Fate/alternative   作:ギルス

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くるくるくるくる、世界は廻る。
くるくるくるくるーー

そこは、混沌の坩堝。



第21話 『蛹』

それは、呪いだった。

叶わぬ望みーー、願いと言う名の呪いだ。

 

男は子供の頃に見た夢のまま、救済を願った。

傷つき、戦い抜いてーー辿り着いた黄金の杯。

 

「は、ははっーーコレで良いんだ、コレで全て、何もかも救われるんだーー。」

 

目尻に涙を浮かべ、震える声で指先を伸ばす、男の足元に横たわるのは、先程まで男を支えていたサーヴァント。

満足気な笑みを浮かべ、今や消滅を待つ身。

 

「ーー叶わない夢はない、願いは力に変わりーーこれで、私も、貴方も救われ…」

 

眩い光の波が視界を灼き、世界を包んだ。

 

ーーースベテヲ、救う?

バカヲイウナ、ソノヨウナ結末ガ、アルナド…

 

ダガ、キサマガイチバンノゾムモノダケデモ救ッテヤロウ。

 

キサマは、仮ニモ勝利者デアルカラナ。

 

歪み、嗄れた声が聞こえた。

 

************ーー…

 

「さてーー出てきたは良いが…やはりこの聖杯戦争はあまりにも歪よな。」

 

冬木という街を円蔵山の中腹、柳洞寺の管理地である墓場から見下ろす、ダークグリーンのスーツ姿の男。

どうにも現代にしてはレトロな、古めかしいタイプのものだ。

 

男は人では無い。

サーヴァント『復讐者 (アヴェンジャー)』ーー真名を巌窟王…

エドモン・ダンテス。

 

男の目には可視化された怨念が見える。

古きから新しきまでだ。

 

「ーー怨嗟の念が強すぎるな。」

 

復讐者 (アヴェンジャー)』である彼からしてもこうまで異常な恨みの念が色濃く顕れるのはただごとではなかった。

冬木…ここはどうにもただの街とは言えない。

 

夜に紛れてはいるが彼もまたサーヴァント。

その魔力は尋常では無い。

だが、今はそれも抑えられ、一般人に等しい程に隠されていた。

その上、今の彼には厳密にマスターはいない。

魔力は有限ではあるが他のクラスのサーヴァントと違い彼は自身の魔力を周囲のマナから吸収して得ることも出来る。

ほぼ自給自足だ。

 

「この気配ーーどうやらこそこそとなにやらしている輩が居るな。」

 

柳洞寺に目を向け、すぐに興味を失い背を向ける。

 

「まあ、今は別件だな。」

 

一瞬後には闇だけが残る。

青白く、仄暗い灯火がほんの僅かだけ地面に焦げた跡を残す。

 

アヴェンジャーが持つ高速移動。

魔力放出の亜種とも言える力で、時には光熱そのものと化して宙を翔けるその力は魔力を殆ど発しない。

体内で爆発的に高めた魔力を足裏や空気中に一瞬弾けさせる縮地に近い移動方。

だが身体を一時的に炎と変じるその能力と相まってそれはまるで、セントエルモの灯の様だ。

 

派手さは無く、しかし確かに存在を主張し、次の瞬間には消えて失せる。

彼の本来の俊敏さも合わせればまるでフィクションの中の忍者の如く残像を残す様な動きを可能としていた。

 

彼独自の嗅覚…恩讐を感じ取るソレが導く先へと直走る。

冬木の新都と旧市街を別つ境界線、未遠川の周辺に在る排水施設。

都市部に雨水などが流れ込むのを防ぐ為、川へと繋がる巨大な地下水路だ。

かつて、正史の第四次聖杯戦争の折にもキャスター、ジル・ド・レェがそのマスターと潜み快楽殺人を繰り返していた場所だ。

 

「ここもまた一段と濃いな…」

 

水路を飛び越え、奥まった空間に踏み込もうと足を出した途端。

 

脚に絡みついていた不可視の糸が切れた。

 

バガッ!、と言う音が聞こえたかと思えば無数のボールベアリングが超高速で飛来する。

本来ならばサーヴァントたる彼にはこの様な鋼の玉など傷一つ負わせることはできない。

 

ーーだが。

 

「これはっ…魔力で編まれている!?」

 

咄嗟に判断し、眼前に己が魔力を蒼き炎に変えて叩きつける。

炎は壁となってベアリング弾を焼き尽くす。

 

「魔力で編まれたトラップーー近代の暗殺者…イレギュラークラスか!」

 

