魔法少女リリカルなのは~僕は私を知らない~   作:はんふんふ

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アリシア2

 

 鳥の囀りとはなんとも傍迷惑な存在である。

 規則正しくないその音は、眠気を誘う歌のようで、実質は理性を呼び起こす目覚まし時計であった。

 窓から朝日が伸び、カーテンを夜の残り香のように冷たい風が撫でていく。

 

「ふわぁ……」

 

 ベッドのシーツを乱し、布団を跳ね除けて、冷たいフローリングの床に足裏を乗せた。

 

「う――」

 

 少しばかりの熱伝導、体中の血管が収縮し体内の熱を床全体に奪われる感覚。

 

「もぅ、朝か……」

 

 開けられた窓からカーテンを押しのけベランダに出る。

 朝日が包む街並みを見て、やっとの事伸びをした。

 少し背が高いベランダの柵に肘を乗せ全体重をかける。

 そのまま階下を見下ろせば、そこそこの高さが伺い知れた。

 今度は顔を上げる。

 すると、今いる場所は丁度高層マンションの中腹辺りなのだと理解する。

 何故そんなことをしたのか特段気にする風もなく。

 丘の上に立つ高層マンションの中腹から、街を見た。

 そこそこのビル群、そこそこの住宅。

 大きな川を跨ぐようにして架けられた少し大きな橋。

 そこが境界線のようにして住宅街とビル群とを隔てていた。

 橋を挟んでこちら側、つまりは今いる場所の方は住宅街側、程よく緑が溢れ、程よく人がいる。

 橋を挟んであちら側、つまりはビル群の側は、コンクリートジャングル生い茂る出来上がったばかりの新たな街。

 旧社会と新社会。

 少し大きなあの橋は、その二つを明確に区分していた。

 そんなどうでも良い事を、意味も無く思い返し、ゆったりと向きを変え、室内に入った。

 室内に入ると、その部屋の異様さに首元を掻いてしまう。

 ワンルームの室内にはベッドとテーブルのみ、白の壁紙がまったく黄ばんでいないことから、生活習慣を感じることは出来ない。

 すっと、壁紙をなぞる様に視線を向かわせると、ハンガーが一つかけられていた。

 そこには、妙に見慣れた制服が掛けられており、真新しい室内には似合わない程にくたびれている。

 それを目にして、はっと気が付いた。

 もうそろそろ、学校に行く時間だと言うことに。

 慌てて今着ているパジャマを脱ぎ捨て、ハンガーから制服をひったくると、それを慣れた手つきで着込んでいく。

 そこでふと気が付いた。

 制服に隠されて見えなかったが、制服を取り外したことで露わになった存在。

 そこには、壁に貼り付けられた日捲り式のカレンダーが一つ存在していた。

 それを一瞥すると、テーブルに置かれていた鞄を手に取り部屋を駆けだす。

 どうにもむしゃくしゃしたことだったが、何かを忘れている気がした。

 

 カレンダーの日付は以下の通り。

 

 新暦29年10月29日

 

 

 

 エレベーターを使い一階まで下り、そこから直近にある駐輪場に向かう。

 駐輪場にある自転車の群れの中から目当ての自転車を見つける。

 黒いフレームの軽快車、所割ママチャリだ。

 それに跨ると、勢いよくペダルを踏みしめ坂を下り学校に向かった。

 学校はベランダから見た少し大きな橋の先、その先のビル群の中にあった。

 校門を超え、駐輪場に自転車を止めるとカゴから鞄を取り出し、教室に向かう。

 その道中に同じ制服を着た人達からおはようと挨拶され、それにおはようと返す。

 そうしながら、目当ての教室を見つけると扉を開いた。

 

「おはよう」

 

 自分の机に乱雑に鞄を乗せ、椅子にどかりと座ると、目の前に座っていた人物から挨拶された。

 

「あぁ、おはよう……」

 

 挨拶を返すと、相手は面白くなさそうに数度唸る。

 その声が余りにも気持ち悪く。

 そちらに顔を向けた。

 

「おっ、やっとこっちを向いたな!」

 

 そこにいたのは、春の陽気のような爽やかな顔をした男だった。

 少し短めの黒髪をふわふわさせながら、人付き合いのよさそうな笑顔を浮かべている。

 

「おいおい、まだ寝ぼけているのか?」

 

 そんな風に言われてしまえば、そんな気がしてしまう。

 そう思いながらもその男の事を思い出そうとするも、記憶が定かでない。

 

「お前、あぁ~……誰だっけ?」

 

 そう問うと、目の前の男はすっころんだ。

 中々に面白い男である。

 

「……お前、本当に大丈夫か?」

 

 目の前の男が真剣な顔をして問いかけて来た。

 その時、眼前をノイズが走ったような気がした。

 よく知る人物、会ったことも無い人物と重なっていく気がした。

 

