東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ
・王様とのおしゃべり
・ワンピース!


心無き王の息子と足無き人魚の姫

 

ワンピース。

その名前には聞き覚えがあった。

もう四千年前のこと、この世界に来る前に神様から聞いたのだ。

ただ、知っているのは主人公が海賊王を目指しているということとワンピースというタイトルだけ。

 

まあ、本当にここは漫画の世界だったんだなあ、という感慨があるくらいで、特に気にはならない。

なにせもうこの世界で暮らして四千年だ。

普通に考えて西暦の二倍だし、よく生きたものだと思う。

体は未だに幼いままだし寿命とか来そうにはないんだけどね。

 

そんなわけで、別に聞き覚えがある名前だからどうこう、ってことはない。

計画としては単純に興味が惹かれて面白い。

最終段階に入ったら、レッドラインの破壊とかは私が手を貸してあげてもいいかなと思うくらいには。

 

ああ、でも……。

 

「うん、ありがとう。王様も大臣も。あなたたちの計画はよく分かったし、とても面白いと思う。個人的には期待させてもらうよ」

 

「おお……! その言葉が聞けただけでも今までの尽力が報われるというものだ」

 

「できればここで見届けたいと思う。少なくともあなたが死ぬまでくらいはね。ただ……」

 

「む、何か不備が?」

 

「いや、実はね、私、海王類の王様と知り合いなんだよね。だから彼がいま迷惑してるなら、邪魔はしないけど協力もしない」

 

「ふむ……もとより手を借りようとは思ってはおらなんだが……いや、そのような事情がある上で我らを止めないでいただけるだけで、十分に過ぎるご高配。けして悪いようにはせぬと誓いましょう」

 

「ん、ありがと。それでね、あなたたちの中で魚人島の管理をしてる人がいるよね? できればその人に話を聞きたいなって」

 

「それならば責任者は我が愚息よな」

 

「息子さんがいたんだ」

 

「うむ。ありがたいことに、贔屓目なしに優秀だ。数年前に行われた武闘会では準優勝、つまり我の次に強い次代の王として認められている。故に我もその際Dの名を引き継ぎ名乗ることを許した」

 

「おー、凄いじゃない」

 

「内政手腕も見事なものだ。既に大きな結果を幾つか叩き出している。……ただ、アレには大きな欠点がな……。いや、詮無きことよ。明日には会えるよう手配しよう」

 

「ありがと」

 

「なに、礼には及ばぬ。あれの名は、エドガー・D・――」

 

エドガー。

その名前を聞いて懐かしさが去来した。

そうか、あの昔会った王様からずっと血が続いているから、目の前の王様もその息子もランの姓と同じエドガーなのか。

あの元気さだけが取り柄のランが王様一族の祖先になっているのかと思うと、大出世というかなんというか。

 

その後は王様から晩餐に招かれて、私も色々と話をしてあげた。

ラフテルでは既に私の伝承が途絶えているけど、統一王国の方では私が訪れてログポーズやDの名を与えたことが記録に残されていて、王宮に出入りするような身分の人なら知っているようだった。

それでもやっぱり細かいことは伝わっていなかったので、いろんな話をせがまれたわけだ。

特に月との戦いなんかはかなり盛り上がった。

魔法で記憶の投影を行ったけど、彼らにとっては初めて見る映画みたいなものだったろう。

しかも無駄に3Dのサラウンドスピーカーだ。

 

で、騒ぎ明かして一晩たって、翌日。

 

「初めまして、俺が王の息子です! 気軽にボーイとお呼びください!」

 

「初めまして。聞いてるとは思うけど、私はフランドール・スカーレット。永遠のなんちゃら以外なら好きに呼んでいいよ。あと敬語は別にいらないよ」

 

永遠に紅き〜とかいうのはちょっとむず痒いというかなんというか。

異名みたいに呼称されるなら別にいいけど、対面で呼ばれるとどうしてもね。

 

「んじゃお言葉に甘えて素で行かせてもらうっす! よろしくっす、フランさん!」

 

「こちらこそ。ところでボーイってあだ名はなんで? 王様の息子だから?」

 

「いやあ、周りからは召使みたいだってことでボーイって呼ばれてるんす。俺ってば頼まれごとをされるとどうにも弱くて……」

 

「なるほどね、給仕のボーイ君か」

 

頼まれごとをされると断れないっていうのが王の言ってた欠点なのかな?

