次の日の朝、起き上がる為シーツをどかしたら妙に肌寒く、体を見ると裸で若干混乱しかけたが、そういえば下着をあまり汚さない為にと思い裸で寝たんだったと思い出し、何とか声を上げずに持ちこたえ、されど裸という事実に若干恥ずかしさと妙なドキドキ感を味わいながら投げ出されていた下着を着こむ。
そして漆黒のドレスローブを着ようと思い立ったが、どうにもこうにも、村の雰囲気の調和を崩してしまうのではないかという懸念が沸いてきた。
というより、神話級クラスの防具を無防備に晒していたが今日会うのはそう言った冒険稼業で必要となる情報を持っている。というより現役の冒険者に会って話を聞きたいのだ。
商人のスキルで「目利き」が点灯している為物の価値の把握は曖昧だが容易ではある。それを使い、自分の情報をなるべく出さずに動き、この世界のレベルを見たいのだ。
当然本気装備で身を固めてなかったが故に死亡。という事態もあり得るがアセリアは表面上は「なるべく手札を切らずに、この世界のレベルを把握したい」という考えに基づき行動する予定なのだ。
しかし、その反面本心では「まぁ一瞬で逃げる事も可能だし、なんとかなるだろ」という考えもあった。
また日本人気質から「調和を乱したくない」という考えも根幹あり、危険どうこうよりも他人との調和を重んじるという結論を出したのだ。
「んー一応、サービス終了直前だから色々持ってきているはずなんだけど……」
俺の嫁。がコンセプトのキャラなので衣装には拘りを持っていたが故に、様々な装備に手を出した。深淵シリーズはデザイン良し、性能抜群。そしてエロティック良し!
というまさにアセリアの為にあるんじゃないかという防具で、レイドボスがレアドロップするアイテムに、鍛冶師よりデータクリスタルを突っ込めるように拡張してもらい
更に自身でエンチャントを施し完成したのだ。ちなみにサービス終了の数年前に新規で追加されたレイドボスであり、この深淵シリーズを揃えるが故に課金しまくったのも今は思い出である。
因みに「速攻着替え」も付いているので本気になった時点で一瞬で着替えられる。
シリーズ物故に全て揃えると能力ボーナスが基本パッシブスキルで施され、さらにそこから各耐性のデータクリスタルや魔法関連のボーナスも突っ込んであり、かなり完成度が高い品になっている。
……とはいえ、異形種以外はあまり耐性が付与されていないので、基本的にはどの装備品も「状態異常」対策をしていないと、プレイヤーはおろかレイドボスやワールドエネミーに対抗する術は殆どない。ある程度能力を削ろうとも耐性を付けなければ話にならないのだ。
その点でいえば異形種プレイヤーは装備品に様々な能力ボーナスを施せる点が利点だが、とはいえどのモンスターでプレイするかで殆ど道は決まっているのでこのモンスターならこの傾向の確立が高い。という予想のし易さ。それに弱点が分かりやすいという点は対人戦では正直致命的である。
それらを考慮すると攻略wikiに記述の通り「人間種」でのプレイの方が幅が効き、やろうと思えばレベルを初期化し戦士から魔法系に方向転換することも可能な点は魅力だ。
ただ、プレイヤースキルや地形恩恵。ワールドアイテム等によりそれらをひっくり返すことが出来る。
それについて有名なのはギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の41人のギルドメンバー及びナザリック地下大墳墓というダンジョンを改造し作成されたギルド拠点は
1,500名からなるプレイヤーを退けるという偉業であり、さらにかのギルドは全員が「異形種」プレイヤーという事実は、オンラインゲームに絶対は無いという事を改めて認識した出来事でもあった。
「うーん、まぁ無難にエルフっぽく」
アセリアの偏見だがエルフとは「森妖精」であり森とついたら「清楚と自然」をイメージしている。
