東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ
・鴉と狼のいちゃいちゃ
・巨象強襲で助けを呼ぶ




襲撃の終結と大破壊の後始末

 

 

月での滞在中、私はだいたいあのいけ好かない女――輝夜の相手をしていました。

自分勝手で怠惰でお転婆で、なにかにつけて妹様に絡み、手を煩わせようとするわがまま姫。

永琳さんとにとりが二人でわいわい楽しそうにやってたから永琳さんに構ってもらえなくなって、妹様に照準を変えたのでしょうけど。

しかし時々妹様に色目を使うあの女狐に好き勝手させるほど私も甘くありません。

 

そんなこんなで結構長いこと月に滞在し、宇宙海賊とやらが突然現れたりとそれなりに刺激的だった日々を終え、地上に帰ってきました。

 

しかし、帰って早々……というよりまだ帰り道の途中というところでこちらに急速に接近する気配を感知しました。

覚えのある気配――かつてミンクの里という獣人の集落にてフラン様が生み出した鴉天狗――射命丸文。

 

「――お母さんっ!!」

 

文ちゃんが急制動をかけ、私たちの目の前で止まりました。

だいたい音速の十倍ほどの速度でしたが、周囲の大気に妖力で干渉しているため衝撃波などはありませんし、慣性を無視するような奇妙な挙動で停止しました。

それにしてもお母さん、とはまた懐かしい呼び名です。

昔は私のことも「メイリンお姉ちゃん」と呼んでくれていたのですが、少し大きくなってからは恥ずかしくなったのかフランさん、メイリンさんとどこか他人行儀に呼んでいましたから。

しかし随分と慌てているようですが……。

 

「ありゃ、文じゃん。久しぶ――」

 

「――お願いします、里を、ミンクの里を助けてください!」

 

挨拶さえ遮ってもたらされたのは、声に血の滲むような必死の懇願と矢継ぎ早に語られるミンクの里の現状。

曰く、とんでもない大きさの足長象――災厄の巨象が里を襲ったとのこと。

巨象……覚えがあります。

時系列的にはミンク族を作る前のこと、妹様が巨人族を作った時に生まれた産物。

 

巨人族は妹様が海王類や体が大きかったレヴィアさんから発想を得て作った種族で、エルバフという国――彼らの体のサイズからすれば村かもしれませんが――で暮らしています。

その生命力は素晴らしく、私もよく鍛錬の相手として利用させていただいていました。

 

ただし、一つ問題もありました。

妹様は巨人族を鴉天狗やミンク族のように試行錯誤をしたりといったこともなく、さくっと作っていましたが、あまりにもぽんぽんと作り過ぎてしまい失敗してしまったのです。

それは、巨人に見合う大きさの動物を作ろうとしたときのこと。

人よりも大きな象を巨人族のスケールで、と考えた結果生まれてしまったのは山のように大きな象。

その内包する覇気――生命力もとてつもない規格外の生命体でした。

 

環境を破壊しつくさんばかりの巨体に、妹様も作ってしまった後でこれはまずいと思ったのか食料などを必要としないように作り変えてはいました。

気性は大人しく従順だったので巨人族に世話を任せていたはずですが……正直、あのとき処分しておくべきでしたね。

 

「よし、じゃあ文、ミンクの里の場所を強く思い浮かべて。転移魔法で飛ぶよ」

 

そうして駆けつけたミンクの里は――ボロボロになっていました。

家屋の倒壊とかそういうレベルではなく、地形ごと里が半分なくなっていました。

私が文ちゃんはたてちゃんと一緒に作った家や公園、妹様と語り合った森、ピクニックに行った山、一緒に水浴びした湖、そんなものが一切合切跡形もなくなっていました。

そしてそれよりなにより、私のお願いを聞いて妹様が作ってくれたミンク族、初めての共同作業で作り上げた私と妹様の愛の結晶ともいえるミンク族がそこかしこで倒れていました。

中にはすでに事切れているものも。

 

