オバロ世界を生きぬきたい   作:モーリン

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お久しぶりの方はお久しぶりです。初めましての方は初めまして。モーリンです。
一応書きたい所までは妄想してますが、それ以降続くかどうか分かりません。その為チラシの裏での投稿です。よろしくお願いします。


1話 転移

 

【挿絵表示】

 

 

 

DMMORPG「ユグドラシル」日本製のファンタジーベースのオンラインゲーム。ゲームの世界に入り込めるというSF小説を見事に体現したゲームである。

外売りのクリエイトツールで外観、装備、装飾など固定アイテム以外ほぼ全てが弄れる程の幅広さを誇り、日本人のクリエイト魂に訴えかけるようなゲーム性であり

事実、ユグドラシルは一世を風靡したと評しても過言ではない程、爆発的な人気を誇っていた。

 

そう、誇っていたのである。諸行無常、盛者必衰という理がある通り、何事にも始まりと終わりが待っている。

ユグドラシルがリリースして既に12年もの月日が流れ、全盛期からかなりの人数が減り、ギルド数も少なくなり、運営も首が回らなくなったのだろう。翌0時に伴いサービスの終了という時期まで差し掛かっていた。

 

そんな過疎(といっても、根強い人気があるのでチャットログは早く流れているが)になっている草原に女性が一人歩いていた。

 

「今日でユグドラシルも終わりかー……次なんのゲームやろうかな」

 

身長は160センチ程で服装は漆黒のドレスローブに金の刺繍を爛漫と入れた豪勢な装備で、オフショルダーで胸元が大きく空いている。その大きく見えている絹のような肌の上に、黒と紅色がゆらゆらと揺れている楕円形の宝石のネックレスが飾られ、そのコントラストに聳えるバストはDラインだろうか、程よい張りがありそうだ。

腕にも黒い肘まである手袋をし、足元は漆黒のグラディエーターサンダルを履いており、うねうねと膝あたりまで黒い帯が伸びている。

ドレスローブにはスリットが大きく入っていて、輝かしい太ももとガーターストッキングの絶対領域が、見るものに感嘆の息を吐かせるほど綺麗に映える。

 

漆黒の黒曜石に匹敵する艶やかな黒髪を膝上までロングストレートに伸ばしており、見えてきた顔の目は少し気が強そうで、瞳は紅く、耳は長くエルフ耳である。

肌の色は日が差しているにも拘らず健康的な白さで驚くほどの美女である。年は16~18の間であろうか、どこか幼さもあり妖艶な雰囲気を出していた。

装備は全て神話級で揃えており、手に持っている漆黒の宝珠がはめ込まれているロッドも黒く、のぞき込んだらどこまでも覗けそうな深淵を携えている。

 

全体的に見ると神秘的な雰囲気を放ち、冷たい相貌を現しながらそんな事を口にする。

 

「てか、このキャラ【アセリア】とも今日でサヨナラかー……PKされる度にログアウトして、その後の想像とか……ふひひ」

 

そんな傾国の美女に匹敵する美しさでありながら、凛とした声とは裏腹にかなり下世話な言葉が吐き出された。

表情は冷たいままなくせに、発せられる言葉とのギャップはいかにギャップ萌えの人間であろうが、かなり来るものがあるだろう。

それもそのはず、中の人は女性ではなく男性であり、色々と

 

「いや、しかし攻める側でもいいよな。魔法のアイテムとかであれを生やしてあれでこう……」

 

変態であった。まごうこと無き変態である。

 

「その想像も今日でお終いかー……長くプレイしたなー。12年位か? 課金も……うーん年間平均30万位だから360万!? まぁいっか」

 

そして古参プレイヤーでもあった。ユグドラシルリリース直後にゲームを購入し、ちまちまとソロプレイを中心に活動していた。

購入した時の年齢は学生であった為、ほとんどユグドラシルに時間を費やしたのだ。最初は様々な職をとり、更新されるwikiを見て吟味し

その中で「錬金術」に重きを置いたキャラを作成しようと思い、ギルドにも加入した。

 

ギルド名「日曜大工」11名からなるプレイヤーで「鍛冶師」「錬金術師」を中心に構成された小規模ギルドだが、ワールドアイテムを二つ所持し、いずれもアイテム作成に

欠かせない物であり、上位のプレイヤーやこれから上位になるプレイヤーの為の装備やアイテムがほぼ揃っており、種族間問わず使われていたギルドで有名である。

加入条件は「鍛冶師」「錬金術師」いずれかのレベルを15にした者である。

 

