帝都を去って早7年。
その期間を遠い極東の地で過ごしたリンは、元帝国軍の将軍で帝具使いでもあった師匠に1から剣を教わり、帝具の使い方を指南された。
それこそ、血の滲むような過酷な修行の日々であり、時には血を吐き、時には気絶したりと、逃げ出したくなるような毎日だったが、その瞬間には必ず姉さんの笑顔が脳裏をよぎり、最後には師匠を超えるだけの剣術を習得し、師匠の使う型にアレンジを加えた全12からなる剣技を手に入れることができた。
そして現在、帝歴1024年
物語は始まる-------
「なぁ……アンタ、リンって言ったか?本当に帝都でいいのか?」
馬車を引く馬の手綱を操りながら、男が今日何度目か数えるのも馬鹿らしくなってきたほど、同じ質問を繰り返す。
「はい、そこで間違いありませんよ。しかし、本当にすみません…無理を言って馬車に乗せてもらって」
男の質問に人の良い笑顔を浮かべながら冷静に返すと、次は自分から男に対して素直に感謝を向けた。
「馬車を護衛する、なんて不確かな条件をのんでもらって……、それにお金も払わなくていい、なんて言ってくれましたし」
「あぁ、それに関しては感謝はいらねぇよ。最近ここら辺は物騒だって聞くからな。それに荷物運びが生業の俺にとっちゃむしろ、金も払わないで馬車を護ってくれるなんてのは美味い話さ」
男はニヒヒ、と聞こえてきそうなほど悪い笑みでそう返すと、「それに……」と付け加える。
「それに……お前さん極東の方からここまで来たんだろ?だったら持ち合わせの金ももう底をついてる頃なんじゃねーか?」
男の意地の悪い発言にリンはギクッと肩を震わせると、懐から皮袋を取り出す。
中を覗いてみると、その中にはもう金貨と銀貨合わせて数枚程度のお金しか入っていなかった。
「……痛いところを突かれましたね。正直お金を払えって言われてたらどうしようかと思ってましたよ……」
改めて自分の財力の無さを確認したリンは、大きく肩を落とす。
「ハハハッ!俺も商人の端くれだが、流石に今のお前さんから金を取んのは気がひけるからな。そんなことをすんのはそれこそたちの悪い商人か余程の悪党くらいのもんだ。だからどんなに良い条件を出されてもそいつらの前では絶対に金を出すなよ?」
「あはは……善処します」
そんな他愛もない話を馬車に揺られながらすること約1時間。
ようやく帝都の外壁が見えてきた。
「こっから後数十分もすれば帝都だ。ありがとよ、話し相手になってくれて」
「いえ、こちらこそ。なにより馬車を護衛するような危険がなくてよかったです」
「ハハッ!違いねぇ!何事も平穏が1番だもんな!」
互いに笑い合っていると、ふと、馬車の揺れとは違う何か別の揺れをリンは感じ取った。
それが何なのかという疑問に思考を巡らし、最も来てほしくない1つの結論に辿り着くと、リンは瞬時に思考のスイッチを切り替えて乗せてもらっている荷台から立ち上がる。
「……おじさん、馬車をとめてください。やはり何事も平穏に、というようにはいかないようです」
先ほど談笑をしていた相手とは思えないほど冷たい声色で男に告げると、まだ動いている馬車から何も気にすることなく飛び降り、自身の武器である刀を鞘から引き抜く。
「おい?いきなりどうしたってんだ……って、おわぁ!?」
途端、前の地面が盛り上がり、男は必死の形相で馬車を止める。興奮する馬をなだめながら前を見ると、その光景に絶句した。
「おいおいこいつは……一級危険種の土竜じゃねえか!なんでこんな街道に!?」
其処には、体長が20mを超えようかというほどの体躯を持つ巨大な土竜が、威嚇するかのように両腕を開き佇んでいた。
土竜はまだ状況の整理が追いついていない男の方を見やると、その口から鋭い牙を覗かせる。
どうやら、狙いを男に定めたようだ。
「ヴォォォォォォォォォッ!!」
鋭い咆哮と共に土竜はその鋭い牙を以って男に襲い掛かる。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
恐怖から体がいうことを聞かず、近づいてくる牙をただ見ていることしか出来ない男は目を瞑り、数秒後に襲い来る鋭い痛みを覚悟した。
「ッ〜!………あれ?」