また、データクリスタルでも「森」というフィールドに関してボーナスがつくように仕上げ、伝説級の防具で条件が揃えば下手な神話級に届きうる能力を有している。
ただし露出度は若干上がり、オフショルダーとネックレスはそのままで威圧感と妖艶さを放っている。
膝上の厚い少し蒼が入っている白いシルクのような滑らかな厚い布地のワンピース型ドレスで、谷間を強調するラインに模られており、胸の入り口にはフリルが小さく添えられている。
また胸の上部を主張するように縁には彩度が低い蒼のラインが入っており、より胸を強調させている。
ドレス部分の前面の天使の抽象デザインが描かれた箇所の真ん中から拳大に分かれており、その縁には鈍く煌く金色の縁取りが膝上まで入っている。そこから背面までスカート状になって、スカートのフレアの部分には金のラインの間に彩度が低い蒼が入っており、金の装飾から少し上部に聖剣の様な模様が入っている。その下にも細い金のラインが入ったスカート部分が見える。
分かれている部分から見える薄い黒のシャツにぎりぎりパンツが隠せる位のショートスカートを履いている。眩しい太ももからの絶対領域を形成する純白のレースが施されているソックスは、蒼と金と白のラインで模様が描かれており、ロイヤルな雰囲気を押し出している。ブーツはワイシャツの襟首の様に外へ折りたたまれている白いブーツだ。
二の腕の半ばからソックスと同様の素材でデザインが施されているロンググローブが装着されている。
どこぞの姫騎士の衣装と思われるほど、清楚でエレガントな雰囲気が滲み出ていた。
基本色の白にアクセントの各色と肌のバランスが絶妙であり、深淵シリーズとは真逆の「清楚」というイメージを押し出しつつ「ちょっぴり色気も」というアクセントを加えた装備品である。
名称は「セラフィック」で、シリーズではないけど一応統一しており、勿論これにも「速攻着替え」のデータクリスタルが用いられている。
「うむ。バッチリだな。さすが俺の嫁」
完全にゲーム感覚で装備しており鏡で見ているからなおさらそう感じているのだろうが、俺の嫁ファクターが強すぎて内心どんな格好でもかわいい。と自負しているから恥ずかしいとは全く考えていないのだ。
そもそも「男」という感覚が「アセリア」というキャラに乗り移り若干薄れつつあるが、本人はまだ自覚がない。
「おっと、杖はっと」
にゅるんと出した杖は身長と同じくらいの長さで柄の部分は黒で地面に接する部分は金色の金属で加工されている。
上部は真ん中に緑色の宝珠があり、ハルバードの刃物の形をしたガード部分を両サイドに対称に設置し、それらを
金色の金属で接続しており、結構重装備に見えるが、選択している職業に残念ながらハルバードをというより、武器を扱う技能は無いので
列記とした杖である。ちなみに杖自体は筋力に任せて普通にぶん回せる程度で、棒術などを修めている訳ではない。
「よし、準備万端」
自身の中でステータスが上昇したという事実を「体感」でき、その効果が万全と判断し、頷く。
これも昨日色々理解した部分であり、ただ原理は解明されておらずただ「そういうもの」という認識である。
故に本当に効果が出ているのかは、正直判断しかねている所もあるが、それでも心配はしていないのだ。
一晩寝れば精神的にもかなり楽になり、若干お気楽な部分が出て来てしまっている為、何とかなると思っているからだ。
「おはようございます」
「おお、よく眠れたかの? 所で、その服は」
「マジックアイテムの袋を持っておりまして、そこに色々収納されているのですよ。その一つです」
「なるほどのー。凄いマジックアイテムを持っているもんじゃ」
リビングに降り、村長がすでに起きていたので社会人の習慣である、職場に来たら朝はもちろん、出勤時は昼でも夜でもおはようございますだ。
そんな思いとは裏腹に村長はアセリアについて考えを巡らせる。