「大丈夫だよクライド……そう、お前はクライド・ハラオウンだ」

 

 そう言ってやれば、クライドは恥ずかしそうに笑う。

 

「噛み締めるように、名前を呼ぶんじゃねぇよ!」

 

 クライドはそう叫ぶと、首元に腕をかけてきた。

 

「お、おい……ちょ、やめろよ!」

「テメェ~、この野郎~!!」

 

 じゃれ合っていると、チャイムが鳴りそれと同時に先生が教室に入って来た。

 

「全員席につけぇ~、出席とるぞ~」

 

 先生がそう気だるげに言うと、教室内の喧騒は無くなり、皆各々の席についた。

 そして、名前が呼ばれて行きクライドが返事をする。

 

「あぁ~、ティーノ・ランスターはいるかぁ~?」

 

 先生が何かを言ったような気がした。

 

「ティーノ・ランスター、いないのか~?」

「おい呼ばれているぞ」

 

 クライドが小声でそう言った。

 そして、初めて俺は俺を呼ばれているのだと理解した。

 

「はい!」

 

 元気に挨拶を返す。

 すると、先生は出席簿で頭を掻きながら、溜息をついた。

 

「寝ぼけているのか~?」

「いえ、大丈夫です!」

 

 俺がそう返事を返すと、教室内にくすくすと笑い声が響く。

 

「……チッ」

 

 俺は舌打ちを一つつき、机に頬杖をついて窓の外を見た。

 その時には、寝ぼけていたらしい頭の中はクリーンになっていた。

 ここはアルセイム地方に存在する高校。

 その名を、アルセイム高校と言い数年前に来た大企業の研究室なんてのを設置したために、急速に発展した地方都市の僅かな学校の一つだ。

 そんな事を思い直すのも、俺がこの地の発展ぶりに辟易としているからなのだろう。

 急に決まった大企業の招致に合わせて、この町は変わってしまった。

 ゆるやかだった時間が、そうまるで時計の長針を基準に動いていた時間が急に秒針を基準にしたかのような忙しなさだ。

 そんな空気が出来上がっている。

 そこで俺こと、ティーノ・ランスターは気づいた。

 

「俺がここに来たのは、いつからだっただろうか……?」

 

 ふとした疑問、それは単なる物忘れの類なのか、それとも別の何かなのか。

 気になるも、その先に思考が進まない。

 

「お~い、ティーノ~!」

 

 俺が思考に耽っていると、クライドが手をブンブン振りながら走り寄って来た。

 

「なぁ、明日さ新都のデパートに行こうぜ!」

 

 そう言えば、そんなものがここ最近出来たのだと思い出す。

 

 さて……どうするか……。

 

 俺がどうするか考えていると、又首元に手を回される。

 

「なぁ~行こうぜ!あそこのデパートにはよ良い店があんだよ!」

「なんだ、その良い店って?」

「良い店は良い店なんだって!お前もきっと気に入るからさ!」

 

 クライドがそこまで言うんだ。

 きっといい店なのだろう。

 俺はクライドに対し頷き、了承した。

 

「じゃな、明日だぞ!忘れんなよ!!」

 

 クライドはそう言いながら、走り去っていく。

 本当に忙しない奴である。

 俺はそんなことを考えながら、帰路についた。

 時刻はすでに夜の八時過ぎ、すでに日は落ち夜の静けさが染み渡る。

 俺は、ベランダに出ると少しぬるい風に体を晒す。

 

「ふぅー……」

 

 今日は、一段と不可思議な一日だった。

 いつも身近にあった当たり前のことや名を忘れてしまっていたのだ。

 こんなことは早々起こることでは無い。

 脳に何か患ってしまったのかと心配になったが、昼過ぎにはすべて思い出すことができたのだから問題はないのだろう。

 

 ―――そう、思うことにした。

 

 ベランダから街を見下ろす。

 マンションから続く坂道、そこには道路を挟んで街灯が並び、それは真っすぐにあの少し大きな橋、シルク橋まで伸び、そこから煌々と照らされている新都に続いている。

 そしてその明かりがある一点で忽然と途切れる。

 そこから先にあるのは、大企業様の庭だ。

 

「確か、株式会社アンセムだったっけ……」

 

 なんでも新エネルギーの開発に力を注いでいるとか。

 さらに言えば、時空管理局とも繋がっていて、よくわからない実験を繰り返しており、さらに言えば、非合法の実験すらしているとの噂まで出ている。

ある意味で話題に事欠かない場所であった。

 

「うぅ~寒い……。もう寝よう……」

 

 俺はベッドに行こうと歩みを進める。

 

「あっと、忘れていた」

 

 俺は、窓を閉めていなかったことを思い出す。

 そして窓を閉めながら、空を見上げた。

 

「月はこんなにも綺麗なのに……」

 