 

「まあ俺はむしろ気に入ってるんで! 誰かの役に立つことは嬉しいっす」

 

王様の息子は随分明るい青年だった。

年は二十代の後半、顔は昔のランにそっくりだけど、風体は気弱そうな優男。

一応国で二番目に強いらしいから、見た目相応ではないんだろうけど。

 

「ではでは、なんでも聞いてくださいっす! 今日は仕事を全部部下に任せてきたんで、一日中でも大丈夫っすよ!」

 

「それ、大丈夫なの?」

 

「勿論! 俺もしばらく休み取ってなかったんでちょうど良かったっす」

 

たはは、と笑う姿には衒いがない。

黙っていればニコニコとした気弱な青年なのに、一旦喋りだすと明るく花咲くような笑顔で陽気になる。

表情がコロコロ変わって見てて面白い子だ。

 

「ならいいや。今日は魚人島の話を聞きたかったんだけど、時間があるならまずは世間話でもしよっか」

 

 

 

 

実は、魚人島のこと、そして海王類のことについてはほとんど調べ終わっている。

私は吸血鬼だし別に夜寝なくても平気だ。

そこで昨日の夜に王宮を抜け出してリヴァイに会いに行ったのだ。

 

『やあ、久しぶりだね、フラン』

 

「千年ぶりくらい? やっほーリヴァイ」

 

正直寿命で死んでいるかとも思ったけど、かつて私とともに魚人島を作り出した海王類の王様、リヴァイは生きていた。

 

「最近どう?」

 

『ぼちぼちだね。最近は同胞たちも忙しそうにしているけど、私はのんびりしたもんさ』

 

「影響は?」

 

『うん、とても強い。まるでレヴィアの生まれ変わりだね、あの子は。私も気を抜けば操られてしまうだろう』

 

「それでこんな辺鄙なところにいるんだね」

 

『ああ。ここにいてもかなり危ういものさ。だから命令を遮断するために近ごろはずっと眠っているよ』

 

「そんなに?」

 

『レヴィアはあの力をよく分かっていなかったし、理解してからもむやみに使って周囲を無理やり従わせようとする子でもなかった。だけど今代の姫は生まれたときからずっと()()()()に教育されてきている。支配力だけならばあの子はすでにレヴィアの比ではないよ』

 

「そう……。それであなたは?」

 

『どうもしないさ。全てはあるがままに』

 

リヴァイは私の突然の来訪にも慌てず、少ない言葉数で尋ねた私の問いに明朗に答えた。

彼は頭がいいから、随分前からこうなることが分かっていたのかもしれない。

 

『フラン、ひとつだけ。――私は自分が何なのか、ずっと考えていた。ようやく、答えを得た気がするよ』

 

別れ際のリヴァイはそんな風に、穏やかに、眠るように呟いた。

 

『私は海だったのだ。君というとても面白いヒトに会って、ふと目覚めてしまった海だったんだよ。だから私は全てを受け入れるんだ。母なる海が全てを包み込むように』

 

「父親なのに?」

 

『ふふ、あるいは私がレヴィアだったのかもね。なあに、問題はないさ。性別などは些細なことだ。種族の違いもね。私は君の容姿ではなく、君の心、魂の在り方に惹かれたのだから』

 

「……照れるね。おやすみ、リヴァイ」

 

『ああ、おやすみ、フラン』

 

突然こういう変な話を振る人が時たまいる。

そして、今まで何人かそんな人たちに会ったことがあるけれど、彼らは決まってその後姿を消す。

なんとなく、ああもうリヴァイに会うことはないのかな、と思う。

だけどもう、別れに惑うことはない。

 

 

 

 

まあ、そんなわけで海王類らの現状については理解していた。

だから、ボーイ君に聞きたかったのはもっと違うことだった。

 

「ボーイ君は仕事って何歳くらいからやってたの?」

 

「うーん、正確には難しいっすけど生まれたときからかもしれないっす」

 

「生まれたときから?」

 

「俺ってば物心ついたときには魚人島にいたんで。親父の道具って意味ではその時からかなあと」

 

「へえ。じゃあ魚人島で生まれ育ったの?」

 

「はいっす。ちょうど俺が生まれたのと同時期に魚人島の姫が生まれたんすよ。それで、親父が丁度いいタイミングだと思ったのか、二人一緒に育てたんす。幼馴染ってやつっすかねー」

