「これは……アダマンタイト級蒼の薔薇の紹介状!? と、通行手形ですか。どうぞお通りください」
凄く態度違うんだなー……そう一言感想が頭の中で過るが、すぐに切り替える。
現在アセリアは蒼の薔薇の紹介状と通行手形を門番(先日とは違う人であった)に見せ、エ・ランテルの検問所を通ったところだ。
あれから簡易的な野営準備をし何故かティアがアセリアに抱き着きながらされど、彼女たちは疲れたという事もあり直ぐに眠る事にした。
夜も遅く、汗臭さは朝早くに流せばいいかという事で、朝日が昇る前に川でじゃぶじゃぶと体を清めた一行。
ティアのテンションがガガーラン以外の裸を見てマックスになったのは言うまでもない。
特にアセリアの均整の取れたプロポーションに染み一つない新雪のような白い肌。出るところが出て引っ込んでいる所は引っ込んで、更にラキュースを上回る美貌。
「眼福」
アセリアを飽きずに見ていたティアの感想である。
またアセリアも男の精神が残っていたため、ラキュースとティアの裸体をガン見していたのは言うまでもない。
朝食はティアとガガーランが用意し、その中で色々質問攻めや質問のやり取りを行った。
まず、アセリアはそろそろ自分の出身背景を確定させようとした。旅人という設定だけだと少し弱い気がしていたのだ。
またその装備品がただの旅人では無い事を物語っている。つまり余計に疑われる可能性があるのだ。
盗人、貴族、装備品から見るに王族という線も質問の中で出てきたが、取りあえずは黙秘に徹した。冒険者は基本的に詮索せず、詮索させずのルールがある。
それに助けられたアセリアで更に蒼の薔薇の面々はそんな細かい事はあまり気にしないタイプであったので、何とかなった一面もある。
更に「現在の」アセリアより強い人物を知っている、というより蒼の薔薇のメンバーの一人なので強さを隠しても何となく察することが出来る。
ただしそれでも疑念が尽きない。蒼の薔薇の面々が知っている彼女は「国堕し」とも言われる伝説の「アンデッド」なのだ。
通常の人間種でここまで強くなるのはよほどの鍛錬か才能が無いとあり得ない程だ。
昨日の魔法の規模がそうであるし、あれほど連射と範囲拡大に魔法強化等を連発しながら全く息切れを起こさない魔力。
そして天使たちを叩き潰す怪力。ティアもそれとなく確認していたがあの細い腕にそれほどの力が宿っている。という断定が出来ない程だ。
もはやラキュースと同じ英雄級。いや、戦闘面でいえばそれ以上に強いというのは確信している。
蒼の薔薇が全員揃っていれば彼らを敗走へと追い込めたのだ。そして3人であった時でも突破は可能と踏んでいた。
ただ、ゴブリン達が逃げる時間を稼がなくてはならない為あの状況になってしまっただけである。
そこでアセリアの出現は当初ラキュース達も嫌な予感がしていた。
亜人種というのは人を襲う。特にゴブリンやオーガはその典型で被害が絶えないのだ。主張している事としては蒼の薔薇よりニグン達の方が正当性はあった。
ただニグン達は公式には存在していない事になっている。故に目撃者は「消す」必要があったのだ。だからこそアセリアは利害の一致で味方になろうという意思を持って取引を持ち掛けられたのだ。と、ラキュースは考える。ティアが即答していたがラキュースもこの状況で断る手は無いと思っていた。
そしてあの結果である。強いという次元を通り抜けて異常という言葉が当てはまる程だ。
アセリアが蒼の薔薇と敵対していた可能性も捨てきれなかった状況であった為、味方に引き入れられて本当に幸運であったと一晩寝て起きたらそう思えたのだ。
そこから直ぐに片づけてアセリアが滞在していた村に蒼の薔薇と戻った。
村の入り口で【ガレオン】の面々がおり、アセリアの姿を見てほっとしたのも束の間、彼女の背後にいるアダマンタイト級の蒼の薔薇に驚き握手を迫ったり、逆ナンされたりと色々あったが
とりあえずラキュース発案で一室を借りて今後の対応について協議をした。
まず最初に行ったのは探知阻害等の防御魔法。その事に【ガレオン】も難しい案件という事を理解した。
たった一つの事だが、「陽光聖典」の事案についてである。ニグンが意外にボロボロと情報を零していたが、確実にスレイン法国の暗部に近い組織という見解である。