 空には二つの大きな月。

 その輪郭がうっすらとぼやけ、青い陽炎が瞬いた。

 

 新暦29年10月30日

 

 クライド・ハラオウンと約束した通りに、俺は新都のデパートに来ていた。

 

「嫌ぁ~、すっごい人だな」

「あぁ、確かにこれは凄いな」

 

 デパートの中はどこもかしこも人ばかり、余りに人が多すぎるがために建物その物が微かに振動するほどのレベルである。

 

「んでクライド、お目当ての良い店ってのはどこにあるんだ?」

 

 俺がそう聞くと、クライドは嫌らしい笑みを作った。

 

「むふふ~、こっちだよ」

 

 そう言うクライドの背を人ごみの中を縫う様にして追いかける。

 すると、その店の前に辿り着いた。

 そこは喫茶店だった。

 おしゃれで モダンな雰囲気、人の波の中に現れた憩いの場。

 客足も多く繁盛しているのが伺い知れた。

 クライドと共にその店の中に入ると、レトロな音楽とコーヒーの微かな香りが疲れを癒す。

 

「あっれー、クライドじゃん。どうしたの?」

 

 店員を待っていると、そんな元気な声が聞こえて来た。

 

「よっすロッテ、来たぞ!」

 

 店の奥から姿を現したのは、リーゼロッテ、同じ高校の同級生で双子の妹、クライドとは家が近所らしい。

 ロッテは、メイド服を着ておりそれをひらひらさせてクライドと遊んでいる。

 すると、さらに店のおくから一人姿を現した。

 

「こらっ、ロッテ仕事中!」

 

 そう言いながら、ロッテと瓜二つの少女が姿を現す。

 彼女の名はリーゼアリア、同じく同級生で双子の姉だ。

 学校ではもっぱら活発なロッテのブレーキ役をしている。

 

「ごめんねティーノ君、クライドが無理に引っ張って来たんでしょ?」

「別にそんな事は無いよ。それよりも、その服似合ってるね?」

「ふふ、ありがとう。ほら、席が空いてるから座って」

 

 俺達は、アリアとロッテに連れられて窓際の席につく。

 席につくと同時に、クライドは身を乗り出してきた。

 

「どうよ、良い店だろ?」

 

 クライドはそう言いながら、店の中で忙しそうに走り回るメイドさん達を見ていた。

 俺もそれにつられてメイドさん達を見る。

 確かに、短いスカートに胸を強調するかのような作りの服は眼福だ。

 下着が見えるか見えないかの、あの危うさが実に良い。

 俺はクライドに拳を向ける。

 

「良い店だ。来てよかったよ、ありがとう」

「良いってことよ!」

 

 クライドも笑顔で返して拳をぶつけた。

 二人してニヤニヤしていると、どこか乱暴にけれど優しくマグカップが置かれた。

 

「……どこみているのかしら」

 

 マグカップを置いたのはリーゼアリアだ。

 頬をひくつかせ、蟀谷辺りに青筋を浮かばせている。

 

 これはマズイ―――

 

「別に俺達はどこも見ていない。強いて上げるなら、店の作りを見ていた。非常に良く出来た作りだからな」

 

 俺がそう言うと、クライドも合わせる。

 

「そうだとも!ここ最近の流行を取り入れたって聞いたからな。どんな作りなのか気になっていたのさ!」

 

 俺達が必死に弁明すると、アリアは「ふ~ん……」と意味ありげに鼻を鳴らした。

 

「今は見逃しましょう。でも、気をつけなさいよ!」

「「は~い」」

 

 人差し指をピンと立てて注意してくるアリアに、気の無い返事を返す。

 

「もう、本当にわかっているのかしら……」

 

 アリアはそう言いながら、くるりと向きを変えた。

 その時だ。

 ただせさえ短いスカートが、ふわりと浮かぶ。

 それは一瞬の出来事で自然の摂理で、事故だ。

 だが、確かにその一瞬の舞が見えるか見えないかの絶対領域を可視可能領域にまで広がりを見せようとして―――。

 

「―――ッ!!」

 

 顔を真っ赤にしたアリアに阻止された。

 ここからの流れは毎度の事だ。

 慌てることじゃない。

 でも、出来れば少し優しくして欲しいかな……。

 

「現行犯!!」

 

 その言葉を最後に俺とクライドは、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

「痛ってーーーっ」

「アリアの砲撃は、いつ見ても立派だな」

 

 あの後、俺達は店から叩き出され、宛もなく新都をふら付くのにも飽きたと言うことでシルク橋を渡り帰路につこうとしていた。

 時刻は既に夕方になろうとしている。

 光と闇の境界線の時間帯だ。

 橋の半ば、俺とクライドが馬鹿話をしながら盛り上がっていたところ、クライドが突如その動きを止めた。

 

