時代転生のシャトレーヌ   作:十三

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※登場人物+ポケモン紹介

■レルーネ
 本作の主人公。11歳の女の子。しかし前世は男性。強いトレーナーと戦える機会があると聞けば食いつかずにはいられない修羅の国の人間。
 某ジムリーダーの幼馴染の影響でポケモンの言葉が理解できる。ポケモンは大切な存在。でもバトルは基本的に容赦なし。
 自分が恵まれた容姿を持っている事に全く自覚がない。

・グランパ(ユキノオー)♂
 パーティーの中では最古参であり、最高齢。
 甘いものより渋い味のものが好き。年を食ったという自覚はある。

・アンジュ(トゲキッス)♀
 癒し。ただまぁ……戦う側は怖い。察してくださいお願いします。
 ただ本人は相手をいたぶろうとかは微塵も考えていない。いや、これマジで。

・シュヴァリエ(ギルガルド)♂
 騎士キャラ。守りも攻めもどちらもござれなオールラウンダー。ここぞという時に頼られる。パーティーのフェアリーキラー。
 
・トネール(???)?
 ???

・???(???)?
 ???

・???(???)?
 ???



■ビオラ
 ハクダンシティジムジムリーダー。趣味はポケモンバトルと写真撮影。人物でもポケモンでも静物でもなんでもござれ。時々ジャーナリストの姉の仕事を手伝っている。
 細かい物事には拘らず、「バトルは楽しめればいい」をモットーに掲げているが……それでもやっぱり修羅の国の住人。勝負には勝ちたい。





Episode 3 おいでませ修羅の銀世界 前篇

 

 

 

 

《バトルハウス》のバトルフィールドというものは、実際そこそこの広さを誇る。

 

 一般的なポケモンリーグ規約のフィールドに匹敵するモノが6つ。これは僕を含めて姉妹全員が担当するバトル形式の挑戦者同士の対戦で使用するフィールドが1つずつと、そして、《バトルシャトレーヌ》と挑戦者が対戦する際に使う特別フィールドが1つ。

 

 これは既に亡くなってしまっている今世の両親―――ではなく、祖父母よりももっと前の世代が遺してくれたものらしい。

 正直この施設を見直してみる度に、ウチの一家、というより一族の財力を思い知らされる。今は経営権はルミタン姉さんが全て管理しているので、その全貌を僕が見る事は叶わないのだけれど。

 

 とはいえ、時代に合わせて施設の改良を続けている為、フィールドそのものの耐久力は勿論の事、全天候型の最新技術を盛り込んでいるとしてお客さん方には好評だ。

 ……ホント、大本の出資者(パトロン)は何処なんだろうね。たまに気になって仕方がないよ。

 

 

 

 

 ―――さて、閑話休題。こんな事を話している場合ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『Mesdames et Messieurs(紳士淑女の皆様方)‼ お待たせいたしました‼ 本日この《バトルハウス》特別バトルフィールドでは、エキシビションマッチが行われます‼』

 

 

 本日も本日で喉の調子は絶好調な様子の実況者さんの通りの良い声を聞き流して、僕は腰の細いベルトに取り付けた6個のモンスターボールに目をやった。

 

 いつもの僕の相棒たちだ。対戦相手が強いという事を本能的に察しているのか、さっきからカタカタと何個か震えている。

 恐らく―――いや、絶対に今日は6体全員を駆使して戦う事になるだろう。ジムリーダーというだけでなく、《バトルシャトー》の《侯爵(マーショネス)》位階ともなれば、余裕など毛程も抱いていられない。

 

 本気も本気、徹底的に神経を研ぎ澄ませていく。

 いつもならば観客席に集ったお客さんたちの声に耳を傾ける程度の余裕はあるのだが、今はそれに感覚を回すのも惜しい。段々と、集中力が高まっていく。

 

『フム、マスターは集中しておられますな。―――皆様、今日は張り切って参りましょうぞ』

 

『はい。わたくしも力の限り頑張らせていただきますわ』

 

『無論、主の御心のままに』

 

