東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

27 / 50
前回のまとめ

・にとり長寿命化
・歴史の本文
・海の石




不老不死の盟友と新たな時代の幕開け

 

 

「にとりっ、にとりはいるっ!?」

 

「うん? いるよー。どうしたの盟友(めいゆー)

 

ある日のこと。

メイリンさんが騒々しく我が家を訪ねてきた。

 

メイリンさんはクルーの中でも古参で、ほぼ初期から航海に参加している人だ。

加えて実力も高くて見た目も10代後半に見えるほど若々しく、その人気は実はラフテルに彼女のファンクラブがあるほど(なおメイリンさんはその存在を知らない)。

 

私も最初は気おくれしたけど、話してみるととてもフランクな人で、敬語も使わないでと言われた。

ただ、敬語はともかく名前で「メイリン」と呼び捨てにするのは難しかったので、私は彼女のことを音の近い「盟友」と呼んでいる。

その習慣から最近じゃ仲のいい人はみんな盟友と呼んじゃう癖がついちゃったんだけど。

でもメイリンさんも他の人から「姐さん」とか呼ばれていて、私以外の人からも名前で呼ばれていない気がする。

 

「だから私は盟友じゃなくてメイリンだって……ああ、違う、そうじゃなくって! あんたフラン様の眷属になったって本当!?」

 

「え、いや? 眷属じゃないけど」

 

メイリンさんがどたばたと家に上がり込んでくる。

ああ、その辺にはこないだ作った発明品が転がって――。

 

ボンッ

 

「……あー、大丈夫?」

 

「……大丈夫だけど、こんなところに危ないもの置かないでよ。髪が煤けちゃった」

 

一般人があの爆発を受けたら手足くらいは吹っ飛ぶと思うんだけど。

まぁメイリンさんだからなぁ。

 

「私の家にそんな乱暴に入ってくるのなんて盟友くらいだし」

 

「あー、ごめん、壊しちゃったね」

 

「いいよ失敗作だったから。それより、話があるなら一緒にお風呂でも入る?」

 

「……んー、あー、うん……そうする」

 

メイリンさんはこちらを見てから歯切れ悪くそう言った。

なんだろ?

とりあえず私はお風呂にお湯を張る。

私の「ミズミズの実」で作り出した水はある程度性質を変化させられる上、体から切り離せば私の一部じゃなくなるので、普通の水として使える。

しかも全身を水にするだけで体を清潔に保てるので研究に没頭したいときなんかもとても役立つ最高の能力だ。

使いすぎると体の体積が減ってカロリー消費もバカにならないんだけどね。

まぁ逆に言えば太らないってことでもある。

 

「お風呂入ったよ。とりあえず髪洗おっか?」

 

「ん、お願い」

 

おや、今日は随分としおらしいというか。

普段なら自分でやるといいそうなところなんだけど。

 

私はメイリンさんを洗い場に座らせて煤けた髪を洗い流す。

ちなみに、私の家のお風呂はとても広い。

実験に使うこともあるため拡張していった結果、いつの間にか10人くらいは入れる大きさになってしまった。

 

「お客さーん、痒いところはないですかー」

 

「あはは、なにそれ。床屋さんのつもり?」

 

「床屋じゃなくて美容室のつもりだったんだけど……」

 

「え、そうなの? 私は小さい頃から髪はフラン様にお手入れしてもらってたからなぁ。違いが分からない」

 

「うわーなにそれ羨ましい。それ他の人が聞いたら嫉妬に狂うよ」

 

実際私も羨ましすぎてちょっと嫉妬しちゃうなぁ。

 

「それでお客さん、今日はどうしたのさ」

 

「……ごめん、にとりがフラン様の眷属になったって聞いて、いてもたってもいられなくて」

 

「んー、さっきも言ったけど一応眷属じゃないんだよね。こぁさんみたいな感じじゃなくてルミニアさんみたいな感じってフラン様は言ってたけど」

 

「ああ、ルミャさんの……じゃあにとりも怪力になったり?」

 

「いやぁ、私はなんか適性がなかったみたいで、寿命が延びるのと健康になるのくらい。私はそれで十分なんだけどね」

 

私がそういうとメイリンさんは「……そっか、寿命か……」と呟いて動かなくなってしまった。

流石にこのままだと体が冷えるのでとりあえず湯船に誘導する。

ちなみに悪魔の実の能力者は液体に浸かることができない。

だけど私の家のお風呂はフラン様の魔法で認識をずらしてもらっているので、普通に入ることができる。

『この湯船の中の空間に概念置換の魔法をかけたの。液体と気体の認識をそれぞれ入れ替えてるだけなんだけど、これで案外簡単に世界を誤魔化せるんだよね。実際に世界そのものに改変は加えないから割と初歩の魔法だよ』って言ってたけど私にはなにがなんだかちんぷんかんぷん。