「なにやってるの、やめなさい!」

 

巨象は妹様の呼びかけにも従わず、それどころか大きな鼻を鳴らして嘲笑さえしました。

言葉こそなくともその目は雄弁に、力に溺れた愚か者の心情を語っていました。

「誰がお前たちの言うことなどに従うものか。俺より弱い小さき者など踏みつぶしてくれる」

言葉にすればそんなところでしょうか。

蹂躙の悦楽を隠そうともしない醜い姿に、久々に血が巡るのが――分かる。

 

巨象はこちらに見せつけるかのように、避難中だったミンク族に向かってその長い鼻を振るいました。

当たれば、質量、速度共に数十の人体をミンチにするなど、わけない一撃です。

まぁ、当たれば、ですが。

 

私は相手が予備動作を見せた時には既に、一足飛びに目的地へと跳んでいました。

そして、鼻を”気”を込めた手でもって受け止め、衝撃波をすべて受け流しました。

巨象はまったく予想もしていなかったのか、その大きな目を白黒させていました。

 

「貴様……私とフラン様の愛の結晶に手を出した覚悟はできてるんだろうな……しかもフラン様の制止を無視して……」

 

私が手で押さえている巨象の鼻は何メートルあるかもわからないとてつもない大きさで、まるで壁に手を当てているかのようです。

私の手のサイズでは表皮の一部をちぎり取ることしかできないでしょう。

――なのでそのまま”気”でもってこちらも巨大な手指を形成し――握りつぶす。

 

「パオオオォォォン!?」

 

ぐしゃりと、肉が潰れる感覚がある。

ふうん、象の鼻って骨がなくて全部筋肉なのか。

 

さて、ここで大人しく降伏するなら手心も加えますが……。

巨象から感じられる気は――激痛、困惑、屈辱、そして、赫怒。

なるほど、なるほど。

 

「――いいだろう、貴様の思い上がり腐った性根、私が叩き直してやる……」

 

鼻を握ったままぶん、と腕を振って放り投げる。

山より大きい巨象の体が空を飛んでいくのは冗談みたいな光景ですね。

私も後を追うように跳び、空中で追撃。

土手っ腹に掌底を打ち込むと巨象は大きな波しぶきをあげて海に墜落しました。

 

むう、体が大きすぎるのと内包する生命力が高すぎてまともにダメージは入ってませんね。

これでは通常の打撃の他、浸透勁なども無意味そうですが……まぁ、やりようはいくらでもあります。

 

……ふふ、自分より大きな相手と戦うのは初めてではないですが、このスケールとなると覚えはありません。

強いて言うなら昔アマゾン・リリーの岩山を刳り貫いて国を作った時以来でしょうか。

お仕置きだというのに、不謹慎にも少し楽しくなってきてしまいましたね。

 

 

 

 

「あーあ、あの戦闘狂め……」

 

海上でどったんばったん大騒ぎしている小さな竜人と大きな象を見ながら、呟く。

周囲に甚大な被害を及ぼしそうだったので、里の周囲に張っていた結界を逆に彼女たちを中心に包むように張りなおした。

メイリンはもうなんか色々忘れた感じで、巨象を空高く放り投げてはまたキャッチして放り投げて、と高い高いみたいなことして遊び始めている。

ビジュアル的には山でお手玉しているような感じで、不安感がすごい。

 

現にミンクたちは避難の足を止め、息をするのも忘れたようにその光景を凝視している。

それは、私の後ろにいる文も同じだった。

まぁ文やはたての前でメイリンが本気を出したことはなかったっけか。

 

「す、すごい……あんな出鱈目な……」

 

「文、文。それで私は傷ついたミンクたちを治療してあげればいいの?」

 

「あ、は、はい。ごめんなさい。お願いします」

 

「それじゃ案内して。いきなり見知らぬ吸血鬼(わたし)がきたらみんなも警戒するでしょ。間に立って取り持って」

 

