皆様初めまして。もしかしたら初めましてではない方もいらっしゃるかもしれません。十三と申します。
今回は『ポケットモンスター』のSSを投稿させていただきました。基準はXYです。
個人的に赤緑青の時代からポケモンをプレイしていますが、XYはエンディングを迎えた後もどうにもしっくりこないストーリーではありましたが、その分自由にできる余地があるんじゃないかなぁと思いました。
というよりぶっちゃけシャトレーヌが好きなだけです。ハイ。ガチVer.の時に非伝説を一体も入れてこないスタイルには清々しささえ覚えます。
さて、そんなシャトレーヌの中に紛れ込んでしまった主人公の物語。お楽しみいただければ幸いでございます。
Episode 1 それは幸せな人生の只中で
時折、夢を見る事がある。
それは僕がまだ、『一度目の人生』を生きていた頃の話だ。どれくらい昔の事かと言えば……ポケモンが「ポケモン」とは呼ばれていなかった時代、と言えば分かってくれるかもしれない。
国を奪うため、或いは守る為に戦争が日常的だった世界。人と人が殺し合う、人がポケモンを使役して殺し合う―――そんな事は珍しくもない。
あの時代、ポケモンを「道具」と見なしていた輩は意外と多かった。特に軍関係者などは、寧ろそう思わなければ務まらなかっただろう。
より戦に適応した個体を生み出し。
より戦に適応した技を覚えさせ。
より戦に適応した感情を植え付ける。
国の王は、それを快くは思わなかった。人とポケモンが互いに心を通わせ、通じ合う世界。それを誰よりも望んでいた。
それは、それだけは確証できる。仮にも親友だったのだから、その程度の心は読めていたはずだった。
だが、時代をそれを許さなかった。
戦わなければ、一方的に蹂躙されるだけ。国土も人も自然も、何もかもを奪われる。―――であれば、理想を押し殺して、現実と戦うしか術はなかった。
長く、長く戦いは続いた。
僕自身も、何度も戦場に赴いた。命を奪い、奪われることの悲惨さ。自分が愛情を注いで育てたポケモンが、簡易な棺桶に入って送られてきた時の悲しみは……今でもハッキリと思い出せる。
戦い続けるうちに感覚が段々麻痺して来る感覚も忘れていない。今からすれば中々に倫理観とはかけ離れた生活を送っていたものだと思うが、当時はそれが普通だったのだから仕方がない。戦場では通常の倫理観など邪魔でしかなったという事もあったのだけど。
豊かな自然であふれる国、というのが敵国の勢いを煽ったのだろう。侵略の勢いは衰える事がなく―――遂には王自らが愛していたポケモンを戦場に送り込まざるを得なくなった。
彼は愛していた。情愛だとか友愛とかではなく、恋人としてそのポケモンを愛していた。
彼は王城で毎日欠かさず、恋人の無事の帰還を祈った。それこそ己の全てを捧げても良いと思うほどに。しかしそんな一人の男の願いは、神に届く事はなかったのだ。
人間はあれ程涙を流すのかと、僕はただ茫然とそう思うしかなかったのを覚えている。
親友としてできる限りの言葉を掛けたつもりではあったけれど、彼は最愛のポケモンの亡骸が入った棺桶の前に膝をついて動こうとはしなかった。臣下の誰もがどれ程彼を気遣い、諫めても、彼は慟哭を抑えようとはしなかった。
ただ一つ、僕が言葉を掛けた時に彼は一言だけ言葉を漏らしたのだ。
「……■■■■、俺は必ず、彼女を取り戻して見せる」
死神に連れ去られたポケモンの魂を再び取り戻すなど、荒唐無稽の神業でしかない。悲しみに暮れた果てに彼の吐き出した弱音の類だと、僕はその時は思っていた。
―――だが、この時僕は見誤っていたのだ。
彼が彼女に掛ける想いがどれだけのものであったか。僕は親友として彼の傍にいながら、それを推し量る事ができていなかった。
もしここで、僕が友情の破綻を覚悟してでも彼の行為を否定出来ていたのなら何かが変わったのだろうかと後悔したことは一度や二度ではない。
絶望の奈落に突き落とされ、狂気に駆られた彼が既存の文明という壁すらも悠々と乗り越えて破壊の神となる未来。
それは、僕が一番見たくはない未来であったはずなのに。
