す。

 それは明確な敵意だった。

 眼前に映る全てを破壊しつくしてやるとの宣誓であった。

 

「へぇ~、……ふふふ、アッハハハハハハ!!」

 

 それに返すは嘲笑、余りにふざけた出来栄えに笑いが止まらない。

 

「そういうことか……結局、お前もあの親が作り出した防衛プログラムでしかないわけだ!」

 

 子供は笑った。

 無駄な足掻きだと精一杯に笑った。

 自身の親がしでかした間抜けを笑った。

 

「そこまでして聖王が欲しいのか。そのカードはジョーカーだと言ったろうに、痴呆が入った親の介護は骨が折れる」

 

 そう言いながら、子供は懐から一枚の金属で出来たカードを出した。

 

「……俺は貴様の主ではないが、その力貸して貰うぞ?お前もこの体が傷つくのは見たくないだろう?」

「我が友になにをした!」

「吼えるなデバイス風情が、この体がお前の主だと言うことを忘れるな」

 

 子供はそう言うと、無理矢理にエテルナシグマに魔力を通しデバイスを起動させる。

 歯車が重ね合わされた魔法陣が姿を現すと全身を包み、子供はバアリアジャケットを纏う。

 子供はバリアジャケットを纏った自身の姿を見ると、眉を顰めた。

 

「……この程度か。これだと、時間が足らんだろう」

 

 子供はその姿が気に入らなかった。

 これから始まるであろう戦いに向かないと考えた。

 だから、次の手を使う。

 子供は虚空に手を伸ばす。

 手を伸ばした先が、湖面の如く波打つ。

 それは簡易な転送術式だった。

 転送されて来たのは、一発の銃弾。

 それは何の特徴も持たないただの弾丸だ。

 だが、エテルナシグマはそれを見た瞬間に悲鳴に近い声を上げる。

 

「やめろ、我が友に何をさせる気だ!やめろ、やめてくれえ!」

 

 子供はエテルナシグマのその叫びに機嫌を悪くした。

 

「やめ―――」

「少し黙ってろよ」

 

 子供はエテルナシグマの戦闘に必要な部分以外の全ての機能をスリープモードに移行させた。

 そして、右手首のシリンダーに手に持つ弾丸を入れる。

 さらに、そのシリンダーを左手で回転させた。

 金属が擦れる音が世界を満たしていく。

 視界一杯には虹色が広がっている。

 

 非常に煩わしい。

 だから、そんなモノこの世から消してやる。

 

「エテルナシグマ、カートリッジロード」

「ロードカートリッジ」

 

 撃鉄が叩かれ、一瞬硝煙が舞う。

 その瞬間、子供の体を異変が襲う。

 頭上から咀嚼されていくように、ゆっくりと魔法陣が下りていく。

 魔法陣が足元まで下りきると、子供の目線は遥か天にあった。

 嫌、体すべて変わっていた。

 鍛え上げられた肉体に、漏れ出す魔力、その姿は青年の姿だった。

 

「ふぅ~、やっぱりこっちの方がいい」

 

 口から少しばかり低くなった声が漏れる。

 

「目を覚ませ、エルピス」

 

 エテルナシグマから摩擦音が響く。

 それは、エテルナシグマが最後の抵抗をしているかのように、苦痛に骨を歪ませているかのように擦れた音を発し続けた。

 軋み音が増して行くとエテルナシグマの形状が変化していく。

 歯車型の魔法陣に導かれて体の構造を変えていった。

 エテルナシグマの表面をまるで血管のように脈打つ紅い線が伸びていく。

 それは、青年を飲み込むかのように体のあちこちを侵食していく。

 

「やっぱ無理な魔力ブーストは、体に響くな……」

 

 青年はそう呟くと眼前を見据えた。

 その瞳は熱を放っていた。

 余りに熱く、汗を拭き出してしまいそうになってしまう程の殺意。

 身じろぎをすることすら躊躇ってしまいそうになるほどの感情の奔流。

 その波がレリックを覆う。

 だが、それしきで狼狽える程に偽の聖王は弱くなかった。

 むしろ、さらなる魔力の発露によって浴びせられる殺気を相殺していく。

 その時だ、偽の聖王は胸の前で腕をクロスさせた。

 それと同時に遠ざかる視界、まるで次元跳躍でもしたかのような周囲が線になってしまう程の速度。

 偽の聖王が疑問に思う前に踏ん張りブレーキをかけると腕の感触が無くなっていた。

 嫌、腕自体が無くなっていた。

 理解できないと、偽の聖王は唖然とする。

 砕けた腕は元の魔力の塊となり、崩れ落ちていく。

 偽の聖王がそれを行ったであろう人物に視線を向けると、青年が右腕を振り抜いた体制で立っていた。

 そして青年は笑った。

 その紫色の髪が邪魔して表情の全ては理解出来ないが、確かに口元は歪んでいた。

 