その後はミンク族を治療し、避難してた彼らを一か所にまとめて落ち着かせて……と私と文は忙しなく働いた。

その間ずっと象を虐め……もとい遊んでいたメイリンにはいくつか言いたいことがあるけどね。

というかまだやってるし。

今は象の鼻で片結びを作って引っ張りつつ、往復ビンタを繰り返している。

それでもいまだに敵愾心を失っていないあの象もなかなか心が強い、というか意地っ張りだ。

 

ミンク族たちは元は村の広場だったところに一か所に固まって、固唾をのんでその光景を見ている。

当初は里が半壊し死亡者も出たという事実から集団ヒステリーめいた狂乱も起こったけれど、今はだいぶ落ち着いたようでひとまずは小康状態といったところかな。

そうしてもろもろをやり終えたところで、文から躊躇いがちに声をかけられた。

 

「あの……フランさん」

 

「ん、なあに?」

 

「実は、ここから少し離れた山の上にも一人怪我をしたミンク族がいるんです」

 

「ああ、いいよ。どこ?」

 

「あ、あの、それでですね。彼女はなんというか、その、…………」

 

うん?

もごもごとなんだか要領を得ない。

 

「彼女は、その、私と同じように妖怪化していまして……」

 

そう言い切った文はまるで叱られるのを怖がる幼子のようだった。

別にそんな怒ることではない気がするけど。

あーでも昔、むやみに他人に妖力を与えないようにとは言ったっけ。

少なからずその相手の人生を狂わせることだから分別が付かないうちはやっちゃだめだよ、みたいなニュアンスで。

 

「あの、怒ったり、しないんですか?」

 

「ううん? 別に。文が決めて、相手もそれを受け入れたんなら別に何も言うことはないよ。好きなんでしょ、その相手」

 

私たち妖怪にとって妖力を相手に与えるってのは自分の存在そのものを相手に分け与えるってことで、考えようによっては一体化、同一化願望に近いのかもしれない。

生命を昇華させて新しい存在にしてしまうから、突き詰めれば生殖行為にも似ているのかも。

 

まぁ少なくとも私は好きでもないどうでもいい相手に妖力を与えようとは思わない。

私が今まで与えた相手……こぁにルミャ、メイリン、にとり、永琳に輝夜、レヴィア、文とはたて……意識したかどうかを分けなくても、皆好きな人たちだ。

目覚ましい功績を残した人間に、お守りがわり程度に渡すくらいなら気にならないけどね。

 

「……う、そう、ですね、はい……」

 

あーもう、もじもじしちゃって可愛いなぁ。

てかこの反応、好きってもしかしてそっちの”好き”……?

んー、この子は拗らせちゃって人付き合い苦手だし、初めてのお友達って線もあるかな。

 

そうして文に連れてこられた場所にいたのは白い狼の女の子だった。

いや、元は白かったのだろうけど、今は赤黒い。

至る所に裂傷があって流血している。

ただ、人間ならば既に死んでいる出血量だけど、文の妖力を与えられたからか半妖よりも更にこちら側に近いところまで来ている。

命に別状はないだろう。

 

「ありゃりゃ、両目とも潰れちゃってるじゃない。もう二度と光を感じられないレベルだよこれ」

 

「……えっ!?」

 

詳しく体を調べると、両目とも視神経が焼き切れて網膜が焼け付いていた。

太陽を直視し続けたところでこうはならないだろう。

 

「しかもこれ体の方も後遺症残るね。日常生活は大丈夫かもしれないけど、走ったりとかの激しい運動はできないんじゃないかな」

 

「そんな……」

 

他にも全身の血管が傷ついていてボロボロだ。

見た目以上に酷い。

なにをさせたらこんなになるの。

とんでもない負荷をかけられたとしか思えないけど。

 

「……う、……」

 

診察が終わるとちょうど白狼の少女が目を覚ました。

 

「こんにちは」

 

「あなたは……フランドール・スカーレット様……」

 