「どうしたんだ?」

 

 数歩先を進む俺は、クライドに振り返りそう問うた。

 クライドは、橋の柵に手をかけ夕日を眺めていた。

 その横顔は影となり、伺い知ることは出来ない。

 

「ティーノはさ、明日はどうするんだ?」

「明日?なにか、あったかな……」

「……予定がないなら、それでいいんだけどよ」

「なんだお前、ちょっとおかしいぞ……。あ、そう言えば明日の夜か。オーバーラップがあるのは!」

 

 オーバーラップとは、このミッドチルダ特有の気象を指す。

 それは数十年に一度有るか無いかの自然の奇跡であり、空に浮かぶ二つの月が重なりしかも魔力の波長がピッタリと合うことで起こる現象である。

 その様は、古くから凶兆であると言われ、現代では神秘的と言われる現象の一つに成り果てた物である。

 

「二つの月が重なり魔力の波長すら狂い無く合わさることによって、太陽の光の輪、ハロのようなリングが月の周囲に浮かび上がる。学校で先生がそんなことを言っていたな。今、思い出したよ」

 

 俺がそう言うと、クライドの影がより濃くなった気がした。

 

「でもお前、一緒に見に行く人いないじゃん?」

「ぐぬっ」

 

 でも、あくまでそれは気がただけだったらしい。

 顔をこちらに向けたクライドはいつもと変わりない表情をしていた。

 

「じゃあ、お前は誰と行くんだよ」

「俺は、彼女がいるからいいんだよ~!」

「んだと!」

「ハハハハっ、じゃあな~~!」

 

 クライドは勢いよく走り出し、すでに姿は見えない。

 

「あの野郎……」

 

 俺は知らずの内に悪態をつく。

 アイツに彼女がいて、どうして俺にいない。

 そんな思いが胸中を満たす。

 その時だ。

 天啓が下りた。

 いないのならば、オーバーラップまでに作れば良いのだと。

 

「……なんて、そんな都合よくいる訳ないだろ」

 

 俺はそう呟きながら、一人ゆっくりと帰路についた。

 その道中だ。

 公園のブランコの音が聞こえ、そちらを見ると、一人の少女がいた。

 そいつは、特徴的な長い金髪を揺らしながら、一人でブランコに座っていた。

 服装は、俺と同じ、つまりは学校も同じだ。

 あんな奴はいただろうかと考える。

 だが、別に校内の全ての人間の顔を覚えている訳でもなく、そんなことを考えても無意味だと悟った。

 

 なにか、あったのだろうか……?

 

 その少女は、ずっと地面を見つめたままだ。

 その時俺はふと思った。

 あの子を、明日のオーバーラップに誘うのはどうだろうかと。

 だが、即座にその考えを振り払う。

 さすがに、あの女は訳ありっぽい、関わるのは得策ではない。

 俺は瞬時にそう考え、その女を無視して帰ろうとして顔を上げると―――

 

「あ……」

 

 目が合ってしまった。

 そして俺は、その女に見惚れてしまう。

 街灯の光が淡く照らしていたせいだろうか。

 整った顔立ちに健康的な白い肌、大きめの瞳からは光る何かが垂れ落ちて。

 泣いていた。

 それを見て、ドクンと何故だか心臓が跳ねた気がした。

 この出会いは偶然ではないと、必然だと決定付けられている気さえした。

 だから俺は、この女を無視することが出来ずに、自ら足を進めた。

 

 

 

「つまりはアレか。あんたは、母親とオーバーラップを楽しみにしていたのに、その母親が仕事で、ドタキャンになったから泣いていたのか?」

「うん……」

「はぁー……―――」

「な、なによ!溜息なんかついて!」

 

 俺は女とぼそぼそと会話し、そこそこ打ち解け合うことが出来た。

 にしてもアレだ。

 この女は、子供か何かなのだろうか。

 いい歳して、母親にドタキャンされたからと泣くかね普通。

 

「いや、今にも死にそうな顔してたから、もっと深刻なことなのかと思ってさ」

「わ、私にとっては深刻なの!」

「はいはい、そうですね」

「対応が適当になってる!」

 

 目の前にいる女は、ブランコをガチャガチャ鳴らしながら、不機嫌をアピールするが、それがすごく幼く見せる。

 俺はこの女の相手をするのもメンドクサクなってしまったので、家に帰ることにした。

 

「じゃ、俺は帰るよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「待たない」

 

 俺はすたすたと歩き、公園を抜け、住宅街の中を進んで行く。

 

「待ってってば!」

「なんだよ」

 

 途中腕が掴まれ、振り返ると、ゼェーゼェー息を切らせた女がいた。

 

「き、君……歩くの……速すぎ……」

 

 そうして、女は息を整えると、勢いよくこう言った。

 

