東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ

・フランちゃん、月に行く
・永琳と輝夜に会う



戦勝の宴と雨乞いの儀式

 

「…………」

 

フラン様は永琳さんと別れてから、ずっと静かです。

私はそんなフラン様を後ろから眺めながら、月の空を飛んでいました。

 

「あの……フラン様」

 

「んー、なに、メイリン」

 

「永琳さんなんですけど、あのままにしてきてよかったんですか?」

 

「いいもなにも、私が他にすることなんてないよ」

 

「でも……ラフテルに連れて帰るとか」

 

私はフラン様と永琳さんの会話を横で聞いていただけですが、おふたりの会話には私が口をはさめないような、独特の空気がありました。

言葉にするなら分かり合っている、通じ合っているでしょうか。

私には理解できない永琳さんの思想や行動をフラン様は深く共感しているようで。

永琳さんの方も初対面だとほとんどの人が気圧されるフラン様の滲み出す狂気を何とも思っていないように接していました。

 

そんなお二人を見ているのが、私は少し悔しくて。

今の寂しそうなフラン様の後姿をただ見ていることしかできない自分が情けなくて。

 

私の声に、フラン様は飛行をやめ、振り向きました。

中空で滞空したまま向き合い、フラン様が口を開きました。

その表情は真剣そのもの。

 

「それはできないし、しちゃいけないよ。あの二人だけの空間を、私には壊せない」

 

「でも、誰もいない所で一人、ずっと人形と暮らすなんて! それに、それすら幻聴と幻覚の――」

 

「メイリン」

 

「――ッ!」

 

「幸せの定義は本人しかしちゃいけないよ」

 

「でも、でも……」

 

「メイリン、あなたは優しいから納得できないかもしれないけど。目につくものすべてを救おうとするのはあなたの悪い癖。クーロンの時は故郷ってこともあったけど、これからもその姿勢を貫くなら覚悟しなきゃいけないよ」

 

違います、フラン様。

私は確かに、救われない人がいれば昔の自分を見ているような気になって助けたくなりますけど。

私が本当に助けになりたいのは、ただ一人、あなただけ――。

 

「……彼女はね、私なんだ。吸血鬼じゃなかった私。永い時に、孤独に耐えられずに壊れてしまった私。でもね、大丈夫だよ、メイリン。私は吸血鬼だから、彼女みたいになったりはしない。……ときどき狂うことはあるかもだけど」

 

大丈夫なら、なんでそんなに弱弱しい声なんですか、フラン様。

今、ご自分がどんなに不安そうな表情をしているのか、わかっていますか?

あなたは今、私が助けになりたいと思ってしまうほどには――。

 

「違います、違いますよ、フラン様」

 

「違うって、なにが?」

 

「あなたと彼女は、違います」

 

「ん、だから彼女は人間で、私は吸血鬼で――」

 

「そういうことじゃありません。フラン様には――私がいます」

 

「え?」

 

「心の無い人形じゃなくて、私がいます。私は、フラン様を絶対独りにはさせませんから。どこまでも、一緒にいますから!」

 

「……アハハ。そう……。ありがとね、メイリン」

 

きょとんとした顔をしてから、一拍おいて笑い出したフラン様。

私の言葉は、心は届いたのでしょうか。

その眼尻には光るものがあって。

私にはその光がどういった気持ちによるものなのかはわかりませんが。

 

このとき私は、フラン様とずっとずっと共に歩むことを誓い。

――不老不死の法を見つけることを決意したのです。

 

 

「でもね、メイリン。ごくごく薄い可能性だけど、クモの糸みたく細い可能性だけど、彼女が心を取り戻す可能性もないわけじゃないんだよ」

 

「え? そうなんですか?」

 

「私も別れてから考えたんだけどね。ほら、私彼女たちに名前を贈ったじゃない。名前ってね、意識を保つのにとても大事なんだよね。私も狂気に呑まれそうになった時、“フランドール・スカーレット”の名前があったからこそ大丈夫だったわけだし」

 

「名前があることで、永琳さんが夢の世界から抜け出すってことですか?」

 

確かに私も「見習いコックちゃん」の名前を与えられたことで、スカーレット海賊団にいてもいいと、ここが私の居場所なのだと思えました。

「紅美鈴」の名前をフラン様からいただいたときは涙が止まらないほど嬉しかったのは、いまでも思い出せますしね。

 