『アハハー♪ 今日は楽しくなりそうだネー♪』

 

『…………行くぞ』

 

『フン、お前に言われるまでもない。―――いつも通りだ。勝つぞ』

 

 ―――どうやら、皆の気合も上々らしい。

 

 あくまでも、練り上げるのは闘気のみ。殺意を練り上げるのはお門違い。

 心は熱く、外見はクールに。ポーカーフェイスには少しばかり自身があるが……さて。

 

 

「レルーネちゃん‼」

 

 そんな時、対面するトレーナーボックスに立っていた女性―――ビオラさんから声が掛けられた。

 

「貴女の強さを、あたしに見せて頂戴‼ 最ッ高のシャッターチャンスを‼」

 

 それが、茶化すための言葉ではない事は一瞬で分かった。

 カメラマンである彼女にとって、トレーナーの最高の表情を撮る事もまた、自分の存在意義の一つなのだろう。自分がそれを見せる事でビオラさんが本来の強さを見せてくれるのなら、躊躇う必要は皆無だ。

 

「お約束はできませんけれど―――善処はします」

 

 最近は燻り気味だった感覚も、徐々に思い出してきた。

 これなら、期待に沿えるかもしれない。

 

 

『今回のエキシビションマッチに招待されたお方は、皆様ご存知ハクダンシティジムジムリーダーにして、《バトルシャトー》認定《侯爵(マーショネス)》‼ 《舞蟲使い》のビオラ様‼』

 

 大入り満員の観客席から歓声が挙がる。お客さんの中にはトレーナーも多いため、彼女のジムに赴いた人も多いのだろう。

 それに加えて、美人だ。これならモテないわけがない。―――いや、別に羨ましいなんて思ってないよ?

 

『さて、お相手を致しますは、我が《バトルハウス》のお姫様‼ 涼し気なお顔とは裏腹に、魂は熱いこの方が、此度はどのような闘いを見せて下さるのか⁉ 『バトルシャトレーヌ』が一角、《銀氷》のレルーネ様‼』

 

 際限なく降り注ぐ歓声を身に受けて、観客席に恭しく一礼をする。

 お客さんに敬意を示すのはシャトレーヌとしての義務だとルミタン姉さんから常々言われている影響で、こんな状況下でも反射的にこのような行動が取れてしまう。

 

 まだ試合は始まってすらいないというのに、会場が割れんばかりの大歓声を響かせている。

 しかしそんな大熱狂も、とある時が近づくとシン、と鎮まり返った。

 

 燕尾服を身に纏った、ベテランの審判員の方が定位置に着くと同時に、ピリッと空気が張り詰める。

 ここから先は必要以上の歓声は不要だと、誰もが本能的に悟っている。

 

『ルールは6vs6のフルバトル。レベルブレイカーを逆作動させている為、使用ポケモンのレベルは50フラットに固定されております』

 

 聞き慣れたルール説明は、もはや耳にすら届かない。

 昨夜のうちに先発だと伝えておいたポケモンは、もう自力でモンスターボールから出んばかりにテンションが上がっている様子だった。

 

「それでは―――Rassemblez! Saluez!(両者、一礼)

 

 儀礼に伴い、向かい合って一礼。

 

Etes-vous Prêts?(準備は宜しいですか?)

 

 無論(ウィ)。言われずとも。

 

Allez!(試合、開始‼)

 

 

 その宣言を聞いた瞬間、お互いに迷うことなく一つのモンスターボールに手を掛ける。

 

「行くわよッ、ビビヨン‼」

 

「さぁ、回していきましょう、トネール」

 

 ビオラさんの先発はビビヨン―――それもカロス地方の多くで見られる紫色の羽を持つそれではなく、太陽と海を象ったような色彩の羽色のビビヨン。

 数百万体に一匹と言われる程にレアな個体だと記憶していたが―――そのビビヨンは出現と同時にフィールド全体に薄青色の粉を散布した。

 

『おっと、ビビヨンの登場と共にフィールドを覆ったのは―――『ねむりごな』です‼ 流石”本気”のジムリーダー‼ 技の仕込み方がえげつない‼』

 

