オバロ世界を生きぬきたい   作:モーリン

4 / 6
4話 冒険者

トブの大森林。アゼルリシア山脈の南端の麓を取り囲むように広がっている大森林である。

探検する者が少なく未知なる部分が広がっている森林で、人の手は加えられていない。

その為、希少な薬草等が多数存在しており、薬師にとっては宝庫ともいえる場所であろう。

 

その分危険も多く、この森林からモンスターが現れる事は少なくなく、近隣の村にとっては恐怖の対象でしかならないのだ。

 

更に最近モンスターが活発に活動をしており、近隣の村にも被害が発生している。今まではそこまで多くのモンスターが森林外に出たという情報は出回っていない。

故に今回【ガレオン】チームが先だってトブの大森林の南西側から調査を仕掛けるのだ。とはいえ威力偵察の類の位置づけではないので、広く浅く

そしてマッピングを主として活動方針を決めている。

 

鬱蒼と茂っている森は夜間になると月の光ですら通さず、暗い雑木林を踏破しないといけない。だがそこは魔法のライトで周囲を照らしつつ行動している。

何故夜での活動なのかは、情報の多くが朝方等での被害が大きいという点で共通している。つまりモンスターの移動時間などを考慮すると、夜間に何かが起こっている可能性が高い。

よって、それらを調べる為に危険を承知で夜間での行動となる。

 

その為銅や鉄、銀等の低レベルではなく、実績がある金クラスの依頼難易度となっているのだ。

 

「まーた敵だぜ」

「ったく、こうも数が多いと嫌になるな」

「アセリア殿が居なければ既に撤退していた程だ」

「あ、あはは」

 

そうして気合を入れなおし弓矢を構える。これで4回目のゴブリンとオーガの襲撃だ。

数にして合計10程だが、オーガの比率が多く、これまでのゴブリンが中心ではない構成に眉を顰めるダイル。

 

「【集団体力回復(マス・マイナーリバイタル)】」

 

第3位階魔法を標的を分散させての使用。アセリアの魔力も相まってかなりの回復量だが、アセリア自身はマジックアイテムで疲れを感じないので必要ないが。

 

「第3位階魔法を拡散させるとは、流石だ」

「うーん、アセリアちゃんの気持ちが俺に伝わってくるぜ!」

「戯言は置いとけ、来るぞ!」

 

どどどどと地鳴りを響かせながら、暗闇から現れるオーガ達は森の木をものともせずにこちらへと突っ込んできている

その集団にアセリアが面倒だと思いながら足元に魔法陣を展開させ

 

「【魔法二重化(ツインマジック)】【雷撃(ライトニング)】」

 

杖より青白く轟く雷撃が逆巻き、オーガ集団に向けて放たれた瞬間に二手に分かれ、樹木を貫通しながらオーガ4体を葬る。

それを信じて、べリドが突っ込む際にレインフォースが彼に補助魔法を多数かけ、ダイルが弓矢でゴブリンを射殺する。

 

「おおおおお!」

 

補助魔法が完璧に入ったべリドの速度はミスリル級の冒険者にも届きうる速度を初速から出し、それに合わせてオーガの棍棒が振り下ろされるが

 

「武技【流水加速】!」

 

更に速度を上げ、振り下ろされる棍棒を潜りながらオーガの脚を両断し、その機動力を奪いながら次のオーガの脚も両断していく。

それを邪魔されない様に残りのゴブリンを射殺したところで、レインフォースのマジックアローとアセリアのライトニングが倒れた2体のオーガを貫き、事態は沈静化された。

接敵から僅か2分の出来事である。

 

「ったく、体力回復魔法が3位階魔法にあって助かったよ。まったく」

 

ダイルが周囲に敵が残っていないのを確認し、肩を竦めながらそうつぶやく。

既に2回も使用してもらっているのだ。

 

「それに、火力も兼務してもらっているのだ……まだ使えそうか?」

「ええ、まだ余力はありますよ」

「あれだけの魔法を使用しながらまだ余力があるのは、驚愕だな」

 

実の所アセリアは全くMPを消費していない。いや、それには語弊がある。MPは消費しているが自然回復で全回復しているのだ。

アセリアは元々ソロプレイヤーのマジックキャスターである。通常オンラインゲームはパーティーを組んで世界を冒険する。リスク分散もあるが一番重要なのは継戦能力。それぞれ回復、補助、魔法、近接等に特化したチームで組めば互いにフォロー出来、継戦能力が高まる。

 