まず抹殺任務はいくら亜人相手でもしかもモンスター化した亜人ではなく、きちんと分別を意識できた亜人達も案件内というのはスレイン法国の意志が見て取れる。
そしてこの情報は【蒼の薔薇】はともかく【ガレオン】達にとってはかなり荷が重い。まず目撃者として抹殺しようと行動された時点で非常にまずい。
これらが彼らの耳に届けば法国が動く可能性がある。理由は様々考えられるが、特に大きな理由は今まで存在が明かされていない時点で目撃者には何らかの対応がなされた筈である。
つまりは口封じ。それは依頼を通してかそれとも単純に暗殺されるのかは分からないが、いずれにせよ暗い未来である。
とはいえ【ガレオン】の面々の姿形や顔は【暗視】を使っていたとしても距離が離れていたので、情報を秘匿すれば恐らく大丈夫だろうという見解である。
それよりも問題はアセリアであった。名前は知られていないが完全にニグンらに姿形声、魔法の特徴等が法国に通っており正直【ガレオン】なんて目ではない程状況がまずい。
特にニグンに恨みを持たれているのは確実で、あの実力差で挫けなかった事は称賛に値するとガガーランはつぶやく。
そこに引っかかるラキュースは、もしやそれ以上の……本当に英雄レベルやフールーダ・パラダインのように逸脱者が背後にいる可能性が浮上した。
確かにアセリアは強い、恐らくこの場にいる全員を殺すレベルだとラキュースは推測する。
理由は二つ。まず蒼の薔薇が目撃したあの強さや魔法が「上限」なのかどうか。
確証はないが、それでも対峙していた蒼の薔薇面々よりも余裕がありそうな態度は胡散臭さがプンプンする。
そして近接の能力。天使の攻撃を「素手」で受け止め、「叩き潰す」力。つまり防御力は第3位階天使の攻撃を素手でノーダメージで済むレベル。
ラキュースもフル装備でフルバック補助があればノーダメージに近づける。とはいえ、エンチャント系の魔法が掛かっているか調べていない為、何とも言えないが何れにせよ、そのレベルのエンチャントを掛けられるレベルと言うのは明らかだ。ラキュースの予想では恐らく掛かっていないと思われる。
更に、叩き潰して天使を還す力強さ。近接もかなりのレベルという事であるのだ。
王国最強の戦士「ガゼフ・ストロノーフ」と同等かそれ以上の強さ。
そしてラキュースの考えは間違っていない。アセリア自身、まだ1割の強さも出していない。
3位階と10位階の魔法の間には隔絶した強さの壁がある。3倍というレベルではない。数倍、十数倍、数十倍の効果や威力も発揮される。
そして最強装備ではない。さらに切り札やバフやデバフも使っていないのだ。
だがその事実を知らないラキュースは「逸脱者」レベルではないと思っている。
まずあの状況で手加減をする必要性が何処にもないからだ。切り札を隠しているというのはあるだろうが、手を加える余裕などないはずである。
だが、あの表情から察するにあえて「手加減」した可能性もある。しかし考えても仕方がない。いずれにせよアセリアが狙われているという事実は変わらないのだ。
故に蒼の薔薇に加入しないかという事を「正式」に勧誘を行う。強さ的にもアダマンタイト級に達しているし借りも無くは無い。
それに女性という点で加入条件に合致している。
そしてそれに対して首を振るアセリア。さらにその事に驚きを隠せない「ガレオン」の面々。
アセリアが断った理由はただ一つ
「自由に……冒険してみたいんです」
であった。そもそもニグンやあのレベルの天使達に全く脅威を感じてなかったのが正直な感想である。
まだまだ隠し手があったのかと思ったが、あそこまで追い詰められて手札を切らない。という事はよほどの愚鈍なのか、それとも先見の明があったのか。
定かではないが、取りあえず陽光聖典と蒼の薔薇の実力は恐らく個々は間違いなく蒼の薔薇の方が強いだろうが、その蒼の薔薇を見た正直な感想は
「うーん……レベル30位かな?」
である。正確な強さを見ていないのでアセリアは正確な判断はできないが、ユグドラシル内でレベル10の差は絶望的な数値である。
つまりレベルカンストのアセリアにとっては相手にならないのだ。むしろ接近戦でも勝てると予想している。
そしてそれ以下のニグンら陽光聖典。ぶっちゃけ殺してないから背後関係も無暗に出てこないだろ。的な考えである。