フラン様はよく私の言う理論や説明を難しすぎるというけれど、フラン様の方がよっぽど難解なことを言っている。

そのくせ自分ではそのことに気が付いていなさそうなのがまた……。

 

そんなとりとめもないことを考えながらぼーっとしていると、俯いていたメイリンさんがぽつりぽつりと話し出した。

 

「私さ、近々にとりにお願いしようと思ってたことがあるんだよね」

 

「盟友が私に? 珍しいね、なに?」

 

「不老不死の研究」

 

「へ、へえ。それはまた……」

 

さらっと言っちゃってくれてるけど、それ完全に禁忌だからね?

ラフテルで不老不死って言ったらフラン様のことだし、場合によっちゃあ処されるよ?

 

「ああ、言いたいことは分かってるよ。だからこそにとりにお願いしようと思ってた。他の人には誰にも言ってないよ」

 

確かに私はどこか冷めているというか、一歩引いているというか、フラン様に対してそこまで熱狂的なわけじゃないけどさ。

これでも一応、心の底から尊敬してるんだけどなぁ。

 

「なんで不老不死なのさ」

 

「にとりには前に月のことについて話したことあったでしょ? あの時にちょっと思うことがあってね。不死はともかくとしても、寿命を延ばしたくて」

 

「ああ……」

 

月の話は前に聞いた。

私は月の文明の遺産である衛星兵器ウラヌスや飛行戦艦プルートについて研究して、そのすさまじいまでに進歩していた技術に憧れた。

それで、フラン様に色々と尋ねたらメイリンさんと月に行ったことがあるらしく、その話をメイリンさんから聞けることになった。

ああ、そういえばこれが私とメイリンさんが仲良くなる直接のきっかけだったっけ。

 

その時の話で、長く生きすぎた永琳という女性の話があった。

そして同時にフラン様が見せた弱弱しい面、それを見て絶対にフラン様を独りにさせないと誓ったメイリンさんの回想を、そりゃあもう情感たっぷりに聞かされたんだった。

うん、今思い出しても恥ずかしくなるような語りだったけど。

たぶんお酒が入ってたのが悪かった。

メイリンさん結構酒癖悪い、というか性格変わるんだよね。

酔うと武人っぽくなっちゃって普通に説教とかかましてくるし、真顔でフラン様への愛を語り始めたりするし。

 

「じゃあそれで不老の研究を私に頼もうとしていた矢先に、私自身がそうなっちゃったと」

 

「ん……そう。心の中で秘かに決意してた目標をにとりがあっさり叶えちゃって、なんか焦ったって言うか羨望? みたいな。突然押しかけちゃってごめんね」

 

なるほどなるほど。

加えてメイリンさんのことだから後先考えずに突撃してきたことに罪悪感も感じてこんなにしおらしくなっちゃってたわけか。

 

「まぁいいってことさ、めいゆー。それにほら、考えようによっちゃあ実験材料兼完成品がすぐそばにあるわけだし研究も捗るかもよ?」

 

「……え、それじゃあ」

 

「ふふん、盟友の頼みだからね。やってみるさー不老不死研究!」

 

最近は月の技術の研究もひと段落ついて、本格的にフラン様から魔法を学ぶかどうか悩んでたくらいだし、ちょうどいいかなって。

それに、ほら、やっぱり親友の頼みはできる限り聞いてあげたいし?

 

「ただ、私がお咎め受けそうになったら庇ってよね?」

 

「そ、それはもちろん!」

 

私がそう言って悪戯っぽくウインクすると呆けた顔のメイリンさんは慌てて頷いた。

そして少し俯いたかと思えば、

 

「ありがとう、にとり。私はにとりの友達でよかったよ」

 

なーんてはにかみながらかましてくれる。

くっ、私が主導権を握っていたはずなのになんだこの破壊力は!

