ティーノは、ティアナから受け渡された友人であるエテルナシグマを大切に両手で保持すると、ニヤケ顔で見つめ続けていた。
「えへへへへへ……」
その幸せそうな表情は、完全にダメな子の表情であった。
ティアナとスバルはそんなティーノの姿を見て、互いに顔を見合わせると、くすりと微笑みあう。
エテルナシグマとティーノを出会わせて良かった。
そう皆が思っていた。
一人を除いて―――。
「ティーノ!てぃ~~~のぉ~~~!!」
ヴィヴィオはエテルナシグマを見つめ続けるティーノに不満を露わにする。
ティーノがまるで、ヴィヴィオのことなど眼中に無いとでも言いたげだからだ。
面白くない……。
喜ばしいことだが、面白くない……。
自称、ティーノ・ランスターの姉、高町ヴィヴィオはティーノを見ながらぷく~っと、頬を膨らませた。
そして、ニヤリと笑うと良いことを思いついたとティーノの肩を揺らす。
「?」
ティーノがそれで初めて自身の隣にヴィヴィオがいるのに気が付くと、頭に?を浮かべながら、コテンと首を傾げた。
「ふっふっふっ……、ティーノ、実はお姉ちゃんもデバイスを持ってるの」
そう言うと、ヴィヴィオは自らの相棒の名を呼ぶ。
「クリス!」
すると、ヴィヴィオの鞄の中からウサギのぬいぐるみが飛び出してきた。
「ふぇあっ!」
そのうさぎは、自由自在にティーノの周囲を飛び回ると、ヴィヴィオの掌に着地し、お辞儀した。
「この子の名前はセイクリッドハート、愛称はクリス、私の大切な家族だよ」
すると、ティーノはさっきまで大泣きしていたとは思えないほどの満面の笑顔で、クリスの前にヴィヴィオと同じように掌の上にエテルナシグマを乗せ近よらせると、エテルナシグマの代わりにティーノがお辞儀をする。
「よろしくね!」
持ち上げられた顔を見たヴィヴィオは一瞬、顔を赤くしてしまう。
それは、初めて見たティアナのみに向ける本当のティーノの笑顔だったからだ。
そして、その顔を見られたヴィヴィオはさらに赤くなると、姉としての矜持を守るために、もっともらしい言い訳を述べながら、ティーノにとびかかる。
「お姉ちゃんに、新しく出来た友達を一番に紹介しないなんて悪い子はどこの誰かなーッ!」
「……へっ?ふぇぁああああああああっ!」
そして押し倒されたティーノは、ヴィヴィオにもみくちゃにされる。
「なに、なに!?やめて!服を脱がそうとしないで!ごめんなさい、僕が悪かったから!」
「ダ~メ!」
「嫌ん待って!カメラ、カメラ!」
なのはは、頬を桜色に染めながらカメラを探し出す。そして、クリスは可愛らしく両手を肩の上にあげると、やれやれ……と首を振り、エテルナシグマは、この中でのヒエラルキーを理解した。
夜も更けだし、テレビ番組も面白いのがなくなってきた時間帯、唐突にリビング内に電子音が鳴った。
「お風呂が沸きました♪」
ティーノはその音を聞くと、ぷはっ、と息を吐き出しこの地獄が終わる時が来たと安堵した。
だが、やはり今日はティーノに優しくない。
「それじゃお風呂にしましょうか」
ティアナがそう言って立ち上がる。
ティーノは信じられないと言いたげに、立ち上がるティアナを目で追う。
いつもなら、お風呂が沸く時間になったらヴィヴィオ達は帰るからだ。
だが、当の高町親子はカメラに撮影された画像を見ながらキャイキャイしている。
なにかが、おかしい……。
いつもと違う……。
ティーノの背中を一筋の冷たい汗が流れる。
すると、ティーノの両脇に手が入れられると、急に視線が高くなった。
「ティア、ティーノは私がお風呂に入れてくるね♪」
「ごめん、お願いするわ」
「それじゃ、私も入る~♪」
未だになにが起こっているのか、理解出来ていないティーノは声が聞こえた方向に顔を向ける。
すると、スバルの足元にいたヴィヴィオは、ティーノに視線を合わせるように顔を持ち上げると、心底嬉しそうに笑う。
「お姉ちゃんと、お風呂に入ろっか♪」
その表情を見たティーノの顔が恐怖に固まる。
そして、恐怖に固まった顔のまま、唯一の救い人であるアルフの姿を探したティーノは、その姿を見つけた。
アルフは、客間に足を運び、帰ろうとしていた。
「いつもありがとうね、アルフ。助かったわ」
ティアナにそう言われたアルフは頷き返すと客間に消えていった。
ティーノの表情が絶望に染まる。
だが、誰もそんなティーノなど気にも留めない。
「それじゃ、キレイキレイゴ~~~!」
「ゴ~~~~っ!」
「あ、あわわわわわ」
唯一、エテルナシグマだけ、主人を不憫に思い点滅を繰り返した。
騒がしさ担当達が、風呂場に消えるとリビングには妙な静けさが広がった。
リビングに残されたなのははテーブルに移動すると、ティアナがコーヒーを入れてテーブルに置く。
ゆらゆら揺れる湯気を見ながらなのはは、ニコリと微笑む。
「ありがとう、ティアナ」
「いえ、それはこちらのセリフです。なのはさん」
ティアナはそう言うと、おもむろに言葉を続けた。
「……これで、よかったのでしょうか?」
「うん?」
「ティーノは、ジェイル・スカリエッティです。いくら幼くなったと言っても面影は色濃く残っています。一般人なら、なんとか誤魔化せると思いますが、管理局員……、JS事件に関わっていた局員は、すぐに気が付くと思います。そして……、答えに辿り着く」
「うん……、そうかもしれないね」
「それでも私は、ティーノを外に連れ出そうとしています。これは必要なことだと、頭では理解出来ているんです。でも……、まだ私は迷っています。本当に、このタイミングで良かったのかと……」