そして各々の判断能力と知識や経験でその場を切り抜けられる可能性も出てくるのだ。

 

だがアセリアは違う。そもそもパーティーを組んでぎすぎすした雰囲気を味わわない為に、そしていつログインしても誰にも何も言われない様にプレイしていたのだ。

とはいえ、レイドボスやワールドエネミー撃破の場合やギルド等に所属していた期間はパーティーを組んでいたが、基本的にソロ向けの構成だ。

故にどんなパーティーでもある程度活躍出来る程のスペックを誇る。また「ワールド・ガーディアン」の職業にも就いているので、マジックキャスターとしてはユグドラシル内でも上位だ。

 

そして燃費が悪い。これを解消する為に魔力を多少犠牲にしMPの自然回復能力を大幅に向上させるデータクリスタルと消費MP削減のデータクリスタルを多数突っ込んでいる。

元々魔力が高いハイエルフなので「廃火力」とは言えないが、それでも十分な火力を有している。……全盛期の頃は「廃火力」であったが。

そして自身でMP自然回復アイテムを生み出せる関係上、マジックキャスターの生命線のMPがほぼ尽きない。

 

そう、マジックキャスターがソロで戦う上で一番重要なのがMPだとアセリアは考えている。

通常の戦士などはHPがあれば高火力が叩き出せるスキルを使用可能だ。だがマジックキャスターは違う。

いくらレベルがカンストしていようとも、魔法職に特化した種族で筋力等は戦闘職のレベル30ライン以下で魔法で補助を掛けてもレベル30後半程にしかならない。

装備で魔法防御や物理防御は高いが、相手にダメージを与えられないのだ。

 

つまりMPがないマジックキャスターは雑魚。

 

一応「完璧なる戦士」で戦士職へ変わる事が出来るが、それは最後の手段や相手の意表を突く為の魔法で魔法職が通常戦闘をする為の物ではない。

しかも魔法が使えなくなるので劣化にもつながる恐れがある。神話級の武具で特性や実用性があるスキルのデータを突っ込んだ物が用意出来ればその限りではないが

そもそも神話級は長年やっているアセリアでさえ「深淵」シリーズを揃えるのがやっとであったのだ。そんな武具は持っていない。

 

というよりそんな貴重なデータクリスタル等があれば自身に適した武具を作成するのが通常であろう。

一応手持ちのアイテム類で伝説級レベルの武具は作成可能だが、必要に駆られた場合に使うのと使用用途が違うので、本当に必要に駆られた場合にのみ使う事としている。

 

しかし今はそうじゃない。MPにより回復、攻撃、補助と繋げられるのだ。むしろ場合によればHPよりMPが重要な場合も少なくない。

 

それらを考慮した結果、アセリアはMP回復に重きを置いた武具作成をしているのだ。

 

「そうですね。とはいえ、そういった自然回復能力を向上させるマジックアイテムを装備しているので」

 

とりあえずマジックアイテムのせいにしておけば何とかなるだろ的な考えでそう発言する。

 

「何と!? それは、伝説級のマジックアイテムだ……」

 

マジックキャスターであるレインフォースが唾を飛ばすほど驚きを隠せなかった。

マジックキャスターなら喉から手が出る程欲しいものである。これでどれだけの困難を潜り抜けられるか、想像に難くない。

また火力面も大きく向上が可能でさらに、補助魔法も拡大が可能で、全員の生存能力も向上される。

 

とはいえ、効果的には的を射ている。膨大なデータ量な為、ユグドラシルでも伝説級の価値である。

通常のMP回復能力向上では中級レベルからあるが、伝説級ともなれば自然回復能力が天と地との差がある。

それを幾重にも施しているのだ、パッシブスキルが重複しているが問題ない。

 

「はい。大事な物……ですね」

 

アセリアにとっては生命線だ。これが無ければ100%の力を発揮できないといっても過言ではない。

そうして指輪を見るアセリアは冷たい表情の中に憂いを現す伏目がちな瞳。そして語らない過去。

そこから察せられる結論は一つ

 

「……。っとそういえば誰か何かに気づいたか?」

 

少しどんよりとした雰囲気が出てきそうであったため、べリドは話題の方向転換をした。

そう今回はモンスター討伐ではなく、情報収集やマッピングをする為に来ているのだ。

マッピングは恐ろしく効率が悪いが、このモンスターが活発化した原因が何なのか、それも探りに来ているのだ。

 

「いや、夜間だからまだこの規模ならあり得そうな襲撃回数と数だったな」

「うむ。特に異変は無い」

(確かに……な)