「お、私の事は知ってるのね。初めまして。にしても目が見えてないのによくわかったね」

 

「……凄まじい妖力が渦巻いてますから」

 

「ふうん、普段から抑えてるつもりなんだけど……ああ、治療とかで色々力使ったからかな。気づかないくらいは漏れてるのかも」

 

そんな風に私達が挨拶を交わしていると、突然目に涙を湛えた文がひしっと白狼ちゃんを抱きしめた。

 

「えっ、あ、文さん!?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい椛……。ありがとう……。大丈夫、目が見えなくなっても私があなたの目になるし、動けなくなっても私があなたの手足になるから。安心して、絶対にあなたを一人にはしない……!」

 

「え、えっと、その……?」

 

まあ、目が覚めて急にこんなことをまくしたてられても混乱するよね。

てか文も早とちりしてるけど。

 

「あー、盛り上がってるところ悪いけど文、ちょっといい?」

 

泣きじゃくる文を落ち着かせ、白狼ちゃん――椛と言うらしい――に状況を説明する。

文が迎えに来て、私とメイリンがやってきたこと。

象の脅威はメイリンが退けたこと。

里は半壊して犠牲者も出たけど、今いる負傷者はみな治したこと、などなど。

話を聞いた椛はほっとして、お礼を言ってきた。

 

私の方も事情を聞いたけど、こちらはあまり意味がなかった。

巨象の襲来は突然だったし、ミンク族の方は何も知らなかったからね。

椛が悪魔の実の能力者で、その能力を使って私を探したってことくらいしか収穫はなかった。

 

ちなみにこの間文はずっと椛の手を握っていた。

予想していたよりも随分とずぶずぶの関係らしい。

 

「それで、残るはあなたの状態なんだけど」

 

「はい」

 

「一番深刻なのが両目。指の本数どころか明暗の区別ができてないでしょ。網膜と視神経が死んでるから自然回復の見込みはなし。体の方も血管がボロボロで激しい運動はできない」

 

「……はい」  

 

「……まあ私を探すためにこうなったってのは聞いたけど、今後はあまり無茶はしないように。文が悲しむからね。目の使用は四窓くらいに抑えて、あまり遠くは見ないこと。異変を感じたらすぐに使用を中止すること。あと運動も念のためだけど高機動の戦闘とかは避けるように」

 

「えっと、はい……?」

 

「なにその顔、ちゃんと自分の状態分かってる? 結構本気で酷いのよ。出会ったときのメイリンですらここまでじゃなかったんだから」

 

「あの、フランさん……?」

 

「なあに、文」

 

「あの、椛はもう目が見えないなら能力は使えないし、走れもしないなら高機動どころか普通の戦闘だってできないんじゃ……」

 

「まあ、そうだね。そのままなら」

 

なにをそんな間抜け面をしているのやら。

さっきの過剰な反応もそうだけどさ――

 

「なに、私が治せないとでも思ったの?」

 

昔はやり方がよくわかってなかったからメイリンの目だって時間遡行とか大掛かりな魔法を使うことでしか治せなかったけど、今はもうあれから千年以上も研鑽を積んでいる。

しかも、生命創造に関しては一家言あるほどには研究している身だ。

およそ私に治せない病はないと思っていただこう!

……なにせ癌とか先天性の奇病とかでもクローン的にもう一つ体を作って移植することで治せるからね。

脳の異常ですら記憶と人格の移し替え程度ならできる。

まあそれがもとの人間と同一かってのは哲学者にでも任せる問題だけども。

 

「というわけで勿論治すつもりだよ。そもそもそういう話でここに連れて来られたわけだし。今の容態をちゃんと伝えたのは、今後こんな無茶をしないよう戒めにね。今回治すのは、文のたってのお願いだからやるけど、今後また同じようなことがあったときにまた治してもらえると思われるのは困るしね」

 

別に力を振るうことには抵抗はない。

ただし、基本的にやりたいことしかやる気はないし、誰のお願いでも聞くほどお人好しではない。

今回は文のお願いってこともあるし、元はといえばあの巨象は私が作り出したものだから。

 

