東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ
・ロジャーとレイリー
・エド、ロジャー、レイリーの修行の日々


料理人の弟子と暴虐の新入り

海賊とは何か。

それは船舶や沿岸部を襲い、金品を強奪する盗賊の総称である。

 

彼らはその定義からして悪であり、スカーレット海賊団を善か悪かで論じれば、それは間違いなく悪の側に属する。

あらゆる法は彼らを縛れず、略奪行為は日常茶飯事、時には殺しに発展することもある。

 

ただしそれも海軍――絶対正義の側から見ての話であり、内実は少々異なる。

 

例えば、彼らは滅多に無辜の民を襲わない。

襲うのは専ら悪人相手であり、場合によっては人助けを行うこともある。

ちょっとした街の破落戸(ごろつき)相手から、悪政を敷く領主、海域を牛耳る大海賊団、私腹を肥やす悪徳海軍……あらゆる悪は彼らの前に敗れ、その悪行をお天道様に曝すことになる。

 

では彼らは正義か。

――それもまた否。

 

彼らは別に正義のために動くわけではなく、治安の維持や人道に基づく信念を持つわけでもない。

事情があれば一般市民を襲うことにも躊躇はなく、それはただ気まぐれな行動方針でしかないのである。

 

――ある時、鴉天狗の記者がスカーレット海賊団の船長にインタビューを敢行した際の記事がある。

そこにはこう記されている。

 

Q:スカーレット海賊団の皆さんを、悪人を成敗する義賊のように思っている人々も多くいるようですが、それについてはどう思います?

 

A:あはは、ないない。悪い人を相手にすることが多いのは、その方が便利だし効率も良いからだよ。

 

Q:と、いうと?

 

A:()()()()()世間の目を味方にできるでしょ。あと、だいたいお金とかイイモノって善人より悪人の方がしこたま溜め込んでるものだよ。

 

Q:なるほど、しかしやはり少しは正義の心みたいなものもあるのでは?

 

A:まあ完全にないとは言わないよ。うちには心の優しい団員もいるしね。でもま、海賊団って掲げてる以上は何をしようと偽善じゃない?

 

Q:まあやってることは基本的に犯罪ですからね。

 

A:そうそう。悪はより大きな悪によって滅びるのさ。

 

Q:なるほど、含蓄のあるお言葉ですね。ところでちょくちょく海軍にちょっかいを出す理由は教えていただいても?

 

A:ああ、あれ? 食後の腹ごなしというか、軽い運動ってやつ? ほら、適度に体動かさないとなまっちゃうでしょ。

 

Q:そうですねえ、私も最近運動不足で体重が気になります。

 

A:あはは、あなたはいつも空を飛び回ってるんだから大丈夫じゃない? まあでもいい運動になるよ。今度参加する? ドンパチ。

 

Q:いえいえ、皆さんのお楽しみを邪魔する気はありませんので。それでは私はこれで。

 

A:ああ、うん。それにしても久しぶりに顔を合わせたってのにずいぶん変なこと聞くんだね。そういえばあの子の子供もうちの船に……え、これ記事にする? ちょっと待って、そんなの聞いてな、あ、こら、逃げるな! 待てー!

 

こんな記事が海軍軍報“文々。新聞”に載ったものだから、彼らを追いかけていた海軍は怒り心頭だったとか何とか。

 

とにかく、そんな彼らは悪の側ではあっても気まぐれで人助けはするし、身内に対して優しいことに相違はない、ということだ。

 

 

 

 

「子供を拾ったあ!?」

 

フランドール・スカーレットの驚きの声が船内に響いた。

食卓についていたエドワード・ニューゲート、ゴール・D・ロジャー、シルバーズ・レイリーも同様に驚きの目を向けた。

 

爆弾発言をしたのは紅美鈴。

今はオールド・レディと名乗っている彼女であった。

 

「あーいえ、結果的に子供がついてくることになりそうってだけで拾ったわけではないんですけどね……」

 

美鈴が説明したところによると、話はこうだった。

 

この日はとある大きな街で料理大会が開かれていた。

食材の買い出しに出ていた美鈴は気まぐれに飛び入り参加し、優勝商品の高級食材と賞金を掻っ攫うことに成功する。

ところが、その賞金で買い物をして帰ろうという時、子供連れの男に声をかけられた。

曰く――アンタの料理に心底惚れ込んだ! 俺を弟子にしてくれ――と。

 

「まあそんなわけで弟子入りを志願されたんですけど、私そんなこと言われたの初めてでちょっと嬉しくなっちゃって」

 