村長自身マジックアイテムの価値はそこまで分からないのが本音であるが、物の出し入れが自由になるのは物凄いマジックアイテムというのは分かる。
では何故そのような人物が身分証明を求めているのか。そこを追求したい欲求もあった。
そう、あったのだが昨日アセリアから渡された金貨を調べたところ通常の金貨2枚分相当の価値という農村では滅多に見られない価値の高い物であり、
それに「口止め料」が含まれていると読み取っている為、アセリアに関して追求しようとはしない。これは夫人にもそう伝えてある。
理由は二つ。一つは、相手の財力。この金貨をたかが一般常識や自身が知り得る国家間の情報、地理や冒険者等の情報を与えただけで、正直この近辺の人間にとっては殆ど価値に値するものではないのは、誰でもわかる。だが実際にはぽんと金貨を出すほどの人物で、その当時の状況を思い出すと、身に着けていた漆黒の服も相当な価値があるものと読み取れる。
つまり、財力があるという事は何か裏でどこかと繋がっているのかもしれない。もしかしたら、何処か知らない国の上位の立場の人物という可能性も残している。
故に失態が無いように、されどいきなり態度を崩し不審がられない様にあくまでも「村長」と「旅人」という立場を貫いているのだ。
二つ目は相手の力量。漆黒の服は冒険に使っていたという話を昨日に聞いている。つまりはあれは「防具」であった可能性が高い。
色々考えられるが、意味しているのは一つ。あの漆黒の服だけで冒険をしてきたという実力だ。
村長は目利きのスキルなど無く、鎧の方が丈夫と考えている。というよりこの世界の殆どの人物がドレスより鎧の方が強いと考えるだろう。
故にそれを傷一つ付いてない状況から察するに相当な実力者とも見て取れる。さらに昨日はオークを3体偶然出会った冒険者と撃退している。
詳しくは村長に語らなかったが、それでも状況から察するに切迫した場面であったのは間違いない。それを切り抜ける程の力がであれば
第2位階の魔法を収めている優秀なマジックキャスターの可能性が高いのだ。
下手に刺激するとその伝手や財力を用いて何か不利益になる事が発生させない様にしたいのは村長として当然の判断であるか。
勿論利益になる事が出来ればそれに越したことはないが、そもそも一般常識を知らない時点で利益に転じる事は難しいと判断せざるを得ないのだ。
その結果「深く追及しない」という結論に至っている。
「朝食は食べるかの?」
「あ、いえ……そこまでして頂く訳には」
「なーに、さきの金貨にしてみれば大したことではないわい」
「金貨……昨日聞き忘れてましたが、貨幣の価値も教えていただけませんか? 少し浮世に疎くて」
「ほほ、森妖精はあまり人間が生活を営んでいる地域には姿を現しませんからな」
(え、そうなの?)「え、ええ」
この世界での森妖精、エルフの扱いは人間国家からはかなり厳しい。とある人物はエルフの奴隷を連れて仕事をしている程だ。
奴隷の証は耳。半分に切られた耳である。その事はアセリアは知らない。勿論、村長は知っている。
「では、朝食を食べながら昨日の続きと行きましょうか」
「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです!」
「いえいえ、美味しく食べてくれて私もうれしいよ」
「村長も、色々教えてくださってありがとうございます!」
「ほほ、分からない所があれば何時でもお聞きくだされ」
「ありがとうございました。お世話になりました」
昨日聞きそびれた、思いついた事を手短に質問をしながら会話に花を咲かせた。
また食事も美味しく、単純に野菜のスープにパンとミルクであったが、それでも天然物の素材は格別であった。
それにスパイスが効いており、パンをスープにつけるとまた味が変化し食が自然と進んでいた。
その中で聞いたのは貨幣の価値、アイテムの価値、その流れから
(……十三英雄、八欲王、六大神)