もっとも、象に関してはほんとにおまけのような理由だけど。

被造物に責任を持つとか言い出したら、魚人族やらミンク族やら含め、人間だって私はその発展に大きく関わってるんだから無理無理。

むしろ巨人族に管理を任せたはずなのにこんなことになってることに関して小一時間問い詰めたいところだ。

自分勝手かもしれないけど、まあ私は悪魔の王、吸血鬼だしね。

 

そして私の話を聞いた二人は喜び、次いで文が赤面した。

今までの自分の言葉に羞恥を覚えたんだろうけど、それでも握った手は離さないあたり、お幸せにって感じ。

 

「まあ自分がどれだけ無茶やったのか自覚するために一日はそのままね。流石にそのレベルの怪我の治療は準備なしだと大変だし。文は面倒ちゃんと見て、下手な動きをしないようにつきっきりで看病することね」

 

 

 

 

そんなこんなで傷ついたミンク族の対応はひとまず終わった。

さて、次は壊れてしまった住居と、大暴れした象の処遇だ。

 

「……それでメイリン、お遊びは満足した?」

 

調子に乗って最後には龍化までして怪獣大決戦的な一大スペクタクルを提供してくれた戦闘狂は、今私の目の前で正座をしている。

いや、頭も下げているので土下座だ。

 

「いやあ……あはは。ほんとスミマセン」

 

「全くもう、楽しくなると周囲が見えなくなるんだから。結界張ってなかったら貴方がミンクの里どころかここらの島全部ふっ飛ばしてたかもしれないんだからね」

 

まあ私も本気で怒ってるわけではないのでこのくらいでやめておく。

ミンクの皆が怪獣大決戦を繰り広げたメイリンに対して大層畏れているようだったので、幼女に怒られている姿を見せて緊張をほぐそうと考えただけだ。

 

「それでどうしようかねえ。あの象とこの半壊した里」

 

私がジロっと睨むと、海岸に伏せている山のような巨体がビクリと震えた。

それだけで大気が振動するのだからほんと凄まじいスケールだ。

あの象は文に聞いた限り今までもかなりヤンチャしてきたらしいし最悪処分してもいい。

巨人族に管理を任せていたけれど、確かにあの大きさじゃあ管理も何もない。

昔はせいぜい小山程度だったのに今じゃ天を衝く巨山だし。

ここまで大きくなるとは流石に予想していなかった。

 

「それなんですけど、こいつに里を再建させたらどうでしょう」

 

「うーん? この巨体でしかも器用な手もなしに?」

 

「あー」

 

「単に労働力としても大きすぎて扱いにくいしねえ」

 

「では護衛……里の警護につかせるというのはどうでしょうか」

 

文が私とメイリンの話し合いに参加してきた。

しかし、護衛ね。

 

「まあ強いことは強いと思うけど暴れたら……」

 

結局その場で結論は出ず、長らも含めた話し合いは長々と夜まで続いた。

さっさと始末しようかとも思ったけどそれはメイリンが反対してきた。

じゃあもう勝手にしてくれと私はさっさと議論を抜けてミンク族の世話をすることにした。

このままだと今日の晩ごはんも寝床もないしね。

 

そして私抜きの会議で出た結論は、象の背中の上に里を再建しようというものだった。

 

「……どうしてそうなったの?」

 

深夜テンションだろうか。

と思ったけど、話をよくよく聞いてみるとそう悪い案でもなさそうだった。

 

まず、守りは万全だ。

メイリンや、海王類が束になってかかるでもしないと象はそうそう倒れない。

加えてこの世界にはまだ飛行手段が乏しいので背の上の里はほぼ安全。

海を歩き回れば場所を掴むことすら難しいだろう。

 