 いや、ホントにえげつない。登場と同時に『ねむりごな』の大散布とは……先発のポケモンによってはこの時点で詰むだろう。

 ―――だけれど、まぁ。その手は何となく読めていた。

 

 

『眠っちゃうのはイヤだかラ―――降らせるヨー‼』

 

 僕が先発で出したのはトネール―――ウォッシュロトム。

 パーティー1のやんちゃ具合をいつも嫌と言うほど見せつけてくるこの子だが、相手を攪乱させることに関しては天才的だ。

 

 そしてそんな”彼女”が一瞬だけ体を光らせると、どこからともなく現れた厚い雲から豪雨が吹き荒れた。

 『あまごい』によって齎された大粒の雨と風が、大量に散布された『ねむりごな』を残さず洗い流す。

 

 初手の仕込みを邪魔された形になったビオラさんだが―――しかし次の行動は早かった。

 

「ビビヨン、『ぼうふう』‼」

 

「『ボルトチェンジ』です、トネール」

 

『ハイハーイ。それじゃあネー♪』

 

 羽を大きく羽ばたかせて豪風を巻き起こすビビヨンに対して技を叩きつけながら、トネール(ウォッシュロトム)はボールの中へと帰っていく。

 あまごいの結果巻き起こされた風の威力をも利用して放たれる『ぼうふう』を直に叩きつけられれば、瀕死一歩手前の大ダメージは避けられない。ましてや良く鍛えられている相手だ。一撃で持って行かれる可能性もあっただろう。

 

 だが、そのリスクを犯してでも、ここで『あまごい』を展開しておく必要があった。

 鱗粉系の技を封じる事ができるという点もあるが、布石を確実に打たなければ勝てる試合も勝てなくなってしまう。

 

 ともあれまずは―――『ぼうふう』を叩きこんでくるあのビビヨンを落とさなくてはならない。

 

「行きますよ、アンジュ」

 

『はい、ご主人様‼』

 

 入れ替わりにボールから飛び出したアンジュ(トゲキッス)は、巻き起こされた『ぼうふう』の気流に乗りながら、豪雨の影響もものともせずビビヨンとの距離を詰めていく。

 

「『ゴッドバード』‼」

 

「舞って躱して、ビビヨン‼」

 

 黄金色の闘気を纏って突撃するアンジュを、ビビヨンは不規則な動きで躱して見せる。

 それは間違いなく、『ちょうのまい』の動きだった。ただし、普通の技とは違う―――相手の攻撃を躱しながら自らの身体能力も上げる、より洗練された動き。

 

 あれでは、直線の動きは柳の葉の如く受け流されてしまうだろう。試行錯誤を積み重ねて強化させ続けたこの『あまごい』の大豪雨の中でもあれだけの動きができるのは脱帽ものだ。

 やはり―――動きを封じるしかないか。

 

「容赦はなしで行きます。―――アンジュ、『エアスラッシュ』」

 

 アンジュが頷き、純白の羽を羽ばたくのと同時に繰り出したのは、幾数にも及ぶ風の刃。

 直線ではなく、曲線。浅く、時には深く弧を描いて音速にも近いスピードで迫るこの技を初見で見切った常識破りは―――未だにチャンピオンクラスのポケモンしかいない。

 

「ビビヨン―――()()()()()()()()‼」

 

 ビオラさんのこの言葉に呼応するように、ビビヨンは美しく舞いながら一発目、二発目と避け続けていく。

 既にこの時点で、このビビヨンが相当な練度であるという事は理解できる。豪雨に紛れてほぼ不可視になっている風の刃を二発も避けられるポケモンなど、早々お目に掛かれない。

 

 だが―――三発目が左の羽に掠ったのと同時に、四発目がその胴体を捕らえる。

 そして、”彼女”は動きを止めた。止めざるを得なかった。『エアスラッシュ』の直撃を食らい、精神が僅かに狼狽えた。

 