「可能性はほんとに低いけどね。あとはもしかしたら輝夜の方が心を手に入れるかもしれない」

 

「え……人形がですか?」

 

「私の元いた国には付喪神って信仰があってね。長い間人とともに過ごしたモノには心が宿るの。あれだけ一途な心を永琳から向けられて、自我の形成に重要な名前ももらっている。しかも、妖怪である私から。そのうちほんとに心が芽生えて動き出すかもしれないよ」

 

そんな話をしながら。私とフラン様は月から“青き星”へと帰るのでした。

 

 

 

 

「えーではこれより、ラフテル戦勝記念の宴会を開始しまーす」

 

宴会の始まりの言葉なんてなんていえばいいのやら。

でもそんな適当な私の言葉にも、ノリのいいラフテルのみんなは大きな声で応えてくれた。

 

「じゃあ今日は無礼講で。好きなだけ騒いで良し!」

 

さて、なんでこうなったかといえば。

私とメイリンが月から戻ってきた後、事件の後始末をしようとしたわけだ。

まずは改めて今回の件について月人達から事情聴取。

責任の所在とかははっきりさせておかないとね。

 

月人――ビルカの民は三つの階級に分かれている。

上から順に支配民、一般民、奴隷民だ。

あからさますぎる名前だけど、まぁこれは彼らの言葉ではなく、翻訳魔法で近いニュアンスの言葉に直しているだけ。

 

で、まぁ当然責任は支配民にあるわけだ。

こいつらは各艦の艦長や副艦長をしていた。

生き残った支配民は200人ほど。

その下が一般民。

これは艦の機関部で働いていたり、実際に戦闘員として現地住民をさらったりしていた人たち。

生き残りは1500人ほど。

さらに下が奴隷民。

艦の下働き、雑用といった後方支援的な仕事や、まぁ言葉にできないあれやこれなど。

奴隷ということで前線に駆り出されそうな感じがするけれど、彼らにとっては国の危機(資源不足)を救うために体を張って戦うのは名誉あることで、それは一般民の仕事。

また、奴隷民の中には各地から攫ってきた人も含まれている。

生き残りは2000人。

 

10万人以上で襲ってきて、生き残りはたった4000人弱だ。

生存率4%以下とはなかなか。

生き残った人たちも負傷してたりするわけで、まぁわりと終わってるよね。

ちなみにラフテル側の被害は死亡者0、重傷者4、軽傷者120、建物含め沿岸部の被害軽微。

こぁが体を張って頑張ったおかげと言える。

なお軽傷者の八割は私が狂気を解放したことで、狂気の波動にあてられて昏倒した際に怪我した人たちである。

てへっ。

まぁ央都セントラルの人たちに比べてここ沿岸部は辺境と言えるし、私との交流も少ないから狂気に慣れてなかったんだろう。

なお重軽傷者はすでに全員治療済みだ。

一応月人たちも簡単な治療はしてある。

 

さて正直なところ、私はもうみんな許してもいいんじゃないかなと思っていた。

当初ラフテルを襲われたことで抱いた怒りは大暴れしてだいぶすっきりしちゃったし、攻撃を決定した支配民はともかく、命令に従っただけの一般民と奴隷民の立場については思うことがないわけじゃない。

ここは手を出して来たら一族郎党皆殺しみたいな割と野蛮な世界だけど、戦時国際法を知っている私からすれば、ねぇ。

そんなわけでラフテルのみんなに聞いてみると。

 

『フラン様が決めたことに従いますよ』

『襲われたのは頭に来ましたけど、結果的に特に問題ないですしね』

『むしろフラン様が来てくれて嬉しいっていうか?』

『役得だよなー』

『央都なんて滅多にいけないもんな。行ってもフラン様にお会いする名目もないし』

『どっちにしろ今は航海に出てらっしゃるから央都に行っても会えませんよ?』

『ああ、そっか。でもそうなるとわざわざフラン様の航海を中断させてしまったことに?』

『うむ、不甲斐ないのう……』

『長に掛け合って本格的な防衛計画を立てた方がいいのかもしれんな』

『こぁ様にも迷惑をかけてしまいましたしねぇ』

 