本来ならば暗殺者のクラスはハサン・ザッバーハただ一つ。

山の翁のいずれか一人しか召喚対象たり得ない。

しかし、このトラップーー明らかに定義するならば暗殺者の行動そのもの。

 

正面切って戦う三騎士でも、残るいずれのクラスにもそぐわない。

 

「ーーお見通し、か!」

まだ若い男の声。

声のした方に振り向いた瞬間、背中に衝撃が走る。

 

「ーー!?」

 

念の為に警戒していた甲斐があった。

背後から斬られる可能性は考慮済みであった為、背後に張った魔力がアサシンらしき男が斬りつけた刃を逆に圧し折っていた。

 

「ーー2度通じるものではないが、セイバーなどが使う魔力放出の応用だ…局地的に魔力を集めて己が弱体耐性をカバーした。」

 

鋼の決意、攻撃に回せば敵の防御を貫通し、己の筋力を一時的に引き上げると同時に数瞬だが肉体の脆い部分を補強するスキル。

 

「くっ、厄介なーー!」

飛び退き、闇に紛れんとするアサシン。

 

「逃すと思うか、暗殺者!」

 

仮に回避スキルで躱そうにも先の鋼の決意による貫通効果は大抵の防御、幻惑を相手の気配が僅かにでも補足できれば無効化可能だ。

だが。

 

「ーーなに?」

 

唐突に、気配が一切感じ取れなくなる。

如何にアサシンの持つ気配遮断スキルがあるとは言え一度攻撃に出た以上簡単には気配を辿れなくなるわけが無いのだが。

 

「気配だけでは無い…魔力まで撹乱しているのか、これは?」

 

よくよく目を凝らせばこの広大な地下空間内のあちこちに先のトラップに似た仕掛けや、呪符が貼られている。

 

「原因はあの呪符群か…」

 

(舐めてくれるな、暗殺者風情が?)

 

「この様な仕掛け一つで俺を封じた気なら…おめでたい事だ!」

 

バ、と飛び出した次の瞬間にはトップスピードに達し、残像を残す速度で地下空間を翔ける。

 

次々と炎が瞬き、呪符が見る間に数を減らす。

時折発動するトラップも炎に阻まれ、燃え落ちる。

 

「なんて出鱈目…力、いや…速さで罠を強行突破されるなんてね…でもこれは、どうだい?」

 

ヴワン。

無数の羽が一瞬のズレもなく同時に羽撃く。

 

「喰いつくせーー羽刃蟲!!」

 

先のアサシンとは別の声。

それを合図に一斉に物陰から飛び出した凶悪な鋭さを持った大顎と刃物の様な羽を開いた蟲がアヴェンジャーに殺到する。

これが人間なら2秒と持たずにズタズタに噛み裂かれるだろう。

だが蒼い炎が一際強い輝きを放ち、アヴェンジャーの全身から噴き出し羽刃蟲を焼き尽くす。

 

「ーー姿を現せ魔術師、何も今すぐ貴様を殺すつもりは無いのだ…だがこのまま続けるなら…我が宝具をもって全て焼き尽くしても良いが、どうする?」

 

「ーー…何が狙いだ。」

 

「貴様はこの聖杯戦争、真っ当に願いが叶うなどと思うか?」

 

「ーーサーヴァントである貴様が何を言い出す…いや、何を企んで…」

 

「ーーそこか、魔術師。」

 

話すうちに、僅かな敵意ーーつまりは一種の恨みが自分に向けられる、位置を特定するには十分だった。

 

「ーー!」

 

一瞬にして間合いを詰め、物陰に隠れた魔術師へ手を翳す、その気になれば焼き尽くしてしまえる様に。

だが、その姿は想像もつかない姿であった。

身体の大半は蛹の様な表皮に覆われ、柱に半ば癒着する様にもたれかかっている。

 

「見つかってしまうとはな…随分苦心して施した認識阻害の結界だったんだが…俺の技量じゃここまでか…」

 

ス、とアサシンが姿を見せ、主人の前に立つ。

その姿は予測のままに近代的な出で立ちだった。

 

頭はターバンの様に赤い布を巻き、顔の大半はフードと口元を覆う布で隠れて目だけがギラついた眼光を見せる。

黒を基調とした近代的なボディスーツの上には元は淡い色合いだったのが汚れ、赤茶から黒にに変色したコート。

腰のホルスターには二丁の銃把が見えていた。

 

「アサシン、君では彼は止まらんだろう…もういいよ、なんなら俺を殺して再契約にかけるといい。」

 