土地についても問題ない。

象の背中はもともと苔むしていたり木が生えていたりする。

皮膚の老廃物が栄養源となっているようだ。

水浴びによって湖や川らしきものすらあるらしい。

それらはメイリンとの激しい運動で今は荒れ果てているものの、整備をするのは簡単そうだという。

加えて体があまりにも大きいので上に乗っていてもほとんど揺れない。

小さなボートはよく揺れるけど、豪華客船はほとんど揺れを感じないのと同じだ。

 

こうしてみると確かに安住の地にも思える。

世界から孤立しそうという懸念もあるし、実際に住んでみたらまた他に問題が生まれそうな気もするけど。

 

まあ、彼らがそれでいいと言うなら別に反対する気もない。

半壊した里ごと象の背中に移し、土とかもそれなりに移しておく。

あとは象に言われたことをしっかりやるように、余計なことしたら鼻をもぐぞと脅しておく。

 

 

こうしてミンクの里襲撃事件はひとまずの収束を見た。

月から帰ってきたばかりで忙しいことだったけど、まあ丸く収まったと言えるだろう。

――ところが、これは一連の大騒動の始まりにしか過ぎなかったのだ。

 

文がやたらと里の防衛に関心を向けていたのは、象に襲撃されたことが原因ではなく、今現在の世界情勢を危惧してのことだった。

私達が月へと行っている数百年の間に、地上では大きな動きが起きていた。

 

統一王国による全世界侵略戦争。

 

すでに世界の半分は掌握したという。

魚人島を支配下に置き、海王類を従える少女――恐らくはレヴィアの子孫――を利用して、安全な航海を確立し、破竹の勢いで世界中に侵略戦争を仕掛ける。

高度な文明をバックに、小さな集まりには抵抗を許さず支配を進め、抵抗する大きな集団には速やかな武力制圧を。

先日には、『黄金都市』とまで呼ばれ、大いなる栄華を誇ったシャンドラをも攻め滅ぼしたという。

 

シャンドラは以前私とメイリンたちとで作った雲の下の国、月の民の末裔が暮らす国だ。

早期からラフテルによる支援を受け、文明レベルも相当になっていたシャンドラを滅ぼしたというのなら、そこに統一王国の確固たる本気が感じられる。

 

文から聞かされたその話に、メイリンは激しく憤った。

それは、今回ミンクの里が襲撃されたことに怒ったのと同じなのだろう。

 

しかし私は、ああ、来るべきときが来たかと。

思ったよりも早く、しかし絶対に訪れる運命が戸を叩いたのだと、ただそれだけなのだと理解した。

 

かつてラフテルを育て、サンタマリア号で海に出たあの時から頭の片隅では考えていた。

ラフテルから独立し、統一王国を名乗る国家が生まれたと知ったとき、避けられないことなのだと知った。

 

先進国による植民地支配――侵略戦争。

 

前世の地球でもあったそれ、一つの地域が突出して進歩すれば避けられない結末。

 

――世界が大きく動き始める音を、聞いた。

 

 

 






エルバフ
原作の描写からするとどうも巨人族の国のようですが、リトルガーデンのドリーとブロギーは巨人族の村と言っているので、規模は国だけど巨人にとっては村のようなものなのかな。

巨人族とゾウ
巨人族の寿命は300年ほどで、成長速度は人間の2分の1、つまり40歳でやっと人間でいう“成人”(SBSより)。
一方象の寿命は60-80年ほどなので、1000年以上生きるゾウは3倍どころじゃない寿命の延び。
辻褄捏造しようと思ったけど調べると巨人族の寿命は意外に短かった。
100年以上戦っているというドリーとブロギーは人間で言うと25歳から60歳まで休みなしにずっと戦っているようなものという。

象の鼻
上唇と鼻発達しそれに筋肉がついたもので骨はない。
数万もの筋肉からできていて、鼻先には小さなものをつかめる指状突起まであってとても器用。


侵略戦争
次回から世界大戦編突入です。
裏タイトルは『世界を巻き込む○○○○』。
空白の百年を勝手に捏造します。


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