ほんとにこの人年上なんだろうか。

いや、というか普段の凛々しい姿とのギャップが強すぎて鼻血でそう。

幸いなことにここはお風呂場で、上気した顔も誤魔化せるし、下半身が水化してお風呂のお湯と一体化してるのもわかるまい。

 

……ふう。

 

不老不死の研究かぁ。

ちょっと頑張ってみるかな。

 

 

 

 

うん、吹っ切った。

かどうかはわからないけどとりあえずそう思うことにした。

 

悪魔の実と海の石の研究成果から、私の妖力が周囲に影響を与えていることが判明した。

特に、人間に関しては不思議な力「覇気」が使えるようになったり、素の身体能力でも人間の限界を超えたりすることで、私が彼らを人間じゃないものに作り変えてしまったのだということなんかに関してはかなり思い悩んだりもしたんだけど。

 

結論からいえば、気にしても仕方ない。

いまから妖力を完全に抑え込んだ生活をしたところでこれまで与えた変化がなくなるわけでもないし。

それになにより、私が申し訳ないと思うことは今を生きる彼らに失礼な気がして。

 

まぁぶっちゃけ問題の先送り。

考えたくないことは考えない、それが精神を健全に保つために必要なことかもしれない。

ほんとにどうしようもなくなったら月にでも逃げればいいんだし。

それで数千年たってから戻ってくれば私のことを覚えている人もいなくなってるだろうし。

うん。

 

そういえばあの能力者を弱体化させる海の石。

報告じゃ、あの石は海中にある間周囲の海水を取り込んで体積を増大させていて、海中で柱のように広がっている。

今のところの浸食速度だと問題ないけれど、定期的に削り取る必要があるだろう。

いっそのこと全部撤去してしまうことも考えたのだけれど、色々と研究に使いたいからと言われて、管理はラフテルで任せることにした。

 

ちなみに海中で柱状に広がる様はサンゴ礁のようにも見える。

にとりは海中にそびえる楼閣に見えるってことで、海楼石って名付けてたっけ。

 

 

さて、今日はそんな研究報告の場に出席することになっている。

にとりがやってる研究の方じゃなくて、ラフテルの内地の方での研究報告会だ。

なんでも印刷出版組合が新しい技術を確立させたとのこと。

普段は私が出席したりはしないんだけど、ちょうど暇だし興味のある分野だったので顔を出してみようって感じ。

気分転換と言ってもいい。

 

「それでは、ラフテル印刷出版組合の第32回定例報告会を始めます」

 

「わー」

 

「えー、本日は特別ゲストにフランドール・スカーレット様をお招きしています。各人失礼のないように」

 

「ああ、そんなに意識してくれなくていいよ。あくまでも部外者だし。邪魔したいわけじゃないから」

 

「ええ。皆わかっているとは思いますが一応の注意です。さて、本日の報告は二点ですね。ビブル君、報告を」

 

「はい、それでは私の方から」

 

お、ビブル君だ。

見た目は冴えない風貌の男性だけどなかなかのやり手だったはず。

なんせあのナヴィの息子だ。

 

ちなみにナヴィに頼まれて私が名付け親だったりする。

ペラペラの実の能力者だったナヴィから連想して、長男はペーパーの語源パピルスからピルス君、次男はパピルスから転じて書物の意になったバイブル(Bible)からビブル君だ。

流石にバイブ君にするほど私は壊滅的センスの持ち主じゃない。

まぁこの世界にまだバイブなんてものは存在しない……いや、そういえばこないだにとりがなんかメイリンと二人でこそこそなんかやってたな。

頼むからこぁにだけは完成品を渡さないでほしい。

きっと私が襲われる。

 

んん、それはともかく。

長男のピルス君はナヴィの跡を継いでスカーレット海賊団の航海士として活躍しているのに対して、ビブル君はこうして内地で紙の研究をしていると話には聞いていたけど。

 

「まず報告の一点目として、活版印刷による両面刷りの技術が確立しました」

 

「おおー」

 

「フラン様もおられることですし、簡単にいままでの印刷史を説明しましょうか」

 

「ん、いや別にいいよ。そこらへんは私詳しいし」

 

なんせラフテルに本を含む印刷技術を根付かせたの私だし。

初期のころの印刷は大変だった。

いっちばん最初は木の板に文字を彫るところから始まった。

当時土の民に文字を教えるために、木の板を小刀でちまちま削って教科書的なの作ったっけ。

 

ある程度技術が向上してからは再利用ができる粘土板を使いだした。

さらにその上の段階としては羊皮紙の利用。

まぁ羊というか形容しがたい魔獣の皮とかも使ってたんだけど。

 