―――*―――*―――
「魅せるバトル」というのが、どうやら僕は苦手であるらしい。
それを理解したのは、二度目の生を受けて姉達を相手にポケモンバトルを何度か行った後の事だった。
ポケモンの本来持ち合わせる華麗さ、煌びやかさ。そして悠々としながらも確実に勝利をものにするトレーナー自身の優雅さ。……そういった技術が僕には恐ろしいほど欠けている。
自分の方からヒャッハーして目が合ったトレーナーに所構わずバトルを仕掛ける程バトル狂ではないつもりだが、挑まれたバトルは買うスタイルだ。そして、買ったからには確実に勝利をものにしたい。
それはもう、ポケモントレーナーの生来の気質のようなものだ。基本消極的でバトルの際にも「帰りたい」と言うような姉の一人でさえ、バトルが始まれば確実に勝ちに行く。当たり前だ。
だが、僕達一家の「家業」は勝ち方というのも重要になって来る。
何せ高い見学料を払って観戦するお客さんもいるのだから、そういった方々を魅了するだけの、もっと現実的に言えば払った料金に値するだけのバトルを展開しなくてはならない。
そういった意味では、僕のスタイルというものは些か煌びやかさに欠ける。
何せ貪欲に、しつこく、泥臭く、時には呆れるほどに強引に勝利を捥ぎ取る事もあるのだ。ポケモンリーグに挑戦するようなトレーナーならばそういった戦法を取っても間違いはないのだろうが、常に挑戦者を迎え入れる立場であると、不興を買ってしまうのではないだろうかと心配した事は何度もある。
しかし―――。
「え? いや、レルーネさんにはいつもガチで戦って貰わないと困りますよ。だってコッチだってガチで勝ちに行ってるんですから」
「そもそも私たちってレルーネちゃんのそういったスタンスを打ち崩すためにいつも挑戦してるんだからね‼」
「と言うか寧ろその戦法が普通なんじゃないかなぁって思うわ」
「最初の頃ガチで嵌められてトラウマになりかけたのは確かだけどね‼ というわけで技構成とか見直してまた来ます‼ お疲れっした‼」
……僕に挑む挑戦者の方々は、揃いも揃ってそんな事は気にも留めていなかったらしい。
そんな環境下で、今日も僕はポケモンバトルに勤しみ続けるのであった。
「―――ブリガロン、戦闘不能‼ よって勝者、『バトルシャトレーヌ』レルーネ様‼」
「キャー‼ レルーネちゃーん‼」
「最高ぉー‼」
……しかし、何で二度目の人生は女の子になっちゃったんだろうね、僕は。
「どげんしたん、レルーネ。今日はちょこっと調子悪そうだったじゃなかやか」
本日の挑戦者を相手にして控室に戻ってみると、挑戦者の一人からの差し入れのチョコレートを食べながら、姉の一人がどういった事もないと言ったような雰囲気でそう問いかけてきた。
僕は一つ息を吐いてから被っていた銀色のハットを脱ぎ、チョコレートの相伴に預かりながら答えた。
「ルミタン姉さんにはそう見えました?」
「えぇ。何だか考え事ばしとったみたいだけれど……いかんよ、バトルにはちゃんと全身全霊で挑まなければ」
流石は長女、よく見ていらっしゃると感心しながらも、実質その通りなのだから反論のしようがない。怒られなかっただけまだマシというものだ。
僕としてはバトルに身が入らなかった―――などという事もない。僕だって一応、似合わないと常々思いながらもプロの端くれだ。私情で実力を発揮できなかったとあれば、それこそルミタン姉さんの雷が落ちるだろう。
「まぁ、レルーネはしっかりしとるけんね。お説教はここまでにして、ホラ、ポケモンたちを休ませてあげてきんしゃい」
「はいはーい」
そう言えば今はラジュルネ姉さんもルスワール姉さんもラニュイ姉さんも出番待ちか、と改めて確認する。
『シングル3vs3』担当のラニュイ姉さんや『ダブルバトル』担当のルスワール姉さんならまだしも、『トリプルバトル』担当のラジュルネ姉さんまでもが出番待ちとは……今日は中々に盛況らしい。
この施設、つまりは今世における僕の実家でもある施設《バトルハウス》は、カロス地方に於いて《ポケモンリーグ》《バトルシャトー》と並ぶポケモントレーナーの激戦地である。