 

「なるほどね、戦略兵器になりうる姫様を君にコントロールさせようとしたのかな?」

 

「お、流石っすねフランさん、その通りっす。俺も小さい頃から親父とか宰相とかに言われてそりゃあもう優しく扱ってやったっすからね。蝶よ花よとグズグズに甘やかしてやって完全に依存させてるっすよ。恋だの愛だのじゃないレベルで」

 

「おー、凄いね。大成果じゃん。死ねって言ったら死ぬ感じ?」

 

「それ以上っすね。人って自殺は結構簡単にするんすけど、殺しはなかなか難しいんすよ。あいつには海王類使って大虐殺させなきゃならないかもしれないんで、俺の言うことには何の疑いも持たずになんでもやるように躾けたっす」

 

「試してみたの?」

 

「勿論! 仕上がりを確認したいって親父に言われたんで、目の前で自分の両親殺させたっすよ。突然連れてこられてなんの説明もされてないのに俺の言葉に粛々と従って手足の先から切り刻んでたっす。両親が泣き喚いても、困ったように笑いながらも一切手は止めずにね。いやあ、血塗れで「上手くできたでしょうか?」って笑いかけられたときはゾッとしたっすねえ。たはは」

 

「それはそれは。王様も大満足だったんじゃない?」

 

「そりゃあもう。手放しで褒めてくれたっすよ。かつてここまで調教が成功した試しはないってね。あいつは例えば俺が他に女作ったところで嫉妬とかもしないっすよ。俺から何かを貰うことを期待させてもいないんで、俺が言えば他の男とでも寝るっすよ。まあ今のところその計画はないんすけど」

 

「そうなの? お姫様の血筋は大事なんだからいっぱい子供産ませたほうがいいんじゃないの?」

 

「実はすでに俺との子供が複数いるんすよ。一応俺もそれなりにいい血統っすからね。実力主義とはいえ何代も続いてる王家の次代っすから」

 

「ふーん。子供作ったら情に絆された、とかなかったの?」

 

「いやいや、流石にそれは俺を見くびりすぎっすよ。やる前もやった後も別になんも変わってないっすよ。あいや、フランさんの前でちょい下品だったっすかね」

 

「あはは、話振ったの私だし別に気にしなくていいよ」

 

全て本音だった。

私は嘘に敏感だ、嘘をついていたのなら感覚的にわかる。

少なくとも今の会話でボーイ君は何一つ嘘をついていない。

 

「ふーん、なるほどねえ」

 

子孫とはいえ、情に厚く直情径行型だったランとは随分違うようだ。

しかし、ニコニコして喋るその顔は少し気に障る。

 

「……どうかしたっすか」

 

ん、私が()()()()()ことに()()()()()かな?

やっぱりランとは違うね、頭の回りが尋常じゃない。

私も若い頃ならころっと騙されていたかも。

 

「いやいや、人間ってやっぱり面白いなあって。()()()()()()()()()()()?」

 

「……ッ! ――あなたが初めてですよ、フランドール・スカーレット。流石は、創世の吸血鬼、永遠に紅い幼き月……」

 

「アハハハハ、やっとその貼り付けたような笑顔が消えた。そっちが素かな? もう少し笑顔以外に表情のバリエーションを増やすことだね」

 

「父親すら騙せていたのに? ……いえ、忠告、ありがたく受け取っておきます」

 

笑顔を消したボーイ君は見た目気弱な青年に戻った。

ただし、その目はこちらを射殺すかのように力強く睨んでいる。

その身から溢れ出る覇気がピリピリと肌に心地よい。

これが彼の本性か。

 

「いったい、どこで」

 

「ずっと笑顔だったこと以外に明白な瑕疵はなかったと思うよ。強いて言えば少しアピールが過ぎたかな。まああとは私が人間に詳しすぎたってことくらい? これでも四千年は生きてるから」

 

「俺はいつもニコニコ誰にでもフレンドリーで接しやすくて人の頼みは断れない気のいい後輩系で、だけど知にも武にも優れて次代の王は確実、施策には手を抜かず冷酷な面も見せる頼れる王の息子で通っているんですよ。今更笑顔は変えられませんよ」

 

「変える必要はないよ。今までだって騙せてたんでしょ? 困り顔とかそういうのを挟むだけでも不自然さはなくなるよ」

 