「あーまあ、昔何人かいたにはいたけどあまりの差に心折れちゃってたもんね……」

 

「ええ。それで彼にも試す意味合いで本気の料理を出したんですが、ますます熱心に売り込まれてしまって。何でもするから弟子にしてくれ、と」

 

「それで船に乗せたいわけね」

 

「ええ。最近は大食らいの人も増えましたし手伝いにも丁度いいかなあと。それで、彼は女の子を一人連れていまして。どうも娘とかではないみたいなんですが、一緒に旅をしているとか」

 

「ふーん、まあ別にいいよ。来る者拒まず去る者追わずってね」

 

「そうですか、いやあ良かった良かった。あ、そういうことですので入ってきてくださーい」

 

美鈴の呼びかけに応え、扉が開く。

そして身を屈め入ってきた人影にフランたちはまたもや驚いた。

 

「うわあすごい」

 

「なんだコイツ……」

 

「うひゃー、デッケエなあ!」

 

「話に聞いたことはあるが、巨人族をこの目で見るのは初めてだ」

 

入ってきたのは眉と髭が濃い小男と、身の丈三メートルを超える巨大な子供というアンバランスな二人組だった。

 

「お世話になりやす。俺ぁシュトロイゼン、しがない料理人です。こっちはシャーロット・リンリン。故あり拾って共に旅をしてやす」

 

シュトロイゼンと名乗った小男は帽子をとり頭を下げる。

一方紹介された巨大な女の子はキョロキョロと忙しなく辺りを見回している。

 

「えーと、リンリンちゃん? 何歳の……人間?」

 

「巨人族かとも思いますが、一応人間……のはずですぜ」

 

「ふーん」

 

そうしてスカーレット海賊団に、新たに見習いコックのシュトロイゼンと、大きな女の子シャーロット・リンリンが加入した。

しかし、美鈴に師事し料理道に血道をあげるシュトロイゼンはともかく、シャーロット・リンリン、彼女がまた問題児であった。

 

「セムラセムラセムラセムラセムラアアア!」

 

「ぐおおおお!?」

 

「くそっ、ロジャー早く抑えろ!」

 

「無茶言うなよレイリー!」

 

シャーロット・リンリン。

彼女はまだ八歳の人間の女の子である。

しかし、悪魔の実『ソルソルの実』の能力者である、ということを考慮してなお、彼女は異常だった。

 

その一つが、食い患い。

何かを急に食べたくなり――そうするともうその事しか考えられなくなり周囲を手当たり次第に壊しまくる発作。

そしてその際の脅威度は平時とは比較にならない。

通常時ですらおよそ人間とは思えない膂力の持ち主だというのに、食い患いの時の彼女は巨人族をも上回る怪力を発揮する。

 

つまり端的に言って、現在のエドワード、レイリー、ロジャーが束になっても敵わないのである。

 

「だめだっ、もう限界だぞ!」

 

レイリーの叫びにエドワードは目を剥いた。

今彼らは暴走したリンリンを鉄網によって抑えていた。

これは以前の暴走時にボロボロにされた三人が知恵を出しあい製作した秘密兵器だった。

力自慢のエドワードでさえ一度絡め取られてしまえば抜け出すことは容易ではないこの鉄製の網を、あろうことかリンリンは正面から引きちぎろうとしていた。

 

そして、すでに一部には断裂が走っている。

 

「まずっ――」

 

三人の必死の抵抗も虚しく、鉄網が紙細工のように引きちぎられ吹き飛ばされる。

ゴロゴロと転がり、船の縁に体を強打したエドワードはふらつく頭を振りリンリンを見る。

 

「おい、やめろ!」

 

リンリンが振りかぶった右手は船のメインマストに向けられていた。

それが直撃すれば、どうなるかは想像に難くない。

しかしエドワードの制止など食い患いで周囲が見えていないリンリンには全くの無意味であり、振りかぶられた右手は――瞬時に現れた美鈴の片手にぱしっと受け止められた。

 

その光景はエドワードと、彼に遅れて復帰したロジャーとレイリーの心胆を寒からしめた。

 

自分たち三人が束になってなお止められない進撃を片手で止めたこともそうだし、いつ現れたのか分からない移動速度も恐ろしい。

なにより、反対の手に持っている皿にのったお菓子が、今の一連の動きの中で欠片も溢れていないのである。

 

「はいはいどーどー。お望みのセムラですよー」

 

美鈴が声をかけるもそれすらリンリンには届いていないようで、なおも暴れるのを止めない。

 

「仕方ありませんね、少々無作法ですが。よっと」

 