しかし、いつまで経っても来ることのない痛みに訝しみ、恐る恐る目を開けると其処には、先ほどの自分と同じ、何が起こっているのか分かっていないかのような表情で固まっている土竜がいた。
「グッ!?……オォォォッ」
苦しそうな咆哮をあげる土竜に対し疑問を抱くと、土竜の後ろに1つの人影があるのが目に入った。
「ふぅ……、危ないところだった」
小さく息をつくと、リンは土竜の背中に突き立てていた刀を引き抜く。
男は間一髪リンが自身を助けてくれたことに安堵すると、何かが土竜とリンの周囲から弾けていることに気がついた。
「これは……、電気?なんでこんなところに……」
周囲にイオンの異臭を放ちながら、土竜とリンの周りをパチパチと雷光が弾ける。
そして、土竜も自身の体が痺れさせられているということに気づいたのか、その巨体を大きく震わせ、痺れを解こうともがいているが、その体は一向に動く気配がなかった。
「無駄だよ……その程度じゃ、僕の雷は払えない」
リンは静かに刀を鞘に収めると体勢を低くし、柄に手を添える。
所詮抜刀術の要領であり、その目にはもはや感情の一切が感じられなかった。
「フッ!」
瞬間、放たれたのは容赦のない縦方向への一閃。
それだけで土竜の体は自身の重みで左右へ崩れ落ち、絶命した。
「ふぅ……終わりましたよ、おじさん」
短い一息をつきながら血を払い、刀を鞘に収めると、男の方へ行って手を伸ばす。
「立てますか?」
「あぁ……ありがとう」
男がその手を握るのを確認すると、リンは一気に男の体を引き上げる。
「お前さん……とんでもなく強いんだな。思わず保けちまったよ」
「いえいえ、まだ修行中の身ですので。それより、怪我はありませんか?」
リンの問いに男は「大丈夫だ」と返すと、自分の馬車の方に目を向ける。
「あちゃー……、馬が怯えちまってる。今日はもうこれ以上の走行は無理だな」
「そうですか……すみません、危険な目に合わせてしまって」
「なに、謝るこたあねぇさ。むしろお前さんがいなかったら間違いなく俺ぁ死んでたよ」
男はそう言ってリンに対し頭を下げると、自分達が向かっていたであろう道を指差した。
「馬車はもう動かせねえが、こっから15分くらい歩けばもう帝都だ。俺はもう少し馬をなだめてるから、先に行ってな」
「すみません……今までお世話になりました。あっ、えっと……」
そういえばまだ名前を聞いてなかったと戸惑うリンを見て男は察すると、リンに近づき、荷物運びで鍛えられたのであろうゴツゴツした右手を差し出した。
「ルヴィスだ。今日はありがとな、リン。俺はまだ暫く帝都と近くの村々を行ったり来たりしてるから、また用があったら声かけてくれ。なに、お前さんは命の恩人だ。無償で手伝ってやるさ」
「はい……ルヴィスさん。今日は本当にありがとうございました。こちらこそ、また何か手伝えることがことがあれば遠慮なく言ってください。それでは」
リンは差し出された右手を強く握り返すと、互いに笑いあう。
時間にするととても短い間だったが、互いの間に生まれた絆を確認し合い、どちらからということもなく手を離すと、リンは帝都への道を歩き始める。
「お〜い、リン!これも何かの縁だ、また今度会ったら一杯やろうぜ!」
振り向くと、大声を張りながら酒を煽るジェスチャーをしているルヴィスに対して小さく笑みを零すと、自分はまだ未成年だということは告げずに手を振り返す。
そんな不思議な成り行きで縁を結んでから歩くこと15分。
ついに、運命の地へ辿り着く。
其処から足を一歩踏み出し、空を見上げて小さく呟いた。
「見ててね、姉さん。僕がこの帝都を……壊してみせるから」
やっと出来ました、次話投稿。
一ヶ月以上間が空いちゃって……うわぁぁぁぁぁぁぁ
それに……あれ?話が全然進んでないぞ☆?(すっとぼけ)
というわけで、皆さんお久しぶりです。
まずは全然更新できなくてすみません……
それに加えて物語も全然進んでないっていう……
個人的にはこういう日常パートも大事にしたいと思っているので、今後も今回のように全然物語が進まないことがあると思います。
それでもいいよ!という方で、この作品を読み続けてくれる方は是非、感想等を書いていただけると嬉しいです。
最後に、この作品を読んでくださる読者の皆さまに、最大限の感謝を。