「…………」

 

「それで、どうする? 口封じでもしてみる?」

 

「……随分にやにやと楽しそうですね。忠言をくれたってことはそういうことなんでしょうに」

 

「あはは、やっぱり君とは()()()をして正解だったな」

 

「……俺はもうイヤッすよ」

 

「ま、もういいよ。細かいことは聞かないほうが楽しめそうだし。今日は邪魔したね」

 

「もう会うことがないのを祈ってるっす……」

 

「それはどーかなあ」

 

ふふ、結構楽しかった。

自分を殺し仮面をつける――見事なボーイっぷりだった。

これからは統一王国の行く末と、ボーイ君の行く末の二つを楽しみに待てそうだ。

 

 

 

 

「くそっ、こんなところで躓くとは……いや、まだだ、アレは楽しんでいた。ならばまだ、舞台を壊すことはしない。分かっている、分かってはいるんだ……」

 

夜。

魚人島にある王宮、その一室にて。

人払いをされた奥の宮で男が一人唸っていた。

 

「せいぜい小賢しく踊ってやる。そうとも、俺はこんなところでは止まれないのだ……」

 

コンコン、と扉がノックされる音で、男は独り言を止めた。

ノックの相手は聞かずとも分かっていた。

この奥の宮に今いる者は男ともう一人だけなのだから。

 

「ご主人様、リリファです。よろしいでしょうか」

 

「ああ、構わないよ。……それと二人きりのときは名前で呼んでもいいといったじゃないか」

 

「私はご主人様ほど器用ではありませんもの。普段からこうしていないと、いざという時にボロが出てしまいますわ」

 

扉から室内に入ってきた少女は、男に向かい恭しく一礼した。

少女の名はリリファ。

今代のポセイドン、魚人島の姫――リーフィーシードラゴンの人魚である。

 

容姿は十代の半ばほどに見えるが、実年齢は男と同じ二十代の後半である。

人魚や魚人の中には時折こうして外見の老化が遅いものがいる。

 

ふわふわとした髪は光の加減で何色にも見え、まるで鮮やかなサンゴ礁のよう。

肌は真珠のように白く、瞳は海の青よりなお透き通り、それでいて底なしの深さを持つ蒼。

一目見て、ああ、人魚の姫とはかく有るべき、と万人に思わせるような可憐な姫であった。

 

だが、その体躯は人魚の姫には珍しく、人間の少女と変わらぬほどに小さい。

そして、何より目を引くのは彼女の下半身。

リーフィーシードラゴンの人魚である彼女は魚の半身を持つ――しかし、その半身は人間でいう膝頭か大腿のあたりから、バッサリとなくなっていた。

 

足のない、人魚姫。

 

リリファは、人間の足どころか、人魚の足すら持っていない人魚姫だった。

 

「まあ言葉はいいさ、仕方ない。しかし、一人で動くなと常々言っているだろう。ここにいる時は何かあればベルを鳴らすか電伝虫で俺を呼べと」

 

今もリリファは台車に乗っている。

台車に座席を取り付けただけの物で、乗り心地などは当然考慮されていない。

移動の際も棒で地面を突いて進むようなもので、当然車椅子などとは呼べない簡素極まる代物だ。

しかし、これが彼女の唯一の"足"であるのもまた現実であった。

 

「ふふ、ご主人様らしくもありませんね。私はベルを鳴らしましたよ。そうしたら何も反応がありませんでしたから、これは何かあったのだなとこうして参った次第です」

 

「……そうか」

 

男にはリリファが本当にベルを鳴らしたのか、嘘をついているのかが見抜けなかった。

確かに音は聞いていないはず、だが……。

 

器用ではないなどとんでもない謙遜だった。

この人魚姫は男とともに、三十年近くの歳月に渡って周囲を完全に騙し通してきた"共犯者"なのだから。

 

「それで、何があったのかお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「……ああ。俺の、そして恐らくお前の擬態も見破られた。ほぼなんの事前情報もなく、出会って一時間ほどで、だ」

 

「まあ……!」

 

男が姫に語ったのは昼間に出会った伝説の吸血鬼についてだった。

 

「ラフテルの古代兵器やらの古びた伝承はともかく、ログポースなんかを作り出していることから、ただ力が強い存在ではないことは分かっていた。しかし、アレは想像の遥か上を行っていた」