現代の紙の系譜、それこそパピルス的なものを使いだしたのはラフテルに移住してからしばらくしてからのことだ。

製紙に関しては紙漉き機(抄紙機)とかの専門の道具の代用が魔法でわりとなんとかなったので結構簡単に作れた。

それでもコピー用紙みたいな完成度の高いものじゃなくて、出来損ないの和紙みたいな厚めでごわごわしたものだったけど。

一応妖力込めてたから強度だけは1000年以上の保存性を持つとかいう和紙並みだったとは思う。

 

辞書を作り出したのはこのころからだ。

当時の辞書は現代的な製本技術がなかったから、インクが裏映りしないようにって配慮もかねて袋とじ状の和本形態で作ったっけ。

そのおかげですっごいかさばって大変だった。

 

それからしばらくして木版印刷ができるようになって、辞書とかの本類が複製できるようになったんだよね。

それでも、やっぱり裏映りと紙の強度の問題で和本の装丁に準じていた。

 

で、ついに今回活版での両面印刷に成功したわけだ。

すごいなぁ、これってつまりグーテンベルクの時代まで来たってことだよね。

ルネサンス三大発明の一つだよ。

火薬と羅針盤もそろそろ発明されたりするかも。

ああいや、火薬はこないだにとりが実用化してたっけ。

ほんとあの子だけ未来に生きてるなぁ。

 

「……ううむ、知識として知ってはいましたが、実際に経験してきた方の口から聞くというのはなかなか得難い経験ですな」

 

「まぁ私は歴史の生き証人的なとこあるしね」

 

そのあとは実用化された技術についての解説などが続けられた。

やっぱり最大のネックは活字の製作らしい。

木版印刷は一枚の木の板に文字を彫って、それを版画のように紙に刷って印刷するので版を彫るのに時間がかかるけど、大量生産に適している。

対して今回実用化された活版印刷は活字(文字を彫ったハンコ)を並べて版を作るから簡単に版が作れて再利用も可能だけど、文字数の少ないアルファベットならともかく日本語は文字数がやたらと多いので、地球の歴史でもそもそも活字を作る手間が大変でなかなか普及しなかった事実がある。

 

まぁざっと数えてもひらがな50文字、カタカナ50文字、数字10文字、これらの小文字なんかで約150種類、……に加えて漢字が無数、印刷に使う常用漢字だけに絞っても2000字ある。

同じ文字でも何個か作らないと一つの版内で複数同じ文字が出てきた時に困るから実際に必要になる活字数は……ちょっと頭おかしいと言わざるを得ない。

アルファベットなら大文字小文字数字に記号まで作ってもこの10分の1ほどに収まるんじゃなかろうか。

 

現時点で一応漢字以外はおおまかに製作が終わっているらしい。

すごいなぁ、こういう努力は頭が下がる思いがする。

私は最近こういったちまちました技術の発展には関わっていない。

いまでは辞書の編纂作業も私の手を離れているし。

 

ラフテルはもうすっかり私がいなくても大丈夫なようになってしまった。

なんかあれだな、移住してきた当初からみているから、結構な感慨を覚えてる。

子供が独り立ちした親ってこんな気持ちなのかな。

 

「えー、では次に二点目の報告ですが、新種の紙の製造に成功しました」

 

「ん、新種の紙?」

 

「はい、製紙時に対象人物の身体の一部、髪や爪などを覇気を込めながら混ぜることで、対象人物の状態と現在位置を把握する特殊な紙の製造に成功しました。紙の材料には宝樹アダムの端材を利用しています」

 

「え、それ結構すごくない?」

 

作る時に相手の一部が必要とはいえ、バイタルチェックとGPS機能つきの紙になるってことだよね?

現代地球で同じことを再現しようとしたら対象の心臓に機械を埋め込むとかそのくらいしか思いつかないんだけど。

 

「ああいえ、そこまで高性能なものでもなくてですね……」

 

ビブル君の説明によれば、まず対象――例えとして私――の髪や爪を宝樹アダムで作った紙に混ぜる。

そうしてできた一枚の紙が「親紙」になる。

親紙は私の生命力を表示し、仮に私が弱って瀕死になると紙が燃えて小さくなる。

私が死ねば紙は燃え尽きる。

つまり、状態の表示は元気、瀕死、死亡、の3段階しか表示できない。

 

そして、親紙をちぎって断片にすることでそれが「子紙」になる。

子紙は親紙に引っ張られ、同時に親紙の状態を模倣する。

つまり、私が親紙を持っている限り子紙を渡した相手には私の居場所と私の生命状態が分かる。

私が親紙を捨ててしまったり燃やして処分してしまったりすれば、子紙は機能を失うわけだ。

 