《ポケモンリーグ》はリーグチャンピオン、《バトルシャトー》は”爵位”という明確な目標を目がけて勝ち進むのに対し、この《バトルハウス》ではそういった目的意識は前者に比べれば薄い。多くの勝利を勝ち得た挑戦者の名が入り口近くの大ホールのモニュメントに刻まれるという功績は得られるが、大体の挑戦者が求めるものは―――ただ勝利し続けてオーナーである
その為、集うトレーナーの層も極めて厚い。
原則高レベルのバトルを観客に提供する為に出場資格のあるトレーナーは、ポケモンリーグ協会が認めたジムのバッチを4個以上所持している者に限られているのだが……普通にポケモンリーグ出場経験者や、ベスト16、8クラスのトレーナーが連日押しかけてきたりする。
つまりは、ポケモンバトルという無限の可能性を秘めた行為に魅力を感じ、憑りつかれてしまった修羅たちが集う場所でもある。
そんな彼らの熱意と覚悟を真正面から受け止めるのが僕達『バトルシャトレーヌ』―――通称《
「……ポケモンバトル、かぁ」
今更になってそんな事を鑑みてしまうのは、やはり昨晩見た夢に大きく起因するのだろう。
「ポケモンバトル」という概念すらなかった時代に生前は生まれた身としては、平穏な情勢の中でポケモンと心を通わせ、スポーツと同じ感覚で勝負を挑むという行為が、当初は偉く輝いて見えたものではあった。
そしてその魅力に自分自身が憑りつかれてしまったというのも、まぁ、当然と言えば当然の事だったかもしれない。
心置きなく、際限なく愛情を注いでポケモンと共に成長する事ができる。性別が変わってしまったというのは、まぁ予想外過ぎて最初は結構動揺したものだったが、流石に10年も経てば慣れたものになる。今では前世で男であったことすら忘れそうになってしまうほど、この生活に溶け込んでいた。
そんな殊勝な事を思いながら歩いていると、いつの間にか《バトルハウス》の裏手に広がるそこそこの敷地面積を誇る庭に足を踏み入れていた。
今世の僕の故郷でもあるこのキナンシティは、規模だけで言えばそれ程大きくはない。それこそ大都会ミアレシティなどに比べれば足元にも及ばないが、腕利きのトレーナーが多く集まる分、こうしたポケモン育成に適した場所がそこかしこにあるというのが魅力の一つとしてシティ誌などで掲載されている。
そこで僕は、今日のバトルで活躍してくれたポケモンたちを一斉にモンスターボールから解き放つ。
「グランパ、アンジュ、シュヴァリエ―――出てきて」
出てきたのは3体のポケモン達。それぞれに固有のニックネームを付けるというのも前世ではあまり習慣がなかったが、今となっては違和感など微塵も感じない。
ユキノオーの「グランパ」、トゲキッスの「アンジュ」、ギルガルドの「シュヴァリエ」―――彼らはそれぞれ解き放たれると同時に、均等に刈られた芝生の上に身を置いた。そして―――
『ふぅ、やれやれ。今日もご苦労様でしたな、皆さん』
『えぇ、特に最後のブリガロンさんは良く鍛えられておられましたわ。シュヴァリエさんは大丈夫でしたか?』
『問題ありません。……が、申し訳ありません主よ。最後までお役に立ち続ける事、叶いませんでした』
それぞれ相手のポケモンへの称賛や仲間への労いの言葉、途中で倒されてしまった事などの反省点を口々に述べていく。
―――語弊や誤解がないように言っておくと、これは別に彼らが人語を話している訳ではない。他の人から見れば、特有の鳴き声をそれぞれ出しているだけに聞こえるだろう。
しかしながら僕は、結構前からポケモンの鳴き声が脳内で人語に自動変換されるという得意技を身に着けていた。これは別に生来のものとかそういう訳ではなくて、幼い時から友人関係にあった少女マーシュ―――今はクノエジムのジムリーダーに就任しているが―――にポケモンと心を通わせる方法のコツを聞き、それを実践しながら接し続けた結果、発現してしまった能力のようなものだ。
マーシュによれば、大抵の意思疎通ができる程度にはなるトレーナーは多くても、言語による会話まで完璧にこなせるようになったトレーナーというのは少ないらしい。