じゃあ国が非公式な部隊を潰して報復に来るか? と言われれば来るかもしれないが、その時に蒼の薔薇に借りを作りたくないのもある。
というより、アセリアはこの世界の強さレベルを大まかに把握したと思っている節もある。まず平均でユグドラシルレベル15ライン。
そしてアダマンタイト級という冒険者最高峰の強さでレベル30ラインという事実。
故に報復に来たとしても同レベル帯。つまりレベル100が来るとは思えないという見解である。
また、ユグドラシルでは装備に拘ったあまりゆるゆると冒険が出来なかったがこの世界では冒険が可能かと思われる。
そもそもユグドラシルでは強くなければゆるゆると冒険できないのだ。更にその時間が足りなかったのだ。
だが、この世界は時間制限がない。つまり冒険のし放題なのだ。ただし、根無し草という立場にするつもりはない。
様々な世界を回り何処に根を下ろすか。根を下ろしてそこを基点に冒険すればいいだけの話なのだ。
そしてエルフ、いやハイエルフの設定上人間の寿命より遥かに長いのだ、ユグドラシルの設定が適用されていれば生き急ぐ必要も無い。
他にも色々理由はあるが、まぁぶっちゃけアセリアは自由に冒険したいという事が大部分だが。
そうして丁重にお断りした際、物凄くティアが残念がっていたがアセリアは気づかない振りをした。
そして紹介状と手形。ガレオンから幾らかの金額を譲り受けてフライでエ・ランテルへと飛んで行いき、冒頭へと至るのだ。
壁の中の都市は想像通りのファンタジーが広がっており、中世の時代に即した物やそれ以上の文明の物も見受けられる。
大通りは露店等が並んでおり人がかなり頻繁に通っていて活気がある街並みが広がっている。
そこから区画ごとに道が広がっており、更にそこから路地が張り巡らされて、まるで迷路のようだ。
しかし清潔感はそれなりにあり光も差しているが、裏路地は少しおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
光もあれば闇もあるのはどの時代も常であるのは、やはり人間という生き物の生き方はどこの世界に行っても同じである。
エ・ランテルの大通りを歩きつつ、田舎者のようにきょろきょろと周りを見回しながら、建物を観察する…と見せかけて何がどんな施設かが全く分からないのだ。
そもそも、と思いながら蒼の薔薇から受け取った紹介状を見るアセリア。
(……やべぇ、読めねぇ)
そう、この世界の文字が全く読めないのだ。一応建物の看板を見てRPGのプレイ記憶を頼りに宿屋と道具屋と武具屋だろうという事しか読み取れない。
(早まった感が凄い)
遠い目で綺麗な空を見つつ、どうやって文字を取得しようかと頭を悩ませる。通りの露店の看板やチラシを見ても全く読み取れないのだ。
これで冒険者になるのは早計感が強いのを強く実感し、ため息を吐く。
周りからの視線を感じるが一応のモラルはあるのか、ナンパ等には一度も遭遇していないのは行幸か。
(さて、どうやって冒険者組合へ行くとするかね)
取りあえず大通りを歩いている途中で噴水が目立つ広場へと着き、そこで露店を出しているおじちゃんから焼き鳥のような串焼きを一本購入し近くのベンチで食べながら思案する。
こんなことなら蒼の薔薇かガレオンと一緒について来れば良かったと思っている。何故フライで行ったのか悔やまれるところだ。しかし戻りたくもない。
「文字読めませんでしたー」
なんていう台詞は絶対に言いたくないし、借りを作りたくない。借りにあたるかどうかは知らないが。
はむはむと肉を頬張り、少し塩味が効いた焼き鳥みたいなものを食べていると、首に銀色のプレートを付けた一団が何か袋を持ちながら歩いている。
そのプレートに見覚えがあり、そして閃く。
着いていこう
着いていけば絶対に冒険者組合へ着く。半ばそんな確信を抱きつつ、串焼きをすべて口の中にぶち込みリスのように頬を膨らませながら恐らくゴミ箱であろう所に串を投げ入れる。
我ながら素晴らしいアイデアだとほくそ笑みながら、距離は適度に保ちつつされど見失わないように、他人ですよという体を出しながら着いていくと、剣が交差している刺繍がされている旗が飾られている。
そこに入っていく冒険者を見て、ふと考える。
(あれって……武器屋じゃね?)