こんな程度の感想だった。

祖国が襲われたことに対してもっと憤っているのかなとも思ったけど、話を聞いてみれば「ラフテルはフラン様の国だからフラン様が怒ってないのに俺たちが憤るのはなんだか」みたいな。

帰属意識が低いわけじゃなくて、主体意識がないというか。

ちょっと心配になるけど、そういえばラフテルの住民って昔からこんな感じだった。

数百年もたってるのに国土を荒そうとするおバカさんが出てこないわけだよね。

敬虔な信徒がエルサレム荒すかっていう。

 

まぁそんなわけでみなも特に異論はないようなので、月人たちの今回の件は、飛行戦艦や各種兵器、物資、96%の人命の損耗をもって不問に処すことに決定。

ただし、不問に処すことと今後ラフテルで受け入れるかどうかは別の話。

こぁに相談したところ、ラフテルで受け入れるのは難しそうだ。

確かに月人たちも敵国の中では心が休まらないだろう。

なにせ彼らにとって私は同胞のことごとくを抹殺した悪魔だ。

私に恐怖して名付けた紅い悪魔(スカーレットデビル)という名前が彼らの中に広がっているのも知っている。

私の放つ狂気に慣れていないせいもあって、近づいただけで顔面蒼白、ガタガタ震え、失禁、悪ければ気絶とどこまでも恐れられている。

そんな私が治める国で生活しろというのもなかなか難しいということ。

 

月に送り返す、というのも考えたけど彼らは資源がなくて侵略戦争まで仕掛けたのに、戦果なしどころか多大な戦争物資と人的資源を失って故郷に帰ったところで生きていけないだろう。

特に人口の96%を失った国がその後もやっていけるのかと言えば、まぁ論ずるまでもない。

そこらの土地に放り出すというのはこぁに反対された。

ラフテルに襲い掛かってきて、何の報いも受けず地上の資源の恩恵にあずかるのは許せないと。

曰く「フラン様の威光をもっとよく知れる環境におきたい」そうだ。

今回の件で一番頑張ったのはこぁだし、最大限その意を酌んであげたいと思っている。

一応考えている案はあって、そのための魔法式を頭の中で構築中だ。

 

そんなこんなで月人達の処遇という問題を後回しにして、とりあえず宴会をやろうというのが今の状況。

すべてが終わったことをアピールし、今後に遺恨を残さないための催しである。

お酒飲んで騒げばだいたい丸く収まる。

あとはまぁ最近ラフテルに帰ってきてなかったから、住人との交流もかねて。

それと、月人たちも参加させている。

いつまでも怯えられてもかなわないしね。

家族や友も大勢亡くしているだろうし、飲むだけ飲んで泣くだけ泣いてすっきりしてくれればいいんだけど。

さ、私も飲もーっと。

 

 

 

 

宴もたけなわ、フランはこぁに絡まれていた。

こぁはフランの眷属である悪魔なため普段は酒に酔うということがないのだが、フランが身体機能の調節の仕方を教え、悪魔の体で初めて酔ったのである。

その結果、こぁは甘え上戸で泣き上戸なことが判明した。

ちなみに傍で飲んでいる美鈴は目が据わり敬語が消えて口調が荒々しくなり、何気に美鈴と初顔合わせで色々としゃべっていたにとりは笑い上戸である。

 

「フラン様ぁ~私いつも頑張ってるんですよぉ~。それなのにフラン様全然帰ってきてくれませんしぃ~」

「うるさい、ガタガタ抜かすな。お前はフラン様の帰る場所を守ってるんだろう。誇りを持て」

「そんなこと言ったって~。メイリンさんはいつもフラン様と一緒にいるじゃないですかぁ~」

「最近はアマゾン・リリーにかかりきりで会ってない。私だって寂しいんだぞ……」

「あっひゃっひゃっひゃー。今フラン様のおそばにいるのは私だもんねー。頼まれたって譲らないさー」

「くっ、この!」

「うぇえええん、フラン様ぁ~にとりがいじめてきますぅ~」

「アハハハハ……」

 

フランは昔、悪酔いして巫女を一人殺している。

そのため自制していて基本的に絡み酒にならないフランは、三人が互いに絡み合うのを苦笑いでみているだけで自身はさほど酔ってはいない。

いい子たちなのは知っているけど、正直今は近づいてほしくないといった表情だ。

そんな混沌とした場に長がやってきた。

今回襲われた沿岸地域一帯を治めている老人である。

 