「ーー早合点するな、殺す気ならばそうしている、まずは話し合いだ、蛹人間 (ピューパマン)。」

 

「ーー昔、そんな特撮ヒーローがいた様な気がするな…まあ僕は念力なんか使わないが。」

 

意外に冷静に冗談を返しながら、魔術師、間桐雁夜は自由になる首だけを動かして白髪に半ばがケロイド化した火傷跡に覆われた顔を此方に向けた。

 

「全く不便なものでね…定期的にこうして身体を再生して毒素を出さなきゃ生きてもいけない身体なのさーー。」

 

直後、パリパリと背中辺りに亀裂が入り、蛹が割れて雁夜の身体がゆっくりとせり出してくる…まるでB級映画のワンシーンの様に異様な光景。

 

「ーーよければ、後10分ばかり待ってもらえないかな、エクストラクラスのサーヴァント君。」

 

「待つのは慣れている。」

 

フ、と笑いながらそれに返すアヴェンジャー。

アサシンはと言えば無言でその間に立つのみであった。

 

**************

 

「しかし、暇じゃ。」

 

吸血種、イルマ・ヨグ・ソトホープ。

真祖を除けば最高位に位置する吸血鬼である彼女には凡そ吸血種らしい弱点は無い。

 

例えば、陽の光。

日光浴ができるレベルだが、強いて言えば日焼けで黒くなりすぎるのが嫌。

 

例えば、流れる水。

少々肌を刺激するが…寧ろ痛いながらも気持ち良い、ちょっと自分はMかも知れない。

 

例えば、ニンニク、十字架。

ニンニクは臭くなるし、気持ち悪いがその程度。

十字架は…流れる水と変わらない。

触れたらピリピリするけど触れる位置によっては寧ろイイかも知れない。

何処かって?

言わせるで無い、この助平め。

 

「お嬢様…いくら衛宮様方が教会に出かけて暇だからと言ってその格好は破廉恥すぎはしませんか…」

 

呆れ顔で呟くのは執事である死徒、イゴール。

初老の男の姿は一見温和だが、これで本性は恐ろしい巨体を誇るのだからわからない。

 

「日本の冬はいかん…炬燵とやらはあまりに魔性だ…骨抜きにされてしまう。」

 

炬燵に潜り込み、頭と両手を出した状態で蜜柑を剥き剥きしている。

因みに、ドレスは邪魔になって傍に脱ぎ捨てられている。

…下着だけで炬燵を背負った格好なのである。

 

「確かにドレスのスカートは炬燵に籠るには不向きでしょうが…そもそもその様に亀かエスカルゴの様な姿はーー」

 

「あー、煩いな…ワシの勝手じゃろ、血も吸わずに霧になったりなんだかんだと魔力使いすぎたんじゃもん…切ーーじゃない、士郎の血を吸おうにもここ、正面から戦ったら洒落にならんのばかりじゃろうが。」

 

ぷー、と頬を膨らませる姿は年端もいかぬ少女らしいものだが、口調は老獪な年寄りそのものだ。

 

「…いっそそこらの一般人の血を吸えば良いのかもしれぬが…それはプライドが許さん。」

 

「難儀な事ですなあ…ほほっ。」

 

それをどこか微笑ましいとばかりに軽口を返すイゴールは楽しそうである。

 

「貴様なあ…最近主従と言う立場を忘れておらんか、ん?」

 

「滅相もない、ただ、長い付き合いですからなあ…主従を超えてどこか孫を持つ祖父の様な気持ちも無いわけでは御座いませんが。」

 

「…ウヌぅ…」

 

「衛宮切嗣…不思議な御仁でしたな…今はどうしているのやら。」

 

「どこかでしぶとく生きているだろうさ、そうでなくては困る。」

 

「…ふふ、決着を、ですかな?」

 

「そうじゃ、借りは返さねばな。」

 

「…似た気配だと言うだけで、勘違いして抱きついた事は忘れておきましょうか。」

 

「いっ、イゴールっ!殴るぞおまえ!?」

 

顔を真っ赤にして炬燵から立ち上がるイルマ。

汗ばんだ下着は薄く張り付き、子供らしくも、大人に成りかけている未成熟な肉体を晒す。

 

「ああ、ですからはしたない…」

 

「話を逸らすなっ!?」

 

衛宮家は主人不在でも賑やかである。

 

*************ーー…

 

 

「いよいよキナ臭くなってきたものだ…」

 