「何が何だか分からないと言った風だな偽の聖王?」

 

 青年はそう言うと、面を上げた。

 その顔には変わりなく歪んだ欲望が張り付いている。

 その欲はどこまでも、どこまでも暗く深い闇そのものであった。

 

 偽の聖王は瞬時に砕かれた腕を再生した。

 そして構えを作る。

 偽の聖王の体に纏わりつく虹色の魔力達。

 それは、かつての最強の鎧の複製だった。

 

「聖王の鎧まで偽るか……。俺とお前、とことん似通っているな」

 

 そして青年は、互いに不運な生まれをしたな……と笑った。

 それが意味していることは、偽の聖王には分からない。

 そもそも偽の聖王はただのロストロギアが自身を守るために生み出した魔力で出来た体を弄んでいるだけだ。

 人の心など理解出来ようはずもない。

 でも、いくら想い無き鉱物であろうと、抗う事を止めはしない。

 そうプログラムされそうするように埋め込まれているのだから。

 だから、青年は笑った。

 

 哀れだなと、俺とお前は似ていると―――。

 

 そして、呟いた。

 

 もう、終わらせてやると―――。

 

 青年が両手を肩先まで持ち上げると、紅い魔力で生み出された糸が絡まり合っていく。

 線から生み出されたのは、二本の剣だった。

 見た目は特に何ともないただの紅いだけの剣、だが青年はそれがあたかも神剣であるかのように、優雅な動作で眼前で交差させた。

 その瞬間、青年の姿は欠き消えた。

 そして突如として偽の聖王の後頭部直上から音が響いた。

 それは、聖王の鎧により防がれていた。

 過去の文献に置いて、最強の盾として次元世界中に知れ渡っている聖王の鎧。

 それが今、偽の聖王の身を守っていた。

 偽の聖王が振り返る。

 その視線の先には、先程まで眼前数十メートル先にいた青年がいた。

 紅い糸で出来た剣を振り切った状態で静止している。

 

「IS発動ツインブレイズ―――」

 

 まるで遅れて音が届いたかのように先程まで青年がいたところから声が聞こえた。

 だが、偽の聖王はそのことを気にはしていられなかった。

 なぜなら、敵が今にも自分を壊そうとしてきているのだから。

 偽の聖王が徐に、右手を掲げる。

 向けられた掌の先には聖王の鎧に阻まれ火花を上げ続ける紅い剣のみ、その箇所にさらに魔力を掻き集めていく。

 強度が増して行く聖王の鎧、それだけではない。

 反発する力に、指向性が生み出されていく。

 だが青年は、その表情から笑みを消しはしない。

 そればかりか、その顔は余裕すら見せていた。

 聖王の鎧と剣の間に莫大な魔力の渦が生まれる。

 そしてそれが炸裂弾のように爆ぜ青年に襲い掛かる。

 吹き飛ばされていく青年。

 先程とは打って変わり、偽の聖王の表情が余裕に歪む。

 だが、青年はそんなことを許可していない。

 偽の聖王は気が付いた。

 青年にばかり意識が集中していたがために、ほんの一瞬気づくのが遅れてしまった。

 そう、聖王の鎧に蓄積された魔力に指向性を持たせ爆ぜさせた時、ほんの僅かな空間が外界と内部を繋げてしまっていたのだ。

 それを青年は見逃していなかった。

 だからこそ出来た芸当、聖王の鎧に僅かに生まれた隙間に一本の紅い剣が差し込まれていた。

 青年はその差し込まれた剣に煙の中からでも視線を向けた。

 そして、指をパチンと鳴らせる。

 

「IS発動ランブルデトネイター……」

 

 青年がそう呟いたその瞬間、聖王の鎧に出来た僅かな隙間に突き刺さっていた剣は、元の魔力で出来上がっただけの糸に解け落ちていく。

 すると、どうだ。

 僅かだが聖王の鎧の内部にもその糸は入り込んでいた。

 そして一瞬の閃光の後に爆ぜた。

 青年は着地すると、仕返しだと中指を立てた。

 聖王の鎧とは確かに鉄壁の守りを使用者にもたらすだろう。

 だが、それは所詮纏っているに過ぎない。

 密着している訳ではないのだ。

 なら、その隙間に爆発物を入れて起動させてやればどうなる?