「その答えを答えられる人は、たぶんいない……。私も、明確な答えなんて言えない。でもね、ティアナ?その感情がどこから来ているのかは、私は知ってるよ?」
「本当ですか?」
「うん、それはね―――」
夜は続いていく、この選択がどう転ぶのかは誰にもわからない。
それでも、選んだのだティアナは、ならばそれを支えるのが、元先生の役目であろう。
なのはは、ティアナに語り掛けながら、そう思うのだった。
「う~ん……」
風呂場で散々スバルとヴィヴィオからおもちゃにされたティーノは、眠い目をこすりながら、スバルに抱かれていた。
スバルのパジャマの胸元を握りしめながら抱かれているティーノは、リスの着ぐるみのようなパジャマを着ていた。
用意したのは、もちろん高町親子である。
ただこのパジャマに関しては、温かいという理由でティーノも気に入っていた。
「ティーノはもうお寝むかな?」
スバルはそういうと、半分夢の世界に旅立とうしているティーノの前髪を、梳いて笑う。
「ちょっと、ティーノ寝かしてくるわ」
ティアナはそう言うと、スバルからティーノを受け取ると寝室へと姿を消す。
「なのはママ、私も眠たいから寝てくるね」
「おやすみなさい、ヴィヴィオ」
「うん、おやすみなさい」
ヴィヴィオもなのはにそう告げると、ティアナの後を追った。
そんな二人を見送ったスバルはなのはに問う。
その目は、どこまでも真剣だった。
「なのはさん、一つティーノのことについて言っておきたいことがあります」
なのはも、体ごとスバルの方に向けると、挑発的に返す。
「なにかな?」
「ティーノの魔法の先生になるのは、私です!」
「スバル……、私の仕事内容は知っているでしょ?……それは、譲れないな」
「ティーノには、ストライクアーツの素質があると思うんです。……だからこそ!」
なのは、そんな情熱的なスバルに対し、やれやれと首を振る。
「間違ってるよスバル。ティーノには、砲撃魔法があってる。戦技教導官の私が言うんだから、間違いないよ」
だが、スバルは引かない。
「私は、ティーノを見た瞬間びびっと来たんです。この子はと!」
「その気持ちは元先生としては、よくわかるよ。でもね、こればかりは譲れない」
スバルは密かに憧れていたのだ。
妹のノーヴェが、ヴィヴィオ達の先生をしている姿に、子供に先生先生と慕われている姿を―――。
だが、なのはも今回ばかりは譲れない。
娘のヴィヴィオが砲撃とは違い、格闘に言ってしまったのだ。
いろいろ教えたいことがあった。
夢にまで見た、親子スターライトブレイカーとかしてみたかった。
だが、今となってはそれも後の祭りである。
だからこそ、今度こそは―――。
その時、空中にウィンドウが開く。
「その話、私も入れてもらってもいいかな?」
そこに映っていたのは、フェイトだった。
どこから聞きつけたのか、この戦いに乱入してきたのだ。
だが、二人は冷静だった。
「エリオがいるフェイトちゃんは黙っていて」
「エリオがいるフェイトさんは黙っていて下さい」
フェイトは一撃で消沈した。
「二人ともひどい……」
だが、玄関から次なる刺客が現れる。
「その話、ちょっと待った!」
そこには、少し酔った八神はやての姿があった。
その後ろには、融合機であり、ティーノの自称姉2のリインフォース・ツヴァイがいた。
「ティーノはどこですか?」
そんなリインを無視して、はやては告げる。
「ティーノは、広域型魔法があってると思うんよ。うん」
そんな急な来客であるはやてに対し、なのはは鼻で笑って返す。
「ふっ、はやてちゃんらしくないね。見誤ってるよそれ……」
はやては、そんななのはに指を振りながらチッチッチッとわざとらしくした。
「わかってへんのは、なのはちゃんの方や。ウチなら、近接戦から中距離戦、そして広域戦と幅広く教えることが出来る環境が整ってるんやで?」
バチバチと火花を散らスバルとなのはとはやてに対し、フェイトはおずおずと片手をあげながら、進言する。
「……ティーノには、高速戦闘が似合ってると思うな?」
「「「ちょっと、黙ってて!」」」
「ひどい……」
どこまで行っても埒が明かない―――。
はやてはニヤリと笑うとドンとテーブルの上に瓶を置いた。
そこには、魔王とラベリングされている。
「大人なら、大人らしい方法で、決着をつけようか?」
そう言ったはやてに、なのはは笑う。
「その話、乗ったの」
「私もそれで構いません」
「あの……、それだと、私……参加出来ない……」
止めるものは誰もいない。
ここに、大人の戦争は開幕した。
なぜかリインが突入してきてそれに驚いたティーノを寝かしつけるのに苦労していたティアナがリビングに戻ると、そこは阿鼻叫喚の地獄だった。
「ワタシの、私のヴィヴィオが、スターライトブレイカーしてくれないよ~!」
「ノーヴェばかり、ヒック……、ずる~い!私も、子供達から慕われた~い!」
「わはははは!もっとや、もっと酒をもってこんか~い!!」
「ぐすっ……私なんて……」
なにをやっているんだこの人たちは……。
ティアナは、酒を口にしていないのに、二日酔いの時のような頭痛がして頭を押さえた。
そして、ある意味最強達にロックオンされる。
「え、え?」
三人の影がティアナに伸びる。
「いや~~~~~~っ!!」
やはり、子は親に似るものである。
ティアナも、とことん苦労人であった。