 

べリドも二人の意見に同意だった。夜間というモンスターが活発に活動している時間帯であればこの結果を予想できる。

一応マッピングも進めているが、今回はモンスター討伐という事で危険を減らした。という結果を持ち帰るのが無難とも思えた。

森に入ってすでに数時間だ。アセリアが居なければここまで探索できなかったのだ、この結果で満足をしなければならないと彼は考えている。

 

「【兎の耳(ラビットイアー)】」

 

ぴょこんとアセリアの頭に兎の耳が生えて、ぴくぴくと動く。補助魔法で索敵魔法や探知魔法などは当然覚えているが、位階が高く人前では使えない。

よって人前で発動できる周囲探索能力を有している魔法はアセリアの中ではこれしかない。一応無詠唱で発動も出来るが、その選択肢はあり得ない。

何故なら普通の魔法で感知できない事象を感知しても、その事実を話す際どう伝えたらいいか分からないのも要因だ。

 

マジックアイテムを使っている。というなら最初から情報を提供しなければ不自然極まりない。

そもそも、アセリアの真意は彼らの仕事の手伝いではなく、この世界の冒険者とモンスターの強さを計る事にある。

ゴブリン、オーク、オーガ等ウルフ系等割とこの世界でポピュラーなモンスターを倒しているが、アセリアの感想は

 

(弱いなぁ……)

 

であった。まず武技なる物は非常に興味深いが、ユグドラシルではスキルに該当すると思われる。とはいえ【流水加速】の効果は是非とも物にしたいと思っているが。

モンスターのレベルは平均で5ライン。中には強い物もいたがそのすべてが10以下の雑魚。そして冒険者各位はレベルが12ライン。武技使用中は数レベル上昇するがその程度。

これが冒険者の中位の実力というとそれほど強くは無いというより、雑魚だろうという認識である。

 

ただ、まだ上位を見たことは無いのだ。全員が雑魚という事は無いと思うが

 

(……第3位階でも希少ってある意味そっちの方が希少だよほんと)

 

内心ため息を吐きながら、一応索敵および情報収集を行う。とはいえ聴覚の強化を図るだけで壁の向こう等に隠れている者を見つけるために使用する魔法だ。

兎の耳が生えたアセリアを見る目が熱いしかわいいとか声が聞こえるが、それは気にせずに聴覚に集中する。

 

「……誰かが戦闘している音が聞こえます。これは……人?」

「何?……妙だな。こんな時間帯で活動しているのであれば冒険者だとは思うが、普通こんなタイミングはあり得ん」

 

その通り、特殊な依頼以外は夜は基本的に積極的に動かないのが通常である。危険が多いからだ。討伐任務等は特に安全を極力確保したうえでの戦闘が望ましい。

よって朝方から夕方の間に蹴りを付けるのが大半である。

 

「とりあえず、どうしますか?」

 

何処か機械的な兎の耳を付けながらアセリアはべリドに問う。アセリアとしては正直どっちでもいいと思っている。

体力やMP的にも全然余裕だし、ちゃっかり【暗視(ナイトビジョン)】の魔法を自身のみに掛けているので夜目も利くのだ。

 

「……行こう。もしかしたら困っているかもしれないし、情報を持っているかもしれない」

「おう! さっさと行って野営にしようぜ」

「うむ。回復してもらっているが流石に精神的にも疲れてきたからの」

「了解です」

 

リーダーであるべリドの判断に従い全員が理解を示す。撤退も考慮していたが流石にこれでは依頼成功という判断にはならないだろうと思っているのだ。

そうしてすべての討伐証を採取したダイルを先頭に、アセリアが示した方面へと一行が歩いて行った。

 

 

 

 

 

「さて、この状況は何だろうか」

 

草むらの影にひっそりと全員で隠れながらそうべリドがつぶやく。

このトブの大森林でゴブリンやオーガを背中に綺麗な女性達が天使相手に剣を向けているという状況。

その光景に息を潜め潜伏する【ガレオン】距離的には結構離れているので恐らく見つかっては居ないと彼らは判断している。

が、アセリアにとってそんなことはどうでもいいと思うほどの情景である。

 

「アーク・エンジェル・フレイム……?」

 

ユグドラシルで召喚される天使系のモンスターである。姿形が全て一致している点についてこの世界の魔法とユグドラシルの魔法の類似性を上げる。

というより殆ど共通しているといっても過言ではないが、全てが同じという事ではないのは確かであった。

第0位階魔法という魔法が存在しており、日常で便利な魔法が主になっている。これはユグドラシルには存在していない魔法だ。

 