 爆発により生み出された力の全ては聖王の鎧により逃げ場を塞がれ、その内部で暴れ狂う。

 その衝撃の最後の一遍まで吸収されない限り永遠に猛威を振るい続ける。

 偽の聖王の無様な姿を目の当たりにして、青年はざまぁ見ろと笑った。

 膝は疲労と激痛に笑うことしか出来ない。

 肺は二酸化炭素と共に有害物を体外に配収しようと収縮を繰り返し、それに肩が連動する。

 額からは汗が零れ落ち、眉間は頭痛に狭められている。

 

「ゴホッ……」

 

 さらに、体内から喉を通して鮮血が撒き散らされた。

 その頃には、青年の顔からは余裕が消えていた。

 

「くそが……所詮この体ではここらが限界か……」

 

 エルピスと化したエテルナシグマから浮かび上がる血管を通して、ダメージの軽減が行われている。

 だが、それでも間に合わない。

 当然と言えば当然のことであった。

 青年は、ティーノ・ランスターの体に無理矢理ジェイル・スカリエッティの過去の戦闘方法を模倣させていたのだ。

 しかも、それは本来それを遂行するためだけに作られた戦闘機人の技法である。

 生身の体で、慣れない事を、無理にさせる。

 それは例えれば、市販されているバイクにジェットエンジンを乗せて、その力の全てを引き出そうとしているようなことであった。

 そんなことをすればどうなるかなど、明らかであった。

 だが、しなければならなかった。

 大切な存在を守るためには、時間を稼ぎ、御ぜん立てをするにはこれしか方法が無かった。

 

 結界の外を、エルピスに命令し覗き見る。

 眼下には夜天の書の守護騎士がこちらを見上げている。

 彼らなら、この後、レリックをどうにかしてくれるだろう。

 さらに別の視点を見る。

 そこには、クイントが彼女の娘と夫に連れられ安全圏に離脱していた。

 

「……ふぅ~」

 

 汗でへばり付いた前髪を掻き揚げる。

 吹きすさぶ爆炎を睨みつけ、悠然と背を伸ばす。

 口元の血を拭い、口角を歪める。

 それは美学だ。

 敵に対して、絶対の強者と見せつけるための虚栄。

 

 そして―――

 ―――そうしないと、心が折れてしまう。

 だから、笑っていられる内に―――

 

「お前を処分する。―――IS発動」

 

 伸ばされた腕の左記には歯車型の魔法陣、編み込まれ生み出されるは武骨なまでの狙撃砲。

 銃口を向ける位置はわかり切っている。

 内部で暴れる衝撃を逃がすために、一端聖王の鎧をパージした。

 だから、余計に輝いて見えた。

 胸部に浮かび上がるレリックの輝き。

 ゆっくりと、それに狙撃砲を向けた。

 

「ヘヴィバレル!」

 

 そして放たれた弾丸は、レリックに向け突き進む。

 

 決まった―――。

 

 そう思った。

 

 今放たれた弾丸は、ランク表記するならSオーバー、ただの鉱物にはオーバーキルだ。

 だが、これだけしなければ倒せない。

 相手は、平和の名の下に次元世界を掌握した超人が片手間に生み出した兵器だ。

 片手間だろうと、その力は折り紙付きだ。

 元から勝てるなんて思っていない。

 レリックの力は少なからず理解している。

 だから加減はしない。

 たとえ、罅の一つをつけるだけになろうとも、眼下の猛者が後はどうにかしてくれると確信する。

 でも、叶うならば、彼女達も危険に晒したくない。

 何故なら、この体を貸してくれた子供が叫んでいるからだ。

 あの人達に傷を負わせるなと、叫んでいるからだ。

 だから、俺はある意味満足していた。

 

 俺にも、見つけることが出来たから―――。

 

 ヘヴィバレルが着弾する。

 結界内を衝撃が遅い、結界の欠片が降り注ぐ。

 その欠片の光の反射を見て、青年、嫌ジェイル・スカリエッティは毒づいた。

 

「あぁ―――クソッ―――」

 

 出来れば、この体は無事に返してやりたかった。

 

 なのに―――。

 なのに―――!!

 

「IS発動、エリアルレイヴ!!」

 

 糸が編み込まれ生まれた盾が展開される。

 だが、エリアルレイヴは虹色を纏った拳に叩き割られた。

 その衝撃がジェイルの体を木霊する。

 

「ガハッ―――コフっ―――」

 

 鉄の味がする液体が体内から溢れ出す。

 眼前が赤く染まっていく。

 それでも微かに見えた。

 それは最早、聖王の姿すら取っていなかった。

 ただの人型のマネキンが、聖王の鎧の力を拳に飲み集約していた。

 その瞬間、最強の盾が最強の鉾に生まれ変わった。

 だが、それでも諦める訳にはいかない。

 

 良い夢を見れたのだ。

 今の自分が、ただの記憶の残滓であることは知っていた。

 今も尚、力を行使する度にティーノの脳から俺と言う存在が消えていくのは分かっていた。

 何の因果かこうやってアイツの幸せのスタートを見れたのだ。

 だから、可能性は全て根こそぎ俺が排除する。

 俺がどうなろうと、これからのアイツの未来を奪うことは許さない。

 

 だから―――

 

「クイントの兄であるこの俺、ジェイル・スカリエッティが、己が欲を成就させる以外に答えは無い!」

 

 そうとも、だから堪えてくれよ。ティーノ・ランスター。

 お前はまだ終わりたくないだろ!