RPGではもろ武器屋のようなシンボル。入口の上には看板があるが何て書いてあるか分からない。まぁ違ったら違ったでいいか、という結論に至り堂々と歩きながら扉を開けた。
「それじゃ、こいつが依頼の証拠品だ」
「失礼します。……はい、確かにコドランの尻尾でございますね。依頼お疲れ様でした、それではこれが報酬金です」
「やれやれ、少しハードだったな」
入るとエントランスになっているのだろうか、木造造りだが清涼感があり、解放感もある。さらにカウンターの横に掲示板だろうか、そこに紙がびっしりと貼られている。
室内右側から二階へと上がる事が出来るようだが、今は用がないのでアセリアは耳に入ってきた会話を聞いて、ようやく冒険者組合へと着いたと確信し、少し機嫌が良くなった。
報酬金を受け取った男の大剣を背負っている人物がカウンターから離れ、空いたことを確認しカウンターへと歩み寄る。
「すみません。冒険者になりたいのですが……」
受付嬢であろうか、メイド服っぽい物を着ていて品がある。アセリアもエロっぽい奴に走らずこういうお淑やかな服も作っとけばよかったと後悔した。
「畏まりました。ではお名前を教えていただけますでしょうか?」
「アセリアと申します。ファミリーネームやミドルネームなどは無いです」
「アセリア様ですね。ありがとうございます。御一人でのご登録でしょうか?」
「はい」
アセリアは安心する。登録の際に文字を書く事になったらどうしようかと思っていたが杞憂だったようだ。
カウンターの下から用紙を取り出して書く様は手慣れていた。
「そうでいらっしゃいますか、であれば」
「あ、ちょっと待ってください」
何か説明をしそうであった受付嬢を遮り、一応無限の背負い袋からガサゴソと紙を出す。
それを提出し、目を通す受付嬢の表情がだんだん驚きの表情となっていった。
「これは……蒼の薔薇の紹介状!?」
その瞬間アセリアとカウンターへのその場にいた全員が注目した。どよどよと何か話しながらアセリアを見る冒険者達。
その事に若干恥ずかしさを感じ、きょろきょろと眼だけを動かし周りを確認するアセリア。
「ですが、申し訳ありません。冒険者組合の規則では最初は「銅」からのスタートとなるので、ご理解のほどをお願いします」
「……あー、そ、そうなんですね。いやーまぁ規則は仕方がないよね。うん」
じゃあ、いらなかったじゃねぇかと内心思うが、一応コネクションも出来たので良しとする。
アセリアは知らないが、一応昇格試験の基準等が優遇される措置等が為されるのだ。蒼の薔薇への助力の感謝。第3位階魔法の行使など、マジックキャスターとして優秀。
という事実が記載されてあるのだが、読めないので何て書いてあったかドキドキもしている。
「それでは、これが銅のプレートです」
渡された銅のプレートを見つめ、首に掛けるが、ネックレスと完全に重なるので、チョーカーのように首元へと装着した。
「ありがとうございます」
「それでは、冒険者組合の仕組みについて簡単にご説明いたします」
基本的にランク分けがされるという事と、国の不介入、プレートが身分証明の証となり紛失した場合質に応じての罰金があるということ、昇格試験がある事、
そしてモンスター討伐の際に証拠品、つまりそのモンスターが何かわかる部位をはぎ取れば難易度に応じた報酬を得られるという事だ。
それと暗黙のルール等があるが、それは地方や信仰する神によって違うらしい。故に名前はしっかりと覚えるべきであるというアドバイスをアセリアは受けた。
それらに対してほーとかへーとかで一応相槌を打ちながら聞いて、そして説明が終わったところで質問をした。
「すみません。依頼を受けずにモンスター討伐で高難易度の証拠品を持ってきた場合、それに応じた昇格試験を受ける事は可能でしょうか?」
「基本的に昇格試験は1ランク毎となっております。ですが有用性や緊急性等があった場合はその限りではありませんが、今までそういった人物はおりませんでした」
「なるほど……わかりました。ちなみに今受けられる依頼というのはありますか?」
「少々お待ちください………今現在受けられるものは、薬草収集、ゴブリンの討伐、アンデッドの討伐、近隣の村までの護衛等でしょうか」
わざわざ掲示板の所へ行き確認し、それらを伝える受付嬢。
「じゃあアンデッドの討伐で」