「知っているのか? アセリアさん」

「え、ええ。第3位階魔法で召喚することが出来る天使です」

 

そんな考えをしていた中で、隣のべリドがアセリアに投げかけ、それに答える。

強さはアセリアにとって何百何千何万とポップしても時間がかかるが杖一本ですべて撲殺できる。

また、超位魔法や10位階魔法、自身の切り札などを切れば一瞬でけりがつくが、もちろんそんなことはしない。

 

というよりどちらが敵で何方が味方か分からない現状どうしようもない。

なので情報収集のためにどちらかが動きや言葉を発していれば理解もしやすいのだが、実力が拮抗しているのか、互いに睨み合っているだけである。

そしてべリドを見るアセリア。その視線に気づかずに天使たちを凝視していた。

 

「天使……初めて見るが、あの輝きは……」

「撤退をお勧めします」

 

そして動けない理由の中で最大なのがこの【ガレオン】達が確実に死ぬからだ。それだけは避けたい。

勝手に動いたら何とか庇いながら戦うが、それで命を落とされたら寝覚めが悪い。

しかし、彼らも実力差を理解しているのか誰一人として動く気配はない。

 

故に撤退を勧めた。まだ気づかれてない内に撤退をして今日の事は忘れる。女性が死のうが天使が撃退されようがアセリアにとってあまり関係の無い事である。

「人間」だった頃の感覚であれば、恐らく戦場に乱入して是非を問うたであろうが「アセリア」に憑依してからそういう気持ちは殆どなくなっている。

非常になりきれる面もあるのだ。これはこれでいいとアセリアは自覚している。

 

「そう……だな。撤退だ」

「一応、殿は受け持ちますので全員が慎重に撤退した後に私も撤退します」

「それではアセリア殿が」

「理由は二つ。まず一つ目は私はあの天使を倒せますが申し訳ありませんが、あなた方全員でも一体倒せるかどうかでしょう。そして二つ目。私は【浮遊】を使用でき音もなく撤退が可能だからです」

 

そしてアセリアは隠したが最後の理由に、もし戦闘になった際、ある程度強さを開放しながら戦わないと面倒くさそうだからだ。

あれが全力と考えるのは早計である。もしかしたら「主天使」クラスの天使を召喚できる可能性もあるし、最悪「熾天使」クラスを召喚されたら間違いなく全開で挑まないと勝てない。

とはいえ、防御力には自信があるのでまず負けることも無いが。

 

レインフォースの言葉を遮ってそう言い切り、全員を見るアセリアの目は冷たかった。

勿論、本人的には普通に見た感覚であるが。彼らは冷たい目で見られて自分たちが足手まといだという事を悟ったのだ。

 

「……了解した。よし、全員慎重に撤退するぞ」

 

頷いて理解を示す二人に頷き返すべリド、そして視線を天使たちに向けるアセリアから外して慎重に慎重に彼らは撤退へと行動を移していった。

 

その間、ゴブリンを庇っている女性達は剣を向けながら天使を召喚したサモナー達のリーダー的な人物と舌戦を繰り広げていた。

 

「亜人達もこうして生活を営んでいるわ。それに村を形成するゴブリンは基本的に人を襲わない!」

「だから? 人を襲わないと言っても、野生に帰ればその欲を振りまく邪悪なモンスターだ。現に被害にあっている人間がいるのも事実」

 

女性は3人でその全員が商人レベル5程度の目利きでは価値が完全に把握できない武具を装備している。つまりは上級以上の装備という可能性が高い。

一応中級までは目利きできるがそれ以上となると曖昧な価値しか分からなくなる。とはいえ、そういったアイテムや武具は後で魔法で鑑定すれば事足りる。

 

「それはそれ、これはこれ。全てを0と100で判断しないでくれるかしら」

「君こそ理解して欲しい。我々は人類の為に彼らを殲滅しているだけだ。これは必要なことだ……そして、これも必要なことだ」

 

その台詞を言った瞬間にアセリア達……正確に言えばアセリアの背後の【ガレオン】達に向けて手を構え

 

「【雷撃(ライトニング)】」

 

紫電が彼らに襲い掛かる。さすがにこれを受ければ彼らの命も危ういと判断し、本当に渋々とその杖で紫電の先端を打ち払い、立ち上がる

 