そういった経験をくれた彼女には今も感謝し続けているのだが……遊びに来たり遊びに行ったりした時に僕用のふりそでを毎回仕立て上げて着せ替え人形のようにするのだけはやめて欲しい。アレ結構マジで重い。
それを踏まえてポケモン達の会話を聞いてみると、中々に面白い事が分かったりする。
まずポケモン達は、自身の「性格」というものに実に忠実であるという事だ。今の三匹の会話を聞いただけでも分かるが、言動の一つ一つに実に個性がある。
ウチのパーティーの場合、最古参のグランパは「おだやか」な性格、卵の時からじっくりと育てたアンジュは「おっとり」した性格、中々に凄惨な野生時代を過ごしていたシュヴァリエは「まじめ」な性格―――と、それぞれの性格が定義する基準値からはややズレるものの、非常に個性があって大変宜しい。特にシュヴァリエ、君は本当に分かりやすいね。長い付き合いだから今更ではあるけれど。
「はいはい、頭を上げて下さいねシュヴァリエ。今日の君は”受け”の役割を負っていたんですから、倒れてしまった事を恥じては駄目ですよ。寧ろ良くやってくれました。ねぇ、二人とも」
『フォッフォッ、そうですな。シュヴァリエ殿は今日も良い仕事をなされた。悲観する事はないと思いますぞ?』
『そうですよ、シュヴァリエさん。シュヴァリエさんが頑張ってくれたおかげでわたくしがブリガロンさんを落とせたんですから』
『……はっ、そう言っていただけると私も嬉しゅうございます』
「君は今日も相変わらずキング・オブ・真面目ですね。……垢を煎じて飲ませたらトネールも少しは大人しくなるでしょうか」
思わずそんな事をボソッと呟くと、腰に取り付けた残り三つのモンスターボールの内の一つが抗議するように微かに震えた。
自覚だけはあるんだよなぁ、などど思っていると、グランパが『しかし』と言葉を続けてくる。
『昨今はあまり皆でお相手をする機会も少なくなって参りましたなぁ。我々の
『そう、ですねぇ。ご主人様はどう思われますか?』
アンジュにそう振られたが、正直答えに困る話題ではあった。
《バトルハウス》に於いて、『バトルシャトレーヌ』との対決ができるトレーナーというものは実は限られている。
強さと際限ないバトルを求めて施設の門戸を叩いたトレーナー全てが『バトルシャトレーヌ』と戦えるわけではなく、例えば上4人の姉達と戦えるようになるまでは、それぞれの対戦形式で19連勝、49連勝をする必要がある。
20戦目は少々手加減した状態―――所謂育成途中の二軍パーティーで相手をするというのが形式であり、ここを突破できないトレーナーは50戦目の彼女らの本気―――鬼のように強い一軍のポケモン達と
しかしまぁ、僕の場合は少々事情が異なるのだ。
まず僕の場合、戦闘で使用するのは常に傍に置いている6体のみ。つまり二軍と言う概念そものもが存在しない。
理由としては、まぁ単純であり、僕には元々
だから僕は、『バトルシャトレーヌ』として求められている実力を維持し続けるために、
僕が担当しているバトル形式は『シングル6vs6』。世間一般に言うところの「フルバトル」という奴だが、その育成の特異性故に、僕に挑戦する権利を得る為にはその『シングル6vs6』で30連勝する必要がある。
……こう書くと僕の担当形式だけがハードルが低いように感じられるが、嘗てそれを思わず口にした時に否と断言したのが4人の姉達で、そして実際にバトルをしてみると自分自身でも実感できた。
『
例外として野試合などで行われている『さかさバトル』、精神的疲労度ならば並び立つ『トリプルバトル』などが存在するが、最もシンプルな対戦形式であるが故に、ポケモン同士のレベル差を強制的にイーブンにまで抑え込んだ状態でのフルバトルは極限まで研ぎ澄ませた判断力と適応力、応用力を、ポケモンとトレーナーの双方に求めるのだ。
だからこそ、ポケモンリーグの本戦などではこの形式が伝統的に採用されているし、毎年リーグ戦の季節が近くなると僕に対戦を申し込むトレーナーが多くなる理由でもあるのだが―――。