戦闘能力が乏しいギルドであったが、アセリアの加入で戦闘面が強化され、さらに上位ギルドと一緒に未知の素材集めに奔走していた時期も長く、その中でワールドアイテムを見つけ、作製関連系のアイテムであったが故に所持することを認められたのだ。

そのお陰で加速的に認知度が高まった背景もある。

 

アセリア本人の戦闘力は全盛期では上位1,000名に入るほどの強さを誇り、時間とお金を掛ければプレイヤースキル、装備面で大きく有利になる事も物語っている。……流石に今はクリエイター職を複数選択しているので全盛期より弱いが。

とはいえ、ほぼ最初期からプレイしている中でユグドラシルでもバランスブレイカーと呼ばれる職業「ワールド・ガーディアン」にもなっている事で魔法職でもかなり強力なキャラであることには相違ない。

 

そして種族「ハイエルフ」のおかげで魔法戦闘であればかなり上位に食い込むプレイヤーでちょっとした有名人でもあった。

 

だが、そのギルドも既に無い。最後に残ったのがアセリアでギルド長(女性)がギルドの物で持ち切れるもの全てをアセリアに託し、ギルドが解散された。

故に現在アセリアのワールドアイテム所持数は2つになり、個人プレイヤーではギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のモモンガの次に所持数が多い。

 

しかし、狙われることは無い。既に新規勢はおらず、あとはサービス終了まで待つのみだからだ。

 

「えーい、一人花火だーわーい」

 

アイテムボックスから打ち上げ花火を上げ、一人感傷に浸る。ギルドに思い入れはあったが、しかし「この世界」が大好きであった。

リアルの世界とは真逆のこの世界。匂いや味は感じないがそれでも、リアルの世界を忘れさせてくれるこの綺麗な世界が大好きであった。

打ち上げられる様々な色をした花火を見上げながら

 

「……寂しいな」

 

そう、口から音声を漏らした。12年もの間プレイしたゲーム。次のゲーム何て、あんな台詞を呟いたが全然考えていないのだ。

終わりたくない、この世界をもっと探検したい。そんな願いは今ログインしているプレイヤー全員が思っているだろう。

だが現実は無常である。刻一刻と0時に近づいており、残り3分となった。

 

「…………ちっくしょー!! 歌う! 歌ってやらああああ!」

 

世界が終る。何をしたらいいか分からない。ならば最後に大きな声で歌おうじゃないか。そんな思考になり

漆黒のロッドをマイクに見立て歌う

 

「ぅぁ愛に! ~~!!」

 

草原の真っただ中で黒い装備を身にまとったハイエルフが何か意味不明な歌を歌っているというシュールな絵が完成しているが

どうせ、周囲に誰もいないし、こんな開放的な世界で歌を歌わなきゃ損だ!という思考もあったのかもしれない。

 

歌う。一昔前の歌を思いっきり歌う。天を見ながら所々マイク(ロッド)を忘れ去りながら歌う。

ちらりとチャットログを確認すると、誰かが色々突っ込んでるのが分かり、テンションがさらに上がっていく。

 

そして、ついに終わりに近づきいい笑顔で最後を飾った。

 

「~~メロデュー!! イェイ! どうも、ありがとうございましたー!」

「……あ、はい」

「……ん?」

 

おかしい、草原真っただ中で一人で愛に気づいてくださいと叫びながら歌っていたはずだ。チャットログにもちゃんと突っ込まれていた形跡があった。

そう確認しているアセリアは男の声がする方向に天から顔を地平線までおと、おと……

 

「草原じゃない!?」

「いや、最初から気づけよ」

「ここどこ?」

「そこから!?」

 

あれーと思いながら周囲を見る。確か自分は草原の真っただ中でロッドをマイク替わりに歌っていたはずだ。途中で邪魔だからアイテムボックスにぶち込んだが

周囲が森で丁度森が明けている所にいつの間にか立っていた。そして声の主の方を見ると、予想通り30~40代の男性と20~30代の男性2人が若干肩を震わせながら見守っていた。

 

「いやー今の聞いてました? ってか、あれですね。何かサービス延期になったんですかね?」

 

羞恥心を振り払うように、あえて少しそのことに触れ、そして大胆に話題を変更させる。

 