言うなり美鈴はおもむろに片手に持っていた皿を放り投げ――右足の爪先でキャッチした。

そして空いた両腕でリンリンを拘束すると、それまでの暴れようが嘘だったかのようにリンリンは動きを止めた。

 

否。

能力ゆえに空気中の微細な振動を感じとれるエドワードにはわかる。

あれは動くのをやめたのではなく、万力のごとき力と柳のごとき技でもって無理矢理動きを止めているのだと。

今もせめぎあう力のぶつかりが音にすら聞こえない振動として空気を揺らしていた。

 

そしてそんな状態でありながら美鈴は器用に足を動かし、爪先にのった皿をリンリンの口もとまで運ぶ。

そこまでしてようやくリンリンはセムラに気がついたようで、今度こそ本当に動きを止めた。

 

「セムラだあああぁ!」

 

「はいはい、ああもうそんなに粉をこぼして……今度食べるときの作法を教えてあげましょうか」

 

ニコニコと笑いながらリンリンの相手をする美鈴を見て、エドワードはここ数日で改めて思い知らされた美鈴の底知れなさについて考えていた。

普段の自分とレイリーの修行では軽くあしらわれてしまいその実力の一片も見れていないとは思っていたものの、自分たちより強いリンリンが現れたことでより彼我の実力差が明確になった。

 

まず、身体能力が圧倒的に違いすぎる。

そして技術もまた。

レベルを上げて物理で殴ると言わんばかりの基礎スペックの暴力に加えて、そこから繰り出される技が空前絶後の領域となれば――それはもはや極まりし頂点。

話に聞くその上の龍の力を解放した状態など、エドワードには想像もできなかった。

 

その頑強さは妖力を体に取り込んだことで得たものだということは知っている。

その技術が数千年もの鍛練の積み重ねによるものだということも知っている。

だからそもそもほんの十数年しか生きていない、鍛練に至ってはまだ一年もやっていない自分なんかが勝てるわけはなく、この先何十年を費やしても追い付くことなど不可能で――それでも。

それでも、エドワード・ニューゲートは紅美鈴に勝ちたかった。

 

最初はいけすかない女だと思った。

年齢的な意味以上に幼かった自分のことをぼこぼこにして蒙を拓いてくれたことには感謝をしているし、強者を敬う心もある。

絶品の料理を毎日三食食べられるのだって彼女がいてこそだ。

それでもエドワードは美鈴のことを好きではなかった。

 

人間を見下している、というわけではない。

そもそもが、自分と同列だと思っていないのだ。

それは言動や態度の端々に時たま表れる程度であり、普段から気になるというほどではないし、本人がどう思っているかなど、エドワードには分からない。

だけれども心の奥底では決して自分と同列には見ていないことは分かる。

それはかつてスラムで自分が周囲に抱いていた感情だったから。

それがエドワードには悔しかった。

 

紅美鈴は人であり、妖である。

 

日々の会話の中でエドワードはフランドール・スカーレットや紅美鈴がどういった存在なのかを知った。

彼女たちは起こったことを隠そうとはせず、訊けばなんでも答えてくれた。

むしろ、普段はあまり喋らない自分が質問したことに喜んで要らないことまで答えてくれるような変な人たち……そう、人たちだった。

 

フランドール・スカーレットは吸血鬼であり、しかしその精神は人間とほとんど変わりがない。

妖たろうと意識しているのがみえみえで、だからこそ彼女は人なのだろうと思う。

 

紅美鈴は龍人であり、人と妖との中間に位置するかけ橋たろうとしている。

しかしその精神はそれ故に龍にも人にもなれていない。

学のないエドワードには難しいことは分からなかったが、かけ橋であろうとするならば中立ではなくむしろ人であり同時に妖でなければならないのではないか。

どちらにもなれない蝙蝠のような有り様は、見ててイライラする。

 

いや、ごちゃごちゃと御託を並べるのは()()()ない。

率直に言って、気に入らなかった。

そんな風に自分の役割とか役目とかそんなことを考えて、その結果自分を見てくれない彼女が嫌いだった。

そうとも、エドワード・ニューゲートは紅美鈴に――認めてほしかった。

 

自分の小さな世界をぶち壊して限りない大海原へと連れ出してくれた恩人に、新たな扉(ニューゲート)を開いてくれた門番に、認めてほしかった。

 

エドワードは“おかしい”と、そう思う。

美鈴はかつて自分に、船のみんなは“家族”と言った。

あの頃の自分は斜に構えていて受け入れはしなかったけれど、今ではこの新たな名と共に受け入れている。

ならば、家族ならば――愛してほしい。

 