「ほう、森妖精か。……まぁいい。右翼各員、天使達を彼の者たちへ向け抹殺せよ」

「な!? どうして関係ない人を!?」

「関係ない? どうしてそんなことが言える? 君と同じ冒険者の証のプレートを付けているのだ、君たちの援軍かもしれないじゃないか」

「そんな訳ないだろうが!! だいたい、あそこの森妖精は何もつけていないぜ! おい! 逃げろ!」

 

容姿的には大きな男かと思ったが、その声は女性の声であり、大剣を構えながらそう声を上げ、必死さがアセリア達に伝わってくる。

しかし相手は待ってはくれない、数十体はいた天使たちの中で8体程アセリア達へと空を疾走してくる。速度は圧倒的に天使たちの方が速い。

ちらりと後ろを見るアセリア。そこには果敢にも立ち向かおうと構える3人の姿が目に映りそれに対して苛立ちが募り、それを発散するかのように魔法を行使した。

 

「【魔法二重最強化(ツイン・マキシマイズマジック)】【雷撃(ライトニング)】」

 

リーダーらしき人物が放った雷撃の数倍は大きい轟く紫電を両手から二つ射出し4体の天使を貫きその身を光へと還す瞬間に

 

「【再魔法(リロード・マジック)】」

 

更にタイムロスをほぼ0で先ほどと全く同じ魔法を放ち残りの天使たちを一瞬で光へと還した。

 

「ば、馬鹿な」

「ありえん!」

「狼狽えるな! 再度天使を召喚し、態勢を立て直せ」

 

そんな言葉がアセリアの耳に届くがそんな事より撤退をしていなかった彼らへの苛立ちを解放するように声を上げる

 

「撤退。と進言したはずです。私を心配するようでしたらそれは無用です」

「わ、分かった。では殿を任せました!」

 

物凄く私不機嫌ですオーラを出しながらベルグにそう言い放つ様は背後に「ゴゴゴ…」とついていても可笑しくない程の威圧感を感じ

今度こそ素直に退却をしていった【ガレオン】にため息を吐き、警戒の目で此方をみる金髪の短髪の男に声を掛ける

 

「すみません。活発化するモンスターの調査をしていたのですが、原因はあなた方でよろしいのでしょうか?」

「……なるほど、確かにその一因は我々にあるようだが、それは大義の前では些細な事だ」

 

金髪の男……陽光聖典が隊長のニグンはそれを認めている。森での亜人種討伐での討ち漏らしが情報を拡散して森から脱出していけば答えは出る。

だがそれがどうしたというのだ。王国の村人の死なぞ人類の危機に比べれば塵に等しい。そういう認識である。

 

「……そうですか、じゃあ帰っていいですか?」

「…は?」

「…え?」

 

少し考えた素振りからの、突然の帰宅していいですか?という問いに言葉を無くす彼らは何も悪くない。状況的に切迫した雰囲気をだしていたのだ。

その中で緊張感が完全に抜けた言葉でそして完全に空気が読めない発言であるが、アセリアの胸中を完璧に表した言葉である。

何故ならどちらが敵か味方か分からないからだ。とりあえずニグンに対しては、最近モンスターが活発化した状況を作り出した元凶であるが

やっている事は間違いではないとアセリアは理解を示せる。ただし、共感はできずそしてアセリアに対して天使を向けて来た事に対して仲間ではない。という認識である。

 

次に背後に剣を浮かせている人間の主張については共感は出来るが理解できない。そもそも亜人の村を守って利益になる事がまるでないのだ。

が、アセリアは理解できないだけだがトブの大森林のパワーバランスが傾く事を危惧しているから彼らを守っているのだ。それが傾く事で将来的には人間が襲われる要因になる得るからだ。

勿論、パワーバランスが崩れるのはニグン達も百も承知だ。しかし、そもそもこの辺りの亜人達を殲滅する予定だ。パワーバランス以前の問題なのでそれに関しては問題は無い。という認識でもある。集落を形成するゴブリンを間引くという事は人間にとって悪い事ではないし、これもパワーバランスを取る事が出来る一因にもなっているのも確かだが、ひっそりと暮らしているゴブリン達も存在しており、まさしく今襲っている集落がそれなのだ。

 

だがアセリアはそういった事情はまだ分からない。ただ、このまま彼らが争いどちらが死んでも生きても、今のアセリアにとってはあまり関係ない事象という事と苛立ちがあり、さっさと帰って自由気ままに冒険者になりたいと思っているのだ。

 

とはいえ、心の奥ではこのまま立ち去るのはどうよ? という疑問がふつふつと沸いて出て来ているのも確かだ。

さらに自身の能力を考えれば、このまま撤退しても益になる事は少ないとも判断している。

 