 『エアスラッシュ』という技は、元々そういう効果がある。刃という即死も免れない攻撃を叩きつけられたポケモンは、とある一定確率で”ひるんで”しまう。

 それは、人間よりもさらに本能というものを重視しているポケモンだからこその特徴だ。その上でアンジュのこの技には、更にえげつない効果が備わっている。

 

 「っ……‼」

 

 恐らくビオラさんは気付いた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()0()0()()―――これは絶対の事実だ。

 

 パーティーの誰よりも幸運に愛され、また知らず知らずの内にポケモンバトルに特化した性質を持って生まれたのが彼女だ。

 普段は博愛主義者であるが―――その実、その強運は相手にとってみれば死神にも等しい凶運を叩きつける。一度でも攻撃が当たれば、相手は彼女のルールに縛られる。

 

「沈めなさい」

 

 そして、動きが止まったビビヨンに対して、『ゴッドバード』が直撃する。フィールドの果てまで吹き飛ばされたビビヨンは、しかし壁に直撃する前にビオラさんの手によってボールに戻された。

 

「……ありがとう、ビビヨン。後は皆に任せてね」

 

 その言葉が僅かな違和感となって耳に届いたが、それを精査する暇もなく次のポケモンが繰り出される。

 光と共に現れたのは、通常の個体よりも更に輪をかけて巨大に育っていた―――フォレトスだった。

 

「さて、行くわよフォレトス‼ 撒いてちょうだい‼」

 

 紫色のまきびし―――『どくびし』と『ステルスロック』が同時にフィールド上にバラ撒かれる。戦法としては基礎も基礎だが、であるが故に確実に刺さる。

 アンジュにとっては、お世辞にも良い状況ではない。だが、見るだけで分かる耐久型のフォレトスを相手に技を繰り出し続けて消耗すれば、今回のキーとなるアンジュを早い段階で失う事になる。その方が厄介だ。

 

「戻って下さい、アンジュ」

 

「詰むわよ、フォレトス。『てっぺき』‼」

 

 ただでさえ高い防御力を持つ個体が更に身体能力を上げる事に何も思わない訳がない。

 だがそれならば―――正攻法以外の手筈で削り落とすまでの事。

 

「お仕事の時間です、グランパ」

 

『承知いたしました』

 

 ボールから出てきてフィールドを踏むのと同時に、グランパ(ユキノオー)はステルスロックとどくびしの影響を受ける。

 が、それはもう慣れたものだ。この程度で動けなくような柔な育成はしていない。グランパが咆哮を挙げると―――途端にフィールド上には肌を刺すような冷気が充満する。

 大雨の上に上書きされるように満ち溢れるのは、”あられ”の天候。―――だが、グランパの呼び込む”あられ”は、普通の『ゆきふらし』の特性で引き起こされるそれとは、贔屓目なしでもレベルが違う。

 

「へぇ……凄いわね、これは」

 

 フィールドの気温は、一瞬で氷点下まで滑り落ちる。吐き出す吐息は白く濁り、生物の動きは目に見えて鈍くなる。

 しかしまぁ、それも慣れてしまえばどうにかなるものなのだ。シャトレーヌの衣装は肩は出してるわミニスカートだわでかなり低気温の中では邪道な恰好ではあるのだが、この突き刺すような冷気の中で思考能力を鈍らす事無く指示を出せないようであれば、僕はこのパーティーを運用する資格はない。

 

 そして―――フィールドでは変化が起こり始める。

 

 あまごいの影響でフィールドに撒き散らされ、足元を濡らしていた水が凍っていく。最新設備の影響で観客席には冷気が届いていないが、それでもその光景を見ればその寒さは充分に伝わるだろう。

 

「フォレトス、『こうそくスピン』‼」

 

 ビオラさんの指示で高速回転したフォレトスは何とか凍らされた足場に囚われる事はなかったが、それでも降りやまない猛烈な”あられ”に、体力が削られていく様子は見て取れた。

 そして数分も経たずに、フィールドは一面の氷に覆われる。永続的に降り続ける”あられ”がフィールドの形状そのものを作り替え、普通であれば問題なしで動けるこおりタイプのポケモンですら不自由を強いられる。