探せと言われた自分にとっての一番大切な“宝”は見つけた。

だからエドワードはそれを愛すことに決めた。

真っ直ぐではない不格好ではあるけれど、それはまさしく愛だった。

 

恋は見返りを求めるもので、愛は見返りを求めないもの、とは何の本の一節だったか。

だけれどもエドワードは、そんなことは関係なしに愛してほしかった。

愛したいのと同じくらいに愛されたかった。

 

初めて愛を知り、入れ込んでいるのかもしれない。

しかしたとえそうだとしても、構わないと思う。

 

初めて得た他人との繋がりは依存しそうになるくらい心地よい。

ロジャーとレイリーという同年代で同性の船員が船に増えたことも内心では嬉しかったが、そんな内面を悟らせたくなくぶっきらぼうに接することしかできなかった。

照れ隠しで強く当たったこともある。

 

だから今のエドワードは一番の宝とは愛であり家族だと、今ならそう言える――恥ずかしくて人にはとても言えないが。

 

そして、それ故に強くならなければならなかった。

ひとえに、愛する者に自分を認めてもらうために。

 

 

 

 

ロジャーは心底驚いていた。

あの自分たちが束になっても敵わなかったリンリンを赤子の手でも捻るかのようにこうも手玉にとるなんて!

 

ロジャーは普段、見聞色の覇気の訓練の関係上フランと過ごすことが多く、彼女の凄さは身に染みて知ってはいるが、美鈴のことはあまり知る機会はなかった。

情報源は専ら自分以上にしごかれているらしいーー最近ようやく話してくれるようになったエドと、それに付き合わされて大変な目にあっているレイリーだ。

 

曰く、対人戦の化物。

曰く、心身を壊れるギリギリまで追い込むことになんの躊躇もないイカレ師匠。

曰く、ギリギリで止めることがわかる分タチが悪い。

曰く、曰く、曰く。

 

美鈴のことを話す彼らは怒りや呆れ、憤りを多分に含んだ愚痴をよく言う。

そうなると普段は口数の少ないエドも物静かな方であるレイリーも堰を切ったように喋りだす。

それでいて、親愛の情や尊敬の念も隠しきれていない。

怒りやなんかも本心ではあるから、彼らの感情が混ざりあった心の中を覗くのは少し楽しかったほど。

 

こうしてロジャーたち三人が打ち解けてきたのは、同じ船の仲間という以上に、共通の敵、シャーロット・リンリンが現れたからだった。

無邪気、ではあるのだろう。

ロジャーの見聞色でも、彼女から悪意は感じない。

だけれども、彼女は傍若無人を形にしたような、暴力を人形(ひとがた)にしたような存在だった。

 

何気なく壊し、悪気なく殺す。

 

彼女の悪意なき悪意に、ロジャーたち三人が団結した。

それでもなお厳しいほどに、シャーロット・リンリンは理不尽なまでに強かった。

 

そして、自分達より小さい――見た目はともかく年齢は――少女が、これほどまでに強いという事実は、ロジャーの胸を熱くもさせた。

出会ったときに、フランドール・スカーレットが語ったことが、実感として身に染みてきた。

 

海は―――広い。

世界は、もっと。

 

まだ見ぬ未知への欲求はとどまることを知らず、飛び立つ直前の鳥のように力が籠っている。

それはさながら、冒険の夜明け。

太陽は、もうすぐそこに。

 

 

 

 

「うーん、ダイエットしましょうか、リンリンちゃん」

 

「だいえっと?」

 

「ええ。私はそのまるまる太った健康的な姿も好きなんですけどね。名前と同じく大熊猫(パンダ)みたいですし」

 

「パンダさん、すき!」

 

パンダは熊や虎と同じく、リンリンの“なでなで”で死なない大型獣なので好きなのだ。

普通の獣はちょっと“ぎゅっ”と抱っこしただけで動かなくなってしまうので。

 

「でもそこまで太ってしまうと健康にも成長にも影響がありそうですしねえ。うん、やっぱり今日からダイエットを始めましょう。ダイエット中は毎日セムラをご馳走しますよ」

 

「わーい!」

 

そうしてリンリンはダイエットがなんなのかもよくわからないまま、美鈴の指示に従いダイエットを開始した。

とはいえ、食欲の化身のようなリンリンに食事制限を課してうまく行くとは美鈴も考えていない。

そのため、健康的な食事と適度な運動、リンリンが行ったのはただそれだけであった。

 

「これのどこが適度な運動だ!!」

 