ぶっちゃけて言えばアセリアも判断を迷っている状態だ。

 

故にこの一石。状況がどちらかに転がればそちらに着き貸しを作れるかもしれない。そんな思いでの一石だ。

 

「い、いきなり何を言い出すのよ」

「理由は二つ。状況的に私たちは無関係である。あなた方が何について争っているか興味がない」

「ふん! 構わん。あの森妖精共々蒼の薔薇の小娘どもを始末するぞ」

「……蒼の薔薇?」

 

蒼の薔薇、アセリアが記憶しているのは第5位階魔法を行使できる者がおりそしてアダマンタイト級の冒険者である。

五人一組と聞いていたが、二人足りないのは殺されたのか、それとも現状居ないのか、激しく争った形跡が無い所から読み取るに最初から居ない可能性が高い。

そう結論をはじき出し、アダマンタイト級の冒険者に推薦もらえたらもしかして単身で堂々と都市へ入れるんじゃないのか。

 

もしかしたらとんとん拍子でアダマンタイト級になり質の高い情報を取得できるのではないのだろうか。

するとどうなるか、決まっている。高い生活基盤の構築、集まる鮮度や質の高い情報、そして冒険。

夢がないと思っていたが、生活基盤やこの世界のコネクションを作る上でやはり冒険者というのは都合がいい。

 

まず国の不介入という時点で素晴らしいの一言だ。勿論、必ずという言葉はつかないがそれでも厄介ごとが回っても冒険者組合へ申し付ければ何とかなりそうだとアセリアは考える。

 

そんな思いを馳せていると、一体の天使が光る剣を振り下ろそうとしているのがアセリアの目に入る。蒼の薔薇の面々が何か言っているがそれを片手で受け止め、下へと叩き落し頭部を踏みつぶした。

今度こそ驚愕の目でアセリアを見るニグンや蒼の薔薇をよそに、踏みつぶした天使が光へと還りながら、静寂した空気の中で蒼の薔薇の方へにやりとした顔を向ける。

 

「私を雇いませんか? 報酬は冒険者組合への推薦で」

「雇う」

 

オレンジ色の髪を後ろに無造作に束ね、箒のようにぼさっと広がっておりそれを青いリボンでくくっている女性が親指を立てながらアセリアの問いに即答した。

その際にアセリアへ向けていた目の色が若干処ではなくキラキラと輝いていてたのは気のせいではない。

 

「ちょっとティア!?」

「美人だし」

 

親指を立ててアセリアへと向けてそう返事をする。返事をする人間が間違っていなくはない。

 

「交渉成立だね」

「交渉じゃないし! っていうか、何あなたも事を進めているのよ!」

 

「何を遊んでいるのだね?」

 

「っ!?」

 

蒼の薔薇のリーダー……ラキュースとマジックアイテムの全身鎧を纏っている筋骨隆々の女性。ガガーランが意識した瞬間に、天使と魔法の攻撃が彼女たちへと殺到した。

それはまるで協奏曲のように綿密に連携が取れた軌道で、魔法が己に弾着を果たしダメージを覚悟に武技で受け止めようと構えるが

 

「【魔法盾(マジック・シールド)】」

 

全員の前に白く輝く半透明な盾が身を守るように出現し、殺到した全ての魔法を罅一つなく遮る、その事実を確認した三人は素早い。

殺到した魔法をすべて無視し飛来してくる天使を、一人は飛来する剣で、一人は武技でそして一人はその細い胴体部を両断し、陣形を形成する。

だがニグンもその程度はおおよそ予想済みである。

 

蒼の薔薇の正義感の逆鱗に触れ敵対したが、油断ならない相手にさらに第3位階魔法を卓越に操り素手で第3位階の天使を撃滅した森妖精が加わりもはや手加減等無い。

 

「各位、右翼の天使であの森妖精へ波状的に強襲を仕掛けよ。隙が出来るまで時間稼ぎをするのだ。残りの者で蒼の薔薇のラキュースを狙え。回復させる隙を与えるな」

「了解!」

 

なるほど、とアセリアは理解する。脅威度を蒼の薔薇=アセリアという認識に改めさらにその中で序列をラキュース、アセリア、ティア、ガガーランに定めている。

まずは回復魔法を卓越に操り第5位階すら使用可能というラキュースはいの一番に潰さなければならない、死者蘇生もやってのける実力はすでに英雄クラスと遜色無い。

さらに魔法武器と魔剣での近接は脅威に値するのだ。その次にアセリア、第三位階魔法を使用でき更に状況的な魔法選択も悪くない。また近接は天使を素手で撃滅できるレベル。

あとの二人も脅威だが、忍者のティアに気を付けていれば奇襲されることは無い。そう考えるニグンはこの序列に間違いは無いと確信を持っている。

 