この世界に伝わる伝説。伝説というのは尾ひれがつくものだ。彼らの偉業や異業。そして力。
だが、今の魔法を広めたのが八欲王というのが伝わっている。
それがどんな魔法なのか、ユグドラシルの魔法なのか、興味が尽きず、これは早く冒険者に聞いてどんな魔法が普及しているのか確認しなければならない。
そう思い、村長宅を後にした。
扉を開けると穏やかな風が流れ、緑の匂いをアセリアにへと運んでくれる。
既に朝日が完全に上り、村の人々は各々の仕事へと邁進しているようで鍬や手で草むしりや、収穫適期になっている作物を収穫していた。
そんな中でアセリアは自分が若干注目されているという認識を持ちながら、されど気にせず村長が言っていた宿屋へと歩いて行った。
造りは2階立て、木製の建物でこの世界ではポピュラーな建築物で特段飛び抜けて良いという所は外観ではない。
しかし、漂ってくる朝食の残り香であろうか、先ほどお腹一杯食べたアセリアの小腹に食欲を訴えかけてくる。
そんな誘惑を振り払いながら、まるで昔のテキサスにあるような簡易式の扉をぎぃと開き外より薄暗い室内へと入っていった。
アセリアの目に飛び込んできたのは、扉のイメージ通りの室内で、広さはさほどないが丸テーブルが複数あり
空席が目立っているが数人の冒険者らしき者たちが遅い朝食を食べていた。
そんな冒険者の姿を見てアセリアはやはり品質的にはレベル1~5程で手に入れることが出来るバンデットアーマーや軽鎧が目立っている。
手にしている剣や槍、弓等も商人レベル5程度の目利きでも強さが理解できるほどの物であり、そこに若干の安心感を覚えた。
ただその中でも目立つ装備をしている男性3名がちらりと見えた。
入ってきた美女の恰好を見て宿屋の店主は冒険者という判断で部屋の空きを確認しようと視線を落とすが、
予想に反して彼女は店主の所ではなく冒険者が朝食を食べ終えたテーブルへと歩いて行った。
驚くほどの美しさ。傾国の美女。女神。
その言葉が当てはまるのは王国の「黄金」の姫君だけかと認識していた冒険者達は、今日でその認識を改めた。
間近で見る美の結晶。ふわりと漂う香り、そして上品な歩き方。どこを切り取っても美しいと称することが出来る。
その着こんでいる服は冒険者の中でも中々お目に掛かれない程の一級品という事が見て取れ、手に持っている杖は
国宝級でも見たことがない大きな宝珠が填め込まれており、そしてネックレスの漆黒と紅い宝珠も同様でその価値を計る事が出来ない程だ。
まさかアダマンタイト級の冒険者か?と疑念が沸いたが、これほどの美しさでアダマンタイト級であれば有名にならなければ可笑しい話である。
「あのー、冒険者の方々でしょうか?」
「あ、ああ。そうだが」
若干前かがみになり、さらりと肩から黒髪が流れ出る。その所作にドギマギしながらどうにか声を上げ、その顔を見る。
造りはまるで神が丹精を込めて作り上げたのだと言われてもまるで不思議じゃない程の造りで、紅い瞳に吸い込まれそうになる。
「すみません。お時間ありましたら色々お聞きしたい事がたくさんあるのですが」
「へ? あ、ああ。依頼なら冒険者組合を通してくれないか? 俺たちを指名なら【ガレオン】向けという事で受付を通してほしい」
冒険者組合での仕事はランクが分かれており、難易度毎に「銅」から始まり「鉄」「銀」「金」「白金」「ミスリル」「オリハルコン」そして最後に「アダマンタイト」と区別されている。
受けられる難易度を依頼を承った冒険者組合が判断し、そして各ランクに適した依頼を用紙に起こし、掲示板等に貼り依頼受諾してくれる冒険者を募るというのが形式だ。
適したランクに分別するのは死亡者を極力減らすというのも大きな要因だが、さらに熟練した冒険者を育成する為でもある。
冒険者というのは消耗品だが、それでもなるべく人材を消費したくない。また、これから伸びる冒険者に無理な依頼をさせて将来の稼ぎを絶つ行為は愚の骨頂である。