「ああ、ばっちり聞いてたぞ。まぁ最後の? 方だったみたいだが……それと、後半は何を言ってるかわからねぇな」

「ん? 何って、ユグドラシルですよー。すでに3分以上たったから強制終了なのかなと思っていたんですけど……」

「ユグドラシル? ……聞いたこと無いな。なぁお前らは聞いたことあるか?」

 

こてりと小首をかしげるアセリアに、男は後ろの若い男二人にそう聞くが首を横に振るだけである。

その間にコンソールを開こうと宙に人差し指を翳すが

 

「あれ? コンソール出ませんね。……GMコールも効かない!?」

「さっきから何を言ってるんだ?」

「いやいや、何まだロールプレイしてるんですか!? これ犯罪ですよね!?」

「ちょ、ちょっと落ち着け!」

 

わたわたするアセリアの肩に両手を置いて、落ち着かせるように声を掛ける。

そして何かに気づいたようにアセリアの動きが止まり、男の顔を見ながら驚愕の表情を浮かべる

 

「……酒臭い」

「ほっとけ! 朝まで飲んでたんだよ!」

「口も動いている……だと」

「ったく、ここらのゴブリンに頭でもぶん殴られたのか?」

「ま、待った!」

 

置かれた手を振り払い、若干距離を置く。そして気づく。自分の声が「自分の声」でないことに。

冷静に努め、自分の体を両手で触る。特に胸は念入りにもみしだくように触りまくる

 

「お、おいおい! 何してんだ馬鹿野郎!」

「ちょっと、待って! ……おかしい、この行為は18禁相当に該当する行為なのに、警告はおろか、強制終了もされない!? どうなってる!?」

 

そう、仮想空間でのゲームで18禁行為はアカウント停止や消去に繋がる方法として一番手っ取り早い。

故に確認の為に、ここがゲームであれば確実に現実世界に戻る方法を取ったはずなのだ。

しかし、結果は変わらず、おろか自分の胸の柔らかさやそれに伴った感触が手や胸から伝わってくる。

 

これはユグドラシルでは無い機能のはずである。更にいうのであれば匂いはしない。現実と空想を区別するためにそれらはシャットダウンしている。

これは法律上にも決まっている事なので一企業がたかがゲームの完成度向上の為にそのようなアップデートなど、するはずもなかった。

 

そこから考えられる結論は……一つ

 

「……現実、なのか。ここは」

「ったく、さっきから何をごちゃごちゃ言ってるんだ? ここは危ない。護衛はするから帰るぞ」

「あ、はい」

 

冷静に男性たちを見ると30~40代の男がバンデットアーマーで身を固め長剣を持ち、身長は170センチ前後であろうか、高身長とまではいかないが、がっしりとした体格のこげ茶の髪をスポーツ刈りのように短く揃えている。後ろの二人は金髪で身なりはほぼ一緒。恐らく同じ時期にこげ茶髪の男の元へ着いたのかこれまたほぼ同じ革のライトアーマーで身を固め、それぞれ短剣と弓を携えている。

兎にも角にも、男が言っている通り安全な場所へ移動し、現状を考えるべきである。まだ、まだゲームという可能性は捨てきれないのだ。

だが、自身の手足の装備や、胸のネックレスの宝珠の輝きを見ると、ますますゲームのキャラのまま自分の精神がどこか異世界に移転してしまった。そんな思いもある。

 

(いや、ユグドラシルの延長なのかもしれない)

 

そんな心の声も本能が否定している。そんなことはあり得ないと。現実を見ろと、そう言ってきている。

 

「よし、ゴブリン共の耳は持ったか」

「ええ、持ちましたぜ」

 

がさりと、手に持っている白い衣袋を短剣を持っている男が掲げアピールする。

 

「うっし、依頼は完了だ。……ちょっと変なエルフの女も見つけちまったが、まぁ美人だからいいだろ」

「へへ、いやーかわいいっすね。俺、バンウッドって名前なんだけど、お嬢さんは何て言うんすか?」

 

弓を装備している男がそう問いかける。まだ呆然とした感覚が抜けきらないアセリアは少し心あらずの様子であるが、条件反射なのかとりあえず、バンウッドと自己紹介した男の方へと向いた。

 

「あー…アセリアと申します。すみません。ここってど……」

「おいおい、長くなりそうだから近くの町まで行きながらにしようぜ、オークが出てきたら俺はともかく、お前らじゃ荷が重い」

 