 

 これが、グランパ(ユキノオー)トネール(ウォッシュロトム)を仲間に加え、育成すると決めた時点で僕が編み出した環境構築。

 この厳しい環境下でも問題なく動く事ができるように、フロストケイブの頂上に籠って修業した日々も、今となっては懐かしい。

 

 名前なんかは特に付けていなかったつもりだったのだが、誰が言い始めたのか―――。

 

 

C'est beau ‼(美しい) 生み出されるは白銀一色の氷の世界‼ 観客の皆様方にはもはやお馴染になったでしょうが、それでも変わらずこの世界には溜息が零れます‼』

 

『誰が呼んだか誰が叫んだか、その名は《永続氷結界(コキュートス)》‼ 立っているだけで、そこに足をつけているだけで体力を奪われ続けるこの環境で、ビオラ様はどのようにして動くのか⁉』

 

 

 否、否。この程度で終わる筈がない。

 僕がしたのは、単にフィールドを整えただけだ。()()()()()()()()()。相手を追い込んですらいない。

 これですらまだ()()()なのだ。カンナさんやプリムさんに比べれば、僕の環境構築の技量など足元に立っている程度に過ぎない。

 

 目の前の女性は、必ず攻略をしてくる。戦意が下がるわけがない。

 その証拠に―――ビオラさんは笑っていた。とても嬉しそうに、とても楽しそうに。

 

 

「ふふふ―――良いんじゃない、良いんじゃないの。やっぱり貴女と戦えて良かったわ‼」

 

 

 戦いはまだ―――序盤を抜けていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グランパ、『きあいだま』です」

 

「フォレトス、まもって‼ その後『ジャイロボール』‼」

 

 フォレトスとの戦いはその後数十分は続いていた。

 『てっぺき』と『まもる』で防御を固め、僅かな隙に『ロックカット』を仕込んでくる隙の無さはかなり手強いと言って差し支えはないだろう。

 

 だがそれでも、段々と技のキレは鈍ってきている。フォレトスの体に巻き付いているのは先程植え付けた『やどりぎのタネ』の枝。本来ならば『どくどく』も追加でお見舞いするところなのだが、はがねタイプも持つフォレトスには効かない為に断念している。

 風の噂によれば、遠く離れた南国の地方にははがねタイプのポケモンにも毒状態を付与させる『ふしょく』という特性を持ったポケモンがいるらしいのだが、まぁ今は蛇足だろう。

 

 しかし、それでも良く持っているものだと思う。二重に体力を削り取られている状況だというのに、フォレトスの戦意は未だ萎えない。まだ戦う、戦わせろ―――そんな声がひしひしと伝わってくる。

 

『良い覚悟ですな。―――やはり若い方はガッツが違う』

 

「負けてもらっては困りますよ、グランパ」

 

 最初にばら撒かれた『どくびし』と『ステルスロック』は環境構築の終了と共に氷の中に閉じ込められたが、新たにばら撒かれたそれらが今も効力を持ち続けている。

 僕の考えでは、もうあのフォレトスは”仕事”を終えている。であれば交代して来るものだとばかり思っていたが、そんな気配は微塵も見せない。

 

 すると―――空気が変わった。

 同時に、ビオラさんの表情が、ほんの一瞬だけ曇った。

 

「『すてみタックル』‼」

 

 『ロックカット』を詰み、敏捷力を上げたフォレトスが不安定な足場でそれでも踏ん張り、突っ込んでくる。

 それは、中々の早さだった。お世辞にも敏捷値はそれほど高くないグランパが完全に避けるのは難しいほどに。

 

「受け止めて『きあいパンチ』です」

 

『承知』

 

 それが最善の一手。この状況でゼロ距離かくとう技を叩き込めば必ず沈むだろうと、そう思って疑わず―――。

 

 

「―――『だいばくはつ』」

 

 

 その危険性を、見逃していた。

 

 