エドの悲痛な叫びが船に木霊する。

そう、リンリンの適度な運動とは、エドワード、ロジャー、レイリーとの“遊び”だった。

 

今日の種目は鬼ごっこ。

鬼のリンリンから逃げるだけであり、力は強くとも動きはどんくさいリンリンから逃げ回るのは容易である。

()()がなければ。

 

フランが発動したスペルカード“禁忌 恋の迷宮”の効果により船の上は三次元の摩訶不思議な迷宮と化し、逃亡者にだけ牙を剥く悪辣なトラップがところ狭しと仕掛けられている。

 

「うわっ、わわっ、ちょっと妹様! 私にだけ厳しくありません!? 私両腕片足使用禁止のハンデあるんですけど!」

 

「設定した敵対率がロジャーたちよりほんの五倍くらい高いだけだよ。そのくらいじゃないとハンデにならないでしょ」

 

「うひゃあ、壁から変な触手みたいなの出てきた! なんなんですかこれー!?」

 

「あはは、れでぃつかまえたー」

 

「ぐぬぬ……このオールドレディが不覚をとるとは……」

 

「そういや美鈴、あなたいつまでその変な偽名使うの?」

 

「んー、もう少しはこのままですかねえ。バレバレでもいいんですよ。ポーズですよポーズ」

 

「そんなもんかあ。立場があるってのも大変だねえ」

 

「さーて、今度は私が鬼ですね。悔しかったんでちょっと本気だしちゃいますよー」

 

「おい、鬼ごっこなのに鬼が拳握ってどうする気……」

 

「ぐわああああー」

 

「ば、バカな、エドがこんなにあっさり……」

 

「くそっ、やめ、やめろっ! こっちに来るな!」

 

「ぐわああああー」

 

「えへへ、おにごっこ楽しいね!」

 

「これ見てそう言えるリンリンは大物になるかもねえ……」

 

 

こうしてある時は鬼ごっこ、ある時はドッジボールやサッカーなどの球技、ある時は敵味方に分かれてのサバイバルゲーム。

時には海軍との()()()()もあった。

 

そして、これらの遊びにリンリンはドハマりした。

今までもこうした遊びはあったが、周囲の子達との体格差、力の差により、それは満足に遊べるようなモノではなかった。

しかし今は全力を出しても壊れない遊び相手がいて、知らなかった楽しい遊びを教えてくれる。

これまでのリンリンにとって、唯一の娯楽は食べることだったが、それと同じくらい楽しいことを見つけたのである。

 

こうして体を動かす楽しさを覚えたリンリンは、みるみるうちに痩せていったばかりか、その実力もみるみるうちに伸ばしていった。

それは美鈴に戯れに教えられた武術や、遊び相手のエドワード、ロジャー、レイリーたちとの交流の中で、力の振るい方を覚えていったためである。

元から身体能力のみでエドやロジャーを圧倒していたリンリンが技術を覚えた結果は言うまでもなく、ついには巨人族に伝わる武術までをも習得する。

 

 

数年後、スカーレット海賊団の中には凄腕の武術家にして、大食いで有名な美少女海賊がいると有名になる。

彼女の名は、シャーロット・リンリン。

初頭手配額5000万ベリー。

ついた異名は大食い(クレイジーイーター)

“大食いのリンリン”

 

 

彼女の機嫌を損ねた日には、その町の全ての食材は――姿を消す。

 

或いは、魂さえも。

 

 

 

 

 

 




※ちょっと構成ミスって分かりづらくなってしまいましたが、冒頭のあややの取材は本話よりももっとあとの時系列の話です。
あの子の子供=リンリンではないのです。


セムラ
シャーロット・リンリンの大好物。
スウェーデンの伝統的なお菓子で、イースターの断食前に食べる慣習がある。

5000万ベリー
スカーレット海賊団の所属であること、暴れたときの被害からこのくらいの額。
いまはまだ大海賊時代でもなければグランドラインに価値のある時代でもなく、ロックスもロジャーも現れていないので、手配額の平均はかなり低め。
億超えとか10人もいない。

魂さえも
もちろんソルソルの実も使いこなせるようになっている。
なんだこの幼女……ぅゎょぅι゛ょっょぃ




私事ですが10月に異動があり激務の職場になってしまいました。
ようやくなれてきたのでちょっとペースあげたいところ。
過去編いいところなのにもたもたしてる間に本誌で動きがあって破綻するのが怖すぎるのでしばらく単行本は読めなさそう。
なにかおっきい齟齬があっても見逃してください。
特にロックス登場とかやめろよやめろよ……
いや、一読者としては見たいんだけどさ……

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