ぬらりひょんの孫~呪羅呪羅羅(しゅらしゅらら)~   作:yua

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あれです。人物設定とか主人公のステータス説明とかみたいな奴のパロディ(?)
あれを小説風にザックリやってみました。


呪羅設定

黒く染められた壁と床、天涯付きのベッドも黒一色の部屋で黒い背表紙の本を読む少女は小さく欠伸をした。

「羽衣狐様、宗倫殿をお連れしましたぞ」

「入れ」

音も立てずに開いたドアの先には相変わらず胡散臭い笑みの鏖地蔵と、何処からどう見ても普通の小学生にしか見えない黒髪の少年。

普通に立っているのに、何故かふんぞり返って居る様に見える横柄な光を宿した少し茶色い目が特徴といえばそうか。

「何じゃ、妾にお休みの挨拶にでも来たか宗倫坊や」

クスクス、とさざめく様に笑う羽衣狐。

「我(わら)も明日から小学生ゆえな、先輩にご教授願おうと思い至ってな」

暗に『羽衣狐が小学生とか。人生リセット転生大妖怪(笑)大変ですね』という含みの嘲る感情を隠そうともせずに、宗倫はわざとへりくだる。

「そうか、学校でランドセル隠されたりするイジメには気を付けるがよいぞ」

この羽衣狐やる気満々である。

「ランドセル?」

聞き慣れない単語に宗倫が首を捻って唸り込んだ。

「ほれっ、これじゃ。妾は余り好きでは無いから使っておらんが」

漆でも塗ったかの様にやたら照り輝く黒いランドセルは、大人びた雰囲気を持つ羽衣狐とのミスマッチ感がとてつもなかった。

「なにそれ、格好いい」

「えっ?」

「えっ?」

羽衣狐と鏖地蔵が驚いて振り向く先に、やたら目をキラキラさせた宗倫の姿があった。

 

 

「護衛?」

『現代の常識』『マナー百選』『これだけは知っておきたい日本語』などなど…乱雑に散らかった本の海の中で宗倫は喉に魚の小骨でも刺さった様な訝しげな顔をした。

「ふぇっへっへっ…羽衣狐様は宿主の黒い心根が頂点に達するまでは普通の少女ですからな。近くに居ても怪しまれぬ身内が欲しいのです」

胡散臭い笑みの鏖地蔵に宗倫はしかめっ面で返す。羽衣狐は確かに転生する妖怪だが、成体になるまでは無力という訳ではない。むしろ、下手な大妖怪よりも強力な妖気を制御するのに苦労する程である。

「呪々羅呪羅(しゅしゅらしゅら)…」

座り込みながら口から呪(しゅ)を紡ぐ。

ザザザ、と本の海が波が引く様に宗倫へと引き寄せられ渦巻く紙の竜巻となり一枚の札となる。

それを、ゴクリと丸のみにしてペロリと唇を一舐めして宗倫は立ち上がる。

「確かにあんな性格じゃ、友達の一人も居ないだろうし悪目立ちするのは好ましくないか。『普通』じゃないと目立つとか面倒臭いな『現代(いま)』は」

「…本を読まずとも最初からそうすれば良いのではないですか?」

鏖地蔵は溜め息を吐く。宗倫は現代の知識を学ぶために三日三晩、この部屋に籠りきりだったのだ。

「『勉強』する苦しみは古代現代共通だぜ。呪を操る我が理解せねば呪もまた弱まる」

「宗倫様は『畏』がありましょう」

ああ、あれな。と宗倫は頷く。

「『あれ』じゃあ、羽衣狐は殺せまい?」

ケヒ、と小さく愉う。

「護衛なんだから、羽衣狐を殺せる位は強くないとなぁ」

ケヒケヒケヒヒヒ、と身を捻って笑う宗倫に鏖地蔵は気味の悪いものを見る目をするのだった。

そして、冒頭に至る。

 

 

夢を見た。

蒸し暑い夏に汗をかく。当たり前の事だが、式に涼をとらせる陰陽寮のボンボンには計りかねる苦行だったろう。

呪(しゅ)を知るには呪を生む源泉を常に知らねばならない。人の痛み、苦しみ、悲しみ、慟哭、渇望、憎しみ、怒り、嘆き…理性とか良心とかいった善性を凌駕する生(き)に近い本能の脈動は、頭だけじゃ追っ付けない生身で味わうしかない部分が厄介極まりない。