そしてこの世界のモンスターは普通に農村や村、町等に侵攻をし住人を食料としたり殺したりするのが日常茶飯事なのだ。
だからこそ、需要は絶えない。それ故冒険者の数が追いついていないのが現状である。溜まりに溜まった依頼は信頼を落とす要因になる。
それ故に強者だけを矢面に立たせるだけでは目先の信頼は得られやすいが、最終的には冒険者が潰れ、不信を買い依頼が来なくなるのだ。
そうならない様に、冒険者組合が冒険者の依頼等をサポートしている。
そういった通常の依頼とは別に、冒険者を指名できる制度も存在しており、いつもの冒険者や信頼ある冒険者、強者と指名する側の理由は多岐に渡る。
つまりは冒険者で名を馳せたりすれば、そういった事が舞い込むのだ。これも通常の依頼とは基本的には変わらないが、指名なのでその依頼は確実にその冒険者に渡るというある意味保証されており、重要度は他の依頼より高いのだ。
そんな冒険者である【ガレオン】は男性3名の少数精鋭で難易度が高いモンスターの撃破や、遠地の素材探し等身軽に手堅くをモットーに活動している。
金クラスの冒険者でも堅実なチームであると称されている。白金クラスもあと一歩というレベルである。
戦士、斥候、魔法詠唱者で構成されており、チームのリーダーである戦士のべリドは王都の御前試合で3回戦を突破するほどの腕前で、彼単体でみると白金クラスの強さを誇る。
得物はロングソードでプレートアーマーを着込んでおり、歴戦の風格を漂わせている。年の頃は30代入ってない位で、金髪の髪を荒々しく切った後のようなごわごわとした髪型である。
では他の二人は足手まといなのかと言えば、それは否とべリドは答えるだろう。彼らが存在しているからこそここまでこれた。そう確信している。
そんな彼らはトブの大森林を中心にオーガ等が活発に行動しているという情報を元に冒険者組合が発注した依頼を遂行中である。
エ・ランテルを出発してここで一晩を過ごし、昼前に出かけ活発化している夜間の時間帯に何があるのかという依頼の為時間を調整していたところである。
「あ、いえ。別に依頼という訳ではないのですが……」
「まぁいいではないかべリドよ。俺たちもどうやって時間を潰そうかと思っていた所じゃないか」
「そうそう、こんな美人のお願いをお断りするのは、男では考えらんないぜ」
堅実な冒険者の対応をするリーダーべリドに対して声を上げる二人。にやにやとアセリアを見る目は邪な念が入っていないことは無いが
別に取って食おうという気はさらさない。美人と話し、時間調整をしつつ意識を高める事が出来るという算段の元、彼らはアセリアのお願いを聞こうとしているのだ。
「まま、座って座って。おーい店主! お水を4人分頂戴!」
「すみません。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて引かれた椅子へと座るアセリアに、べリドは二人に対してため息を吐き、まぁいいか。と割り切ってアセリアを見る。
「それで、聞きたい事ってのはなんだい?」
先ほどまで圧倒されていた美だが、流石に慣れてきたのでいつまでもどもっていたら恰好がつかない。そう思いきりりと表情を変えてアセリアへ問う。
「あ、はい。実はですね冒険者という職業ってどうやってなればいいのでしょうか? 一応、冒険者組合っていう所に登録しないといけないそうでして」
「そうだな。というより、そんな恰好をして冒険者じゃないって……今までどうやって暮らしてたんだ?」
「あー……それは」
そうして若干困りながら下を向くアセリアは、内心焦っていた。それはそうだ村長からは「旅の者」と扱われてそれに乗っかって話を進めていたが
どこから来たのかなんて考えたことも無かった。という思いでどうしようかと悩んでいたが、意外な所から救いの手が差し伸べられた。