 轟音が響き、氷の世界が揺れる。同時に表情までが崩れそうになるのを何とか堪え、冷気の靄が晴れるのを待つ。

 しかし僕の予想通り、グランパは倒れ伏していた。ゼロ距離での『だいばくはつ』は、流石の彼でも堪えたらしい。

 

「……お疲れさまでした、グランパ」

 

『む、むぅ……しくじりましたな』

 

 これで互いの手持ちは5-4。感傷に浸っている暇などありはしない。反省は後回しにして、考えるのは次の一手だ。

 だが―――拭いきれない違和感が思考を僅かに邪魔して来る。考え過ぎだと窘める声と、もっと慎重になれと言う声が脳内で鬩ぎ合っているのだ。

 

 ビビヨンを戻した時のビオラさんのあの言葉、そして、散々補助技を詰んだにも拘らず『だいばくはつ』という終わり方を選択した事。

 

 しかし、不可解さを精査しているよりも先に、モンスターボールを投擲する。6vs6(フルバトル)に限らず、上級トレーナ同士の戦いではバトル中の長考はご法度だ。

 考えながら指示を出し、戦略を常に組み替え続ける。それができなければ、この場に立つ資格はない。

 

 

「仕切り直しますよ、トネール」

 

「張り切っていきましょ、アメモース‼」

 

 対面は、悪くない状況だ。

 『いかく』によりトネールが一瞬動きを止めてしまうが、その程度で”彼女”は止まらない。

 何せ、性格が高じて『ふゆう』と共に『いたずらごころ』の特性を習得してしまった程の突き抜けた悪戯好きだ。この程度で怯むほど柔ではない。

 

『アハハッ、おねーさん強そうだネ‼ ……でもボクには追い付けなさそうだけド』

 

 先制して、トネールから発せられた『でんじは』がアメモースを捕らえる。

 痺れ、行動力が制限された状態で―――しかしアメモースは素早い動きで複数の『エナジーボール』を作り出して放って来る。

 

 食らえば大ダメージは免れない……が、平時ではチーム最速を誇るトネールならば大抵の攻撃は回避する事ができる。体躯が小さいという事も相俟ってその攻撃は難なく避ける事ができた。

 

「もう一仕事、お願いしますね」

 

『ハイハイ、マスター♪ 混乱しちゃエー♪』

 

 念には念を入れて、トネールには『あやしいひかり』も撒いてもらおうと思ったのだけれど、それよりも先にビオラさんが動いた。

 

「アメモース、『しろいきり』‼」

 

 発動自体はトネールの『あやしいひかり』の方が先ではあったが、その数瞬後にフィールドに濃い霧が立ち込めて邪魔をしたことで”こんらん”状態に陥らせることはできなかった。

 『しろいきり』そのものが立ち込めていたのはその一瞬だけで、すぐに”あられ”に晒されて吹き飛んでしまう。―――が、仕事そのものは邪魔されてしまった。

 

 トネールが『あやしいひかり』も使えると分かった以上、ビオラさんも何らかの対策を講じてくることだろう。二度目はない。

 だが、実際問題そんなものだ。上級トレーナー相手に自分のペースを握り続けられるのはほぼ不可能と言っても過言ではない。ここで大事なのは、必要以上に深追いしない事。

 

『アララ、失敗しちゃったカ。―――ゴメンネ、マスター』

 

 そしてトネールは、役割柄それを良く分かっている。引き際を見極め、自分の意志で『ボルトチェンジ』を飛ばすところなどは流石だろう。

 もちろん、仕事が上手くいかなかったからと言って責めはしない。寧ろ後で褒めてあげよう。そうしよう。

 

 

「それじゃあ、行ってくれますか?」

 

『御意に。お任せくださいませ』

 

 僕の騎士は、今日も張り切ってくれているようで何よりだった。

 シュヴァリエ(ギルガルド)の活躍はいつだって堅実だ。ここぞという時、落とせない中盤戦などでは、とても頼りになる。

 

「当てていきますよ。『シャドークロー』です」

 

「『かげぶんしん』で翻弄して‼」

 