かちゃりと肩に長剣を担ぎ、やれやれといった風にため息をつきながらアセリアに言うバンデットアーマーの男。

 

「ガンダックさんの言うとおりだぜ、バンウッド」

「アセリアちゃんっすね。いやーかわいい名前っすね! まぁリーダーの言う通り、町まで俺が守るから安心して欲しいっす」

 

そのガンダックの言葉に二人は理解を示し、アセリアに手招きをし先へ行く。

確かに、彼らの言う通りモンスターは草原、街道に比べ森などの光が薄い所はモンスターが跋扈しやすい場所となり

森の奥からは強敵が出てきてもおかしくはない。

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

警戒状態に入る三人を見て、アセリアも道具袋から先ほどしまったロッド「深淵を開きし者」を出そうとするが

 

(アイテムってどうやって出すんだ!?)

 

コンソールを開けない状態でアイテムを出しようがなく、ショートカットに設定されたアイテムも使うすべがない。

 

「おーい! ぼーっとしてんなー! 置いてくぞー!」

 

そんな声がした方へ視線を向けると、ずいぶん先に行っている一行が見える。

 

(……考えるのは後。とにかくゆっくり考えられる所に行かなければ)

「すみません! いまいきまーす!」

 

そうしてドレスローブに土がつく事を気にせずとことこと駆け足で彼らについて行く事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(しっかし、落ち着いてみると物凄く美しいな……)

 

アセリアをちらりと見てそう思うガンダック。ガンダックも自分がそこそこイけていると思っている。

浅黒い健康的な肌とこげ茶髪で体格もいい。現に女にはもてる。また強さもそこそこあり、銅級でも上位に食い込む所である。

そして色々な女性を見てきたが、ガンダック人生史上最も美しい女性はと聞かれたら、迷わずアセリアを選ぶだろう。

 

今は混乱が収まりかなり物静かについてくる表情は冷たく神秘的で、憂いを帯びた瞳は惹き込まれる。

現に先行している短剣を持った男、ベルグやバンウッドもちらちらとアセリアを見ているほどだ。

最初の音痴な歌が無ければ是非に自分の女にしたかったがしかし、これはこれでありなのか。と思う。

 

お礼に一晩。というのはありか? そんな心の声が聞こえる。

いや、モンスターが現れてそれを守り通して金銭を吹っ掛け、その後払えないならという形に持っていきたい。

そんな邪な事を考えていたら先行していたベルグが急に止まり

 

「……何か来てます」

 

ぽつりと、だが全員に聞こえるように最低限の声で周知する。その瞬間彼らは臨戦態勢になり、ガンダックも先ほどの考えを一旦置き構える。

ベルグは地に耳を当て音を拾いながら

 

「これは……オーク……が2体!?」

 

素早く短剣を抜刀し臨戦態勢を取りガンダックに視線を向ける。

その表情はかなりの焦りを表現していた。オーク1体なら余裕だが、そこにもう1体となると話は別になる。

ガンダックが前衛でベルグが攪乱。バンウッドが弓矢で関節や頭部を攻撃しながらの陣形だが、それは一体だけの話である。2体だと、もう一人がオークを受け持たないといけない。だがそれが出来る者はガンダック以外にはこの場には存在していなかった。

 

「ち、撤退だ。ベルグは撤退する道を選別し先行、バンウッドはオークの脚を狙え。決して深追いするな。俺も奴らの脚を攻撃し機動力を下げるぞ」

「りょ、了解」

「わかりました!」

 

そして各員が陣形を変更した瞬間に木々をへし折る音と亜人種の唸り声が彼ら一同の耳に入ってきた。

 

「撤退だ! 嬢ちゃんもはぐれるなよ!はぐれたらオークの餌食だ!」

「あ、はい。わかりました」

 

焦っている彼らをよそにアセリアは妙な気分になっていた。音がする方向を見ると確かにオークがこちらに来ている。だが、それに脅威を感じないのだ。

しかし、だからといってこの体になって本当にゲームのステータスを引き継いでいるかは確信がない。

そもそも、この体は本当にユグドラシルの【アセリア】なのか、その確証すらないのだ。

故にガンダックの命令に返事をし、隊列の真ん中を維持しながら撤退する。

ぐんぐんと迫ってくるオーク。身長は優に2メートル以上あり、1メートル位の棍棒を振り回しながらこちらへ迫ってきている。

 