「畏まりました。アセリア様には余計かと思われますが、冒険者は基本的に複数人でパーティーを組んでおりますので、難易度が多人数を考慮したものになっております」
「つまり、一人だときつい可能性が高いという訳ですか」
基本的に冒険者はガレオン然り蒼の薔薇然り、パーティーを組んで活動をしている。
受付嬢から見たアセリアの実力は実際に見たこと無いが、蒼の薔薇の紹介状を見れば既にアダマンタイト級の強さを誇るので、そうそう敗北は無いと思っている。
しかし、これからどんどんクラスが上がっていく毎に難易度の高い敵との遭遇や、盗賊等の撃退に一人だけだと危険であるのだ。
「はい。しかしアセリア様の実力であれば問題は無いかと思われます。ご健闘を祈ります」
「ありがとうございます」
「詳細は依頼用紙に記載されておりますが、このエ・ランテルの冒険者は誰でも受けたことがあるカッツェ平野のアンデッド駆除のご依頼です」
「な、なるほど。ありがとうございました」
内心上手くいった事にほっとしながら依頼用紙を受け取り字が読めない体を出さずに読めない文字を追いながら頷き、冒険者組合を後にした。
「一応、依頼用紙に簡易的な地図が付いてて助かった……」
良い匂いがするお店へ入り、文字が読めないので適当にオーダー表に載っている文字列に指を差し食事をしながら、買ってきた簡単な言語本と依頼書を照らし合わせ一応の方角が把握できた。
エ・ランテルから東南東の位置に存在し、帝国や法国、竜王国との国境付近だ。一応冒険者なので国境を超えての対応は可能だからなんだかんだと言われる事は無いが、少し心配にはなる。
が、冒険者組合に依頼が来ているのでそんな心配も杞憂だなと思いながら、フォークで出てきた何かの魚のムニエルらしきものをつつく。
これも旨いと感動しながら、迷わない様にしっかりと方角とカッツェ平野の特徴を頭に叩き込む。
初仕事なので完璧に終わらせたい気持ちがあるのだ。というより初手から躓けば蒼の薔薇の評判も落とす要因となる。それだけは避けたい。
基本的に他人に迷惑になる事は出来るだけ避けたいという気持ちはあるのだ。
また、ユグドラシルとの差異を確認する実験としても色々したいというのもある。とりあえずはダメージがどんなものかという事と体の部位ごとによるダメージ量の差異。
魔法の応用性と今まで発動していない「錬金術」系統のスキルと魔法。差し当たってはこのあたりだが、人気が無いのであれば自身の切り札がこの世界でも効果が発揮するかも確かめたい。
いざという場面で発動が不発したり、変化が有り十全に使いこなせない場合は目も当てられない。
また、一応安物のナイフを購入しており、今の職業に適したもの以外の武器を取り扱えるかというのもついでに確認したい所であるのだ。
それらを歩きながらでも良かったが、取りあえず昼食を食べている時にまとめ、移動中に思い立ったら実験するという段取りである。
「もぐもぐ……ふぅ。ごちそう様でした」
そうして全て食べ終わり、実験したい事を頭の中で纏めきったので料金を支払い店を後にした。
カッツェ平野。
王国と帝国と法国、さらに竜王国との境に広がる平野だが、緑が殆どない荒涼とした大地である。
さらに年中薄い霧に覆われており、そこからアンデッドが多発している地域である。
また、年に一度収穫時期を狙って帝国が王国に嫌がらせの戦争を仕掛け、軍を展開する地域でもある。
その時はアンデッドや霧が晴れるという現象が発生しているが生命力に反応しているのか、それとも人同士の争いを望んでいるのか、仕組みは定かになってない。
そんな所にアセリアは一人しかも地面に座りながらアンデッドに殴られたり切られたりしていた。
「うーん……全然痛くない。ここら辺はゲームっぽいなー」
周りには大量の骨が散らばっており、さらに半径10メートル位の大穴や無数の穴がぼこぼこと空いていた。
色々実験した結果、ゲームに即している部分と即していない部分がある事に気づく。
とりわけ「錬金術」系統のスキルや魔法はゲーム時代より汎用性が効き、戦闘でも役に立つことが判明した。
「生み出す者」レベル3で取得できる【
ゲーム内説明は「生命以外のありとあらゆる物の作成をする能力」という説明で、効果はゲーム内オブジェクトの作成が可能で、要塞や罠等は勿論で剣や槍を作成出来る。