「べリド、困っておるではないか。もし言いたくなければ言わなくていいんだぞ? お前さんも話したくない事はあるだろうからな」
「すみません。ただ遠方からの旅人と答えておきます」
ナイス! と内心喜びながら会話の内容からして過去に何かがあった体での遠方からの旅人という事にしておけば、良識や常識がある人からは色々想像が掻き立てられる。
そこからミスリードしてくれれば御の字だな。そうだ、これで行こう。過去を語らないハイエルフの自分かっけーとか思っているアセリアをよそにべリドは若干悲しそうな表情をし
「そう…だな。すまなかった。っと、自己紹介がまだだったな。俺はべリド、チーム【ガレオン】のリーダーで戦士だ」
「俺はレインフォース。見ての通りマジックキャスターだ」
ぺこりとお辞儀をする30代半ばの男性。体格はがっしりとしてべリドより身長が高く180センチに近い。緑色をした厚手のローブの下にはレッグガードがちらりと見え、表面から察せない防御力を有している。
「そして俺はダイルってんだ。レンジャーやってる」
少し軟派な雰囲気を出す茶髪の髪をショートウルフで仕上げている男で、弓矢を所持し軽鎧を装備している。
「アセリアと申します。私も見ての通りマジックキャスターです」
「それで、冒険者だったな。冒険者になるには各都市や街、需要がある村等にある冒険者組合へ登録すれば身分保証がなくとも誰でもなれる」
なるほど、と相槌を打つ。ここまではちらりと聞いた村長の話と同じ情報であるから彼は嘘はついている可能性が低い。という線が見えてきた。
「ここから近いのはエ・ランテルなんだが」
「あ、身分証明が出来ないので弾かれました」
「だろうな。あそこはバハルス帝国や法国らと国境が近い要塞都市だから検問は通常の都市等に比べ厳しい」
水が配られたので、それに口を付け続ける。
「この村も冒険者に需要があるのだが、近くにエ・ランテルがあるからここに冒険者組合は存在していない。エ・ランテル以外で近くだと徒歩で二日って所の町に存在しているが…」
「身分証明が出来ないからそれも難しいと」
「ああ、まぁ入れない事は無いがあまりよろしく無い手段を取らざるを得ない」
「という事は入った後に身分証明を提示する必要は無いという事でしょうか」
「そう……だな。まぁ役所や貴族宅等に用がある際は必要になるだろうが、基本的には必要ないな」
「なるほど」
これで門前払いはほぼ無いと言っても過言ではない。転移でも完全不知化や時間停止で侵入しても問題ない事に内心喜びを隠せないアセリア。
都市に入れることの意味は大きい。まずこの世界の文明レベルの確認、そしてアイテム等の確認でどれ位のレベルが必要となっている世界なのかの把握が可能である。
それにより生活基盤の構築にも繋がり、さらに冒険者組合への登録で身分証明の確保。なによりそんな侵入方法でも不審者として対応されないのが大きい。
「しかし、素晴らしい装備であるな。もしかしてさぞ遠方では有名であったのでは?」
レインフォースがアセリアの装備と太ももと胸元そして、杖を見てそう発言する。
「…そう、ですね。そこそこ名は通ってるかと思います」
事実である。ただし戦闘関連はギルドが解体された後に有名になった位で何方かと言えば定点でアイテムを売っている。という点で有名であった。
また、ワールド・ガーディアンも持っていたのでそれに関しても一応サイトとかで名前が挙がる程である。
「同じマジックキャスターとして羨ましい限りだ。ちなみに第何位階までの魔法を使えるのだろうか?」
「すみません。遠方の国からなので此方の魔法体系と同じか、まず確認したいので少し魔法について教えていただけませんか?」
「ふむ……魔法については500年前に八欲王が伝えたとされる位階魔法で、現段階で最高の使い手はバハルス帝国のフールーダ・パラダインという人物が第6位階の魔法が人類最高である」
「第6位階?……ちなみに、レインフォースさんはどのような魔法を?」