冬木ネオ・ハイアットホテル。

10年前に倒壊したこのビルであったが、新たに建造されたそれは最新、最高級を謳い、当時のホテル以上の豪華さとセキュリティーを備えていた。

その最高級の客室に居るにしては珍妙な組み合わせの二人。

一人は、東洋人は幼く見えるとは言え身体つきに反して幼い顔立ちの、ショートカットの女性。

もう一人は、2メートル近い巨躯で腕を組む筋骨隆々の大男、しかしその見た目は厳ついというだけに留まらず、美しくさえある黄金比。

 

アーチャー、ゼウスとそのマスターであった。

 

「ええ、また…時空が歪みを見せましたね、今回は小規模な時空震でしたが…」

 

「此方に降りたって以降、頻繁に聖杯経由でちょっかいをかけてくるものが居るな。」

 

「解っていた事ですが、貴方の様な規格外を従えているのはひとえに、その”ちょっかい”に負けないで頂きたいからーーでもあるんですからしっかりして下さいね?」

 

「ーーハ、そこいらの貧弱な英霊と一緒にしてくれるな、分霊とはいえ…ワシは神であるぞ?」

 

「神を名乗りながら異変一つどうにもならないとはお笑い種です。」

 

「ーーぬかせ、小娘が…この街は異常極まりないんじゃよ…我が眼を持ってしても全容が見えぬのだ…如何にこの身が全盛期に比べいささか以上に格を落としていようと、見通せない状況などない筈なのだ。」

 

「ーー天空神の眼(アイオブザウラヌス)ですか…出鱈目なスキルですが…それで私の入浴覗くのいい加減やめてくれませんか、本気で。」

 

生暖か…いや、最早その域を通り越して乾ききった眼で自らのサーヴァントを見る。

 

「そのチベットスナギツネの様な目はやめんか、マスター…」

 

「そう思うなら真面目にやってください。」

 

はあっ、とため息を吐きながらこめかみを押さえながらアーチャーに目を向ける。

 

「まったく、笑っておればすこぶる魅力的だと言うのに…」

 

「貴方に言われても嬉しくありませんよ…私がそんな風に言われたいのはあの人だけですから。」

 

「あの人、のぉ…全く…お主の様な女に想われるその男は幸せものよな。」

 

「えぇ…ですから、必ず、必ず救いますよ。」

 

薄桃色の髪に、紫紺の瞳、そこに決意の光を灯して立つ姿は。

女神すら霞む程に神々しい。

しかし、同時にあまりに危うくもあった。

 

「あまり独りで気負うでないぞ、人の身で叶う事などそう多くはないのだ…他ならぬお主こそ解っている筈じゃろうて…奇跡とはただ一人で起こすものでは無い…神に抗うは人の業であるが、ただ一人で成し得るほど容易なものではないーー違うか。」

 

「ええ、そうです…貴方を召喚し、この地に立つ為に如何に多くを失いきたか…忘れたわけではありません。」

 

それほどに「あの人」は大きな人だった。

そして、同時にあまりにも優しく、脆い。

他人を救うことに躊躇などしない癖に、自分を救う事など考えてもいない。

危なっかしくて、愛おしい人ーー

 

「ええ、必ず救います…待っていてくださいね…先輩。」

 




【後書き的なもの】

はい、皆様こんばんは、こんにちは、おはようございます!
ライダー/ギルス です。

さて、間が空きましたがこちらも更新しました。
p5楽しいよp5。
委員長の「鉄・拳・制・裁 !」で水着マルタ思い出した。
p5の短編みたいな感じのクロスオーバーも彼方ではゆっくり更新中。
希望があれば此方にも上げようかな?

後、FGOにおける十二の試練の悪夢。
なにあれ怖い…後スカサハ師匠と槍ニキもヤバイ、厄イ。
同時に倒さないと全体即死発動するし、回避スキル連打するし…いや、もう、鬼畜。
俺、あんな怖い連中を作中に出しまくっていたのか…逃げて!冬木逃げて!
後…士郎、鯖もなしに大丈夫、お前!?

とか、今更思いました。
インフレ過ぎてサーセン。

だが自重しない。
冬木はどんどんやばくなります。

と言う訳で今回はアヴェンジャー、エドモン・ダンテスさんが動きました。
本人は偵察程度の気分ですがアサシン、雁夜おじさんを呆気なく完封。
聖杯とかいらないし、彼は個人的に気に入ったものの為にしか動きません。
聖杯からの意思、命令も真面目にとりあってません。
ま、彼は上から言われて素直に従うたまじゃないですしお寿司。

さて、ではでは!
次回更新で!
次は多分、ぐだ子と麻婆神父トーク。
AUOも居るのかしら?

で、またお会いしましょう!!
しーゆー!
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