「や、長。楽しんでる?」

 

「それはもう。ご一緒してもよろしいですかな?」

 

「どうぞどうぞ」

 

できればこの酔っ払いどもをどうにかしてくれ、というフランの目を見て長も苦笑する。

 

「ずいぶんと出来上がっているようですな」

 

「まったくね。こぁは今日はじめて“酔い方”を教えたから仕方ないにしても、メイリンとにとりはサンタマリア号で宴会したこともあるんだけどねぇ」

 

「普段はここまでではないと?」

 

「だね。いつもはもっと静かに飲んでるんだけど。……あー同性の同世代と一緒に呑むのが初めてだからかなぁ……」

 

「ははは。それならば羽目を外してしまうのも致し方ありませんな」

 

「ま、大目に見るよ。――それで、どうしたの?」

 

「いえ、用というほどのものではありません。ただこの機会に一度、皆を代表してお礼を申し上げておきたくてですな」

 

「お礼? いいよ別にそんなの。ラフテルを守るのも私の仕事みたいなものだしさ」

 

「いえ、それでもやはり」

 

「もー堅いって。宴会の場でそういうこと言うのはなし! 私はやりたいようにやってるだけで、義務とかじゃないんだし」

 

「……わかりました。しかし、皆が感謝していることだけは知っておいてください。救ってくれたことも、今ここでこうして宴を催してくれていることも、ですな」

 

「宴も?」

 

「ええ。ここらは中央に比べてフラン様にお会いする機会などありませんからな。かくいう私もこのたびはじめてお目にかかれて、老い先短い身に思い残すこともなくなりました」

 

「そっか。ま、いい気分で往生するのは構わないけど、お酒飲みすぎてぽっくり逝ったりしないでよね?」

 

「ははは、私もそれなりに長く生きてますからな。人生の友との付き合い方は心得ておりますよ」

 

「“酒は人類の友だぞ、友人を見捨てられるか”、ってね。長はいけるクチ?」

 

「酒を飲むのは時間の無駄、飲まないのは人生の無駄。ですな。私の両親が酒造りを営んでいました」

 

「おや、それはいいねぇ。“酒が人をつくり、人が酒を造った”、なーんて。ラフテルで最初にお酒作ったのは吸血鬼の私なんだけどね」

 

「おや、よい言葉ですな。墓前に供えておきましょうか」

 

「好きにしてよ。でもそこで騒いでる彼女たちにはこっちのほうがいいかな。“酒を飲むには特別の才能がいる。それは忍耐だ。忍耐は真実よりも大切なのだ”、ってね。彼女たちももう少し自制ってものを覚えてもらわないとね……」

 

「若いうちの二日酔いはよい経験ですな。この年になると無理はできませんで。――ではフラン様、私はこれで」

 

「ん、じゃあね」

 

「はい」

 

長が立ち去った後、フランのもとには次々と入れ代わり立ち代わりで人がやってきた。

皆フランと言葉を交わしたくも遠慮していたのだが、長が先陣を切ったことで踏ん切りがついたようである。

もちろんそこに酒の魔力による後押しがあることは言うまでもないが。

そして、フランはそのすべてにいやな顔一つせず付き合っていた。

実際、嫌だとか煩わしいだとかは思っていない。

神との謁見なんて堅苦しいものではなく、宴席での世間話か、せいぜい著名人の握手会。

軽い雰囲気だからこそ肩ひじを張らずに接することができるし、ラフテルの住人もそれが分かっているから必要以上に畏まったりはしない。

 

そしてそんなやり取りを月人たちも眺めていた。

彼らは初めて味わう食事やら酒やらにすっかり参ってしまい、当初のピリピリした空気はない。

どうやら月に酒類はないようで、びっくりするほど嵌まっていた。

これからの自分たちの処遇に不安はありつつも、気にしても仕方がないと割り切ったようである。

中でも奴隷民は元の待遇の悪さも手伝ってか、投げやりというかやけっぱちな様子で次々と食事と酒をかっ食らっていた。

 