いくら『才』が必要とは言え、身に付ければ『腐っても鯛』な他の陰陽術に較べて、常に苦行に身をおかざるを得ない呪の研鑽なんてのは廃(すた)れる事の決まった『先』の無い忘れられていく業(わざ)。

「なのに何で『知りたがる』かね、晴明よ」

汗を吸って重くなった布団の上で胡座(あぐら)をかき、顎をかきながらまだ年若い陰陽師に面倒くさげに聞いてみた。

額から流れる汗が目に入り、まぶたをしばたかせていた涼しげな美貌の少年は、ニコリ、と微笑み

「知らぬ事がある事が我慢ならぬ気性にて」

と、小生意気な事をぬかしやがった。

バリバリ、と蒸れてきた頭をかく。涼やかなのに純粋でなく、無邪気なのに遊びの無いその黒い瞳に見られると体が痒くなってくる。

「若い内から苦労ばかりしてるとひねくれた大人になるぜ」

「師匠みたいにですか?」

「師匠とか言うな、痒くなる」

人の嫌がる事ばかりに目敏くて、人から向けられる好意に無頓着な澄ました顔に腋まで痒くなってきて、自分は水浴びするために肩布引っ掻けて立ち上がる。

「お供しますよ、師匠」

涼しげな表情は変わらずに着崩れし始めた着物をキチンと着直し、安倍晴明も立ち上がる。

「我(わら)ぁ、男と一緒に水浴びする趣味は無いぜ」

「遊びならいいでしょう。水遊びですよ、水遊び!!」

急に年相応の子供の様にはしゃぎながら駆け出した少年に、さほど歳の変わらぬ少年が下駄を突っ掛けながらついていく。

「ししょー、早く早くー!」

「師匠とか言うな、痒くなる」

時は平安、世は末法。

太陽だけは変わらずに白く輝いていた。

 

 

 

「あーー………」

目が覚めると自然と溜め息がついて出る。古すぎる記憶と、懐かしいのに昨日の事の様な食い違いに頭が痛い。人として生きた数十年と封印された千余年、人としての記憶は望洋として遠いのに封印された永い時に較べれば鮮明な人としての生。

「しゅしゅらしゅらしゅらしゅしゅらしゅら(呪呪羅呪羅呪羅呪呪羅呪羅)……」

言葉遊びで作った呪の子守唄。

名前も無い貧村に生まれたその日に災害に見舞われて、自分以外が全滅した呪の目覚め。

人の痛み、苦しみ、嘆き、悲しみ、憤り、それらが混じりあった『怨念』は行き場の無い怒りに振り上げた拳の叩きつけ場所を求める様に荒れ狂う。本来ならば妖気として漂い、新たな妖怪を生むそれら(怨念)がどす黒く淀み、激しく猛り狂い、その時、その場で何よりも無垢で何にも染まらぬ真っ白な紙の様な赤子にその黒をぶちまけて染め抜いていった。

その名も無き村で天災により生まれた『怨念』が、人間である赤子に何を求めたのかは定かでは無い。

ただ、加賀谷(かがや)宗倫(そうりん)という『怨念』を身に蓄えて扱う外法(げほう)の術である呪(しゅ)の体現者が歴史に忽然と現れた最初の日であり、地図にも歴史にも記される事が無かった名も無き村が滅んだ日であるのが加賀谷宗倫の生まれの全てである。

 

 

「それはもう人間では無いのではないか?」

羽衣狐は首を傾げながら、その整った眉を悩ましげにひそめた。

「さて、我(わら)が各地を巡り呪(しゅ)を一つの術とした陰陽道(おんみょうどう)八十八式(はちじゅうはちしき)の売り込み文句はいつもこれだったんでな」

「嘘と疑うか、真実と信じるかは聞く者次第という訳ですな、ひぇっへっへ…」

鏖地蔵の皮肉げな言葉に悪戯っぽく片目を瞑(つむ)り、曖昧に頷く宗倫。

「それが貴様の『畏れ』か宗倫」

「我が妖怪ならな。人間なら霊媒体質やら授神体質とか言えて神秘的だろう?」

本気とも冗談ともとれる言い回しは確かに魑魅魍魎渦巻く京都にて、身一つで成り上がった稀代の術者・加賀谷宗倫の片鱗を見せつけていた。

小学生相当の小柄な今では洒落っ気より、大人ぶって見せたがるこまっしゃくれた子供にしか思えないのはご愛敬だろう。

「さて、妾は学校に行くとしよう」

洗い立てのテーブルクロスに立てた手に片頬をついていた羽衣狐が白地に銀のラシャ模様を彩った椅子を後ろへ押しやり、大きな黒い瞳に薄い笑みを張り付けて立ち上がる。その前には手をつけていない朝食が残っていた。