「ちぃ、速い! バンウッド!弓矢で牽制しつつ足を狙え!」

「や、やってみます!」

 

走りながら矢を引き一気にオークへと放つが、轟音を立てながら棍棒で矢を叩き落される。だがそれでいい、すこしずつ時間を稼ぎ、街道まで出れば何とかなる可能性がある。

そして

 

(最悪の場合、アセリアを囮に逃げる)

 

確かに美しい、確かに抱きたい。だが、それはこの境地を脱せなければならない。つまり命に代えられないのだ。

それに、仲間も大切だ。偶然会った美人より汗臭い仲間の方が大切なのだ。

ちらりとアセリアの方を見ればそこに焦りは浮かんでおらず、冷徹な表情をしながらオークを見ていた。

 

(おかしい)

 

オークに牽制を入れつつそう思う。普通の女性であればこの絶体絶命の状況に絶望するだろう。だれがどう見ても助かる確率は少ない。

だが、アセリアは冷静だ。不自然な程。そんな考えを振り払うようにオークに向き直り

 

「武技【流水加速】!」

 

ぐんと世界が減速し、オークの動きも先ほどより若干ゆっくりに見える世界。その中で素早く膝に切り込み、離脱する。

 

「グゥオオオオ!」

 

ダメージは与えているだろうが、それを意に返さずガンダックへ襲い掛かるが、既に攻撃範囲外へ逃れたガンダックは隊列に戻り走る。

 

だが

 

「グゥワアアアアアアア!」

 

正面より今追われているオークより一回り大きい色違いのオークが先行しているベルグの正面に、脇の草むらの中から姿を現し、そしてそれに気づいたベルグが

その方へ向き、振り下ろされる直前の棍棒を見て、現状を把握した。

 

「う、うわああああああぎゃ!?」

 

轟音と骨が砕ける音を発しながらガンダックの方へ転がっていく。足元に転がってきたベルグを見てとっさに腕でガードしたのか、両腕がぐちょぐちょでアーマーはべコリとへこんでいた。

こひゅーこひゅーと息の音がしているので、まだ死んではいないがかなり危ない状況であることを悟った

 

「……ちくしょう! 挟み撃ちかよ!」

「ど、どうしましょう!?」

 

脇道に逃げるか、いやすでに追い込まれている。それは不可能だ。そもそも森は彼らのテリトリー素早さや体力を勘案しても間違いなく追いつかれる。

何か、何かないのか! じりじりと近づくオークを見てそう必死に思いを巡らしながら歯を軋ませアセリアを見てバンウッドを見る。焦燥しきっている顔のバンウッドだが、ガンダックの視線の意図に気づき、頷いた。

 

そんな切迫した状況にアセリアは

 

(おかしい。……そもそも人が重傷を負っているのにあまり動揺していない……さらに絶体絶命のピンチなのに、なのに何故落ち着いていられる)

 

状況に混乱していない。むしろ、自身の中から「何故この程度で苦戦するのだ?」という疑念。さらに吹っ飛んで両腕がぐちゃぐちゃで内臓にダメージが入っているのだろう

口から血液を大量に吐いているベルグを見ても全く動じない自分に違和感を感じる。見慣れない光景なのに《見慣れている》ような感覚。

 

「おい」

 

そんな考えをしているとガンダックから声が掛かった。

思考の海から脱した瞬間にどんと押される感覚があり、オークの前にふらりと移動させられた。

 

「へ?」

 

振りあがる棍棒。

 

「こっちだ!」

「え!? え!?」

 

そしてその隙を縫って正面突破を図る二人だが、綺麗に横を過ぎる瞬間に後ろから棍棒が回転しながら投げられ、バンウッドの頭に直撃し、頭部の3分の1が抉れながら倒れる。

それに眼をくれることなく、駆け出すガンダックだが、振り上げられた棍棒はアセリアではなく、ガンダックの胴体をめがけて振り下ろされた

 

「ぐぎゃ!?」

 

人体がひしゃげる音が森に木霊しながら最後の断末魔を発しそのまま肉塊へとジョブチェンジした。すでにベルグも踏みつぶされ、頭部がない体を痙攣させている。

 

その隙に3体のオークの真ん中に移動し、冷や汗を垂らしながら様子をうかがうアセリア。

 