ラフテルの民と会話をしつつ、フランはそんな月人達の様子も気にかけていた。

彼らの処遇についての腹案は、ある。

理論上は可能なはずで、こぁの要望も満たせる上にラフテルの民のことにも配慮した案だ。

――まぁなんとかなるよね、心配なのは明日あの三人が使い物になるかどうかだけど。

呑みすぎて馬鹿騒ぎに発展している三人娘を苦笑いで眺めつつ、宴会の夜は静かに更けていく。

 

 

 

 

「うう……頭痛い」

 

「耳の裏で鐘がガンガン鳴らされてる……」

 

「あ、だめ、また吐きそおろろろろ」

 

「はぁ……まったくもう」

 

宴会の翌日。

私たちは月人達4000人を含め、転移魔法で遠い土地へとやってきていた。

周囲に人気のない秘境と呼んで差支えない場所で、ラフテルからも遠く離れている。

月人達はこの未開の地に住むことになるのかと途方に暮れた様子であり、三人娘は二日酔いに苦しんでいる。

なお、彼女たちの名誉のために誰がリバースしたのかは明言しないでおく。

 

さて、私は確かにここに月人達を住まわせるつもりだけど、ここにこのままってわけじゃない。

彼らは資源を求めて月からこの星までやってきて、ラフテルを侵略しようとした。

だからまぁ、こぁの思いも酌んでその罰として私は「資源を与えない」ことにした。

さて、どうするか。

答えは、私の背負っている袋の中にある。

これは、サンタマリア号の倉庫から取り出してきたもので、その数ざっと300個。

何を隠そう、賢者の石だ。

 

航海当初は100個ほどしかなかったけど、毎日余った魔力をコツコツためて内職した結果、今ではゆうに数千個以上のストックがある。

今回300個使い切っても痛くもかゆくもない。

ちなみに100個でも魔力暴走すると数十キロ単位で地形が消し飛ぶので、保管は結構厳重にしてある。

 

さてさて、まず用意したのはこの賢者の石。

お次にたき火だね。

月人達にそこらの木を伐採してもらおう。

私がパパッとやってもいいけど、自分たちの住むところを作るわけだから働いてもらわないとね。

グロッキーになってるメイリンにも手伝わせよう。

その間に私は鐘を用意する。

こぁとにとりは私の手伝いだ。

 

「うっぷ。……鐘ですか、フラン様?」

 

「うう……鐘なんて何に使うんです?」

 

……訂正。

役に立たなそうだから横で見てるだけでいいや。

 

「雨乞いをするの。火を焚いて出た煙は雨雲に、鐘の音は雷鳴を象徴するからね。類感呪術ってやつだよ」

 

「へぇ……でも雨乞いなんてしてどうするんですか? メイリンに頼めば雨くらいすぐに降らせられると思うんですけど」

 

「というかフラン様でも簡単にできますよね?」

 

「まぁね。雨乞いの形にすることが大事なの。これもあくまで下準備だからね」

 

ちんぷんかんぷん、といった顔をしている二人を横目に私は鐘を作る。

まぁ、私もここまで大規模な魔術は使ったことないからね。

理論はたぶん大丈夫だと思うんだけど。

さて、鐘はどうしよう。

お寺の鐘の材質は青銅だったと思うけど、今は別に“鐘”っていう象徴があればいいしなぁ。

……うーん、カネかぁ。

いっそのこと連想する“金”で作っちゃうかな。

成金趣味みたいでちょっとどうかとは思うけど、祭具としての性質を重視するならむしろアリかも。

ほいほいっと。

 

「うわぁ、フラン様って金も作れるんですね……」

 

「まぁ私賢者の石作れるしね。錬金術はお手の物だよ」

 

「熱を加えてる様子もないのに造型が自由自在ってどうなってるんですか……」

 

「アハハ。まぁ化学の範疇じゃないね。言っちゃえば原子操作なんだけど、説明するのは難しいなぁ」

 

そんな会話をしながら純金の鐘の造型を試みていると、森で焚き火用の木を切っている月人達が目を丸くしてこっちを見ていた。

まぁ確かに珍しい作業だよね。

するとその森の方から変な音が聞こえてきた。

 

ジョ~~~~ ジョ~~~~

 

なんとも気の抜ける音だ。

複数聞こえるし、なにかの鳴き声?

と、メイリンが手に何かを掴んでこっちに走ってきた。

あれは、鳥?