……コホン、話が脱線したようなので戻して行こうか。
まぁつまり何が言いたいかというと、『
本来であれば、僕として6体をフルに出して全力で相手をするのが礼儀だとは思うのだが……。
「今は少しばかり時期が悪いですかねぇ」
今やすっかり《バトルハウス》の常連であるエリートトレーナーを始めとするリーグ出場者組は、早めにポケモンリーグ出場の選手登録をするためにチャンピオンロードを爆走している頃合いだろう。
つまり、今《バトルハウス》を訪れているのはバッジを規定の個数所持している、所謂「初見組」のトレーナー達なのである。
「常連さん達に比べれば技やタイプに偏りがありますし……現に今日も君達だけで勝ててしまいましたからね」
『お相手さんはくさタイプポケモンを主流に戦っておられましたからねぇ』
恐らく状態異常をばら撒いたり、『やどりぎのタネ』や『こうごうせい』で起点を作りたかったのだろうけど、それくらいは簡単に読めてしまう。フクジお爺さんの強さを間近で見た事のある身としては、少々物足りないと思わなかったと言えば嘘になる。
『しかし決して、実力不足ではなかったかと』
『そうですなぁ。本日の挑戦者は現段階でバッジ8個……ポケモンリーグの本戦には進めるでしょう』
どう考えても11歳が上から目線でしていい会話じゃないなぁと思いながらも、しかし感じた事はポンポンと口から零れ出てしまう。そしてそれ以上に僕のポケモン達は評価に容赦がない。これは流石と言ったらいいのか。
『……いつものパターン的にはそろそろ強い方がいらっしゃる頃合いですなぁ』
「そうですね、グランパ。その時はいつもの通りお願いしますよ。……初手ファイアローでも来ない限り多分万全ですし」
『『はやてのつばさ』からの『ブレイブバード』は私にとっては永遠の課題ですなぁ』
「いや、それは誰にとっても永遠の課題ですよ」
そんな雑談を交わしながら今日も頑張ってくれた自慢のポケモン達にブラッシングと特製ポフレのご褒美をあげていると、ふと館の方から誰かが出てきたことに気付いた。
「あ”~……イライラするぅ。やってられんばい」
見るからに怒り心頭……というよりかはやるせない怒りを全て内に抑え込み過ぎて爆発寸前と言った様子の姉の一人―――ラジュルネ姉さんだった。
折角整えた桃色の髪を掻き乱しながら出てくる様子は既に姉妹の中では名物のような存在だが、ここで構わなければ後が怖い。
「どうしたんですか、ラジュルネ姉さん。……って、訊かなくても大体分かりますが」
「レルーネぇ……ちぃとアタシの相手になっちくれんけん? もう不完全燃焼すぎてどげんにかなっちまいそうで……」
「荒れてますねぇ」
その理由は訊かなくても分かる。というか、ただでさえ吊り目がちな目が更に吊り上がっている時点でお察しと言うものだ。
こうなったら最後、「カリシウムが足らんばい‼」と言いながらモーモーミルクをがぶ飲みするまでが一連の流れであり、もっと言えばその後お腹を壊すまでがセットである。
とはいえ、その後死にそうな顔をしながら自業自得なのだと涙目で耐えている姉の姿を毎度見るのも忍びないので、ひとまず宥めるくらいは妹の義務だろうと思い、実行に移してみる。
「今日は二軍でのお相手でしたっけ。そんなに簡単に終わってしまいましたか?」
「そうばい。バトルん腕ん方はまぁまぁ見れたばってん、根性が足りんかったとよ」
「はぁ、またバトルの終わりにキッツイ言葉掛けたんですね」
「キツくなんてないとよ。あんくらいトレーナーとして当然の事たい。あん程度の事で背ば向けるなら、所詮そこまでやったちゅう事よ」
僕達姉妹の中では次女にあたるこのラジュルネ姉さんは、とにかく強いトレーナーとの対戦に年がら年中飢えている。
お客さんの前に出るときはこの方言丸出しの言葉遣いも封印して「高飛車なお嬢様」キャラを演じているのだが……本気の一軍を以てして戦えるトレーナーに対してはまだしも、育成途中の二軍パーティーを相手にしても負けるような挑戦者に対しては結構辛辣な言葉を投げかける事がある。