「まさか、庇われるとは……私が思考していなければこうならなかったのかな」

 

こんな状況でも後悔の念が押し寄せる。自分が思考しなければ、自分がもっと状況の理解が進んでいれば。

彼らは死ぬことは無かった。そんな後悔が募る。

 

まぁ、彼らはアセリアを囮に使おうと思い、しかし判断ミスしただけだが。

 

そんな事とは露知らず、この状況で漸くオークを殲滅してやる。という若干怒りに似た気持ちが沸いてきた。

眼光を鋭く正面と背後に気を配りつつ、魔法を使えるか集中をする。

そしてすぐに使えると本能で確信する。様々な魔法の効果範囲、ディレイが。そして威力も。

 

じりじりと、どう殺してやろうか、殺したらどうやって食べようか。

そんな思いを秘めながら距離を詰めるオークに向けて両手を開くように構え、本能通りに手順を踏んだ。

 

「【集団標的(マス・ターゲッティング)】【魔法三重化(トリプレットマジック)】【圧縮された世界(グラビティ・バニッシュ)】」

 

両手から漆黒の、どこまでも黒い拳大の球体が現れ、銃弾のごとくオークに向けて3球が彼らに射出され体を覆う。

その意味不明な状況にオークたちは大きな声で喚いた。だがその声をまるで握りつぶす様に開いていた手をぐっと閉じた瞬間に何かが潰れた音が森に木霊し、そして黒玉も圧縮され、宙へと消えていった。

 

残ったのは静寂。

 

そしてアセリアはほぼ確信した。ここは現実で、何故かゲームのキャラのまま転移してきたのだと。

どこの一昔前の小説だよ。と己に毒を吐く。しかし、限りなく事実に近いのだ。

この血の匂い、殺しの感触。いずれもなぜか慣れている。そんな感覚だ。

 

そして庇ってくれた三人に対しても、申し訳ない気持ちで一杯だが、それでも、悲しいという気持ちにはならない。

そもそも死という状態が身近に感じてしまうほどなのだ。死んだら蘇生できるじゃないか。ただそれだけの感覚なのだ。

これが大事な物なら怒りを感じるのだろうか。それは分からない。

 

だが、この状況に自分で恐ろしさを感じる。自分が自分でない。自分のはずなのに自分じゃない。この矛盾した感覚を。

 

手のひらを、先ほど生物を殺した手をみる。綺麗な手であった。ほっそりと力を入れたらすぐに折れそうな、そんな手。

指先に極僅かな震えすらない。だが震える程恐ろしいのだ。

 

気分を切り替えるように溜まった息を吐く。とりあえず、アイテムボックスを意識すると、どうやってアイテムを取り出すかが理解できる。

その手順に則り、虚空に手を突っ込みアイテムを取り出す。一応ロッドを装備し、何が起こってもいいような状態へと整えた。

 

そして3人の死体を見る。すでにピクリとも動いておらず、体の欠損から確実に死んでいることが見て取れる。

流石に何も感じない訳なく、悲痛の表情で一人一人の状況を確認した。

そしてまず、自分を庇ってくれたガンダックの傍に歩み寄り杖先を向けるようにして構えた。

 

「【蘇生(リザレクション)】」

 

第8位階魔法の死者蘇生魔法。第5位階の重いコストが掛かるが死亡状態からHPMPがある程度回復した状態で復帰できる魔法が、コストが不要になった魔法である。

アセリアは女司教の職業をレベル10まで収めており、第8位階の【蘇生(リザレクション)】を使用可能になっている。

さらに上位に【完全死者蘇生(リザレクション・オール)】が存在するが、回復専門ではなく、あくまでソロ活動時の継戦能力アップの為に修めているのだ。

 

ただし、緊急時にしかほぼ使わない魔法と言えるだろう。

 

何故か、それは死者蘇生系は課金アイテムや高価なアイテムを使用後、その効果時間内に使わないと経験値ペナルティ、通称デスペナルティが発生するためだ。

下手に蘇生すると5レベル下がるというペナルティが課せられるので、通常は回復職にオープンチャットで依頼して蘇生してもらうのが手順なのだ。

因みに、これら蘇生魔法の違いは蘇生時に回復しているHPとMPの値が違うというだけで、戦線復帰の素早さが問われるので、正直に言えば5位階と8位階の違いはほぼ無いに等しい。