 

「ふーらんさまー。面白い生き物見つけました!」

 

「その鳥? ジョーって変な鳴き声はもしかしてそれ?」

 

「はい。森の中にいっぱいいましたよ。それでですね、この鳥顔がいつも一定の方向を向いているんです」

 

そういってメイリンは鳥を持ったままその場で回転する。

すると、体はメイリンの手に持たれて回転するのに、顔は常に同じ方向を向いたままだった。

一応360度回転するわけじゃないようで、途中で逆向きに首が回ったけど、それにしたって可動域が広い。

フクロウみたいに270度くらいは回りそう。

確かに面白い生物だ。

首が向いているのは――南?

なんだろう、渡り鳥みたいにコンパス機能でもついてるんだろうか。

この島の固有の鳥なのかな。

せっかくだしこの鐘にも彫り込んでみようっと。

 

「――メイリン、その鳥に名前付けて」

 

「え? 名前ですか?」

 

「そ。なんでもいいよ。こぁとにとりと相談してもいいけど」

 

「いえ、じゃあいつも南を向いているので“サウスバード”で」

 

南鳥(サウスバード)って、また安直な。

まぁ見た目は南国にいそうな鳥だし、いい……のかな?

もともとメイリンのネーミングセンスに期待はしていなかったけども。

 

「よしっ、じゃあできた。“黄金大鐘楼~サウスバードを添えて~”の完成!」

 

なんか作り始めたら興が乗って結構な大作になっちゃったな。

まぁ象徴としての働きは十分かな。

 

「それで、焚き火の準備は出来てる?」

 

「はい、いつでもできますよ」

 

「よし、じゃあ点火。メイリンはこの鐘()いてね」

 

「はぁ。わかりましたけど……」

 

ゴンッ

 

森の方でもくもくと煙があがるのは順調そうだ。

しかし、こっちは問題だった。

うーん、そうか。

見た目は結構こだわったけど、音のことまで考えてなかった。

ゴンッという鈍い音がして全然響かない。

音はまぁ今回の場合、雷鳴のような割れ鐘の音よりも、遠くまで響く性質が重要になるから魔法でちょちょいっと。

 

「メイリン、もう一回鳴らしてみて」

 

「はい。よいしょっと」

 

カラァーーーン カラァーーーン

 

「わぁ、きれいな音ですね」

 

「ふふん。さてと、これで準備は整ったかな」

 

雨乞いの儀式を模して、それを触媒に行使する大規模魔術。

作り出すのは雲。

もちろんただの雨雲じゃない。

子供のころに夢見たような、“乗れる雲”を作り出すのだ。

 

そう、私は空に雲の国を作り出す!

 

 

 





戦時国際法
戦争においてどんな軍隊でも守らなければならない義務を記した国際法。
投降者を含む非戦闘員への攻撃を禁止するなど。

紅い悪魔
フランの姉、レミリア・スカーレットの異名。
吸血鬼だけど飲みきれなくてこぼした血液が服を真っ赤に染めるからとか。
本作にレミリアは出ないのでこの異名はフランのものに。

宴もたけなわ
漢字で書くと「宴も酣」。
酣は物事の一番の盛り上がりのこと。

酒は人類の友だぞ、友人を見捨てられるか
銀河英雄伝説のヤン・ウェンリーの言葉。
ブランデーたっぷりの紅茶が大好きでコーヒーのことを「下品な泥水」と称する人なのでここのフランちゃんと話が合いそう。

酒が人をつくり、人が酒を造った
フランスの小説家、ヴィクトル=マリー・ユーゴーの言葉。
「レ・ミゼラブル」(邦題は『(ああ)無情』)の著者。
出版社との手紙のやり取り(「?」⇆「!」)は世界で最短の手紙として有名。

酒を飲むには特別の才能がいる。それは忍耐だ。忍耐は真実よりも大切なのだ。
アメリカの映画「バーフライ」から。

サウスバードと黄金の鐘
原作の黄金の鐘はサウスバードがたくさん彫られています。
よく見るとそのうちの一つは欠けていて、モンブラン・クリケットが海の底から発見した黄金のサウスバードは鐘の一部なことが分かります。
いままで気づいてなかったんですが、小説書くにあたって読み返していてこういう細かいことに気が付くのは楽しいです。



月編、今話で終わりませんでした。
書きたいことが多すぎて結構削ったんですが収まらず。
次はちょっと早めに投稿できそうかな?

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