ふむ、確かに欠陥もあるしそこまで万能なものではないけれど。

 

「それでもすごい発明だよ、これ」

 

「そうでしょうか?」

 

「うん、例えば私の親紙を作るじゃない。そしてそれをラフテルの私の家にでも置いておく。そうすれば子紙を持つ人にとっては私の家の場所の方向が常に把握できるでしょ?」

 

「ええ、そうですね」

 

「そしたら子紙を航海に出る船乗りに渡したりすればいいのさ。そうすれば星さえ見えない夜闇の中でもどんな嵐の中でも常に私の家の方向は分かる。遭難の危険も減るし、通常の航海だって針路をとりやすくなるよ」

 

「おお、なるほど!」

 

「加えて私の親紙なら持ち主が死んで無くなる、ってこともないしね」

 

ここにいる研究者たちはビブル君も含めて航海なんてしたことないからその発想が出てこなかったかな?

もちろん、言うまでもなくこれ、方位磁針――羅針盤だ。

ついさっき活版印刷がお目見えしたばかりなのに、三大発明が揃っちゃった。

 

実は羅針盤については以前に作ろうとしたことがある。

船で近海を探索する人が増えてきたことを鑑みて、私の知る方位磁針の作り方をラフテルの技術者に教えていくつか試しに作ってみたのだ。

 

結果は失敗。

 

この世界が地球とは違って地磁気を持っていないとか、S極が北じゃなかった、とかではない。

この世界、磁気が強すぎるのだ。

星全体が大きな磁気を持っているのは地球と同じものの、周囲にある島もそれぞれ強力な磁気を発していることが調査で判明した。

星の磁気を捉えようとしても島の磁気に邪魔されて、磁石はぐるぐるとあっちこっちを向いてしまい、方位磁針の作成は諦めた。

だからナヴィやその息子のピルス君なんかの航海士は、基本的に夜の間に星を見て方角を確認し、昼間は太陽の方角や自身の方向感覚を頼りに針路をとっていた。

 

それがまさか、こんなところで疑似方位磁針ができあがるとはなぁ。

 

「たぶんこれピルス君あたりに教えたら狂喜乱舞するよ。ラフテルの航海法が百年単位で進むことになりそう」

 

「兄さんが……そんなにですか」

 

「うん。ちなみに活版印刷の方もね。例えば私の作った辞書の簡易版を印刷してラフテル中に普及させるだけでも影響力はどんなになるか」

 

ルネサンス期のヨーロッパじゃ聖書の印刷、普及によってすさまじい影響があった。

なんたって全世界で一番売れているベストセラーは聖書なんだから。

 

「それで、その紙の名前は決まっているの?」

 

「ええと、一応主任開発者の私の名前をとって“ビブルカード”、と」

 

「ふんふん、いいんじゃない?」

 

もともとその名前付けたの私だしね。

語源がバイブルだし、紙に付ける名前としては大層な感じはするけれど。

 

なんにせよ、これでラフテルは今よりももっと大きく外へ開かれるだろうと思う。

――新しい時代の風を、感じる。

 

 

 






床屋(理髪店)と美容室の違い
実は免許が違う。
店の前に赤白青のくるくる回るポールがあれば床屋。

ルネサンス三大発明
学問の活版印刷、航海の羅針盤、戦争の火薬の3種。
哲学者フランシス・ベーコンがこの3種をルネサンス期の重要な発明として挙げている。
実は全部発明元は中国。
ルネサンス期にヨーロッパで発明されたわけではなく、この三大発明がルネサンス期の社会に多大な影響を与えたということ。
ちなみに製紙法の発祥も中国。

ベストセラー聖書
全世界500近い言語で5億冊売れている。
ちなみに無料頒布も含め刷られた数は60億~3880億(紀元前から作られているので正確な数が不明)くらいとされていて、もちろんギネス世界記録。
2位は『毛主席語録』で9億~65億くらい。
漫画ではトップが『クラシックス・イラストレイテッド』で10億。
その後はスーパーマン6億、Xメン5億、バットマン4億6000万、ピーナッツ4億、スパイダーマン3億6000万とアメリカが圧倒的に強く6位まで独占。
7位はアステリックス3億5200万とタンタンの冒険旅行3億5000万でどちらもフランス。

そして世界第9位の3億4000万!が
『ONE PIECE』!!!

なお“最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ”としては『ONE PIECE』が2015年6月にギネス世界記録を受賞している。
ますますの発展を祈るばかりです。

次話から新章

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。