故にアセリアを釘付けにし、その間に残りの部隊と自身で物量で押し切る事が可能と判断したのだ。

アセリアに対して数は意味がないが、断続的に強襲する天使に対していくら強かろうがそこで対応するほかあるまい。そうニグンは考えてる。

 

そしてそれが決定的に間違っている

 

「【次元の移動(ディメンショナル・ムーブ)】」

「消えた!?」

 

「【魔法抵抗難易度強化二重化(ツインペネトレートマジック)】【麻痺の霧(パラライズ・ミスト)】」

 

アセリア自身が課した枷である第3位階魔法内での縛りはこの世界では確かに、物凄く何とかなるような魔法群な気がしてならない。

次元の移動で迫ってきた一体の天使の攻撃を避けつつ、天使を突貫させた隊員の傍へと姿を現し、右翼の無力化を図ろうとトリガーを唱える。

周りの隊員が先の白い半透明の魔法を防ぐ盾を警戒し攻撃魔法を使用せず、弓矢での迎撃に移行しフレンドリィファイアを一瞬でも危惧したからこそ、魔法を行使することに成功した。

 

「ながっ!?」

「うおっ!?」

 

ばたばたとアセリアを中心に黄色い霧が散布され、それに逃げる間もなく触れてしまった隊員は倒れ痙攣する。行動不能に陥った召喚者の危機を一斉に察知した天使がアセリアを排除しようと殺到するが、その光景を冷めた目で見ながらアセリアは更に詠唱する。

 

「【魔法最大三重化(トリプレットマキシマイズマジック)】【電撃球(エレクトロ・スフィア)】」

 

己の身を守るように殺到してきた天使に対して盾のように配置し、一気に射出し合計6体居た天使はこの世界では滅多に見られない程の大きい

電気の塊に体を焼き切られ、すべて光へと還っていった。ここまでたったの30秒にも満たない攻防でアセリアに逆に強襲を受け、右翼が一気に瓦解した。

 

月明かりに照らされ、そして天使が一気に大量に光へと還っていく中でにこりと笑うアセリアは美しくも幻想的であった。しかしこの場では決定的に何かが間違っている。

笑顔とは時に攻撃的に受け取られる。その笑顔の中に冷たさを垣間見たニグンは、ラキュースからアセリアの危険度を一気に上げ、自身の天使を突貫させた。

 

「ありえん……あり得るか! 行け! プリンシパリティ・オブザベイション!」

 

英雄。そんな言葉がニグンの頭に過る。自身も法国が誇る六色聖典の一つ、陽光聖典の隊長であり、天使はアセリアの第3位階魔法の上の第4位階魔法を使用して召喚したのだ。

負けるはずがない、だがあの微笑み、そして一切消耗していないような余裕な態度。まるで、陽光聖典自体が眼中に無い。そんな態度はニグンにとって許されるはずもなかった。

 

「奴を、殺せ!」

 

そんな思いを振り切るように叫ぶニグン。それに呼応するかのように天使が二体アセリアのもとに疾走する。

空気を切り裂き、アーク・エンジェル・フレイムでは到底出せない速度で接近をし、フレイルでの重量と疾走する速度の攻撃は、この世界の中でもかなり上位に入る威力を誇る。

鈍重なフレイルがアセリアに振り下ろされ、そして地響きの如き轟音を立てながら、地面へとフレイルを食い込ませる。だがそこにアセリアの姿は見当たらなかった。

 

「!?」

「はい、終了」

「がぁっ!?」

 

消えたと認識した瞬間に背後から透き通った綺麗な声と同時に万力によって地面へと叩き付けられ、肺に残っていた酸素が全て口から洩れるような衝撃が全身へ駆け巡る。

途切れそうな意識を、鋼の意志で繋ぎ留めながら周囲を見るとすべての隊員が無力化されていた。幸運なのは死者が殆どいない所であろうか。

蒼の薔薇達も叩き付けられたニグンに対して剣を向けているが、それよりもアセリアに対しての警戒も怠っていない。

 

その事に気づいているのか気づいていないのか、蒼の薔薇達へと向きなおして一言。

 