……尤も、観客席で観戦しているようなお客さんの中にはその態度が寧ろご褒美だという中々に剛の者が少なからずいるのだが、挑戦者のトレーナーはそうはいかない。
少なくともこの《バトルハウス》に挑戦できる程度の、そして『バトルシャトレーヌ』と
「負けたんなら勝てるようになるまで挑み続けるんがポケモントレーナーの責務たい。いっぺん負けた程度で、突き放された程度で諦めんなら先は見えとるけん」
無論ラジュルネ姉さん自身は、徹底的に辱めようなんて思ってはいない。ただ発破を掛けて再び自分のところまで勝ち抜いて来いと暗に言っているのだが……どうにも今回のお相手はその心を汲んでくれなかったらしい。
不器用な姉だなぁと改めて思う。もう高飛車お嬢様キャラなんてやめて最初からこの熱血キャラで行けばいいんじゃないかとも思うのだが、これはルミタン姉さん直々にキャラ作りを言い渡されているのだから勝手にやめるわけにはいかないのが現状という訳だ。
……ま、常連のお客さんにはバレてるんだけどね。
「ラジュルネ姉さんは相変わらず優しいですね」
「? どげんしたね。アタシはただ……」
「僕は負けたお客さんに対してそんなに真正面から向き合えませんから。ラジュルネ姉さんはそれだけ、お客さん一人一人に期待してるって事じゃないですか」
そういう意味でも、僕はシャトレーヌとしては未熟なんだと思う。
前世とは違い、ポケモンが死なない環境で思いっきりバトルをする―――僕は今のところ、その「場」だけを求めている。
トレーナー一人一人の可能性、その在り方などに対しては、興味がないと言えば言い過ぎなのだろうけど、そこまで注視できていない。
敗北よりも勝利の方が多いというのは僕達シャトレーヌの現実であり義務だが、僕達に負けていったトレーナーがその後どのような成長を遂げるのか、それが見てみたいと思った事が果たしてあったのだろうかと自問自答してみると……思考の袋小路に迷い込んでしまう。
「僕の世界はそんなに広くありませんから。姉さんたちとパーティーのポケモン達、後はそんなに多くない友人たちが居てくれればそれでいいんですよねぇ」
「……レルーネは大事な家族たい。そう思っちくれるんは嬉しかばってん、そげん自分を「つまらないもの」みたいに見るんは良くなかとよ」
それに、と、ラジュルネ姉さんは心外だと言わんばかりに腰に手を当てて続けた。
「アタシが博愛主義者だっち思ったら大間違いたい。アタシは客にだって容赦はせん。例えルミタン姉さんに怒られても―――アタシはアタシの言いたいこつば言い続けたるけん」
ポケモンバトルという一点に於いて、ラジュルネ姉さんはそのスタイルを譲った事はない。
ルミタン姉さんは普段は穏やかでも一度怒れば途轍もなく怖いというのは家族の中では周知の事実であり、現にその怒りの恩恵を一番授かっているのはラジュルネ姉さんとラニュイ姉さんが同率タイくらいなのだが……それでもラジュルネ姉さんはこのスタンスだけは絶対に譲らないのだ。
それが強者であり続けるという事であり、意志を貫き続けるという事なのだろう。―――素直に尊敬できる。
『ご主人様?』
何となく劣等感のようなものを感じていると、アンジュがこちらを見上げるような形で首を傾げてきた。
『えっと、その……わたくしも良くは分かっていないのですけど、わたくし―――いえ、わたくし達にとってはご主人様が一番ですから。どうかそんなに落ち込まないでくださいませ』
アンジュが言ってくれた言葉の意味は、反芻せずとも充分に理解できた。グランパやシュヴァリエの方に目を向けてみても、ただゆっくりと首肯していた。
自身を悲観的に見てしまうのは、前世からの悪い癖だという事は良く分かっている。なまじ、
でも、いつまでもこんなことではいけないのだと、そう11年間思い続けてきた筈なのだ。
二度目の生で出会えた家族や友人―――そして何より、自分を信頼して着いて来てくれるポケモン達に恥ずかしくない生き方をしたいと思ってきた筈なのだ。
いい加減―――下を向いてばかりもいられない。
「……よか顔になったじゃなか。心配して損したばい」