PvPでは相手からの遠距離攻撃に対して壁を作成したり、大きな罠を張り巡らせたりするのが主な役目であるスキルだ。
応用として背後から色々物を射出出来て一昔前の某の財宝を形だけ再現したり出来たスキルだが、それらは全てマクロやmodの登録が必要であった。
そして一定時間で消えさらに各オブジェクトにはHPが定められており、0になると勿論消滅してしまうのだ。
また命令を吹き込む事は出来ないので、ゴーレムみたいに「移動」「攻撃」という二つ以上の意味を持たせることが出来ないのだ。
しかしこの世界ではスキルの説明文通りに、無機物であれば土でも岩でも剣でも建物でも作成が可能である。一つ一つにMPが必要だが微々たるもので
自然回復は流石に追いつかないが消費量としては第5位階レベルのMP消費である。作製した剣等の性能を見ると術者の魔法攻撃力に依存した物であるとアセリアは感じている。これはゲームと同じ仕様だ。
また射出するとこの世界では物凄い威力になり一発一発がアセリアの感覚では第3位階魔法の【
「せめてデスナイトクラスが居ないと全然威力が分からないわ」
既にエルダーリッチを倒している。放たれた第3位階魔法をビビりながらも自身に直撃させ、全然何ともないという事を確認して【
今まで見てきたモンスターの中では一番強いモンスターであったが、威力の測定には力不足であった。
一応ワールドアイテムと合わせた切り札は切れる事に満足しているので、何かあったら何とかなるという自信もついたのは来たかいがあったものだと納得している。
ただし先ほどの言葉通り、デスナイトの耐久性とレベルにしては高HPとどんな攻撃でもHPを1残すという壁としてかなり優秀なモンスターが「最低」でも居ないと威力実験が出来ないのは確かであった。
【
そしてHP1にならなければどれくらい減ったかで威力を測定することが出来るのだ。
そして、魔法はある程度自分の意志で動かせることが可能である。まず「火」系統の魔法で振り下ろされた武器を溶かして攻撃力を下げる事に成功した。
これはユグドラシル時代では無い効果である。また感電での一時的麻痺や氷系での壁兼攻撃も可能で様々な幅が広がっていた。
ユグドラシルに現実の法則等が適用された感じというのがアセリアの感覚だ。ただし原理は分からないが。
最後に自身の職業と違う分野の行動、つまりは剣を振るという行為は不可能であった。一応自身で作成した剣等は装備できるが、本職ではないので現在は消している。
が、マジックナイトって憧れてたんだよなー……という思いがふつふつと思い出され、一応甞められない様に適当にロングソードでも帯刀しようかなと考えている。
「さて、いい加減鬱陶しいな」
思考が一区切りして立ち上がり、杖を振ってスケルトンをすべて骨へと還して各々が持っていた得物を袋に突っ込んでいく。
依頼で来ている為倒したスケルトンやリッチ系等の武具等を片っ端から突っ込んでいるが、基本的に1体1部位をちゃんと守っている。というより1体につき1個しか持って無いが。
しかし実験していたため、あまり収集していない。一応依頼は「討伐」のみで何が何体という指定は無いのだが何か欲しい、十数体は少しインパクトに弱い。と言う思いを抱いた。
「うーん……期間も決められてないし取りあえず100体のアンデッドでいいかな。あ、ついでに各アンデッド毎に証拠品を纏めて傾向も調べようかな」
地面の穴を修復しつつ寄ってきたアンデッドを杖で粉々にしながら物騒なことをつぶやく。
「よし決めた! とりあえず王国側の平野部のアンデッド比率を調べながら頑張るぞー!」
アンデッドからしてみれば物騒極まりない言葉を発し気合を入れなおしたアセリア。
杖を袋に突っ込んで【上位道具創造】で純白の刀身と蒼色の柄に教会の十字架を象ったデザインでかなりスタイリッシュな全体フォルム。細剣に近いだろうか。鍔から刀身に掛けて天使的な抽象デザインは第三者にも優れた逸品と一目で理解できるほどだ。腰に柄と同じデザインの鞘も作り、満足顔で頷く。
そして昼間でも薄気味悪い霧の中をずんずんと進んでいった。そして聞こえる破裂音や何かが砕け散った音とノリノリで何かを歌っている女性の下手な歌声。
そこにはホラーが広がっていた。
誤字脱字等ございましたらよろしくお願いします。
また、この場をお借りし誤字脱字のご指摘を毎回頂きましてありがとうございます。
今後もよろしくお願いいたします。