位階の概念は同じ様だが、人類最高が6位階というのは疑問に残る。そもそもユグドラシルでは8位階が普通に使えないとマジックキャスターとして失格である。
レイドボス等にすら最低8位階の魔法をぶつけないとダメージカットされるからだ。普通の雑魚でも第6位階の魔法を無効化するアンデッドが存在している程だ。
名称はスケリトルドラゴン。骨が集合してドラゴンの形を形成したアンデッドであるが、アセリアの場合普通に撲殺できる雑魚である。
そして500年前に伝えられたという魔法。そこが妙に引っかかる。他のゲームでは普通に魔法というカテゴリーで強さは術者依存の魔法がRPG等では主流であり
位階魔法という括りは中々お目に掛からないはずだが、ただし魔法の内容を知らなければ内容はまるっきし違うのかもしれない。
そう思いアセリアは質問した。
「私は第2位階魔法まで行使できる」
「この歳で第2位階まで使える人間はかなり少ないんだぜ。レインフォースのミドル・キュアウーンズでどれ位助かったか……」
「…ほ、ほう。素晴らしい才能の持ち主なのですね」
ミドル・キュアウーンズは確かにユグドラシルにも存在している第2位階魔法だ。だがそれだとたまたま同じ魔法なのかもしれない。
「もしかして、アンチトードも使用可能に?」
「うむ。まぁ、たまたまその才能に恵まれただけだ。それでアセリア殿はどれ位まで?」
同じマジックキャスターで興味津々らしく、はよ教えろという雰囲気がレインフォースから漂っている。
厳つい顔をしながらガン見されると中々プレッシャーが凄い。そしてアンチトードも同じ2位階の魔法という事実でユグドラシルとほぼ同じ可能性が高いという結論に至った。
さらに、2位階でかなり希少な使い手という事実はアセリアにとって想定外であった。
「あー、私は……3位階魔法まで使えます」
「3位!? さすが森妖精と言った所かそれとも、その才能に称賛を送るべきか」
「なるほど、納得だ」
「ヒュー。アセリアさんはすごい使い手だな!」
「あ、あははは。ありがとうございます」
やばい。レベル低すぎる。そう思ったアセリアは悪くない。とはいえゲームとリアルではレベリングという行為に対しての危険度が天と地程の差がある。
ゲームではレベルが下がるのを気にすればいいが、現実では死だ。どうしても慎重にそしてコツコツと堅実に強くなるべきである。
危険を冒して命を捨てるなんて言うのは愚の骨頂だ。
「あの、死者蘇生の魔法って存在しているのでしょうか?」
ずっと気にしていた事を漸く口にする。
「あー……確か、アダマンタイト級冒険者の蒼の薔薇リーダーが第5位階の魔法で死者蘇生が出来るって話だ」
「あそこまでいけば英雄級である。一国に一人行使できる者が居ればいい方だろう」
「なるほど、蘇生の際に何か制限ってあるのでしょうか?」
「うむ。言伝だが死者蘇生できる条件が鉄クラス以下の冒険者だと生命力が足りずに灰になってしまうようだ」
「!? なるほど。ありがとうございます」
アセリアは納得した。恐らくレベル5以下の人物に蘇生魔法をかけると灰になるのだろう。
つまりアセリアが蘇生魔法をかけた人物はユグドラシルでいうレベル5以下なのだろう。
そして鉄クラス以下が不可という事であれば鉄クラスラインはユグドラシルでいえば10レベルも行っていないことになる。
その事実にアセリアはこれは俺tueeee!が出来るのではと思うが、そこは自重しなくてはならないと思いなおす。
というより、まずマジックキャスターとして3位階までしか行使できないなんてという絶望が大きい。
人目につかなければなんとでもなるが、人目につくところで目立つ行動は確実に避けないといけないのだ。
力は災いを呼び寄せる。
権力でも財力でもそれらは同じだ。力があれば何か厄介事がついて回る。有名になればPKされやすいのと同じようなことだ。
彼らみたいに純粋に羨望程度ならどうでもいいのだが、嫉妬等の負の感情に切り替われば厄介である。