「さっきは、話を聞いてくれてありがとう。おかげでスッとしたわ!」

 

 先程までの暗い顔では無く、元気な顔でそう言われてしまえば、こちらも少しばかりは良い想いが出来る。

 それに、アレだけの事でここまで必死にお礼を言える人間と言うのも珍しいのではないだろうか。

 俺は、それが可笑しくて少しだけ噴き出した。

 すると、女は頬を膨らませて怒りを見せて、それがまた可笑しくて、二人して笑った。

 

「それじゃ、気を付けて帰れよ」

「えぇ、君もね!」

 

 そう言って、「じゃ!」と互いに手を上げて帰路につくが、女は俺についてきていた。

 俺はそれを不思議に思いながらも、まぁいっか、と黙っていることにする。

 そうして、互いに夕焼けが沈みかけるくらいの時間帯にはマンションの前に立っていた。

 

「なぁ……」

「なに……」

「お前の家って……」

「そう、あなたもなのね……」

 

 俺はなんかどっと疲れてしまった。

 それは女も同じ様で、またまた互いに無言でエレベーターに乗り込む。

 俺は自分の家のある階のボタンを押すと、女に聞いた。

 

「何階?」

「一番上」

「はいはい」

 

 そこから少しばかりまた無言。

 すると、エレベーターの扉が開いた。

 その時だ。

 女が機を見つけたかのように言って来た。

 

「き、君の名前は!?」

「ティーノ・ランスターだ!お前は?」

「私は、アリシア・テスタロッサ!これからよろしくね!!」

 

 アリシアは特大の笑顔を浮かべると、扉の奥に消えていった。

 その笑顔をぼうっと見ていた俺は、正直少し見惚れていたのかもしれない。

 俺は、部屋のベランダから又街を見下ろす。

 特に変わったところも無い。

 ただの、毎日が過ぎ去るだけだ。

 だから、今日も寝よう。

 明日になれば、オーバーラップだ。

 俺は窓を閉めて眠りについた。

 

 

 新暦29年10月31日

 

 

 朝目が覚めた俺は、日捲りカレンダーを切り取る。

 

「今日か……」

 

 さて、オーバーラップの時間は夜の10時から0時までの時間帯が、一番良い時間だ。

 

 誰を誘うか……。

 

 俺は考える。

 だが、そんなロマンチックな催しに誘う人なんている訳が無く。

 俺は盛大に溜息をついた。

 アルセイム高校に辿り着くと、すでに着席していたクライドが話しかけてくる。

 

「結局、今日どうすんだ?」

「別にどうもしないよ。いつも通り、帰って寝て終わりだ」

 

 俺がそう言うと、クライドはどこか満足気に頷く。

 

「そっかそっか。ま、お前はそうだろうな!」

「んだと!」

 

 俺が怒り、クライドとじゃれ合うと俺とクライドの襟が強引に引かれる。

 

「「はいはい、そこまでね!」」

 

 俺達を強制的に着席させたのは、アリアとロッテであった。

 

「もう、あんた達は仲が宜しいことで」

「もしかして、クライドとティーノはホモなの?」

「「ちげぇよ!!」」

 

 俺とクライドが同時に吼えると、アリアとロッテは笑いながら手を襟から離した。

 そして二人が俺とクライドの横に立つと、俺は二人を見た。

 

「な、なによ……」

 

 アリアがそう言いながら、胸元に手を持って行き少し縮こまる。

 

「いや……、メイド服の印象が強かったからな。制服も似合ってんじゃん」

「なっ―――!」

 

 俺がそう言うと、アリアは顔を赤くした。

 恥ずかしがるアリアの隣にいたロッテは、アリアの肩を抱くと見せつける様にポーズをとる。

 

「どうよ、そそるでしょ?」

「ちょ!ロッテ!!」

 

 そんな二人を俺とクライドがニヤニヤして見ていると、等々アリアは羞恥に涙目になった。

 

「もういい加減にしなさい!」

 

 その時だ。

 教室の扉が開かれた音がして、教室内から音が消えた。

 

「あん……?」

 

 それを不思議に思った俺は、音の発信源に視線を向ける。

 するとそこには、昨日の女。

 アリシアがいた。

 アリシアは、どこか堂々とした足取りで教室内を歩く。

 教室内にいたクラスメイト達はそんなアリシアの姿を見て、何やら小声で会話をし始めた。

 それはどこか陰口の様で、大変、気に入らなかった。

 アリシアは黙って教室内を進み着席した。

 そこは、俺の真横の席であった。

 静かに座ったアリシアに、アリアとロッテも少し戸惑い立ち位置を移動し、クライドの側にいった。

 そのために、俺とアリシアの間を遮る物はなくなる。

 

「よっ!」

 

 黙々と教材を鞄の中から取り出すアリシアに俺は声をかけた。

 

「……」

 