 フォルムチャンジをしてから『シャドークロー』を叩き込むまでの時間は、コンマ数秒。大抵のポケモンであれば、決して躱せない速度だ。

 だがその直前に、アメモースの姿は幾重にも分裂をしてしまう。その数は、優に三桁を超えるだろうか。

 

「『シャドーボール』よ‼」

 

「っ……『キングシールド』‼」

 

 数こそ多いが、しかしそれでも実体は一つだけだ。キョウさんのポケモンのように、分身全てが質量を持って全方位波状攻撃をしてくるなどという理不尽の極みのような事はない。

 なら、その一撃だけを防げれば良い。

 

 とはいえ、弱点である『シャドーボール』は完全にダメージを殺し切る事は出来ない。

 返す刀で反撃できるように、僕は分身したままのアメモースを凝視して観察し―――

 

「―――シュヴァリエ、10時の方向、地上から74度の位置にいる左から11番目。それに『つばめがえし』です」

 

『御意‼』

 

 冷気に煽られ、僅かに揺らぐ分身は切り捨て、実体をしっかりと保っている個体。

 分身自体は良く作られており、短時間で見抜く事は不可能だろう。だが、慣れたこの環境下なら一瞬の勝機くらいなら見出せる。

 逆に、それを見逃さないのがトレーナーの役割だ。放っておけば千日手にもなりかねないトレーナー同士の戦いでは、この「一瞬の勝機」を見出せるか否かで勝敗が分かれる事は珍しくないのだから。

 

 僕の指示に忠実に、そして正確に応じてくれたシュヴァリエが振るった『つばめがえし』は、しかし同じ『つばめがえし』で防がれる。

 多様な技を覚える事で有名なアメモースではあるが、実際に相対してみると厄介だ。下手な手を打たれる前に、仕留めるのが賢明か。

 

「舞いながら『アクアジェット』‼」

 

「『キングシールド』で逸らしながら回避です‼」

 

 『ちょうのまい』を舞いながら放たれる『アクアジェット』は、不規則な軌道を描きながらシュヴァリエに迫る。

 だが、()()()()()()()()()()()ならば、彼のシールドが防げない道理はない。それでも敢えて「逸らし」にかかったのは―――

 

 

「……かかりましたね」

 

「あ……っ、ヤバっ」

 

 少しばかり、グランパの”あられ”の威力をナメていたのだろうか。

 彼の”あられ”は、どれだけ試合が長引いても決して解ける事はない。試合が終了するその時まで、フィールドには氷点下の冷気と大粒のあられが降り続ける。

 『ゆきふらし』が発動してからそろそろ1時間だろうか。フィールドは既に冷え切り、例え海水であったとしても数分もあれば凍り付いてしまう。

 

 《氷結界》の中では、基本的にみずタイプの技は厳禁だ。時間が経てば経つほど、みずタイプの技は()()()()()()()()()()()()可能性が高くなる。

 まぁつまり、どういうことかというと―――。

 

『⁉ ―――■■■⁉』

 

 『アクアジェット』を繰り出すために開けた口内から凍り付いてしまったアメモースに対して、シュヴァリエが『つばめがえし』を叩き込む。……その瞬間、同情的な表情を浮かべていたのは、きっと気のせいではなかっただろう。

 

『あー……アレきっついんだよネー』

 

 既に何度も経験済みなトネールは、ボールの中で苦笑いをしながらそう言う。……後でできる限りのケアをしようそうしよう。

 

 ―――ともあれ、これで状況は5-3となる。

 その過程だけを見れば、一応僕がリードをしている形になるのだろう。僅かばかり予想外の事態も幾つかあったが、概ね思い通りになっていると言える。

 

 懸念事項があるとすれば、()()()()()()()()()()()()()()事なのだが。

 

 

 戦いは、ここから中盤戦に突入する。

 

 ビオラさんの表情は、変わらない。残りポケモンが3体となった状況でも―――自信満々な笑みは、僅かも薄れていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






皆さんはアニメポケモンのOPで何が一番好きですか?

因みに私は『バトルフロンティア』と『スパート!』の二択になります。


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