「……どうしますか?」

「……見逃すわ」

「サクッと」

「やらないわよ。全く……ただし、トブの大森林の生態を崩さない程度に駆除をしなさいな」

 

第三者の視点から見れば、ひとりを除く三人の美女達に囲まれながら押し倒されている図で、少し見上げれば恐らく全員のパンツが見える絶妙な顔の位置のニグン。

しかし当の本人はそれどころではない。

 

「く……クク……本当に、お前たちは…何もわかっちゃいない」

 

じろりとラキュースをにらむニグンに対して眉を寄せるが、率先して人殺しをするタイプでもないラキュースはとりあえず亜人種の村に被害が出ないことを約束してくれればいいのだ。

だが、それでもニグンという男は最初の主張を曲げない。その鋼の意志は尊重すべき程である。

 

「人間は、ひどく弱い。お前、達見たいな戦闘能力を、持った人間は何人、いるのだ? その者、達は誰が守るのだ……そう、我々六色聖典が一つ。人類に光を齎す、陽光聖典である!」

 

その宣誓ともとれる言葉と共に、不動であった天使が一気にアセリアと蒼の薔薇目掛け飛び出す。最後の力を出すように、そして麻痺から回復した者達が天使を召喚し

それを援護するように、数体の天使が疾走してきた。アセリアはニグンを殺していいと考えているが、それでも「自分」で殺す事にやはりどこか戸惑いがあるのか

疾走してきた天使を蒼の薔薇達と共に避け、反撃するがすでに撤退行動をとっている彼らに向けて攻撃をするほどアセリアはまだ擦れていなかった。

 

「撤退だ! ぐっ…はぁはぁ……覚えておけよ蒼の薔薇。そしてそこの森妖精! 次に会った時はこの屈辱を晴らす!」

 

そうして死んだ隊員以外は助け起こされ、回復し、隊列を組みながら撤退していった。

既にゴブリン達も逃げて姿が見えず、月明かりと星々の輝き。そして虫の音に包まれた静寂が訪れた。

 

「はぁー……流石にあれだけの天使の数は肝が冷えたぜ」

 

どさりとその場で胡坐をかくガガーランの言葉にラキュースが頷く。

 

「格好的にはスレイン法国だったけど、やはり話は本当だったみたいね」

「六色聖典」

「全員が第3位階魔法行使者なんて、まるで悪夢だったぜ」

 

放たれた魔法の数々はマジックアローでは無かった。全てが第3位階魔法の枠組みに入っている魔法で、体力に自信があるガガーランも遠慮したい相手であった。

 

「しかし、それらを容易く突破したあなたは何者なの?」

 

6つの目がアセリアを貫く。いや、2つだけキラキラと光っているが。

そう、ラキュースでもあれほどの魔法行使は不可能だ。流れるようにスムーズにされど的確に。

また同じ第3位階魔法であった筈なのに、陽光聖典の隊員とアセリアが放った魔法の規模には明確な違いが存在していた。

 

それを証明するのが魔法の盾。同じ3位階魔法なのに罅すら入らない程強固な盾はそうそう見れるものではない。

 

「アセリアと申します。えーっと……旅人なんですが、ちょっと自分の身分証明が欲しくて、色々あってこんな状況に」

「ただの旅人ではないわよね。……まぁいいわ。それよりももう夜も遅いし、少し離れた所に川が流れてる場所があるからそこで野営にしない? 勿論、あなたも」

「了解、鬼リーダー」

「あいよ」

「ありがとうございます」

 

流石に夜遅く、どこへ撤退していったのか分からない【ガレオン】を探すよりここで一晩明かして、事情を説明し、お礼を言ってエ・ランテルへと入りたい。そう考えるアセリア。

とりあえず、にやにやしていたあの門番の前で堂々と蒼の薔薇の紹介状をどや顔で示して悔し顔を見てみたいと思っているのだ。

まぁエ・ランテルが地理的に一番近く、さらにバハルス帝国と近いので依頼等でその近辺や帝国のチームと仕事をし、情報を収集したい気持ちもある。

 

「さてと、移動しますか」

 

ぱんぱんとラキュースが手を鳴らして先頭に立ち川辺へと全員が移動していった。

勿論アセリアの隣にはティアが肩と肩が当たりそうなほど接近していたが、別にアセリアも悪い気がしないのでそのポジションを維持しつつ歩いて行った。

 

歩く最中、背後から何かを引きちぎっている音を聞き流しながら暗い森の中を進んでいった。

 




誤字脱字等ございましたらご連絡ください。

うーん……今回は難産すぎて書き直すかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。