呆れたように苦笑してそう言うラジュルネ姉さんを見て―――僕は遅まきながら気付いた。
姉さんはただイライラしていたからこの場所に来たわけではなく、ルミタン姉さんに聞いて僕の様子を見に来たのかもしれない。
姉さんのそんな不器用な優しさに思わず失笑しそうになっていると、また館の中から誰かが出てきた。
「おねーちゃーん、レルーネー、遊び終わったばってん、集まるけんねー‼」
「ふ、二人ともー。ルミタン姉さまが夜ごはんにしちゃうっち言ってるけん。戻ってきてー」
そう言われて辺りを見回してみれば、既に薄暗くなってきている。いつの間にか随分と話し込んでいたようだ。
そんな時間帯でも変わらずテンションが高い四女のラニュイ姉さんと、慣れない大声を出そうとして声が上ずっている三女のルスワール姉さんの姿を見て、今度こそ口元が緩んでしまう。
「およ? レルーネが久し振りに可愛い顔になったけんねー‼ どれくらい? 三日ぶりくらい?」
「……僕ってそんなに笑ってないですか?」
『基本的に無表情ですな』
『真面目なお顔でとても宜しいかと』
なんてこった。という事はお客さんとのバトル中にも常に仏頂面だったという事じゃないか。……これはお叱り案件かもしれない。
せめて営業スマイルくらいはできなくちゃなぁと思いながら、三匹を一度モンスターボールの中に戻す。
「ホラ、行くわよ」
「はい」
その言葉に導かれるようにして着いて行くと、ラニュイ姉さんが抱き着いてきて、ルスワール姉さんが微笑んできてくれた。
僕自身にもまだまだ課題はあるし、どうにも上手くいかない事があって空回りするどころじゃないけれど。
それでもまぁ―――家族や友人やポケモンに恵まれて第二の生を謳歌している最中である。女の子になってしまった予想外を差し引いても、楽しくやれている筈だ。
それだけは、胸を張って言えると思う。
【簡易設定】
■レルーネ
【挿絵表示】
本作の主人公。名前の由来はフランス語で「月」を表す「La lune(レ・ルネ)」から。イメージカラーは「白」。11歳。
元々は結構昔の人間だったが、死後転生した存在。何故だか性別も変わっていた。解せぬ。でも段々女性として過ごすことに違和感がなくなってきた上、そもそも前世が男性であったかどうかも時々不明瞭。それでいいのか。
一人称が「僕」であったり、博多弁喋ってないのは前世の意識を引きずっているから。ついでにやたらと達観してる。
知り合いのジムリーダーというか幼馴染の影響で、ポケモンの言葉がデフォルトで人語翻訳されて聞こえる。
《バトルハウス》では『シングルバトル6vs6』を担当。腕前は結構なもの。
・グランパ(ユキノオー)♂
ニックネームの由来はフランス語で「祖父」を表す「grand-pere(グランパ)」から。
そこそこ高齢で老紳士といった感じ。レルーネのパーティーの中では最古参。
・アンジュ(トゲキッス)♀
ニックネームの由来はフランス語で「天使」を表す「ange(アンジュ)」から。
穏やかでほんわりしてる性格。パーティーの癒し。しかしバトルでは……。
卵から育てられた。
・シュヴァリエ(ギルガルド)♂
ニックネームの由来はフランス語で「騎士」を表す「chevalier(シュヴァリエ)」から。
マジで騎士のような性格。忠義と責任感の強さはパーティー1。
受け要因かと思いきや、普通に攻撃にも転じる。
・トネール(???)?
???
・???(???)?
???
・???(???)?
???
■ルミタン
シャトレーヌ五姉妹の長女にして《バトルハウス》支配人。普段は穏やかだが、本気で怒ると誰も逆らえない。
■ラジュルネ
シャトレーヌ五姉妹の次女。客の前では高飛車なお嬢様キャラだが、素は結構な負けず嫌い。これでもかと言うレベルのツンデレ。
そんなわけで如何だったでしょうか。
なにぶん初めての試みなので至らぬ点などがありましたら感想欄やメッセージなどでお知らせいただければ嬉しいです。
特に博多弁……っ。翻訳にも限度があってかなり違和感あると思いますので、大目に見ていただければと思っております。
ご意見、ご感想。お待ちしております。