「…今朝の生き肝はお口に合いませんでしたかな、羽衣狐様」

顎をさすり呆けた様に口を開け、鏖地蔵が訝(いぶか)しんだ声をかける。

「だいえっと、とか言うやつよの。妾も体だけは現代っ子じゃ」

ヒラヒラと白い手を振り、羽衣狐は黒い鞄を提げて食堂から出ていく。

首をひねる鏖地蔵と折角取ってきた生き肝を食べて貰えずに落ち込む妖怪だけが残るのだった。

 

羽衣狐が転生した少女の家は世間一般で言う金持ちらしいが、通学にリムジンを使うとかのファンタジーな設定は無い。

単純に羽衣狐が自分の足で歩くのが好きなだけかも知れないが。

カチャカチャとわざと黒いランドセルを揺らして音を出しながら、宗倫は羽衣狐の横を歩いていた。

「変わった奴じゃな。貴様は」

感心した様にも呆れた様にも見える表情で羽衣狐は楽しげにランドセルを背負って歩く宗倫を黒い大きな瞳で見つめる。

「機能的で素晴らしいじゃないかい。人間は本当に便利な物を作るのに手間暇惜しまないのぅ」

教科書と辞書を詰め込み膨らんだランドセルの脇には縦笛とリコーダー、体操着の入った袋までぶら下げた宗倫は何処からどう見ても生粋の小学生であった。

「学校に行くのが楽しみか?」

「無論楽しみだ。楽しみを知らねば苦しみは判らず、逆もまた然り。我は何よりも誰よりも人間の感情を保たねばならんでな」

呪々々(しゅしゅしゅ)、と小さく呪を吐き出しながら宗倫は笑う。人間の怨念を吸い続けて力を蓄えて来た転生妖怪としての羽衣狐には、半分理解出来て半分理解に苦しむ。喜びや悦びを追求するのが人間で、あえて苦しみを求めるのは生粋のマゾヒストだけである。

誰だって楽をしたい、誰かより多くを手にしたいと願っているのだ。

なのに、宗倫はその両方を求める。

「陰陽術ってなそんなもんだぜ、羽衣狐」

ハッ、となり宗倫を見やると思考に割かれた分、羽衣狐は宗倫より数歩遅れていた。道の少し先に立つ宗倫が、罠にかかった獲物を見る様な嗜虐的で自分が罠にかかった様な自虐的な笑みを同時に浮かべた気味の悪い笑みを浮かべている。

「それが貴様の『畏(おそれ)』か宗倫」

圧倒されかけた心を立て直し、不敵に笑う羽衣狐に

「陰陽道の基本、さね。もう忘れかけられた位の古い旧い大昔の大陸渡りの異教の頃のな」

一転して明るくカラカラと笑うのは未来を考える暇も無い位、今の刹那に満足仕切った幼子の笑み。

人間の怨念から妖(あやかし)が生まれるならば、加賀谷宗倫という存在は確かに人間で嫌になるほど妖であり過ぎる。

その二つを矛盾しながら持ち得る宗倫に羽衣狐はほんの少しだけ、封印を解いた事を後悔するのだった。




数字だけで表すのも味気ないので、こんな感じの第二話。
堅い文章ばっかだと肩が凝りますね。もっと気楽にキャッキャッウフフしたくて書いてるはずなんですが、羽衣狐様がドヤ顔させたくて色々考え過ぎてしまいます。
しかし、ランドセルはいいですね。あれだけ学校生活に適した機能的な荷物いれは無い。背皮の隙間に0点答案用紙隠せたり、脇の引っ掻けポイントを活用しまくれば総重量30kgまでいっても耐えられる頑丈さとか。
仕事用の鞄でも六年間も使えないですからね。
別に作者はロリでもペドでもございません。
ただの紳士です。
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