唯湖アナザー~Where is my love~ 作:月の海
裏庭に残っているのは私とクドリャフカ君も二人だけになった。
ク「今、リキに何をしようとしていましたか?」
唯「…………」
真剣な目をしたクドリャフカ君の問いかけは正直に答えざるを得なかった。
唯「キス…しようとしたよ」
ク「リキには鈴さんという彼女がいます」
唯「わかっているよ」
ク「からかっている…というわけではありませんよね?」
クドリャフカ君は何か試しているようだった。
唯「本気だよ」
ク「どうして今なんですか?」
この際全て打ち明けてしまいたいと思った。
唯「…覚えているんだ」
「あの世界でのことを、私は思い出してしまったんだ」
ク「…………」
クドリャフカ君は黙って私の話を聞いていた。
唯「理樹君のこと、諦めるつもりだったんだ」
「でも、理樹君の近くにいて、優しさに触れて、笑顔を向けられて…」
「もう耐えられなくなったんだ」
こんなこと話してもきっと分からないだろうな。
しかし、クドリャフカ君の答えは予想に反したものだった。
ク「やっぱり、来ヶ谷さんも思い出していたんですね」
唯「!?」
クドリャフカ君は今「やっぱり」と言った。
唯「まさかクドリャフカ君も?」
ク「はい…というより」
魚「皆、思い出しているのですよ」
陰から現れたのは鈴君を除く女子メンバーだった。
唯「小毬君も、葉留佳君もか」
小「うん」
葉「やはは」
唯「そんな」
予想外なことに動揺を隠せなかった。
ク「もちろん完全にではありません」
「覚えているのはそれぞれリキと付き合った時の記憶だけです」
魚「余計にタチが悪いとも言えますが」
「ちなみに思い出したタイミングもそれぞれです」
小「私は屋上で絵本を読んだときだったよ~」
葉「家に戻ってタオルケット見た時でしたヨ」
皆思い出していることは理解したがどうしても納得することが出来ないことがあった。
唯「それなら――」
どうしても言わずにはいられなかった。
唯「どうして皆あんなに普通にしていられるんだ!?」
「理樹君が好きだったんじゃないのか?」
あまりにも普通すぎたさっきまでの彼女らに聞かずにはいられなかった。
唯「私はもどかしくて気が狂ってしまいそうだった」
「理樹君のことが本当に好きなんだったら――」
葉「姉御ッ!!」
私の言葉を葉留佳君が力ずくで遮った。
葉「それ以上は言わないでくださいヨ」
「皆、分かってますから…」
はにかむような葉留佳君の苦笑いに全て理解した。
皆、私のような苦しみを越えてきたんだ。
唯「……すまない」
葉「仕方ないッスよ」
ク「私達も最初はそんな感じでしたから」
魚「特に三枝さんのは酷かったですね」
葉「ごめんってばみおちん」
小「だからね、ノープロブレムなのです」
唯「……そうか、ん?」
一つ気になるところがあった。
唯「酷かったと言ったが立ち会っていたのか?」
思い出したのは家でだと言っていたが…
魚「少し前のことです」
「本来の聡い来ヶ谷さんなら様子が違うことに一番に気付いていたでしょうね」
まったく気が付かなかった。
魚「ちなみに来ヶ谷さんが思い出したのはいつなのですか?」
唯「事故から目が覚めたすぐ後だな」
ク「早すぎます!?」
葉「流石姉御というか…」
魚「予想の斜め上でした、最近のことだと思っていたのですが」
三人が驚いている中、小毬君が自分の胸に私を抱き締めた。
唯「小毬君?」
小毬君は抱き締める力を一層強めた。
小「つらかったよね」
「苦しかったよね」
「ごめんね唯ちゃん、気付いてあげられなくて」
唯「…………」
「すまない小毬君、少しだけ胸を貸してくれ……」
私は静かに、しかし力強く小毬君にしがみついた。