 

「頭も回ると?」

 

「それだけじゃない。あれは人の心を知り尽くした化物だ。悪魔の王というのも、あながち誇張ではないのかもしれん……」

 

「しかし、一応は見逃してくれたのですね?」

 

「ああ。アレは盤上で(俺たち)がどう踊るのかを楽しみにしていた。この国の行く末と、俺の行く末を」

 

「……ならば良いではありませんか」

 

「だがっ! アレは人とは違う、人の心を持たぬ化物だ! いつ心変わりをして、戯れに俺たちを破滅させるか分からん!」

 

男は激高のまま力強く机を叩いた。

それは常に人目を欺き計画を進めてきた男が初めて直面した危機、かつて味わったことのない焦燥と怒りからくるものだった。

気弱な見た目に似合わず屈強な男の一撃を受け、机には亀裂が入る。

しかし、それを見ていたリリファは音に怯えるでもなく、ただくすくすと微笑んだ。

 

「なんですか、ご主人様。そんな些事でお悩みになられていたのですか?」

 

「些事だと?」

 

男の声に険がこもる。

しかし人魚姫は尚もおかしそうに笑うだけだった。

 

「そうではないですか。彼の御方が人の心を持っていない? 人にあって人の心を持っていない、人面獣心の人でなしこそを、私たちは相手取って戦うのですよ。ふふ、それにむしろ彼の御方が人の心を持っていなくてよろしかったではありませんか。まともなただ人なら、王に告げているのが正常ですよ」

 

「それは、そうだが……」

 

「ご主人様。貴方は今、初めての失敗、挫折に心を焦がされていらっしゃるのです。一度落ち着きなさいませ。事はそう大事ではありませんよ。私などにはむしろ好機に思えるほどです」

 

「…………。すまん、確かに取り乱していたかもしれん。だが、好機だと?」

 

「ええ、お話を聞く限りでは想像していたよりずっと愉快な方なようですし」

 

「愉快? 今の話のどこをどう聞き間違えばそうなるんだ? アレの前に立ってみろ、力の塊、狂気の具現だぞ。愉快なんてもんじゃあない」

 

怪訝な顔を向ける男に、人魚の姫は莞爾として笑った。

男は終始、彼の吸血鬼を恐れ警戒していたが、話を聞かされた姫はむしろ好感と親しみを抱いていた。

一度も会ったことはないけれど、ありありとその姿を思い浮かべられるような強烈なパーソナリティー。

それでいてその行動は、深読みすればどうとでも読めるほどの深謀遠慮。

 

現に男は吸血鬼の一挙一動一言一句を分析して、()を把握し、どうにか優位に立てないかと足掻いている。

姫からすれば、それはやや滑稽なほどに、ズレて見えた。

初めて見た男の可愛らしい姿に、だから思わず笑みが漏れる。

 

「ご主人様に一つだけ欠点があるとすれば、それは――人の心が分からないことですよ。権謀術数に慣れきってしまって、そう、たとえば頭のいいバカ、とか。頭ではなく心で動く者、とか。そういう人たちの心が分からない」

 

「…………? 何を言っているのかわからん」

 

「ふふ、だから私がいるんです。ご安心ください、ご主人様。その吸血鬼さんは私がお相手しますわ」

 

 

 

 

 

 

 






リーフィーシードラゴン
漂う海藻にしか見えない不思議な魚。
オーストラリアなどでは有名で切手にもなっているくらい。
リリファのビジュアルイメージは難しいと思いますが、髪の毛とか服装とかが海藻みたいにふわふわしてる感じの女の子に脳内擬人化してお楽しみください。

リリファ
オリキャラが割と適当(名付けとか)な本作の中では割と設定がちゃんと練られている子。
本当はポセイドンからの変化でネプチューン、あるいはネプテューヌ(ネプチューンの別読み)と名付けたかったキャラクター。
しかし原作にはネプチューン王がいる。
王よ、少し名前負けではないですかね……。
テューヌもちょっと考えたけど調べてみるとなにやら有名っぽいキャラがいるらしいので断念。
わかさぎ姫にしようかなとも思ったがうまく動かす自信がなくこちらも断念。
この章のプロットを切る際に一番苦戦した原因。
もちろん名前はリーフィーシードラゴンから(やっぱり適当じゃないか)


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