しかし、今は緊急時でさらに確かにレベルは下がるが自分がサポートすれば間違いなくすぐにレベルが上がると確信している。

まずは蘇生されたら土下座だな。という思いで魔法が発動された。

 

魔法のエフェクトが足元に開き杖先が白く光る。それに鼓動するかのようにガンダックの死体の地面に魔法陣が描かれ太陽光より明るくなる。

ぶわりと光のエフェクトが広がり、ガンダックの死体を包み込み、そして徐々に晴れていったが

 

「……え?」

 

ガンダックの体が、徐々に体の足先から風に乗るようにさらさらと灰になっていく。

その意味不明な状況を見てアセリアは驚愕の表情を作る。

そう、ゲームではデスペナルティはあれど、体が灰になるような事態は無かった。そもそも、灰になるという情報はwikiにも載っていなかった情報のはずだった。

 

「な、何で!?」

 

すぐさまガンダックの体の傍に膝をつき、血がついてもその灰を逃さない様に手を伸ばすが、無情にもガンダックの体は全て灰になり、すべて宙へと消えて行った。

 

「あ、ああああ……」

 

流石にこんな結果になるとは思わなかった。こんなことなら、死者蘇生を使わずそのまま埋葬したのに。

そして何より、自分がもっとしっかりしていればこんな結果にはならなかったのだ。

 

「はぁっはぁ……っ!」

 

まるで自分が殺してしまったかのような、そんな恐ろしい事実が襲い掛かってくる焦燥感に似た極度の緊張で呼吸が上手く出来ない感覚。色々な感情で自身がかき回されている。しかし、先ほどまでの自分の予想と全く違う結果になり、そしてそれがもう取り返しのつかない結果になったという事実。だが、それでもリアルの友人の訃報を知った時の方がショックが大きかった。しかし、それでも自分を庇って死んでいった者に対して

 

悲しみを感じざるを得なかった。

 

「は、ははは……悲しいって感じるじゃん、私。……ははは、ははははは、あっははははは!」

 

今度こそ、本当に人が「死んだ」のだ。もうその亡骸も既に無い。これがどうしようもない事実で、だけど嬉しかった。

自分が自分では無い。そんな感覚が襲っていた。事実この結果を見るまではどうせ復活できるし、謝ってこの後悔の念を清算しようと思っていたのだ。

普通ならあり得ない感覚だ。現実で死んだら終わりだ。ならば殺された瞬間に普通であればショックなはずなのだ。

 

だが、その感覚は無かった。

 

けど、今は彼らの「死」に対して自分が「人」として真っ当な感情を抱いていた。その事実にどうしようも無く嬉しさを感じていた。

自分が自分であった。そんな実感が胸中を占めたからだ。

だからこそ受け入れられる。この感情も、そしてあの感情も自分であったのだ。と。

 

「ああああああ! あああはあはははあ!」

 

悲しさ、嬉しさ、恐怖、ショック、驚き、後悔。様々な感情が混ざりあい、アセリアは悲しい顔をしながらその場で笑った。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。行くか」

 

しばらく笑った後、呆然と過ごしながら時間と共に感情の整理が徐々に行われ、ここに来て様々な状況をかみ砕き、ようやく飲み込むことが出来た。

目はほんの少し赤く腫れているが、それでも表情に曇りは無い。ネガティブだった自分の性格に幾分ポジティブな性格が混じったのか、後悔しても仕方がない。今後に生かしていくべきだ。という結論に至り、ようやく落ち着きを取り戻したのだ。

 

そして遺体は大きな木の下に埋めその場所には彼らが使用していた武器が刺さり、傍らには草花が添えられている。

そんな墓を建て、ローブについた土をぱんぱんと払い墓を背にしてアセリアは魔法で飛び立った。

 

 

 

その墓には定期的に花が添えられている。誰がどこから持ってくるのか、いつも綺麗な百合の花が風に揺られているのであった。

 




誤字、脱字等ございましたら、ご指摘をお願いします。一話が一番の難産でした(笑
挿絵はオリキャラです。ライトノベル風味にしてみました。

一応アニメと小説は一通り見ましたが、覚えているかと言われたら覚えてませんので、設定の食い違い等ありましたらご指摘をお願いします。また、ステータスに関してはweb版や事典等を参考にレベル性のオンラインゲームであった場合の自分の考察を含めた形に則っております。が、これは違うだろうという意見があればお願いします。
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