 

「IS発動、ライドインパルス!!」

 

 

 

 

 紅い星が見下ろす森の中では、シグナム達により結界内部への侵入が行われようとしていた。

 だが、その間にも世界を震わせるほどの振動が結界内部から発せられ続けている。

 速く向かわなければティーノの身が危ない。

 その認識はすべての者にあり、だからこそ皆急いでいた。

 その中で、リインは三つ葉のクローバーのネックレスを抱え祈る様に結界の分析を行っていた。

 このネックレスは、なんてことは無い。

 別に記念の品と言う訳でもなかった。

 ただ、リインとティーノが街を歩いていた時に、出店の店員から売れ残りだからと貰った品物だ。

 そこに思い入れなど無く。

 ただ、形としてあるだけのネックレスであった。

 それでもリインにとっては、ティーノと自分を繋ぐ掛け替えのない物であった。

 だから、リインはそれに縋った。

 ティーノが無事であるようにと、願った。

 

「ザフィーラ!まだなのかよ!?」

 

 ヴィータは、グラーフアイゼンを抱え今にも飛び出してしまいそうな権幕でザフィーラに詰め寄る。

 

「あと少しだ」

 

 ザフィーラも淡泊にしか答えない。

 ザフィーラも事の危急さを理解していた。

 だからこそ、余計なことに思考を割きたくなかった。

 

「……」

 

 シグナムも黙々と解析を行っていた。

 だが、拳はきつく握りしめられ、額からは汗が流れている。

 皆、必死だった。

 必死に現状を打破しようとしていた。

 その時だ。

 一段と大きな振動が辺りを埋め尽くした。

 そして、封絶結界が内部から粉々に破壊される。

 結界の結晶が降り注ぐ中で確かにリインは見た。

 紅い結晶の光の乱反射により視界が機能しなくても見つけることが出来た。

 

 それを、三つ葉のクローバーの輝きを―――

 

 だからリインは飛び立った。

 誰かが、静止の声を上げるが聞いてはいられない。

 

「ティーノーっ!」

 

 リインは、蒼天に落ちるティーノに手を伸ばす。

 その姿形が変わっていようとも関係が無かった。

 リインには、姉であるリインには、ティーノだと確信的な想いがあった。

 手を伸ばす。

 ティーノは蒼天の中を沈む様に落下していく。

 ティーノのさらに奥、上空には禍々しいまでの虹色の輝きがあった。

 まるで天使が降臨したかのような幻想的な光だ。

 その光が、闇を払いに来たかのようだ。

 

 闇とはなんだ。

 

 それは罪の名だ。

 

 ならば、この場の罪とはそれを成した者とは……

 

 ダレダ―――?

 

 光が伸びる。

 大罪人を裁く聖なる光が有罪を言い渡す。

 だがダメだ。

 どれだけの罪を背をっていても、どれだけの恨みをかっていても、断罪させる訳にはいかない。

 その闇もろとも抱きしめて、世界からすら守ってみせよう。

 

 なぜなら―――

 

「私は、お姉ちゃんですから!!」

 

 そして光より早くリインは闇に届いた。

 随分と大きくなってしまった弟の血塗れの顔をリインは優しく撫でて微笑む。

 

「本当に、悪い子なのです……」

 

 そしてリインは弟の顔を自身に引き寄せた。

 二人に断罪の光が伸びる。

 

「やめろーーーーッ!!」

 

 シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、オルランドが叫んだ。

 回避不可能の絶対の裁きの光、祝福を知らせる光の乱反射、それが闇に飲まれた男と闇を抱えた少女を包む。

 

「あっ……あぁ……」

 

 ヴィータはその場に膝をついてしまった。

 

「ぉあああああああああッッッ!!!」

 

 オルランドは怒りに我を忘れ飛び掛かろうとデュリンダナを抜き放つ。

 

「リインフォース!」

「ティーノ!」

 

 シグナムとザフィーラは二人の救護に向かおうとする。

 その瞬間、世界を不気味な音が支配した。

 

 その音は、耳障りな音だった。

 

 その音は、恐怖を巻き起こす音だった。

 

 その音は、耳を塞ごうが心に響いてきた。

 

 その音は、産声のような音でだった。

 

 その音は、金属を擦り合せていくような音だった。

 

 その音は、重い扉を開くような音だった。

 

 その音は、絶望を手繰り寄せていくような音だった。

 

 そして、世界は―――

 

 蒼天は―――

 

 

 

 

 夜天に飲まれた―――

 

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