故に自重して3位階までは守らなければならないなと、自身で納得させたのだ。
但し、ケースバイケースでという言葉が頭につくが。
「冒険者になりたいならこの【ガレオン】に入らないか? 俺が手取り足取り教えてやるぜ」
「何下心丸見えに勧誘してるんだ。と、言いたい所だがマジックキャスターは多くいて全く損は無い。どうだ?」
「うむ。俺も色々魔法を教えて欲しい」
色々打算はある。まず彼らにとって3位階魔法の使い手は滅多にいなく、その戦闘能力は計り知れない。
戦力としては恐らく全員で掛かっても倒せるか倒せないか。そんな隔絶した実力差がある可能性もある。
ただ、女性を入れる事によりチームの雰囲気が違う感じになり、不仲を起こす可能性はある。
しかしそれを考慮しても3位階は魅力的だ。勿論容姿も。
「すみません。ここまで色々お世話になりながらその件に関してはお断りさせて頂きます」
冒険者登録に身分証明や紹介状等の類が必要であれば考慮すべき案件であったが、何もいらずに登録が出来る時点で潜入して実行すればリスクが少ない。
この判断は当然の結果であったし、レベルが低いのでチームに入っても収穫する物が少ないとも判断した結果だ。
「ええー」
「まぁ仕方がないぞダイルよ。男所帯だしな」
「そう……か、残念だ。ただ、何か困ったことがあったら声を掛けてくれよな。特別価格で承るぜ」
「ありがとうございます。その際は声を掛けたいと思いますのでよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、水を一口飲む。温いことに若干不満を覚えるが、仕方がない。
その後、冒険者はあまり夢がない職業だという事を色々聞いて発覚し落ち込んだ姿に笑われるが、閑話休題
「けど、3位階かー……そうだ! これから俺達トブの大森林で生態調査をするんだけど」
「おい! 依頼は基本的に無関係な人に伝えてはいけないんだぞ?」
「そりゃ知ってるけど、今回に限っては戦力が多い方がいいだろ?」
「まぁ……な」
「それでしたら、是非。情報提供の代わりと思っていただければ」
基本的に問題ない依頼を遂行している自覚は彼らにはある。ただ、用心に用心を重ねて越したことがないというのは確かだ。
ここまでの情報提供料とすれば落とし処ではいいだろうし、冒険者という職についても色々知れるだろう。それにダインの言う通り確かに今回は数が必要だ。
調査といっても気づいた点等の情報をどれだけ持ち帰れるかにかかっている。故に人数が多いに越したことないのだ。
そう思いレインフォースを見るべリド。そして頷くレインフォース。
アセリアの性格からして確かに無料というのは心苦しいので素直に受ける。金品という線も考えていたが丁度自身の力がどれほどか確認できる。
さらに現役の冒険者の強さも確認できると一石二鳥である。乗らない手は無かった。
「さて、そうと決まれば早速行くか。アセリアさんは準備大丈夫なのか?」
3位階魔法が使えるという事実だけでさん付けで呼ばれることにこそばゆく感じるアセリアだが、まぁ悪い気はしないと思い、受け入れながら頷く。
「よし、じゃあいい時間だしそろそろ行くか」
「うっし! アセリアちゃん任せて。俺がモンスターを通さないから安心して魔法を撃ってくれよ!」
「それはべリドの役目であろうが。まったく」
「ふふ、それではよろしくお願いします」
そうしてアセリア達はトブの大森林に向けて宿屋を出立したのであった。
さらさらと流れる風に呼応するかのように草達が歌を奏でるようにその身を鳴らす。
空も地もそして流れる川の水も本当に素晴らしい自然だ。この出会いに感謝をしながらアセリアは彼らの後に着いていくのであった。
誤字脱字、設定違い等ございましたら、ご指摘をよろしくお願いします。
もう挿絵の服装じゃないという。
誤字報告ありがとうございます。