 だが、無視されてしまう。

 

「よっ!!」

 

 今度は少し声量を上げて呼んだ。

 

「……」

 

 だが無視された。

 イライラする。

 すっげぇ、イライラする。

 昨日はあん

 なにもしつこかったクセに……。

 俺は席から立ち上がる。

 

「お、おい……」

 

 クライドが何か言おうとしたが、関係が無い。

 俺はアリシアの前に立つ。

 クラスの連中も俺とアリシアを黙って見守る。

 だがそれでもアリシアは、黙って机を見つめるのみだ。

 俺はその態度にも腹を立て、アリシアの両頬を両手で挟み込み、無理矢理に持ち上げ視線を合わせる。

 

「……」

 

 顔を上げたアリシアは、瞳を無理矢理に閉じている。

 力一杯に瞼を閉じて、視界に俺を入れないようにと必死であった。

 

 おい、俺はそんなにも醜いのか―――

 

 俺は両手を離すと今度はアリシアの両瞼を指でこじ開ける。

 

「ぐぎぎぎぎ……」

 

 アリシアが必死に力むが関係が無い。

 瞼を無理矢理持ち上げた俺は、最高の笑顔でアリシアの瞳に写り込んでやった。

 

「おはよう!」

 

 そうして、特大の挨拶をしてやると、アリシアも観念したのか小さな声で言った。

 

「……おはよう」

「えっ、なんだって!?」

「くっ……おはよう……」

「聞こえないよ!?」

「おはようございますッ!!」

 

 アリシアは怒りに震えながら、叫ぶように言った。

 

「おぅ、おはよう!元気がないから、びっくりしたぞ」

「うるさい!私はティーノみたいに馬鹿じゃないの!」

「なんだと!!」

「なによ!」

 

 そして俺達は互いの頬を摘まみ上げる。

 

「「グヌギギギギ……」」

「はいはい、そこまでそこまで……」

 

 俺達が互いに涙目になりながら、頬をひっぱりあっていると、アリアとロッテに仲裁される。

 

「私は、リーゼ・アリア、こっちが妹のロッテ、よろしくね」

 

 俺達のグループは、アリシアを交えて会話をしていた。

 その中で、アリシアはあの大企業、アンセムに母親が勤めており、しかも設計主任とから言うこの土地での一番偉い立場にあるとか。

 そのため、母親の名を汚さないために、品性良く暮らしていたとのこと。

 それも、今日の俺のせいで今までの努力が水の泡となってしまったらしい。

 

 まぁ、しったこっちゃないが―――

 

 アリシア自身は、そこらにいる普通の女子高生だ。

 そのため、俺達の会話を聞いてもともとアリシアと話したいと思っていた連中も会話に入ってきて、知らない間に大所帯となっていた。

 でもまぁ……。

 

「楽しそうでなにより……ってか?」

 

 クライドがそう言いながら、ウィンクを飛ばしてくる。

 俺はそれを叩き落とした。

 

「別にそんなんじゃねぇよ」

 

 ただ、今の状況が、アリシアが友人達に囲まれて楽しそうにしている姿を見ているのは、何故だか、嬉しく感じた。

 

 

 

 

 放課後となり、皆がオーバーラップの事に会話を弾ませ、帰路について行く中、俺は駐輪場にいた。

 

「よっと……」

 

 自転車を取り出し、鞄を前かごに放り込む。

 

「ちょっと……」

「うん?」

 

 声がした方に振り向けば、そこにはアリシアがいた。

 

「どうしたよ?」

 

 俺がそう聞くと、アリシアは恥ずかしそうにしながら言った。

 

「きょ、今日はありがとう……、きっかけを作ってくれて……」

「べつに、俺が勝手にしたことだからな」

 

 俺はそう言うと、自転車に跨る。

 

「ね、ねぇ?」

 

 俺が自転車に跨ると同時にアリシアが俺の隣に来た。

 

「一緒に帰らない?」

 

 それは、同じマンションに住んでいるからだろう。

 可愛いと言うか、綺麗な女子と帰れるというのは非常にありがたい、だがしかしだ。

 

「俺自転車だから、じゃな!」

 

 俺がそう言いながら、自転車のペダルに足を乗せるとアリシアは俺の肩を掴んだ。

 

「な、い、良いじゃないの!押して帰ろうよ!!」

「い・や・だ!なんで、そんな疲れることをしないといけないんだよ」

 

 そう言って無理矢理自転車をこごうとするが、アリシアの野郎はカゴを強引に掴んで先に進ませようとしない。

 俺達二人はまた、互いに譲ることが出来ずに力の限り張り合った。

 だが、やはりそこは男と女である。

 アリシアは力負けし、カゴを手放してしまった。

 

「ちょ、急に手放したら!!」

 

 勿論、急にそんなことをすれば自転車はバランスを崩してしまい倒れてしまう。

 

「危ない!」

 

 アリシアは叫び俺を抱き寄せようとするが、そうすると自転車は跨る俺ごとアリシアに倒れてしまう。

 俺は咄嗟に自転車を蹴飛ばし、アリシアに全体重を乗せないように、腕に力を入れ、支えにした。

 

「きゃ!」

「のわっ!」

 

 倒れた先で、俺は何故だか柔らかい何かに包まれていた。

 どこか良い香りもする。

 そして息苦しい。

 俺はそれから逃れるために、顔をモゾモゾと動かす。

 すると、耳元からあん……」やら、「ん……」と言った淫らな声が聞こえて来た。

 俺は嫌な予感がしながら、恐る恐る顔を上げる。

 するとそこには、涙目になり、顔を真っ赤にしたアリシアの顔があった。

 どうやら俺は、アリシアの胸元に抱きしめられていたらしい。

 これはあれだ。

 ラッキースケベと呼ばれるものであろう。

 俺に罪は無い。

 これは事故だと、声高に叫びたい。

 それでも、腕を振り上げるアリシアの次の行動を受け止めなくてならない。

 俺は、男なのだから――――

 

「この、エッチぃーーーッ!!」

「ふばぁぁあああッ!」

 

 

 

 結局、俺はアリシアを後ろに乗せて帰ることになった。

 アリシア曰く、良い想いしたのだからこれくらい当然らしい。

 これからは、毎日このスタイルで登下校をするのだそうだ。

 俺的には断固として拒否したかったのだが、仕方が無い。

 腰に捕まるアリシアの体温と、背中に伝わる胸の感触と等価交換と言うことにしておこう。

 帰り道の道中、俺の部屋にテレビや家具が一切ない話をすると、アリシアは信じられないと言い、アリシアの家のお古を譲ってくれる形となった。

 最初遠慮したが、ゴミとして処分するよりも使ってもらった方が嬉しいのだそうだ。

 体よく使われている感も否めないが、貰えるのならありがたく貰っておこう。

 アリシアの家から、俺の家に家具を運び込み、アリシアの好きに模様替えを行う。

 それらが、終わる頃には、時刻は夜の9時になっていた。

 俺とアリシアは並んでベッドに座りテレビを見る。

 テレビの先のアナウンサーは、原稿用紙に書かれた文字を読みながら、ニュースを説明していく。

 

「アルセイム地方都市で発生している謎の連続殺人ですが、未だに犯人の素性すらつかめていないと、時空管理局は説明しており……」

 

 こんな辺鄙な街でも、物騒な話は起こるものだ。

 俺はそんなことを人ごとのように考える。

 

「次のニュースに移ります。今夜10時から始まるオーバーラップですが―――」

 

 そう言えば、もう直ぐだな。

 そうぼんやりと考えていると、アリシアの指先が俺の手に触れた。

 

「どうした?」

「え!?えっと……ティーノはさ……。この後、どうする?」

 

 それは、オーバーラップのことだろう。

 

 さて……どうするか……。

 

 別にどこで見ても良いのだろうが、先程のニュースの件もある。

 へたに、外に出てしまうのは危険なのではないだろうか。

 そう考えた俺は、今日はもう寝ることにした。

 それを伝えると、アリシアは少し悲しそうな顔をしてから、わかったと言い玄関に向かう。

 

「おやすみなさい。ティーノ、良い夢を……」

「あぁ、おやすみ」

 

 アリシアを送り出した俺は、テレビを消しベランダに向かう。

 

「オーバーラップの影響だな。月が一つだ」

 

 夜空に浮かぶ月は一つしかない。

 月明りが町全体を包む。

 今日はこの星全体のお祭りみたいなものだ。

 街灯はすべて消えて、月明りのみに集中できるようになっていた。

 そのためだろう。

 まるで、輝く空と対比になるように街並みが不気味なほどに暗闇に包まれているのは。

 俺はそれを少しだけ眺めて、もう寝ようと、ベランダを後にした。

 

「―――- ―――― - ――――― ―― ―――ッ!」

 

 寝苦しい。

 

「―――- ―――― - ――――― ―― ―――ッ!」

 

 寝苦しい。

 

「―――- ―――― - ――――― ―― ―――ッ!」

 

 なにか聞こえる。

 

 黒板を爪でひっかくような、ガラスを刻むような、小鳥の首を絞めたような。

 

 ―――命を閉じる音が聞こえる。

 

「―――ッ!!」

 

 俺は布団を跳ね除けた。

 すると、その音が良く聞こえた。

 

「―――- ―――― - ――――― ―― ―――ッ!」

 

 それは、人の声だった。

 女性が、泣き叫ぶ音だった。

 助けを乞う音だった。

 俺はその音を頼りに、ベランダに向かい窓を開ける。

 

「いやっ、嫌だ!終わりたくないッ!!終わりたくない!」

 

 その声は、あり得ない程に透き通って聞こえた。

 眼下にも、付近にも、その声の発信源は存在しない。

 それでも、鼓膜に叩きつけるような音が聞こえた。

 そして気が付く。

 

 それは、その声は―――

 

 アリシアの声だと―――

 

「くそっ、どこだ!?アリシアーーーーーッ!」

 

 叫ぶ。

 だが、喉から発せられた振動は、月夜の闇に飲み込まれ沈んで消えた。

 その沈み込む様を見せつけられるように、闇を睨みつけると、気が付いた。

 何故だか分からないが、そこにいると、闇の先にアリシアがいると、理解出来た。

 それが分かれば後は速い、すぐにでも助けに向かわなければ。

 俺は、慌てて靴を履き、玄関を開け放ち外に向かう。

 そしてエレベーターを待つが、その時間が長い。

 遅く感じる。

 本当に動いているのか疑問に思う程に。

 俺はそれに我慢できなくなり、エレベーターを諦め、マンションの外廊下から眼下を見下ろした。

 吸い込まれそうな闇だ。

 それでなくても、ここは高層マンションの中腹、飛び降りて助かる筈がない。

 

 そう―――

 

 それこそ―――

 

 魔法でもない限り―――

 

 その瞬間、俺は一瞬前の俺を殴り飛ばしてやりたくなった。

 この世界はミッドチルダ。

 魔法の文化が進む最先端の世界。

 ならば、俺が魔法を使えないなんて道理はない。

 俺は思い出したように、ポケットに手を突っ込む。

 そこにあったのは、右手のみの黒いグローブだった。

 俺は迷うことなくそれを右手にはめると、体内のリンカーコアから魔力を送り込む。

 呼応するようにして、グローブ型のデバイス、エルピスも起動し、紅い線が脈動し、俺の右手と一体化した。

 そして近場にあったダンボール箱を平らにならすと、それを手に持ち闇夜に飛び落ちる。

 ダンボールを足元に移動させ、俺の魔法を叫ぶ。

 

「インヒューレントスキル、発動!エリアルレイヴ!!」

 

 エルピスから魔力が行き渡り、ダンボールを硬化させる。

 足元から魔力の渦が風となって巻き起こり、導かれるようにして方角をしめす。

 俺はそれをまるでサーフィンでもしているかのようにして乗りこなす。

 地面に足をつけると、魔力をカット。

 ダンボール箱を投げ捨て、走る。

 住宅街を走る。

 異様なまでの静けさだった。

 まるで町全体が死んでしまったかのような、異様な雰囲気だった。

 だが走る。

 それらを敢えて無視して、未だに聞こえる声を頼りに走る。

 走って、走って、俺はシルク橋まで来た。

 

「はぁー、はぁー、はぁー……」

 

 声は、さらに橋の奥、新都のもっと奥から聞こえてくる。

 速く助けに行かなくては、アイツは泣き虫で、恥ずかしがり屋で、いじっぱりなだけの、女の子だ。

 脳裏に、ニュースの声が繰り返し流れ、嫌な予感が背筋を撫でる。

 

「アリシア、今助けに!」

 

 橋に足を踏み入れた瞬間、それは起きた。

 

「……―――あ、……れ――――」

 

 足元がぐらつく、体に力が入らない。

 それどころか、体内から大切な何かが、止めどなく溢れて―――

 

「な、に―――が―――?」

 

 俺の腹部は、半分程、穴が開いていた。

 

「ぐぷ……」

 

 喉からせり上がってくるのは、鉄分を過分に含んだ赤い水。

 我慢しようにも、それは湯水のように溢れ出し、出口をこじ開ける。

 ビチャッ、と俺の口から吐き出された大量の血液が橋を染める。

 未だに声が聞こえる。

 アリシアの声が、泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

 アリシア、今助けに―――

 

 そう言おうとした時、眼前、シルク橋の先が光った。

 その光は、青い。

 純粋な青―――。

 青が魔法陣を描き、光り輝く。

 その光に照らされるようにして、輪郭がぼんやりと見えた。

 見える筈がない距離なのに、最後の悪あがきで眼球に通した魔力がそいつを見せた。

 

「クソが……あの、野郎――――」

 

 そこには、クライドがいた。

 黒翼のような黒のバリアジャケットと羽織、杖型のデバイスの先端をこちらに向けている。

 クライドから、放たれた魔法弾が下半身を吹き飛ばす。

 支えを失った上半身が、崩れ落ちる様に無様に転がる。

 俺は霞む視界の中で見上げた。

 オーバーラップを、それは幻想的と神秘的と呼ばれる奇跡、月の蒼い光の輪が大地を包む。

 

 俺にはそれが、その光が、嘲笑っているように、見えた。

 

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